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調査・報告 野菜情報 2025年7月号

加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けた品目別課題調査について

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農林水産省 農産局 園芸作物課 園芸流通加工対策室係長 鵜澤 正克

​1 調査の背景

 農業従事者の減少や高齢化、大雨・高温など異常気象の頻発化、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などによるグローバルサプライチェーンの混乱などの諸課題により、わが国の農業・食品産業は大きな転換点を迎えている。
 昨年は、食料・農業・農村政策の理念と施策の方向性を示す法律である「食料・農業・農村基本法」が制定以来25年ぶりに改正され、「食料の安定供給」に代えて、「食料安全保障の確保」が基本理念の一つとして新たに位置付けられた。国内で生産できるものはなるべく国内で生産し、かつ、消費者の皆さまに安定的に届けていくことが求められている。
 野菜については、国内での消費量のうち、家計消費用が約4割、加工・業務用が約6割を占めている。家計消費用はほぼ100%が国産であるのに対し、加工・業務用については、国内産地が実需者の求める安定供給などのニーズに必ずしも十分に応え切れていないことから、輸入品が徐々にそのシェアを伸ばしており、現在では約3割を輸入が占めている状況にある。
 加工・業務用野菜の国産シェア奪還には、国産原料の周年安定供給を実現することが喫緊の課題であるが、この実現には、主な加工・業務用野菜産地における出荷時期の間に存在する端境期に出荷が可能な新規産地を形成してその隙間を埋め、産地間でリレー出荷を実現することや、栽培適期に多めに栽培し、余剰分を冷凍した上で端境期に出荷するなど、切れ目のない国産の加工・業務用野菜の周年供給体制の構築が必要である(図1)。
 そこで、輸入品が約3割を占める加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けた検討の一助とすべく、農林水産省は「令和6年度加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けたサプライチェーン強靱化のための品目別課題調査委託事業」を立ち上げ、特に力を入れてシェア奪還を進めるべき主要な品目について、状況の分析や課題の検討を行うとともに、全国の生産者や関係団体などに向けて情報発信を行うことを目的に調査を実施した。
 
タイトル: p048

2 調査概要

 輸入量が多い品目の中で、価格差や用途面から国産品への切り替えが期待できる7品目(たまねぎ、にんじん、ねぎ、かぼちゃ、えだまめ、ブロッコリーおよびほうれんそう。以下「主要7品目」という)において、1)国内における加工・業務用野菜の生産に関する調査(生産量、生産時期、主要産地、生産課題など)、2)国内における加工・業務用野菜の製造加工および流通に関する調査(加工状況、加工(特に冷凍)における課題、流通状況、流通経路、流通課題など)、3)加工・業務用野菜の輸入に関する調査(輸入国、輸入量、輸入時期、輸入価格、国産品の優位性、輸入課題など)を行うこととし、統計データなどを用いて分析を行った。
 また、国産野菜シェア奪還プロジェクト推進協議会員(食品製造業者、食品小売業者、外食産業者、卸売業者)を中心に、該当する品目の輸入量、輸入額、輸入品の形態、輸入理由や、国産品の利用割合、国産品の利用への課題、加工機械の所有の有無、産地と連携した調達体制・産地形成支援への取組などについてアンケートを行い、その結果も分析に活用した。
 その上で、加工・業務用野菜の国産シェア奪還に資する情報発信を行うことを目的に、上記調査の結果を取りまとめた冊子を作成し、全国の生産者や関係団体などへ向けた加工・業務用野菜に関するシンポジウムを開催するとともに(後述)、当該冊子をシンポジウム参加者に対して配布した。

