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調査・報告 野菜情報 2025年6月号

多様な従事者を生かして経営発展する「きたなかふぁーむ」

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国立大学法人名古屋大学大学院 生命農学研究科
教授 徳田 博美

【要約】

 農業労働力不足が深刻化している中で、大規模な野菜作経営では、正社員、パート従業員、外国人労働者、農福連携での障がい者など多様な者を雇用する必要がある。施設きゅうりを中心とした大規模野菜作経営の「株式会社きたなかふぁーむ」は、そのような経営の典型であり、正社員、外国人労働者、パート従業員を雇用し、福祉施設に業務委託し、障がい者も作業に従事している。同社では、従事者がそれぞれの想い(パッション)を、農業を通じて実現する「ぷらっとふぁーむ(注)」づくりを経営のミッションとしている。多様な従事者の相互理解と連携により、作業の分担と調整が主体的に行われ、従事者の想いを実現しながら作業の効率化を実現している。

注:プラットフォームとファーム(農場)に由来するきたなかふぁーむ代表者による造語で、次につながる基盤となる農場を指す。

1 はじめに

 近年、大規模な農業法人が野菜生産に占める比率は拡大しているが、野菜作は機械化できていない作業が依然として残されており、労働時間が長いため、大規模経営は多数の雇用労働力を確保する必要がある(表1)。しかも、熟練性を必要とする栽培管理や機械作業から、比較的単純な収穫作業まで多様な作業があり、さらに収穫時期などに大きな労働ピークを形成するため、正社員から臨時雇用のパート従業員までさまざまな性格の雇用労働力が求められている。
 一方、農業労働力不足は深刻な状況であり、特に大規模農業法人における雇用労働力の確保は容易なことではない。そのため、従来の農業雇用者の主体であった農村の余剰労働力のみでなく、中壮年層を主体とした正社員、女性や高齢者などを主体としたパート労働者、フリーター、外国人労働者、農福連携での障がい者など、多様な者が雇用されている。雇用者の特性によって、就労の目的や働き方、能力・適性は異なる。大規模農業法人は、雇用者が多様化してくる中で、それぞれの特性を理解し、それらを生かした働き方を提供することが重要となっている。
 滋賀県で施設きゅうりを生産している大規模農業法人「株式会社きたなかふぁーむ」(以下「きたなかふぁーむ」という)は、正社員をはじめ外国人労働者、パート、派遣労働者を雇用し、さらに農福連携で障がい者施設に作業委託を行っている。まさに、多様な労働力に支えられた大規模野菜作農業法人である。きたなかふぁーむが多様な者を生かす上での大きな特長は、多様な従事者がお互いを理解し合い、主体的に連携し、作業を分担していることであり、同社はそれを可能にする風通しの良い経営組織である。本稿では、きたなかふぁーむを、経営組織と作業分担に注目しながら紹介し、多様な従事者を生かす上での課題を考えてみたい。
 
