(1)みやぎ生協の概要
2024年度における尾鈴産ピーマンの出荷量694トンのうち、約150トン(出荷量の2割強)がみやぎ生協の産直商品として、店舗と宅配で販売されている。みやぎ生協は、宮城県全域と福島県の中通りと浜通りをエリアとしている。2024年の組合員数は合わせて98万人で、特に宮城県世帯の組合員加入率は74.1%(みやぎ生協ウェブサイト)と、2023年度の全国平均39.3%に比べて著しく高い。
尾鈴産ピーマンは、2012年からみやぎ生協に出荷されている。仕入れはコープ東北サンネット事業連合(以下「コープ東北」という)が担当している。コープ東北は、スケールメリットを生かした共同仕入れを行うために、みやぎ生協、いわて生協、生活協同組合共立社により1992年に設立された。現在は東北地域の7生協が会員となっている。農産物は地域の生協の仕入れが多いが、それでもコープ東北では年間200億円程度取り扱っており、うち野菜は70~80億円である。尾鈴産ピーマンについても、コープ東北が仕入れを担当し、バイヤーが年2回産地を訪問して現地確認と商談を行っている。
(2)産直商品ブランド「めぐみ野」の概要
尾鈴産ピーマンは、特別栽培であることと供給の安定性がコープ東北のバイヤーから評価されて、2020年にみやぎ生協の産直商品「めぐみ野」に認定された。「めぐみ野」とは、「生産者と消費者がお互いに顔とくらしが見える産直」を目指して、みやぎ生協が1970年に開始した産直商品ブランドである。みやぎ生協では、産直を単なる取引ではなく、生産者と消費者が対等な立場で連携する産消提携と位置付けている。健全な日本型食生活の確立、食の安全性の向上、食料自給率の向上と第一次産業の発展を提携の目的とし、その活動を通じて日本の経済と文化の発展、自然環境の保全の寄与に努めることとしている。
2024年時点で、野菜、米、果実、牛肉・豚肉・鶏肉、鶏卵など、県内外の200を超える商品を認定し、店舗と宅配で優先的に供給している。特に店舗では、めぐみ野の認定を受けた宮城県産農産物の直売コーナーを設置してインショップ形式で販売している。
尾鈴産ピーマンを「めぐみ野」ブランドに認定するに当たり、2019年にJA尾鈴地区とみやぎ生協との間で「産消提携に関する基本協定書」を取り交わした。協定書には、上述した提携の目的に加えて、価格や流通経費について双方で十分に協議して合理的に決定すること、積極的に交流して学習の機会を広めることを盛り込んでいる。
尾鈴産ピーマンは、「めぐみ野」認定商品であることを明記した独自の商品パッケージで販売している(写真3)。
(3)「めぐみ野」の認定基準
みやぎ生協では、尾鈴産ピーマンをはじめとする「めぐみ野」の認定基準として、次の三つを設けている。
一つ目は、産地と生産者が明確であることである。つまり、対象商品がどのような自然条件や栽培環境の下で誰が作ったか、が明らかであることである。尾鈴産ピーマンの場合、産地は、JA尾鈴地区の管内である川南町と都農町内で、土質は黒ボク火山灰土、年間平均気温は17.4度、年間降水量は2508ミリリットルといった自然条件の下で、ピーマン部会員が生産している。
二つ目は、生産方法と手段が明確であることである。つまり、対象商品の栽培方法と収穫後の工程が明らかであることである。栽培方法については、作型、栽培計画、使用農薬リストと使用回数、使用肥料リストと使用量が明らかであることで、計画段階の「農産商品仕様書」に加え、出荷前に栽培履歴管理記録簿と残留農薬検査結果を確認している。また、収穫後についても、選別、小分け・包装、予冷、運搬の各工程について実施主体とその温度帯などをコープ東北が確認している。
尾鈴産ピーマンの場合も、取引前に、農薬リストや肥料リストとその使用状況といった栽培方法を、また、農産商品仕様書で収穫後の選別や小分け・荷造り工程について生産者とJAの分担関係と保管温度帯を、さらに、出荷前に栽培履歴管理記録簿および残留農薬検査結果をコープ東北の担当バイヤーが確認している。
なお、一つ目と二つ目については、産地が記入した農産品共通の「農産商品仕様書」を、コープ東北の担当バイヤーが確認している。
三つ目は、生協組合員と生産者が交流していることである。共通の願いを実現するという産直の目的を、交流を通じて確認するためである。交流の中心である学習会は、みやぎ生協が企画している。店舗単位で生協組合員がグループを作り、3~4グループが集まって年6回程度行われている。学習会によって、生協組合員への「めぐみ野」商品の認知度が高まっている。
尾鈴産ピーマンの場合は、産地からみやぎ生協を訪問する交流は、「めぐみ野」の認定以前から行っていたが、認定後は生協組合員による産地訪問が加わって双方向の交流となり、関係が強化された。
また、産地からは、年1~2回、ピーマン部会員、JA尾鈴地区、JA本店直販部署が消費地に出向いて、生協組合員の学習会にも参加している。具体的には、ピーマン部会員が産地の状況やピーマンの栽培方法を説明し、ピーマンの食べ方を紹介したり、発生しやすい害虫をできるだけ天敵で防除し、化学農薬の使用回数を減らしていることなどを伝えている。コープ東北によると、このような学習会は生協組合員の商品への理解を促進する効果があり、リピート購入につながっているという。生産者にとっても、消費者のニーズを把握する機会になっている。
2023年度には、みやぎ生協において尾鈴産ピーマンを扱う店舗が59店舗に増えた。2023年度の取扱量は、認定以前の2018年の約3倍に増加した。産地にとって、生協組合員の学習会への参加は、消費地を訪問するコストがかさむが、消費者において尾鈴産ピーマンへの理解が進むというメリットがある。これにより、みやぎ生協は、尾鈴産ピーマンの出荷量の2割強を占める安定した販路となっている。収益の安定的な確保を通じて、JA尾鈴地区の新規参入者の定着に寄与していると言えよう。