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調査・報告 野菜情報 2026年3月号

合併JAのスケールメリットを活かした園芸の生産拡大 ~野菜産地のさらなる高みを目指した挑戦~

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山形県 もがみ中央農業協同組合 営農経済部 営農指導課 佐藤 昌子
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1 JAおいしいもがみの概況

 もがみ中央農業協同組合(以下「JAおいしいもがみ」という)は、山形県北東の内陸部に位置し、奥羽山脈や鳥海山、月山など四方を山々に囲まれ、地域南部から西部にかけて最上川が貫流し、とても自然豊かな地域となっている。夏は高温多湿、冬には季節風の影響により、毎年平野部でも2メートル以上の積雪となる県内有数の豪雪地域である。この厳しい自然環境の中、稲作と園芸との複合経営の農業が営まれている。
 JAおいしいもがみは、平成30年4月に旧JA新庄もがみ、旧JA山形もがみ、旧JA真室川が広域合併して誕生した(図1)。最上地域の7市町村にまたがり、新庄市に本店を構え、現在7支店、7営農センターを地域の拠点として事業を行っている。正組合員数は5850人で、令和5年度の販売額は、米穀52億9000万円、園芸52億6000万円(主に野菜33億2000万円、菌茸類14億3000万円)、畜産25億9000万円で、特に園芸取扱高は県内JA第1位である。
 主な農産物は米の他、にら、ねぎ、アスパラガス、大玉トマト、ミニトマト、きゅうり、菌茸類、冬期間の促成山菜となっており、転作田を活用した園芸振興が盛んに行われている。
 
タイトル: p076

2 JAおいしいもがみの産地状況

 JA管内の野菜生産の歴史は比較的浅く、平成5年の大冷害による米の大凶作を機に、農家経営の安定を図るため、夏季の冷涼な気象条件を活かした夏野菜の導入を推進し、旧3JAが各々競うように園芸振興に挑戦してきた(図2)。
 旧3JAの野菜や菌茸類を合わせた園芸品目の合計販売金額は、合併前年の平成29年度は52億円で、うち主力野菜6品目(にら・ねぎ・アスパラガス・大玉トマト・ミニトマト・きゅうり)を27億円規模とする産地が形成された。
 合併前の販売額の推移を見ると、園芸販売額は頭打ちの状態が続いており(図3)、JA合併を機に、さらなる高みを目指した野菜産地の確立に取り組む機運が盛り上がった。しかし、旧JAのそれぞれが独自の取り組みを行っていたため、生産、販売体制を一本化し、新たに広域的に産地振興を進める必要があった。
 
タイトル: p077
 
 そこで、合併総代会で策定した「広域農業振興計画」を基に中期3カ年計画を作成し(図4)、重点振興品目年間当たり5000万円の生産拡大を目標に活動を行った。
 そして、1)生産体制の強化、2)担い手の育成、3)販売体制の強化―の三つを柱に、平成30年に「野菜産地向上プロジェクト」を始動し、全体統轄を営農販売部が担い、筆者は全体の実務と、にら部門全体のマネジメントに着手した。
 
タイトル: p078

3 野菜産地向上プロジェクト

(1) 生産体制の強化
ア 品目別生産組織を整備

 生産組織、部会体制の統一を図るため、平成30年に「JAおいしいもがみ生産者連絡協議会」を設立した。各生産組織が独自に取り組んできた経過があることから、JA側からの一方的な押し付けとならないよう、各生産組織代表者と連携し、JAおいしいもがみブランドのルールについて体制整備を進めた。
 
イ 栽培基準の統一
 複数の生産基準を統一するため、各品目の生産組織代表者や農業技術普及課からの協力を得て、品目ごとの栽培マニュアルを作成した(図5)。
 このマニュアルは、管内の栽培方法に特化した内容で、地域の篤農家のマル秘テクニックも記載し、生産者の方々から大変好評をいただいている。300を超える部数を配布し、栽培講習会や圃場(ほじょう)巡回時に活用して栽培技術の統一を図っている。
 