タイトル: p045

2 きたなかふぁーむの概要

 きたなかふぁーむのある野洲市は滋賀県の南部、琵琶湖に面した湖南地域に位置している。JR東海道線(琵琶湖線・京都線)で京都市まで約30分、大阪市まで約60分であり、市内では各社の工場建設が進んでいるとともに、京阪地域のベットタウンとして人口は緩やかに増加している。野洲市では、野洲川によって形成された平坦な沖積平野に水田が広がっており、市内の耕地の97%は水田である。水田作を中心とした農業が展開しているが、野菜、花きなどの園芸も盛んである。野菜作は作付面積で見れば1%にも満たないが、農業産出額では15%ほどを占めている。
 きたなかふぁーむの代表である北中良幸氏(写真1)は東京農業大学を卒業後、愛知県の種苗会社に就職し、販売や営農指導の業務に従事し、多くの農家と交流してきた。そこでの経験から、実家に戻って農業を継ぎ、立派な農業をすることでお世話になった農家に恩返しをしたいという想いに至り、2008年に会社を退職し、実家で就農した。当初は父親の農業を手伝いながら、栽培技術などを習得していたが、10年に父親の農業経営とは別に18アールのパイプハウスできゅうり栽培を始めた。その後、廃業した農家の中古ハウスを取得するなどして規模を拡大していった。15年には水田作を中心とした父親の農業経営と合併し、株式会社きたなかふぁーむを設立してその代表に就任した。
 現在のきたなかふぁーむの概要は、表2に示したとおりである。経営耕地面積はハウスが2.8ヘクタール、水田が15ヘクタールである。施設きゅうりを主体とした野菜作が経営の中心であるが、近年は近隣農家の離農によって水田管理を委託されることが増え、水田の面積が大幅に拡大している。
 経営品目の中心であるきゅうりは、すべてのハウスで栽培している(写真2)。ハウスの多くで年2作栽培しており、定植時期を少しずつずらすことで、年間を通じて供給できるようにしている。きゅうりの年間生産量はおよそ500トンであり、全国でも有数の大規模なきゅうり生産者である。ハウスは鉄骨ハウスとパイプハウスの両方があり、一部のハウスは冬場の暖房費用が大きいため、生育適温が高いきゅうりを栽培せず、前年(23年)まではこまつなとほうれんそうを冬場に栽培していた。しかし、こまつななどは手間がかかるため、翌年からはその時期にいちごを栽培している。きたなかふぁーむの年間野菜売上高は、およそ1億3000万~1億4000万円である。
 きたなかふぁーむは農業生産以外に、野洲駅前にある農産物直売所「すまいる(いち)」を経営している。これは18年に地元の地産地消を推進する協議会(おいで野洲まるかじり協議会)から引き継いだもので、20年にはすまいる市の2号店を野洲市健康スポーツセンター内に開店した。すまいる市では、自らの農産物も販売しているが、地域内の多くの農業者が生産したさまざまな農産物を販売している。さらに北中氏は、別法人(合同会社MITASU)を設立し、隣接する草津市で農家レストランと観光いちご園を23年から経営している。
 きたなかふぁーむの従事者は、役員は北中氏と父親の2人であり、正社員は現在1人(北中氏の弟)である。外国人従業員は11人で、うち6人は直接雇用、5人は派遣社員である。パートタイム労働者は現在28人で、従事者の大半は女性である。さらに、農福連携で三つの福祉作業所に作業の業務委託を行っている。
 
タイトル: p046

3 きたなかふぁーむの経営理念

 きたなかふぁーむは、カンパニースピリッツ(企業理念)として「パッションな人がつくるアグリワンダフルカンパニーの実現」を掲げ、「アグリビジネスの目標にしてもらえる〈ぷらっとふぁーむ〉づくり」をミッション(使命)としている。企業としては利益を上げることが欠かせないが、利益のみでなく、北中氏としては、自らの事業によって社会で何を実現するのかという理念も欠かすことはできないと考えている。きたなかふぁーむの理念の根底には、北中氏が起業した動機である「農業に恩返しする」という強い想いがある。「パッションな人」とは、さまざまなパッション(想い)を持った者を意味しており、彼らを受け入れることで新たな農業を創造し、農業の活性化につなげることを目指している。
 ぷらっとふぁーむとは、プラットフォームとファーム(農場)に由来する北中氏による造語である。プラットフォームは、ビジネスの世界、特にICT(情報通信技術)関連でよく使われる言葉であるが、特定の機能やサービスを提供する基盤のことを指している。代表的なものとしては、SNS(インターネット交流サイト)やオンラインショッピングサイトなどが挙げられ、これらは、さまざまな者がそれぞれ情報を発信し、交流したり、独自の商品を取引したりする場であり、その場を提供する企業がプラットフォーム企業と呼ばれている。
 きたなかふぁーむは、自らの経営をぷらっとふぁーむと名付け、次の世代につながる農業基盤モデルの創造を目指している。
 企業が事業発展する上では、従業員が企業理念を共有することの重要性を指摘されることがあるが、北中氏は、きたなかふぁーむの従事者に必ずしも理念の共有を求めていない。さまざまな想いを持った者がそれぞれ活躍できる場としてのぷらっとふぁーむへの理解は求めるが、そこでは共通の目標に向かって業務に携わるのではなく、各自がそれぞれの想いに従って業務に取り組み、結果としてそれが企業理念の実現につながるという考え方をとっている。きたなかふぁーむでは多様な者が従事しているため、それぞれの目的、想いは異なっている。過去の正社員の中には将来、独立就農を希望し、そのための経験を積むことを目的としていた者もいる。外国人労働者は、収入を得るために日本に来ており、その収入で母国の家族の生活を支えたり、帰国後に何らかの事業を始めたりすることを目的としている。パート従業員は、家計費の足しにしたり、子育てが終わって余裕ができた時間を生かしたりと、その目的は多様である。きたなかふぁーむは、それぞれの想いを受け止め、従事者もお互いに認め合うことで、主体的に業務に取り組める環境を創り、効率的な業務の遂行を実現している。

