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調査・報告 野菜情報 2026年1月号

かんしょの生産・加工を中心とした地域経済循環モデルの構築~高知県 しまんと新一次産業株式会社の取り組み~

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国立大学法人高知大学 農林海洋科学部 農林資源科学科 
准教授 宮内 樹代史

1 はじめに

 就農人口の減少に伴い、耕作放棄地は増加しており、全国的に大きな問題となっている。中山間地の多い四国では、なおさらその傾向は顕著であり、高知県では限界集落の発生も珍しくなくなっている。その対策としてさまざまな取り組みが行われており、集落営農の仕組みの強化による請負耕作や、地域おこし協力隊による人材育成(1)、棚田跡地を活用した木質園芸ハウス(2)や営農型太陽光発電の導入(3)などが一定の効果を見せているようである。しかし、これらは農業生産を維持するための方策であり、今後は積極的に農地を拡大し、地域経済が潤う仕組みづくりが望まれている。
 このような背景の元、本稿では、しまんと新一次産業株式会社(以下「しまんと新一次産業」という)が取り組む、かんしょ(および栗)の生産・加工、および環境と調和した循環システムによる地域経済の活性化について紹介する。

2 しまんと新一次産業の概要

 高知県高岡郡四万十町は中山間地に位置するが(図1)、四万十川上流域に沿って農地が展開しており、多様な特産品を栽培する地域である。しかし、人口減少に伴う上述の問題は深刻化しており、地域活性化のための対策が求められている。
 この地にあるしまんと新一次産業では、「農業で夢を叶える。四万十をそんな人たちが集まる場所にしたい」というコンセプトの下、2012年に事業を開始した。当初は栗山の整備から始め、栗加工場の設立が16年、テスト期間を経てかんしょの加工事業を21年から、生産を22年から行っている(図2)(4)。かんしょは青果、干しいもとしての出荷もあるが、製菓原料のペーストに加工しての出荷がメインである。
 図3に事業内容を示す。原料のかんしょは、当初、委託加工が100%であったが、23年度は自社原料を30%、24年度は15%使用しており、原料の安定供給や地域内での循環システム構築のため、今後も生産量を増やしていく予定である。同社は、生産量を増やすために地域の耕作放棄地や遊休地などを活用しているが、その入手方法は、周辺土地所有者への声掛けや集落内のつながり、口コミによる情報の広がりによるところが大きい。
 また、地域内のグループ会社と連携し、6次産業化の一部を担うとともに、生産施設で生ずる植物残渣(ざんさ)を活用する取り組みも行っており、環境負荷の軽減にも配慮している。図4は、地域内での連携を表したものである。域内に立地する高知県次世代施設園芸団地をはじめとする園芸施設からの残渣を緑肥として圃場(ほじょう)・園地に投入し、循環するシステムが構築されている。
 
タイトル: p058

タイトル: p059

3 かんしょの生産状況およびしまんと新一次産業におけるかんしょ生産

 かんしょの国内生産量は、2023(令和5)年時点で72万トンであり(農林水産省農産局地域作物課)、約20年で3割減となっている。減少要因は、1)高齢化、2)離農、3)病気(基腐病)―といわれており、特に病気の影響は大きく、被害が大きかった九州で収穫量が大幅減した結果、温暖化の影響により栽培適地となった北海道での栽培が拡大しつつある。
 しまんと新一次産業におけるかんしょの作付面積は年々増加し、現在(2025年7月現在)は1.1ヘクタールとなっている。猛暑の影響により単収は前年度より20~30%低下したが、10アール当たり1.3~1.6トンを維持している。暑熱への対処としては、1)黒色マルチをシルバーマルチへ変更、2)熱容量確保のための高畦化―などを検討しているが、獣害も多く、併せた対策が必要である。
 さらに、同社は生産コスト削減と効率化のため機械化を進めており、つる植え、つる切りの他、ドローンによる生育管理など、草刈り以外の作業は機械を用いて行っている。
 また、圃場は地域内で複数拠点に分かれているが、拠点ごとに土壌分析を行い、必要以上の施肥を防ぐとともに、グループ会社である次世代施設園芸施設(四万十とまと株式会社)から出る植物残渣の緑肥化を進めることで、地域内での物質循環を目指している。図5に生産に関する同社の方針を示す。加工原料のかんしょについては、前章で述べた通りである。

