課題の本質が見えてきたことで、それぞれの課題への対応が重要になってくる。
全農の園芸事業は、2024年物流問題への対応について、ドライバー不足による運べないリスクが顕在化する中、持続可能な輸送体制の確立を目指している。園芸物流の効率化のために、JA・県域・民間域を超えた共同輸送体制(モーダルミックス)や産地と消費地での中継共同物流拠点整備事業(PFC事業=プラットフォームセンター)を進めている(図12)。
海外から輸入される野菜類の多くは、惣菜や外食などの加工・業務用野菜として使用されるが、その30%は輸入品である。日本の野菜の国内消費は全体の60%が加工・業務用として使われ、家庭用として使われる野菜はわずか40%に過ぎない。しかし、日本の農家で栽培されている大部分の野菜類は今でも家庭用として市場流通しており、その卸売価格は用途別の需給によって決まるため、作柄の状況により、野菜の価格は乱高下する。
また、生産サイドでは、国産の加工・業務用野菜は輸入野菜と比較され価格設定が低い、という過去の事例を踏まえた認識がある一方で、加工・業務用野菜を取り扱う業者サイドでは、近年の輸入野菜の品質、数量の不安定さや円安の影響もあり、国産野菜への切り替えニーズが高まっていることから、国内産の価値を消費者にしっかり伝えながら、生産サイドに計画的な生産振興をお願いしたいという要望が増えている(図13)。
全農は、今まで農業団体として本当にJAのお役に立っていたのだろうか。生産と消費をつなぐ役割であると言っているが、今まで、一次卸の役割のみが強く、JAから預かった大切な野菜類がどこで販売されているのかも知らなかったのではないか。このままでは、全農としての存在意義が問われる。変化の大きな時代だからこそ、もっと実需に近づき、ニーズをつかんで、これを生産現場につなぎ、作っていただく、これこそ全農のあるべき姿ではないだろうか(図14)。
全農の販売事業が世の中の変化に対応するためには、新たなバリュー(価値)を生み出す農業ビジネスの仕組みが必要である。
そこで全農では、2017年9月に営業開発部という新しい部署を作り、付加価値を高めるビジネスにチャレンジを始めた。生産と流通と販売が一緒になってチームで情報を共有し、新たな付加価値を生み出していく、チームマーチャンダイジング(チームMD)を実践して、消費側のマーケットを作り上げて、生産サイドの生産振興につないでいる(図15)。
これらの実践成果の事例を以下の通り報告する。
(1)業務用ブロッコリーの生産振興(図16)
バリューチェーンに合わせた素材提案は、セブンイレブンの売れ筋商品「カップデリ」への提案事例で、
花蕾の大きなブロッコリーの品種を選定し、11県14JAの協力の下、生産振興を行い、産地リレーによる販売を行った。国産生鮮原料による食味向上を実現し、生産者の選別・収穫作業の簡素化が図られ、メーカー(惣菜ベンダー)は原料歩留まりの向上につながった。
(2)MVM商事株式会社との「ほめられかぼちゃ」の事例(図17)
神戸市の輸入かぼちゃを取り扱う輸入商社であるMVM商事㈱は、輸入品の品質のばらつきと円安によるコスト高を課題と捉えていたことから、同社から国産原料の調達要望があり、「ほめられかぼちゃ」のブランド産地化に協力して生産振興を実施した。味の基準作りについては、水分含有量・糖度などを光センサーによって数値管理し、数値をクリアした生産者にはインセンティブを与え、13県36JAの協力の下、リレー供給して青果用と惣菜用の生産振興と商品作りを実施した。
(3)外食実需者のGAP要望と産地振興の事例
外食各社は、安全・安心の担保として、加工原料のGAP認証取得への取り組み要望が強い(図18)。
そこで全農は、一般社団法人日本フードサービス協会と連携して福島県で産地交流会を開き、外食チェーンの仕入れ担当者と生産者との接点作りを実施した(図19)。東日本大震災被害のあった福島県は、特にGAP認証を取得している生産者が多く、価格・品質・数量の安定ニーズが強い外食チェーンに対して、周年供給体制とGAP認証取得による品質を産地の強みとしてPRした(図20、21)。GAP取得生産者は信頼できる産地の目印であると生産者と実需者に伝えて、生産振興のストーリー作りに組み入れた。