本プロジェクトでは、各地域において実証試験を行い、以下のような高温対策および草勢維持技術の効果を検証した(表1)。
(1)気化熱冷却(細霧冷房・パッドアンドファン)によるハウス内温度の抑制(全実証地での導入実証)
ア 細霧冷房:ハウス内に微細な水を噴霧し、気化熱(潜熱)により温度を下げる。日射比例制御により噴霧量を調整することで、昇温抑制効果が高まる。
イ パッドアンドファン:水で濡らしたパッドを通して通風することにより、細霧冷房と同様に昇温を抑制する。
これらの技術により、ハウス内の気温を2℃以上低く抑えることが可能である
2~4)。気化熱冷却によって昇温が抑制されるため、遮光カーテンの使用を最小限に抑えることができ、施設内の日射量を多く確保できる。細霧冷房と換気の組み合わせにより、可販果収量を増加できる
4)。
(2)遮熱フィルムの活用(愛知県・千葉県での導入実証)
太陽光のうち、植物の光合成に利用されるのは主に可視光領域の光であり、赤外線は物質を加熱する働きがあるが、光合成への寄与は少ない。従って、可視光の透過率が高く、赤外線の透過率が低いフィルムを温室に使用することで、植物の光合成を妨げることなく、温室内の温度上昇を抑えることが可能となる。
千葉大学などが2017年に開発した赤外線反射型の遮熱フィルムは、可視光透過率90%、赤外線反射率40%を有している。このフィルムを温室内に展張することで、同程度の遮光率の資材と比較すると、昇温抑制効果が大きい(最高気温2℃低下)とされている。光合成への影響が少ないため、植物の成長に悪影響を与えることなく、温度管理の効率化が期待できる。
外張りフィルムとして利用できるような加工や汚れの洗浄方法など、資材や使い方の改良ができれば、現地への普及性が期待できる。資材費は10アール当たり約25万円、耐用年数は5年程度である。
(3)強勢台木の接ぎ木による草勢維持(長野県・福井県・農研機構で効果)
トマトの強勢台木は、土壌病害抵抗性や草勢維持などを目的として、種間雑種も含めて多くの品種に用いられる。強勢台木は、根の生理活性が高く、水や一部の無機栄養の吸収能力が高いことが草勢維持と収量増加の一因と報告されている
5、6)。高温環境下においても、強勢台木は収量増加に効果があり
7)、現地普及も進んでいる。
(4)CO2局所施用による光合成促進(長野県で導入実証)
CO
2濃度は光利用効率(受光量当たりの光合成産物生産量)と正の相関があり、CO
2濃度が低いと光利用効率は下がる。換気量の多い夏秋どり栽培の施設内でも、群落内のCO
2濃度は外気より低くなる場合があるため、群落光合成が低下すると考えられる。そこで、多孔質チューブを栽培ベッド上など作物近傍に設置してCO
2を局所的に供給すると、群落内のCO
2濃度を外気と同程度または外気より高く維持できる
8)。CO
2施用の設定値を外気よりやや高くし、日の出~日没まで「低濃度長時間施用」することにより、9~10月の可販果が8~27%増え、10%の増収が可能となる。
これらの技術のほかに、長野県では作型を前後1カ月延長し、千葉県では作を1カ月前進し、福井県では冬季を経過する栽培から夏を中心とした作型に変更するなど、栽培期間を調整する方法も検討した。