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4 国内外で高まるかんしょ加工品需要に対応

 生産されたかんしょは、一部を除き製菓原料ペースト用として加工され、OEM(他社ブランドを製造すること)を中心とした、顧客1件1件に対応したオリジナル加工を施し、出荷している。図6に加工の指針を、図7にかんしょの加工実績を示す。2016年に加工場を開設し、19年からペースト加工を本稼働している。その後、21年に洗浄・加工機器設置、23年にかんしょ保管庫・ペースト冷凍庫を設置した(図2)。加工用のかんしょの種類は、製菓顧客ニーズに合わせて毎年調整しているが、四万十金時および四万十紅はるかが中心である。製菓顧客ニーズの把握は、かんしょの収穫前、サンプルを試作する時期に行われ、OEM製品としてカスタマイズされる。取引先は四国内および首都圏に展開しており、出荷量は2022年から年間2トン、5トン…と毎年上昇しており、今後さらなる需要の高まりが見込まれている。製菓顧客ニーズの最近の傾向としては、香りと滑らかさが重視されている。産地に近く、生産後すぐに一連の処理(保管、加工)に入れることで、雑味を抑えられることが市場での高評価につながっていると考えられる(図8)。かんしょ収穫後の処理として、土を落とし1~2日置いた後、管理温度13~15度、湿度85~95%で3~4カ月貯蔵することで糖化が進み、ペースト原料としての高品質化が図られる。
 国内かんしょ生産量約72万トンのうち、加工食品は17%(約12万トン)である(図9)。その使用用途は、菓子用(ペースト・かりんとうなど)40%、干しいも37%、大学芋9%となっている(農林水産省農産局地域作物課)。国内需要において、加工食品用(=お菓子)需要は、収穫量による影響は受けてもほぼ横ばいであり、安定した人気市場が形成されている。また、日本のかんしょは甘みが強いことから海外でも人気があり、輸出額は増加傾向で推移している。農林水産省の「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」では、かんしょおよびかんしょ加工品は輸出重点品目に選定されており、今後の伸びが予想される。東南アジア地域では四万十ブランドの認知もあり、しまんと第一次産業は、需要が見込まれる中での輸出を視野に入れた事業展開も検討している。
 
タイトル: p061
 
タイトル: p062


5 環境への配慮と地域経済循環モデル

 しまんと第一次産業は、生産過程での環境への配慮の取り組みとして、耕作放棄地や休耕地を活用するとともに、地域内の園芸施設から出る植物残渣(トマト、パプリカの茎葉、約500トン)や培地残渣(根圏部を含んだヤシ殻、約40トン)を緑肥化して利用している。大規模園芸施設から出る残渣は相当量あり、廃棄処理費用にかかる経費は大きく、従来は相当な廃棄処理費用がかかっていたことを考えると、循環利用による環境負荷低減と経費削減は大きなメリットである。緑肥は自社農園だけでなく、地域内連携農園にも供給しており、そこで栽培されたかんしょを加工用原料として仕入れている。
 生産したペーストはOEM製品として地域外へ販売し、地域内への経済的利益に貢献するとともに、製品は地域内でも流通している。また、肥料の他、労働力確保のための季節雇用や機械化などによる作業軽減化、グループ内の農園での資材の共用化や出荷体制の協力により、人材や資材を循環させる仕組みを作っている。このような手法を通じて、しまんと第一次産業は、地域経済の循環モデルの構築を図っている(図10)。
 
タイトル: p064

6 おわりに

 本稿では、しまんと新一次産業が取り組むかんしょの生産・加工を中心とした循環モデルの一端を紹介したが、同社では、かんしょと並ぶ主力製品として栗ペーストの生産を従前から行っている。栗は他品目同様、高齢化や離農により国内生産量が減少する一方、国内の需要は年々高まり、高級品の位置付けとなりつつある。栗もかんしょ同様、加工だけではなく、自社栽培の拡大を行い、持続可能な栗の生産・加工販売体制を目指している。
 生産部門での耕作放棄地・休耕地の利用拡大、緑肥と農業残渣の活用、風土と仕様に合致した品種の選定は、地域の一次産業を活性化するとともに、環境に優しい循環型農業モデルとなる。また、加工部門での和洋食感と香りを重視した品質管理、OEMによる1件1件に向き合ったオリジナル加工は、地域生産物の付加価値を高め、域外からの収入増に結び付く。さらに、少量ではあるが、地域内での生産物・加工品の販売は「四万十」ブランドの形成・強化にもつながり、地域外からの人流の呼び込みに貢献している。
 このような同社の取り組みは、地域の環境と経済をどちらも循環させる「エコエンジン」となることが期待される。
 
 
 
参考文献
(1)高知県農業の動向,高知県農業振興部,2024.03
(2)石垣ハウスの環境特性と作物栽培に関する研究、農業施設学会大会2021年大講演要旨、宮内樹代史、常盤梨花、野々宮益輝、嘉瀬井祥太,2021
(3)耕作放棄地の有効活用に資する営農型太陽光発電-パネル下光環境と作物生育特性および集落営農支援-,機械化農業(特集 拡大する営農型太陽光発電の利用),宮内樹代史,3269,14-17,2023
(4)四万十の100年後をつくる-しまんと新一次産業株式会社の取組み-,しまんと新一次産業資料,2025.03