3 調査結果

 主要7品目の品目ごとの状況・課題については、アンケート結果などを踏まえて、それぞれ取りまとめた。一例として、たまねぎについての取りまとめを以下に抜粋する。
 




 
タイトル: p050
 
タイトル: p051
 
 主要7品目全体を通してみると、産地側では、産地と一次加工などの情報連携により、生産・加工のそれぞれの段階において、加工・業務用で求められる規格(サイズなど)の野菜を増産することが、実需側では、マーケットインの観点で市場が求める形態を把握し、加工の段階において、ニーズに応じたカットや冷凍などの加工に対応することが必要であるとの知見が得られた。また、輸入品との品質・価格面で差がある品目については、産地と一次加工における作業の自動化、加工品の異物混入防止・検知・除去などの精度向上などの生産効率向上といった取組が必要であるとの知見が得られた。
 これらを踏まえ、品目ごとの国産シェア奪還に向けた対策については、増産と貯蔵による通年供給の観点から、例えばかぼちゃでは、生産適期の夏季に増産を行うとともに、冷蔵での長期保存を行い、12月から6月にかけての国内卸売量が少ない時期に供給できる体制を整えることが必要だと考えられた。
 また、一次加工や冷凍などの加工体制を強化する観点から、例えばたまねぎでは、近年、国産品と輸入品の価格差が小さくなってきているため、「()きたまねぎ」加工に対応する体制を整え、加工業者が必要とする用途で提供すること、ブロッコリーでは、国産品と輸入品の価格差が大きくないため、()(らい)を小房状にカットするフローレットカット加工に対応する体制を整え、加工業者が必要とする用途で提供すること、ほうれんそうでは、夏季に生産可能な産地を増やすことや、国産品と輸入品の価格差はあるものの、ニーズがあるため、冷凍やカット加工施設を併設した産地を増やすことが必要だと考えられた。
 さらに、業務用サイズなどの生産体制を強化する観点から、にんじんでは、実需者が求める加工・業務用の野菜規格に対応した生産を行うことや、需要に応じた加工に対応できる機械を所有した加工場を整えること、ねぎでは、冬季に生産可能な産地を増やすことや(生鮮)、市場外調達が少ない状況にあるため、価格の引き下げなどにより契約栽培を増やし、周年で安定供給できる体制を整えること、えだまめでは、輸入品が9割を占めるため、まずは夏季での国産品の生産を増やすことや、市場外調達が少ない状況にあるため、価格の引き下げなどにより契約栽培を増やし、周年で安定供給できる体制を整えることが必要だと考えられた(図2)。
 
タイトル: p052
 
 次に、加工・業務用野菜の産地形成への取組について、本事業でアンケートを行ったところ、18の企業から回答があり、そのうち「産地形成支援に興味がある」と回答した割合は83%であった(図3)。また、産地形成を既に実施している企業からは、実施に至ったきっかけとして「安心できる品質基準の設定」「対応の迅速さ」という声が挙げられた。
 最後に、冷凍野菜の製造・出荷などに求められる課題などについて整理した。冷凍野菜の国内生産量は2023年において3.6万トンであり、10年前と比べて4割以上減少している(表)。また、冷凍野菜の輸入量は増加している状況であるが、輸入単価の上昇により、国産品と輸入品の価格差が縮小傾向にあることから、国内の冷凍加工対応の強化に向けた取組の検討を行った。
 具体的な取組としては、第一に「大規模化によるコスト低減」が挙げられた。これは、複数の産地や実需者が連携し、実需者が求める形態へ加工するための共同利用施設を整備することで可能となるものである。また、第二に「品質向上」が挙げられた。これは、ブランチングや急速冷凍方法、異物除去技術を向上させることにより可能となると考えられ、これにより輸入品との差別化が期待できるものである。
 
タイトル: p053

4 シンポジウムの概要

 これらの調査結果をまとめた冊子を基に、令和7年3月10日(月)に「加工・業務用野菜における国産シェア奪還に向けて」をオンラインにて開催し、174人(食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業、生産者、農業法人、JA、自治体など)が参加した。
 