4 きたなかふぁーむの多様な従事者

 きたなかふぁーむの従事者には、前述のようにさまざまな者がいるが、その特性をより詳細に見ていく。役員は、北中氏と父親の二人で、会社設立以来変わっていない。父親は、北中氏が就農する以前から水田作を主体とした農業を行っていたが、現在でも主に水田作を担当している。
 現在の正社員は北中氏の弟のみであるが、会社設立から現在までに延べ10人弱の正社員が在籍していた。弟以外の者は、現在はきたなかふぁーむを離れているが、その中には独立就農した者が多い。採用時点で、将来、独立就農を目指している者を積極的に受け入れ、雇用期間中は独立就農に向けた経験を積めるよう作業の担当などに配慮し、独立する際には農地の斡旋(あっせん)などの支援を行っている。まさに独立就農というパッション(想い)を受け入れ、それに向けたぷらっとふぁーむとしての役割を果たしている。
 外国人労働者は現在11人で、そのうち5人は派遣会社からの派遣社員である。きたなかふぁーむの外国人労働者の構成は、コロナ禍を契機に大きく変わった。コロナ禍前は、中国から技能実習生を受け入れていた。採用に当たっては、中国で本人およびその家族と面談して選考し、来日後は日本語研修や日本の生活習慣の習得のサポートを行うなど、慣れない日本での働きやすい環境づくりに配慮してきた。なお、採用の際に重視した点は、仕事の能力よりもパッション(情熱)であった。すなわち、お金を稼ぎたいという明確な動機や将来像を持ち、その上できたなかふぁーむにどう貢献できると考えているか、という点である。
 しかし、コロナ禍で入国が制限されたことで、中国からの技能実習生が途絶えてしまった。そのため、きたなかふぁーむは深刻な労働力不足に陥った。そこで、派遣会社を通じて特定技能の在留資格で国内に留まっている者を集めた。その中には農業以外の業種で特定技能の資格を持っていた者もあり、農業の技能試験を受けてもらった上で採用した者もいた。コロナ禍が落ち着き、海外からの入国も可能になる中で、派遣会社を通じた雇用は仲介料が掛かるので、順次直接雇用に切り替えている。現在雇用している外国人労働者はすべて特定技能有資格者であるが、きたなかふぁーむでの技能実習を経て、特定技能の資格を得た者はいない。直接雇用の者も、他の農業経営体で技能実習をしていた者や、特定技能の資格試験に合格した上で海外から来日した者である。また、コロナ禍前の技能実習生は中国人のみであったが、コロナ禍後の特定技能の外国人労働者の出身は他の国へも広がり、現在働いている者はベトナム人、インドネシア人、中国人である。
 パート従業員は現在28人で、そのうち3人が男性、その他は女性である。3人の男性はパート従業員ではあるが、作業の段取りを決めたり、栽培管理での機械操作を担当したりと、分担している業務内容は準社員的な役割を果たしている。女性のパート従業員の中では、2人が事務作業を担当しており、4人は直売所勤務、他の者はきゅうりなどの出荷調製作業に従事している。女性のパート従業員は周辺地域の、いわゆる主婦層であるが、大きく二つのタイプに分けられる。一つは子育て中の比較的若い者であり、もう一つは子育てが終了し、時間に余裕ができた比較的年齢の高い者である。子育て中の者は、子どもが幼稚園や学校に行っている平日の午前中から昼過ぎまで働き、子育てが終了した者は、子育て中の者が働けない午後や土日の勤務を担っており、両者が補完し合うことで、従業員の出勤のシフトがうまく組めるようになっている。
 パート従業員の採用では、ハローワークなどでの募集は行っておらず、基本的に現在働いているパート従業員の紹介で採用している。この方法では、パート従業員の身近な者の場合が多く、似たような状況の者が集まってしまうように思われるが、必ずしもそうではなく、むしろ勤務のシフトがうまく組めるように、紹介した者が自分の勤務できない時間に勤務できる者を見つけてきている。
 正社員と外国人労働者は創業以降、入れ替わりが激しいが、パート従業員は入れ替わりが少ない。これまで採用した者の多くは、現在でも働いている。そのため、パート従業員の年齢が徐々に高くなっており、当初は幼稚園児や小学生だった子どもが現在は中高生以上になっている40代の者が全体の7割程度、子育てが終わってからの就労者も現在は70代が主体となっている。
 農福連携は、地域の商工関係団体で知り合った福祉作業所からの申し出を受けて始めた。当初は、他の従業員が障がい者に作業を指導してもうまくいかなかったが、北中氏はきたなかふぁーむで多様な者が働ける環境を創ることの意義を強調し、社内の理解を求め続けた。その中で、障がい者は収穫などの作業に適性があることがわかってきて、現在では貴重な労働力となっている。現在、きたなかふぁーむでは三つの福祉作業所に業務委託を行っている。そのうちの一つには直売所の1カ所のスタッフ業務を委託しており、他の福祉作業所にはきゅうりの収穫などのハウス内の作業を委託している。きたなかふぁーむで働いている障がい者も、固定されていない。その中には、きたなかふぁーむでの就労で経験を積み、新たな仕事にステップアップした者もいる。
 図1に24年(10月まで)の従業員の雇用形態別の労働時間を示した。10カ月間の総労働時間は3万時間余りであり、1カ月平均で3000時間である。きゅうりは年間を通じて出荷しているため、月ごとの労働の繁閑差は大きくないが、労働時間が最も少ない3月は、最も多い6月のほぼ6割である。月ごとで雇用形態別の労働時間比率に大きな変動はないが、労働時間が多い月はパート従業員の比率が高い傾向があり、パート従業員が労働時間を増やすことで繁忙期の対応をしているとみられる。なお、実際には障がい者も作業に加わっているが、福祉作業所への業務委託となっているので、労働時間の記録はない。
 
