(1)概要
鹿児島県南九州市知覧町で野菜の生産を行うアグリストちらんは、平成21年に創業した。令和6年の野菜全体の生産量は3539トンで、ごぼうのほか、だいこん、にんじん、かんしょ、ばれいしょなど、全品目合わせて120ヘクタールの
圃場で生産している(表1)。従業員は役員を含む常時雇用が10人で、臨時雇用が時期により5~10人、技能実習生は7人、特定技能実習生が8人となっている。また、自社で生産する野菜のほか、周辺の農家から購入した野菜も販売している。
(2)ごぼう生産の始まりと契約取引の拡大
アグリストちらんでは、ごぼうの生産を平成30年より開始した。ごぼうの生産により力を入れ始めたきっかけは、サツマイモ
基腐病による被害が拡大したことであった。これまで生産していた青果用、加工用およびでん粉原料用かんしょの代替作物を模索していた同社は、同じ季節に生産が可能で、近隣に加工業者が多く、需要が見込まれるごぼうに着目し、作付面積を増やした。令和3年には独立行政法人農畜産業振興機構の「端境期等対策産地育成強化推進事業」を活用し、6年産のごぼうの作付面積は18ヘクタール、生産量は約260トンとなった。直近3年間は作付面積、生産量ともにほぼ横ばいで推移している。
アグリストちらんの出荷先は、市場のほかに、野菜の加工・販売を行う南日本フーズをはじめ、加工業者6者と契約取引を行っている。出荷先から加工・業務用野菜の供給量を増やして欲しいという要望があり、徐々に生産量を増やしてきた。
加工・業務用向け野菜は、鉄コンテナでの出荷が可能なことから、段ボールの梱包作業や細かい選別作業が不要となるなど、作業が省力化できる。必要人員が少なくて済み、人件費を抑制できるといったメリットがある。加えて、規格外品も一部の加工業者が受け入れており、複数の出荷先を確保していることで、全量出荷できるという(写真1)。
(3)薩摩・大隅広域ごぼう出荷組合発足の背景と利点
アグリストちらんの代表取締役である
塗木俊広氏は、より安定したごぼうの生産を目指して、自身が中心となり、ほかの農家と協力し、令和3年に薩摩・大隅広域ごぼう出荷組合(以下「出荷組合」という)を設立した。組合員は7者で構成され、近隣の薩摩地域の農業生産法人5者だけでなく、同じ県内でも薩摩地域とは天候が大きく異なる大隅地域の農業生産法人が2者含まれている(図4)。以前より、大隅地域の農家からだいこんの栽培について助言を受けていたこともあり、その交流が縁となって、広域にわたるごぼう出荷組合の設立に至ったのである。アグリストちらんの職員は、野菜の栽培方法などを相談するために、県内外を問わず、遠方の熟練の農家を訪問して助言を受けることがよくあるそうで、日頃から離れた地域の農家と交流していることが、県内の生産者の広域連携につながった。
広域で出荷組合を設立した理由として、塗木氏は不作リスクの軽減、栽培技術の共有、安定的な収量の確保を挙げている。鹿児島県は西の薩摩半島と東の大隅半島に大きく分かれており、同じ県内でも天候が大きく異なるため、天候による不作や病害虫の発生リスクを分散できるというメリットがある。契約取引に必要となる収量の安定確保という面で、産地の分散は効果的である。
また、アグリストちらんは、ごぼうの栽培経験が浅かったため、以前よりごぼうを生産している農家とともに出荷組合を設立することにより、栽培技術についての知識や経験を共有できたほか、出荷先の紹介をしてもらうなどの利点があった。こうした取り組みにより、各組合員の収穫量が増えるといった効果のほかにも、出荷組合としてまとまった収量が得られることから、契約出荷先を増やせるメリットもあった。また、冷蔵庫を所有していない組合員のごぼうをアグリストちらんが集荷・保管し、まとめて出荷するなど、同社は品質保持や作業の効率化を図る役割も担っている。
出荷組合としてごぼうを栽培をするに当たっては、3~4月に追肥や防除を呼び掛け、使用する土壌改良資材と微生物資材を統一することで、収量の安定や品質の向上を目指した。また、作物にカルシウムを補給する土壌改良資材を使用したり、土壌中の有用微生物を増殖させ病害や連作障害の軽減が期待できる微生物資材を用いたりしている。なお、防虫剤に関しては、地域ごとに発生する害虫が異なるため、それぞれの圃場に適切なものを選び散布している。
(4)アグリストちらんのごぼう栽培
栽培しているごぼうは、早どり栽培に適している早生品種の「山田早生」と、ひび割れが少なく、ごぼうの内部に空洞ができるスの入りが遅い「柳川理想」の2種である。これらの品種は、収量を左右する発芽率が高いこと、また、後者はスの入りが遅いため、悪天候などにより収穫が遅れても、品質を保った状態で収穫が可能といった特長がある。
播種は、12月~翌2月にかけて山田早生、柳川理想の順に行う(表2)。まれにある降雪により新芽がダメージを受け、植え直すことがないよう、発芽した後も霜や地温の寒さ対策として被覆資材をかけている。この被覆資材は、海岸沿いにある温暖な箇所を除く圃場全体の約7~8割に施し、暖かくなる4月までには除去する。
気温が高くなるほど虫害が発生しやすくなるため、被覆資材を除去した圃場については、順次防除作業を行い、また、追肥を2回行う。防除作業では、ヨトウムシやネキリムシといった害虫の発生状況によって、使用する防虫剤の種類を変更するほか、量や頻度を調整している。
(5)機械化の促進
ごぼうの収穫量を増やすため、アグリストちらんでは、さまざまな栽培管理を行う一方で、労働力不足を補い、作業時間を短縮するため、収穫機を導入するなど機械化を進めている(表3、写真2)。機械化の促進により従業員の負担軽減が図られるほか、人員をほかの作業に回すといった労働力の有効活用、近年高騰する人件費の削減にも寄与している。ただし、作業機械の重みで圃場を踏み固めてしまうなどの理由から、播種後に被覆資材をかけたり除去したりする作業は手で行う必要があり、今後の課題となっている。
(6)安定供給の取り組み
アグリストちらんは、適期の防除作業などを徹底して生産量を確保し、毎年、取引先との契約数量を出荷することができている。生育期の天候に恵まれた場合には、想定より豊作になることもあるが、そのような時でも、全量を出荷することができている。これは、ごぼうが冷蔵下であれば長期間保管できるためであり、一時的に同社の冷蔵庫で保管し、時期をずらして出荷することで、出荷できずに廃棄したり、ほかの出荷先を探したりするという対応はまずないという。また、アグリストちらんのみではなく、出荷先の加工業者も冷蔵庫を保有しており、出荷先においても長期間の保存が可能となっている。
(7)今後の課題、展望
これまで、出荷先の需要に応じて加工・業務用ごぼうを安定的に供給してきたアグリストちらんであるが、問題や課題がないわけではない。
一つは、保有する圃場の中には狭小なものが複数あることで、これらの圃場間での機械の運搬や作業は非効率である。そのため、作付面積を増やすだけでなく、作業効率を上げるために、圃場を集約することができないかと考えている。
次に、ごぼうを含む生産作物全体のブランド化を進めることである。自社産の作物の付加価値を高め、ブランド力を確立して販売できれば、農家自身が価格を決めることも可能となり、農家の収益向上にも貢献することになる。同社としては、生産量を上げることよりも、品質の良いものを生産することに重きをおいていきたいとのことであった。