(1)佐賀県白石地区・JAさが×YUIMEの取り組み~安定した人員供給が、産地の未来を切り拓く~
佐賀県白石地区は、日本有数のたまねぎ産地として知られている。
肥沃な干拓地と、長年にわたり培われてきた栽培技術。それらが、この地を全国に誇るたまねぎ産地へと育ててきた。私たちYUIMEが日々向き合っている農業現場の中でも、白石地区は強い存在感を放つ産地の一つである。
近年、この産地でも農業者の高齢化や後継者不足が顕在化し、人手の確保は年々難しくなり、収穫期を迎えても十分な労働力を確保できない状況が続いていた。
人手不足の影響は、単に作業が大変になるという問題にとどまらない。収穫量や出荷計画の見直しを迫られ、「人がいないこと」を前提に農業経営を考えざるを得なくなる。作付面積を拡大したくてもその判断ができず、翌年の生産計画にさえ不安が残る。こうした声を、私たちは現場で何度も耳にしてきた。
そうした問題に向き合う中で、佐賀県農業協同組合(以下「JAさが」という)とYUIMEは連携を開始した。
私たちが提案したのは、従来の「農家ごとに人材を確保する」という発想を転換し、地域全体で特定技能外国人材を受け入れ、支え合う仕組みである。YUIMEが特定技能外国人材を直接雇用し、JAさがおよび地域農家に派遣する。地域を一つの大きな受け入れ先と捉えることで、年間を通じた安定的な就労環境を構築した。
このモデルの最大の特長は、安定した人員供給を前提に生産計画を立てられる点にある。繁忙期に合わせて人材を派遣し、作業が落ち着いた農家から別の農家へと柔軟に配置することで、産地内で無駄のない人材活用が可能となった。
さらにYUIMEは、日本人スタッフを一定期間現場に常駐させ、業務の分担を含むシフト調整から生活面のサポートまでを一貫して担っている。この日本人スタッフのサポートにより、農家は煩雑な労務管理から解放され、「必要な時期に、必要な人数が確実にいる」という安心感の下、農作業そのものに集中できるようになった。
この取り組みは当初、約13人の人材による試験的なスタートだった。しかし、現場での効果が実感されるにつれ、体制は拡大し、2025年には36人の特定技能外国人材が地域で活躍するまでに成長した(写真3)。フォークリフト免許を取得した人材の配置など、現場ニーズに即した人員設計も進み、生産性は着実に向上している(写真4)。
安定した人員供給により、たまねぎの収穫量・出荷量はいずれも増加した。人手不足を理由に見送ってきた作付けの拡大にも取り組めるようになり、計画的な生産戦略を描ける環境が整いつつある。
また、慢性的な人手不足によって負担が集中していたJAさが内スタッフの業務も軽減され、現場では前向きな変化が生まれている。特定技能外国人スタッフと日本人スタッフが協力し合うことで、作業効率だけでなく、現場の雰囲気そのものが明るくなったという声も多い。
現場からは、「安心して来年の作付け計画が立てられるようになった」、「人手の心配をせずに農業に向き合えるようになった」といった声が寄せられている。
JAさがとの取り組みは、特定技能外国人材の派遣が単なる人手不足対策にとどまらず、生産量の拡大、計画的な経営、ひいては地域農業の持続性を支える仕組みになり得ることを示している。
(2)士幌町農業協同組合における人材育成事例~計画的な人材育成で未来をつくる、JA士幌町の新たな挑戦~
北海道・十勝平野に位置する士幌町は、日本有数のばれいしょ産地として知られている。その品質を支えているのが、士幌町農業協同組合(以下「JA士幌町」という)の選果場である。ここは単なる作業施設ではなく、地域農業の品質と信頼を守る「心臓部」とも言える存在である。しかし、その選果場では、従業員の高齢化が確実に進行しており、あと5年で現場スタッフの半数以上が定年を迎える事実は、人手が減るという問題にとどまらず、長年の経験によって培われてきた、選果の目利き、機械操作の勘どころ、トラブル時の対応力といった「言語化が難しい経験値や勘」が、一気に失われる可能性を意味している。
生産現場では、今と同じ品質を、5年後も保てるか、また、この選果場は今後も運営を継続できるのかといった拭い切れない不安が広がっていた。
選果作業は一見、単純に見えるが、実際は高度な判断の積み重ねである。ばれいしょのわずかな傷や形の違いを見分ける目、機械の癖を理解した操作、作業全体を止めないための段取り力。これらはマニュアルだけで伝えられるものではなく、日々の積み重ねの中で身につく「暗黙知」に近い。そのため、短期アルバイトや単発の派遣スタッフを補充しても、その場の人手は埋まっても技術は残らない。人が入れ替わるたびに一から教え直す必要があり、現場の負担はむしろ増えてしまう。
問題は、単なる人員不足ではなく、技術をどう次世代につなぐかという、より構造的なことだった。この壁を乗り越えるため、JA士幌町が選んだのが、YUIMEの派遣サービスを活用した計画的な人材育成モデルであり、その中核となったのが、「業務習熟のステップアップ3カ年計画」だった。これは、場当たり的に人を補充するのではなく、時間をかけて人を育てることを前提にした仕組みである。
1年目は、コンテナ組み立てなどの比較的単純な作業からスタートし、現場の流れやチームワークに慣れる期間とした。2年目には、ばれいしょの選果作業へとステップアップし、品質判断の基礎を身に付ける。そして3年目には、最も技術を要する品質検査業務へと進み、現場の中核を担う存在へと育てていく。毎年少しずつ人員を増やしながら、先に経験を積んだスタッフが後から来たスタッフに教えることで、選果場の中に自然な技術伝承の流れが組み込まれていった(写真5)。
この計画を開始してから、選果場の空気は少しずつ変わっていった。人材の受け入れや労務管理といった負担が軽減されただけでなく、「来年は何人増やして、この作業を任せようか」、「このスタッフは、再来年には検査工程に進めそうだ」といった、先を見据えた会話が日常的に交わされるようになった。かつて現場を覆っていた「5年後が見えない不安」は、「この流れなら、技術をつないでいける」という確かな安心感へと変わっていった。
JA士幌町の事例は、計画的な人材活用が単なる人手不足対策にとどまらず、農業現場に不可欠な技術を、次世代へとつなぐための強力な仕組みづくりとして活用し得ることを示している。短期的な人員補充ではなく「未来を見据えた人材投資」、その選択が、選果場の安定稼働と品質維持、そして地域農業の持続性を着実に支えている。
YUIMEは、これらの2事例のように、現場の意思に寄り添いながら、人材派遣という枠を超えて、農業の未来を共につくるパートナーとしてこれからも地域と歩み続けていく。