ウ 選果施設の利用拡大
 多品目にわたる選果施設を持っているのが、当JAの最大の特徴である。
 さらなる野菜産地発展に向け、主力野菜6品目を地域全体に広めるため、選果施設の広域的な有効利用を図りながら、農業者の労働力、年齢、栽培面積などの生産条件に合った品目の導入を推進し、安定した農業経営を通して野菜産地が生産拡大することを、JA組織を挙げて目指した。
 選果施設を広域的に活用できる仕組みを構築したことで、生産者は出荷調整作業の必要がなく生産管理に集中できるようになり、主産地の枠を超えて新たな品目の導入を検討する生産者が増加した(図6)。
 
タイトル: p079
 
(2)担い手の育成
ア 新規就農者確保

 農業に積極的にチャレンジしやすい体制を整備するため、令和5年にJA独自の「新規園芸チャレンジ支援事業」を創設し、若手新規就農者や定年後に農業を始める人に対し、経営指導から実行管理まで伴走支援をしている。
 
イ 生産相談員による技術支援
 野菜重点6品目について、営農センターごとにベテラン生産者に「生産相談員」を委嘱し、営農指導員とともに新規就農者への技術指導を行っており、就農定着と経営の早期安定を図る仕組みづくりをした(図7)。
 
タイトル: p080
 
(3)販売体制の強化
ア 統一出荷基準の作成

 旧JA各々の出荷基準の目を揃え、JAおいしいもがみ統一出荷基準を作成するため、生産組織の代表者が中心となり目揃い会を数多く開催、品質の高位平準化を図った(図8)。
 さらに、個選共販のにらは、生産組織の役員と協力し、各営農センターの目揃い会の他に青果物検査員による検品など、さまざまな形で出荷基準の「目」を揃え、品質格差が生じないように取り組んだ。
 現在までに、野菜重点6品目を含めた全30品目の出荷規格統一を図った。
 
イ 販売センター設置と取引市場集約
 令和3年度に販売センターを新設し、さらに、令和4年度より、共選全品目においてJA1本での統一プール精算を実施した。これは、変化する物流情勢を踏まえた青果物流通に対応し、物量メリットを活かした販売戦略を実現するためである。
 合併前、11あった重点市場を、6市場に集約することで物量を確保し、市場との交渉力がさらに強化され、有利販売が実現した。さらに、輸送コストが削減されたことによる収益性向上など、効率的な出荷体制を構築した。
 
ウ 販売事業のデジタル化
 合併後、集出荷施設が7カ所に増えたことにより、荷受数量の把握や前日の分荷業務など、販売担当者の残業が常態化し、業務の改善が求められていた。
 そこで、集出荷クラウドサービス「nimaruJA」を導入した(図9)。
 これにより、販売担当者の業務時間が70%以上短縮され、さらに、タブレットを導入することで出張先や在宅での分荷業務が可能となった。
 営農センターとの荷受数量の「見える化」で迅速な分荷作業を実現し、業務の改善を行った。
 
タイトル: p081

4 にらの生産を通した産地の発展

 三つのプロジェクトの実現に向けた取り組みが進む中、筆者が担当するにらは、高齢化により栽培をリタイアする生産者が増え始めた。一方では規模拡大を望む生産者も現れ、両面にわたる支援が必要となった。
 そこで、令和元年より産学官で連携し、生産者の強い要望であるにら収穫機の開発に取り組んだ。現地圃場での刈り取り試験を16回開催し、令和7年度にようやく発売となった。
 収穫機の導入により収穫作業が約3分の1に短縮され、機械化一貫体系による大規模栽培が可能となり、さらなる生産拡大が期待される(図10)。
 さらに、リタイアする生産者の圃場を規模拡大を志向する生産者が引き受け、圃場管理を行う仕組みづくりを推進した。
 また、にらの出荷調整作業は、重労働ではないものの手作業によるきめ細やかな選別作業が必要であるため、リタイアした高齢者に選別作業を委託する仕組みづくりも行った。この取り組みは地域での大きな労働力と高齢者の生きがいづくりとなり、産地の持続的発展にも貢献している。
 