国産シェア奪還のための具体策などについて、石川県立大学の小林茂典名誉教授から基調講演いただくとともに、国産シェア奪還に向けた取組などの事例発表として、実需側からは、デリカフーズホールディングス株式会社の大﨑善保氏、生産側からは、有限会社四位農園の四位栄介氏に登壇いただいた。その後、基調講演・登壇いただいた3者と農林水産省とで「なぜ国産の加工・業務用野菜が選択されないのか、国産品の選択においてはどのような障壁があったか、国産シェア奪還のために日本の産地や卸、食品加工、外食業者は何ができるのか」などの内容をテーマに、パネルディスカッションを行った(図4)。
 パネリストからは、実需側の視点で、
・国産野菜へ切り替えるメリットを顧客に具体的に提案(消費期限の延長や安全性・衛生面での優位性を強調するなど)するとともに、国産野菜の旬や質の良さ(フレッシュ野菜の風味や栄養価の優位性、地域特性を活かした独自の品種や栽培方法などを前面に出すなど)により差別化を図ることで、付加価値を創出する必要がある。
・国産野菜の価値を発信するために、国を挙げてテレビ番組やSNSなど多様なメディアを活用し、旬の野菜の魅力や栄養価、生産者のストーリーなどを継続的に発信することが重要。そうすることで、消費者の関心が高まり、多角的な価値観(価格だけでなく、食の安全性、環境への配慮、地域経済への貢献など)の醸成にもつながる。
・業界全体で連携し、国産野菜の価値向上と消費拡大を推進する。生産者、流通業者、小売業者、外食産業など、サプライチェーン全体で一貫したメッセージを発信し、国産野菜の魅力を多面的に伝える取組を展開することが重要である。
などの意見があった。また、生産側の視点では、
・農産物の安定供給を実現するための多角的なアプローチ(気候変動や自然災害のリスクを考慮した生産計画の立案、多品種栽培によるリスク分散、IoT技術を活用した精密農業の導入など)を実施するべき。
・品質基準や納品スケジュールの調整、情報共有システムの構築など、生産者と加工業者が密接に連携し、考え方を合わせることで、一貫した供給体制の確立が可能となる。
・革新的な取組(複数の生産者と加工業者が連携した広域的な生産・供給体制の構築、AIを活用した需給予測システムの導入など)を推進することで、新しい連携モデルを構築すべき。
・産地見学ツアー、消費者参加型の収穫イベント、SNSを活用した交流、定期的な意見交換会や共同プロジェクトなどの実施により、生産者側の抱える見解や課題、取組について実需者や消費者へ積極的に発信し共有することで、相互理解と信頼関係を深めることが重要である。
などの意見があった。
 さらに、学術的視点では、
・生育予測システムを活用した生育・作柄情報を関係者間で共有することが重要。AI技術やビッグデータ解析を活用し、より精度の高い生育予測を実現すれば、計画的な生産・出荷調整が可能となり、需給バランスの安定化につながる。
・一時貯蔵や冷凍確保を行い、必要な品質形態での現物確保を図りつつ、最新の貯蔵技術や冷凍技術を導入し、品質劣化を最小限に抑えつつ長期保存を可能にすれば、需給変動に柔軟に対応できる体制が構築できる。
・天候不順などのリスクに備え、計画生産量に加えて一定の余裕を持たせた作付けを行い、余剰分は加工用途や新商品開発に活用するなど、効率的な運用を図るべき。
・施設共同利用を含めた関係者の連携・行動調整が求められる。生産者や加工業者が共同で利用できる施設を整備し、稼働率の向上とコスト削減を実現するとともに、関係者間で定期的な情報交換会を開催し、需給動向や課題を共有することが必要。
・異常気象の発生頻度増加を考慮した安定供給の仕組み作りが必要。気候変動に強い品種の開発・導入、複数産地での分散栽培、ハウス栽培の拡大など、リスク分散と安定供給を両立させる取組を推進すべき。
などの意見があった。

 
タイトル: p055a

5 今後の方向性

 「国産シェア奪還」という理念そのものは広く賛同を得られるが、実行に移すに当たっては1者では解決不可能な課題があるため、関係者間の協力が不可欠であり、地域間や企業間の連携を強化し、リスク分散や効率化を図ることで、安定供給体制の構築を目指す必要がある。また、その過程で生じた課題や課題克服の成功事例などを他の地域や実需者などが参考にできるよう共有する体制を整備することで、国産シェア奪還の実現可能性を高めていくことが重要となっている。
 農林水産省としては、本年4月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では、加工・業務用野菜の国産シェアを拡大・奪還していく観点から、産地育成や流通の合理化、サプライチェーン強靱化に取り組み、周年安定供給体制の構築を図っていくこととしたところである。
 本調査の成果物や、令和6年4月に立ち上げた「国産野菜シェア奪還プロジェクト」における生産者と実需者などのマッチング・勉強会などの各種活動、あるいは予算事業などを組み合わせながら、加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けて、生産から消費までの各段階における国産野菜活用の取組を後押ししていく。具体的には、令和7年度においては生産者・実需者それぞれの個別課題把握の意見交換、その課題解決につなげる勉強会や、全国・地域別のマッチングなどの取組を進めることとしているところである。
 国民が安心して安定的に野菜を食べられる体制づくりを皆さまと一緒に考えながら、消費者ニーズに応えつつ、生産者や実需者の持続可能性も確保できるような総合的な取組を今後も支援してまいりたい。
 本調査が、皆さまにとって加工・業務用野菜の生産・活用の検討の一助となることを強く期待する。
 
 
(参考)
〇令和6年度加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けたサプライチェーン強靱化のための品目別課題調査
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/attach/pdf/kokusan_shea_dakkan-80.pdf

〇シンポジウム「加工・業務用野菜における国産シェア奪還に向けて」アーカイブ動画(公開は令和8年3月末まで)
https://www.youtube.com/watch?v=UXKoW2nZ2c4