タイトル: p049

5 きたなかふぁーむでの作業の分担と調整

 きたなかふぁーむには、明確な指揮命令系統を持った組織体制は存在しない。基本的に風通しの良い柔軟な経営組織となっている。業務を円滑に遂行していく上では、状況に応じた作業分担、人員配置が必要である。通常の企業では、階級制のある組織体制の下で上位の者が部下に指示命令することでそれを行っている。きたなかふぁーむでは、そういった組織体制に頼らずに、臨機応変に対応でき効率的な作業分担、人員配置を実現している点に大きな特長がある。
 きたなかふぁーむにあるのは、強いて言えば役員とその他の従業員という関係のみである。従業員は多様な者で構成されており、雇用体系に違いはあるが、特に役職は設けておらず、形式上の上下関係はない。そのような中でのきたなかふぁーむの作業分担、人員配置の仕組みは図2に示したようなものである。役員の中で父親は水田作を担当しているため、きゅうりやその他のハウス内の栽培作物については北中氏が担当している。ただし、北中氏は年間の栽培計画や販売計画などの基本的な経営戦略は決定するが、日常的な作業分担などの指示に直接関与することはない。正社員である北中氏の弟は現場監督的な役割を担っており、日ごとに実施する作業を決めている。さらに、作業ごとの段取りは、準社員的な男性のパート従業員が決める。
 きたなかふぁーむの具体的な作業は、ハウス内でのきゅうりなどの生産管理作業と、収穫物の出荷調製作業に大きく分かれる。ハウス内の作業は、外国人労働者が主体であり、一部は業務委託している障がい者が従事する。出荷調製作業は女性のパート従業員の担当である。いずれの作業でも、従事者ごとの分担や配置が必要である。例えば収穫作業では、どのハウスで収穫するかは作業の段取りを決める準社員的なパート従業員が決めるが、複数のハウスで収穫する場合、誰がどのハウスで作業するかや、収穫作業の中でも、きゅうりを切る者や収穫したきゅうりをハウスから出荷調製の作業場まで運ぶ者などの分担も決める必要がある。出荷調製作業でも同じような細かな分担はある。このような従事者ごとの分担は、実際に作業する従業員たちに任されており、準社員的なパート従業員などが指示命令することはない。
 収穫、調製のそれぞれの作業は、それぞれの担当者たちの中にリーダー的な者がおり、その者を中心として分担は決められている。リーダー的な者は社内で正式に指名されているわけでなく、担当者たちの中で自然に生まれてくるということである。リーダー的な者が退職すると、新たなリーダー的な者が自然に生まれてくる。個々の能力、得手不得手、働ける時間などがお互いに理解されているため、効率的に作業できるように分担は決められ、その進行状況で作業の相互協力、分担の修正が行われる。また、収穫作業と出荷調製作業は連動しており、相互の調整が必要な場合があるが、それも両作業の担当者間で自主的に連絡調整している。
 