タイトル: p082

5 広域合併によるスケールメリットを活かすために

(1)統一出荷の合意形成
 本プロジェクト達成のための統一出荷基準の策定では、生産者との合意形成が最大の鍵であった。「俺たちの生産量が一番多いんだから俺たちの規格を優先するべきだ」、「隣の営農センターは品質が悪くていつもクレームがくる。一緒に出荷して大丈夫か?」など、今までライバルとして戦ってきた相手と折り合いをつけるのはとても難しく、いろいろな意見をいただいた。
 筆者はそれでもめげず、各生産組織で80回を超える話し合いを開催し、時には懇親会で親睦を深め、最終的に生産者の同意を得て、統一出荷基準を策定した。
 
(2)集出荷体制の構築
 合併により5品目にわたる選果施設の利用が可能となったが、個選共販中心だった生産者から選果施設の利用について反対意見が多く、利用拡大が危ぶまれる状況だった。
 筆者は、施設利用が生産者の労働力軽減や生産拡大、さらには統一選果による品質の平準化が販売単価の上昇をもたらし、最終的には生産者の所得向上につながるという強い信念を持ち、100回を超える説明会や施設の見学会を開催した(図11)。
 さらに、生産者に対して施設利用の費用対効果を示した経営指標を200部配布し、丁寧な説明を繰り返し行った。
 その結果、徐々に利用者が増え、実際に労働力の軽減が図られたことにより、生産拡大、新規生産者の確保にもつながった。

6 ドリフト事故の経験を活かして

 平成24年、筆者の営農指導員人生で最悪の出来事が起こった。にらのドリフト事故(農薬が対象作物以外に飛散すること)である。
 近隣水田からの水稲殺虫剤の飛散が原因であった。あの時の生産者の悲しい表情は、今でも忘れられない。
 二度とあんな思いはしたくないと、平成25年より旗上げ運動を展開した。当産地で栽培されている品目は転作田への作付けが多く、ドリフトリスクが高くなっているため、稲作農家へもチラシを配布し、地域を挙げてドリフト対策に取り組んでいる(図12)。
 その結果、運動以降当産地においてドリフト事故は1件もなく、引き続き安全・安心な農産物生産に努めている。
 
タイトル: p083

7 にらの秋どり生産を拡大

 筆者は、販売金額10億円達成まであと一歩の「にら」について、近年安定した価格で取引され、まだまだ伸び代のある品目であると確信を持っていた。
 そこで、注目したのが「秋にらの高単価」である。各産地の端境期となる10~11月の出荷数量を増やすことにより、販売金額の大幅なアップが見込まれると考えたのである(図13)。
 
タイトル: p084
 
 そこで、令和元年より低温伸長性の高い新品種「エナジーグリーンベルト」の導入試験をスタートした。その後の普及拡大を見据え、部会役員に協力を依頼し、3年にわたり生育調査を実施した。そのデータを積み上げるとともに、栽培講習会や現地圃場巡回などを通じて当産地への適応性について検証し、令和3年より奨励品種として導入を開始した。
 その結果、秋にらの出荷数量が奨励品種導入前より37%増と大幅にアップし、にら10億円の産地づくりへさらに前進した。

8 プロジェクトの成果

 プロジェクトを確実に実行していくことで四つの成果があった。
 
【成果1】地域全体の栽培技術のレベルアップ
 合併により誕生した「JAおいしいもがみ 野菜生産者協議会」は、生産者各々が切磋琢磨したことにより、地域全体の栽培技術のレベルアップにつながった。
 さらには、営農センターの垣根を越えた生産者同士の交流も増え、ベテラン生産者から若手生産者への技術の継承もしっかり行われ、その技術は次世代へと引き継がれている。
 さらに、新たに創設した「新規園芸チャレンジ支援事業」を活用し、令和5年は11人、令和6年は10人が新たに野菜栽培を開始しており、新規就農者が増加した(図14)。
 
