(1)冷凍野菜製造工程の概要~特徴的な「スチーム処理」~
工場では、宮崎県内の野菜(一部他県産)を加工している。原料搬入後に計量を行い、加工までの間は鮮度保持しながら貯蔵し、その後の根切り作業でほうれんそうをばらの状態にする。さらにその後、小石などの異物の除去、野菜の色や状態(品質)確認のため選別作業を行うが、これは泥や雑草などの異物混入を防止するためにも重要な作業である(写真2)。選別したほうれんそうを洗浄後にカットし(写真3)、再度洗浄を行い、ここまでの工程を常時十数人体制で行っている。
再洗浄したほうれんそうは、冷凍加工に入る前に再度選別し、スチーム処理による加熱処理(ブランチング)を行い、25度以下で冷却殺菌後、脱水と再度の選別を経て凍結処理し、小袋または仕掛品としてパッキングし(写真4)、冷凍野菜は完成する。
冷凍保存中の品質劣化を抑えるため、野菜の組織に存在する酵素を失活させる加熱処理(ブランチング)を冷凍前に行うが、熱湯に数分間浸すボイル処理によりブランチングを行う冷凍野菜工場が多い中、綾・野菜加工館では蒸気を用いたスチーム処理を採用している(写真5)。スチーム処理はボイル処理と比較して野菜への水分の浸透が抑えられ、栄養成分の流出が比較的少なく、野菜本来のうま味や風味も残るとされる。
綾・野菜加工館の赤川課長によると、宮崎県内でスチーム処理を採用しているのは同加工館のみとのことで、製造工程で差別化が図られている点も販売先などへのアピールポイントとなり、安定的な販売先の確保につながっている。
(2)丸忠園芸組合などからの新鮮で高品質な原料の提供
多くの販売先や消費者から好評を得る冷凍野菜の製造と供給には、原料として使用する野菜の品質も重要である。
綾・野菜加工館では、丸忠園芸組合を中心に近隣の生産者から野菜を仕入れている(写真6)。軟弱野菜であるほうれんそうは、収穫後に品質が落ちやすく速やかに加工されることが望ましい。丸忠園芸組合は隣接する小林市にあるため、収穫後、半日または3時間で工場に搬入できる。夕方に搬入して翌朝に処理する場合もあるが、原則として当日中に新鮮な状態のうちに加工処理される。
また、丸忠園芸組合では、栽培の段階から品質の確保に努めている。同組合では、例えば元肥・追肥などに独自の肥料を統一的に使用することで良質な土づくりを行うなど、自社および契約農家で使用する資材をまとめて管理・供給することで、品質にばらつきのない野菜が生産できるよう取り組んでいる。
さらに、周辺の畜産農家から排出される家畜排せつ物や有機物などを地元の名水と混ぜ、微生物の力で浄化してBM生物活性水
(注4)を生成するBMW技術
(注5)プラントを保有している(写真7)。これを
圃場に散布することで、土壌改良や野菜の生長促進、病気予防に役立てている。丸忠園芸組合では契約農家にBM生物活性水を無料で配布し、良質な野菜が均一的に生産できるようにしている。また、このBM生物活性水の生成には地元の畜産農家から提供された家畜排せつ物を利用していることから、耕畜連携にも一役買っている。
注4:家畜の糞尿などを微生物の力で分解処理することで生じる活性水。
注5:B=バクテリア M=ミネラル W=ウォーターの略で自然循環や浄化作用をモデルにした技術。
さらに、収穫にもこだわりがある。収穫機を使用した場合には歩留まりが悪くなるため(写真8)、原則として人の手で根の部分を刈る「手刈り」を行っている。手作業で丁寧に根切りすることで、良質なほうれんそうを無駄なく綾・野菜加工館へ供給することができる(写真9)。
丸忠園芸組合は手間のかかる手刈りに協力してもらえるよう、契約農家を綾・野菜加工館の工場へ定期的に案内し、製造現場を見てもらうことで工場側がどのような野菜を求めているのか理解を得られるように努めている。
(3)販売先の分散
冷凍野菜は業務用などの食品産業のみでなく、家庭用を含め、幅広い場面で利用されている。綾・野菜加工館の取引先業態を大きく分けると、生協系、スーパーマーケットなどの小売業、総菜・外食・給食(以下「総菜等」という)の三つに分類されるが、直近(令和5年期)の冷凍ほうれんそうの年間販売量別の割合は、それぞれ32%、38%、30%とほぼ均等であり、各業態から満遍なく需要があることがうかがえる。顧客側からの引き合いにより自然とこのような均等な割合になったとのことで、綾・野菜加工館の製品の品質の高さに加え、小袋、1キログラム、10キログラムといった多様なロットにより取引先の要望に応じた供給を行っていることが、取引先業態をバランス良く確保できたことにつながっている。
販売先の業態が複数あることは、リスク分散にも貢献している。例えば、新型コロナウイルス感染症拡大時には、飲食店の営業時間の短縮や、小中学校の休校により、外食や給食向けを中心に総菜等の業態への販売量は減少したが、外食を控える一方で、家庭内で食事をする中食や内食需要が拡大し、生協系を中心に、消費者向けの冷凍野菜の販売量が急激に伸びたとのことである。
このように、販売先(業態)が複数あることは、特定の販売先が不振になった際のリスク分散につながり、安定した経営が維持される効果をもたらしている。綾・野菜加工館では、品質のよい冷凍野菜を取引先の需要に応じて柔軟に供給することが可能であったことが、新型コロナウイルス感染症のような不測の事態でも、販売量を確保できた背景にあったと推測される。
(4)農作業受託による原料調達の安定化と地元農業の振興への貢献
野菜生産者数の減少は、綾・野菜加工館にとっても、原料の安定調達の面で問題となっている。そこで、綾・野菜加工館は、高齢などによる離農を食い止めるため、令和5年から収穫作業を、令和6年からはこれに加えて
播種、防除作業を受託し、生産者の農作業の省力化を通して地元農業の維持に努めている。作業は綾・野菜加工館の従業員が工場業務の合間に行っており、令和5年の受託実績は3件だったが、受託した圃場の近隣の生産者にも声掛けを行い、今後、受託件数の増加を見込んでいる。
農作業の一部受託は、綾・野菜加工館にとって安定的な原料確保につながるだけでなく、高齢化による離農対策としても期待されるところである。