タイトル: p051

6 きたなかふぁーむの組織の特長と北中氏の役割

 きたなかふぁーむでは、従事者の雇用形態によって基本的に従事する作業は決まっているが、明確な指揮命令系統がない中で、各作業はその従事者内での自主的な調整によって行われている。これは、一般的な企業では見られない作業管理の仕組みといえる。このようなやり方がとられている背景には、多様な属性、条件を持った者が従事しているため、一律的な指揮命令や業務管理ではうまくいかないことが考えられるほか、従事者がお互いの状況を理解していなければ、協力して作業を行うことが難しいことが挙げられる。さらに農業は工場などでの作業と異なり、季節ごとに作業が異なる上に、天候などでスケジュール通りに作業を行うことができないこともあるため、上位の指揮命令を待たずに作業現場で臨機応変に対応することが必要な場合が多いことも挙げられる。
 きたなかふぁーむの従事者が、上位の指揮命令に依存せず、状況に応じた作業分担の調整などの主体的な行動をとれるのは、良好な環境・関係が築かれた、柔軟性の高い組織だからであり、これはぷらっとふぁーむという北中氏が目指す企業理念が浸透、具現化している結果とも言える。
 事業拡大に伴い、新たな人手が必要な作業内容や時期、時間帯をパート従業員らがよく理解しているため、それらを踏まえた人材を彼ら自身が確保してきた。創業以来のこうした経緯が、円滑な事業拡大および従業員の増加につながっている。合同会社MITASUが営業している農家レストランでも、20人余りのパート従業員を雇用し、柔軟な組織体制の下で主体的な作業の調整を促している。しかし、開業して2年に満たないということもあるが、開業時に一度にパート従業員を雇用したため、まだうまく機能していない。
 きたなかふぁーむは、固定的な組織体制を採用していないため、従事者間の相互理解やバランスの取れた関係によって経営が成り立っており、それが崩れてしまうと、うまく業務運営が機能しなくなる。北中氏は、細かな作業の段取りや分担について基本的に指示することはない。準社員的な従業員やリーダー的な者から報告や相談を受けるが、他の従事者と直接話をすることは少ない。しかし、他の従事者に対する批判や不平・不満など、バランスの取れた関係性が崩れるきっかけとなるような言動には気を付け、その都度注意するようにしている。また、一人で多くの作業を背負い込んで過重負担となっているような場合には、見直しなどについてアドバイスするようにしている。これらのことが、従事者の相互理解やバランスの取れた関係を維持するための、社長としての北中氏の重要な役割の一つでもある。

7 おわりに

 多様な者が従事しているきたなかふぁーむでは、さまざまな想い・目的を持った者がそれぞれに活躍できる場としてのぷらっとふぁーむづくりを企業理念としている。従事者が主体的に作業に取り組める環境を創り出すことで、個々の従事者の想いに寄り添いながら、作業の効率化に成功している。
 きたなかふぁーむの作業管理は独特のものであり、他の農業経営が単純にまねることは難しいかもしれない。しかし、労働力不足が深刻化する中で、多様な者を従事者として受け入れることが求められている雇用型農業経営には、大いに参考となる事例である。多様な従事者の想いを理解しながら、その主体性を引き出し、可能性や能力を生かすことができれば、安定した雇用者の確保と効率的な作業の実現につなげることができる。