(1)飛躍的な高収量を達成する経営体の育成
センターは、環境制御技術の導入が進むきゅうりおよびトマトの新規就農者研修施設を
擁する県南部の杵藤地区を重点対象地区に設定し、研修施設を卒業後、就農1~2年目の新規就農者10組を重点支援対象と位置付けて、関係機関とともに支援を行った(図2)。
ア 効果的な環境制御技術を習得する体制の整備
(ア)技術力向上に向けた支援
センターでは、重点対象地区において、きゅうりおよびトマト農家を対象として、年3回研修会を開催し、植物生理に基づいた環境制御への理解促進に努めてきた。また、重点支援対象者に対しては定期的に個別巡回指導を行い、的確な環境制御に取り組むための判断力向上を支援した。
(イ)自発的に学びあう生産者グループの組織化および育成
新規就農者が実践的な技術を学び磨き上げるためには、生産者同士で切磋琢磨する場が必要と考え、センターは、重点支援対象者や生産部会に対し、勉強会のメリットや優良事例を紹介するなど、組織化に向けて働きかけた。その結果、令和3年度にきゅうりで1組織、令和4年度にトマトで1組織の勉強会グループが誕生した。より生産者主体で充実した活動となるように、勉強会グループのリーダーへ活動の進め方(勉強会の進行やデータ共有方法など)を助言したことで、リーダーの進行の下でメンバー同士が的確な気付き・アドバイスを積極的に発言して活発な議論が行われるようになり、グループ全体で経営発展を目指す意欲が向上した(写真1)。
(ウ)「匠の技」学習システムの開発・活用
将来にわたって技術を継承し習得する体制をつくるため、センターでは、JAさが、大学、民間企業と連携して、全国トップレベルの収量を誇るきゅうり農家(匠)の技術を「状態把握」「判断」「作業」の3段階に分けて動画や画像、テキストなどでデジタル化し、そのデータをもとに学習システムを開発した(図3)。
経験や勘に基づく匠の技術を言葉で説明することは容易ではなかったものの、異なる分野の専門家が集い、さまざまな角度からアイデアを出し合ったことや、産地の持続的発展のために次世代へ技術を承継するという匠の想いを関係者が共有し、粘り強く取り組みを進めたことで、農業研修生も理解しやすいシステムを開発することができた。
開発したシステムの学習効果を検証した結果、匠と研修生の生育状態判断一致率は、学習前と比べて1.6倍に向上した。令和4年度からは、県全域で新規就農者向けの研修会などでこの学習システムの活用を図っており、利用者からは、「動画や画像で繰り返し勉強できるので理解しやすい」と好評を得ている。
イ 経営力向上支援
新規就農者の収量目標達成に向けて、経営面でも意識改善を図るため、センターでは、10年間の経営プランと月別経営収支を管理するための「経営支援シート」を作成し、新規就農者に対し、自らの経営と目標に対する達成度の把握を促した。
目指す所得を確保するため、どの時期にどの程度の収量を確保すべきか分かりやすく見える化したことで、コスト管理や栽培戦略の改善に向けた意識の向上が図られた。また、雇用型大規模経営に向けた研修会を開催し、新規就農者が県内外の大規模農家と経営発展に向けた意見交換を行う場を作り、経営者としての成長を促した。
(2)県全体への波及に向けた推進体制整備
杵藤地区における好循環の事例を県全体へ波及させるため、これに向けた推進体制を整備した(図4)。令和4年から開催している環境制御WGでは、環境制御・データ活用により目指す姿と取り組みスケジュールを設定し、各品目担当の普及員およびJA指導員と連携して取り組みの推進を図った。また、推進の核となる指導員の育成研修では、環境制御に関する知識・技術を習得するための研修会を実施して、指導員のレベルアップを図った(写真2)。