【成果2】販売金額の向上・生産者の所得増大
 二つ目は、販売金額の向上である。野菜重点6品目全てにおいて、1戸当たりの販売金額が5~41%上昇した(図15)。
 これは、栽培技術・出荷基準の統一を図り、選果施設の広域利用を推進したことにより、規模拡大、単価向上など、相乗効果を発揮した結果と考える。品目別では、ミニトマトの1戸当たりの販売金額が250万円、ねぎが同155万円、新品種を導入したにらが同92万円それぞれ増加し、生産者の所得増大に大きく貢献した。
 
タイトル: p085
 
【成果3】若手を含めた営農指導員の指導力向上
 プロジェクトを通して産地づくりを進める上で、野菜の販売金額の拡大は3JAが合併したからこそ実現し、それにより各地域の生産活動が活発化し、営農指導員がさらなる高みを目指すモチベーションの原動力となった。JAおいしいもがみでは、若手営農職員を対象とした勉強会を毎月開催し、知識・技能のスキルアップを図っており、若手職員の育成にも力を入れている(図16)。
 
【成果4】重点野菜6品目の合計販売金額の大幅な増加
 作物別選果施設の広域利用による生産規模の拡大や、新たな生産の確保・育成などスケールメリットを活かした販売展開の実践により、重点野菜6品目の販売金額は令和2年度に30億円を達成した(図17)。
 さらに、令和5年度の重点野菜6品目の合計販売金額は、合併前の平成29年より5億円増加し(平成29年比19%増)、約32億円となって最高販売金額を更新するなど、営農販売事業は大幅な飛躍を遂げた。
 このように、生産者とJAが一体となって取り組み、得られた四つの成果は、スケールメリットを活かした園芸産地の生産拡大事業が、販売金額を飛躍的に向上させる将来性があることを改めて示す結果となった。
 
タイトル: p086

9 これからの活動について

 平成30年のJA合併以降、管内の小学校(10校)、中学校(7校)と連携し、「農業への意識・理解を深める」、「自然や郷土を理解し、愛する心を育む」ことを目的とし、インターンシップ体験、農業施設での農業体験活動、生産者圃場・作業場見学、農作物の収穫体験などを継続的に実施してきた(図18)。
 
タイトル: p087
 
 また、学校給食への食材の無償提供を継続的に実施し、次世代を担う子どもたちに「食育」の大切さについて伝えている。
 また、令和2年より労働力確保と地域貢献を目的に障害者雇用に取り組んでいる。主に各選果施設において段ボールの組み立てやパック詰めなどの作業を行っており、年々取り組みが拡大し、5年度には延べ1700人を雇用している。今後もさらに継続的に取り組みを進めていきたいと考えている。
 最後になるが、今回のプロジェクトに関わり計画を遂行してきたことは、筆者のJA人生において大変貴重な経験となった。
 私たち営農指導員は、常に生産者の所得向上と経営安定について考え、将来を見据えた持続可能な農業、地域づくりの実現を目指す必要がある。これからも組合員とのコミュニケーションを大切に、現地に出向く指導を継続的に実施し、「農業をやってよかった」、「農業にチャレンジしたい」と、みんながそう思える産地づくりを進めていきたいと考えている。
 
 
 
佐藤 昌子(さとう まさこ)
山形県 もがみ中央農業協同組合 営農経済部 営農指導課
【略歴】
平成12年、JA真室川町(現JAおいしいもがみ)に入組。
8年間の共済業務を経て、平成22年から営農指導員として活動。
園芸品目を中心に生産指導に携わり、担い手育成や地域農業の活性化に取り組み、農家の課題解決に寄り添う営農指導を実践している。
令和7年度JA営農指導実践全国大会にて審査員特別賞を受賞。