きたなかふぁーむの従事者には、前述のようにさまざまな者がいるが、その特性をより詳細に見ていく。役員は、北中氏と父親の二人で、会社設立以来変わっていない。父親は、北中氏が就農する以前から水田作を主体とした農業を行っていたが、現在でも主に水田作を担当している。
現在の正社員は北中氏の弟のみであるが、会社設立から現在までに延べ10人弱の正社員が在籍していた。弟以外の者は、現在はきたなかふぁーむを離れているが、その中には独立就農した者が多い。採用時点で、将来、独立就農を目指している者を積極的に受け入れ、雇用期間中は独立就農に向けた経験を積めるよう作業の担当などに配慮し、独立する際には農地の
斡旋などの支援を行っている。まさに独立就農というパッション(想い)を受け入れ、それに向けたぷらっとふぁーむとしての役割を果たしている。
外国人労働者は現在11人で、そのうち5人は派遣会社からの派遣社員である。きたなかふぁーむの外国人労働者の構成は、コロナ禍を契機に大きく変わった。コロナ禍前は、中国から技能実習生を受け入れていた。採用に当たっては、中国で本人およびその家族と面談して選考し、来日後は日本語研修や日本の生活習慣の習得のサポートを行うなど、慣れない日本での働きやすい環境づくりに配慮してきた。なお、採用の際に重視した点は、仕事の能力よりもパッション(情熱)であった。すなわち、お金を稼ぎたいという明確な動機や将来像を持ち、その上できたなかふぁーむにどう貢献できると考えているか、という点である。
しかし、コロナ禍で入国が制限されたことで、中国からの技能実習生が途絶えてしまった。そのため、きたなかふぁーむは深刻な労働力不足に陥った。そこで、派遣会社を通じて特定技能の在留資格で国内に留まっている者を集めた。その中には農業以外の業種で特定技能の資格を持っていた者もあり、農業の技能試験を受けてもらった上で採用した者もいた。コロナ禍が落ち着き、海外からの入国も可能になる中で、派遣会社を通じた雇用は仲介料が掛かるので、順次直接雇用に切り替えている。現在雇用している外国人労働者はすべて特定技能有資格者であるが、きたなかふぁーむでの技能実習を経て、特定技能の資格を得た者はいない。直接雇用の者も、他の農業経営体で技能実習をしていた者や、特定技能の資格試験に合格した上で海外から来日した者である。また、コロナ禍前の技能実習生は中国人のみであったが、コロナ禍後の特定技能の外国人労働者の出身は他の国へも広がり、現在働いている者はベトナム人、インドネシア人、中国人である。
パート従業員は現在28人で、そのうち3人が男性、その他は女性である。3人の男性はパート従業員ではあるが、作業の段取りを決めたり、栽培管理での機械操作を担当したりと、分担している業務内容は準社員的な役割を果たしている。女性のパート従業員の中では、2人が事務作業を担当しており、4人は直売所勤務、他の者はきゅうりなどの出荷調製作業に従事している。女性のパート従業員は周辺地域の、いわゆる主婦層であるが、大きく二つのタイプに分けられる。一つは子育て中の比較的若い者であり、もう一つは子育てが終了し、時間に余裕ができた比較的年齢の高い者である。子育て中の者は、子どもが幼稚園や学校に行っている平日の午前中から昼過ぎまで働き、子育てが終了した者は、子育て中の者が働けない午後や土日の勤務を担っており、両者が補完し合うことで、従業員の出勤のシフトがうまく組めるようになっている。
パート従業員の採用では、ハローワークなどでの募集は行っておらず、基本的に現在働いているパート従業員の紹介で採用している。この方法では、パート従業員の身近な者の場合が多く、似たような状況の者が集まってしまうように思われるが、必ずしもそうではなく、むしろ勤務のシフトがうまく組めるように、紹介した者が自分の勤務できない時間に勤務できる者を見つけてきている。
正社員と外国人労働者は創業以降、入れ替わりが激しいが、パート従業員は入れ替わりが少ない。これまで採用した者の多くは、現在でも働いている。そのため、パート従業員の年齢が徐々に高くなっており、当初は幼稚園児や小学生だった子どもが現在は中高生以上になっている40代の者が全体の7割程度、子育てが終わってからの就労者も現在は70代が主体となっている。
農福連携は、地域の商工関係団体で知り合った福祉作業所からの申し出を受けて始めた。当初は、他の従業員が障がい者に作業を指導してもうまくいかなかったが、北中氏はきたなかふぁーむで多様な者が働ける環境を創ることの意義を強調し、社内の理解を求め続けた。その中で、障がい者は収穫などの作業に適性があることがわかってきて、現在では貴重な労働力となっている。現在、きたなかふぁーむでは三つの福祉作業所に業務委託を行っている。そのうちの一つには直売所の1カ所のスタッフ業務を委託しており、他の福祉作業所にはきゅうりの収穫などのハウス内の作業を委託している。きたなかふぁーむで働いている障がい者も、固定されていない。その中には、きたなかふぁーむでの就労で経験を積み、新たな仕事にステップアップした者もいる。
図1に24年(10月まで)の従業員の雇用形態別の労働時間を示した。10カ月間の総労働時間は3万時間余りであり、1カ月平均で3000時間である。きゅうりは年間を通じて出荷しているため、月ごとの労働の繁閑差は大きくないが、労働時間が最も少ない3月は、最も多い6月のほぼ6割である。月ごとで雇用形態別の労働時間比率に大きな変動はないが、労働時間が多い月はパート従業員の比率が高い傾向があり、パート従業員が労働時間を増やすことで繁忙期の対応をしているとみられる。なお、実際には障がい者も作業に加わっているが、福祉作業所への業務委託となっているので、労働時間の記録はない。