同社は、色、香り、風味、栄養価を残し、素材の味をそのまま凝縮できる減圧低温乾燥による加工技術が強みである(写真3、4)。加えて、個性的な島野菜を県内外に広め、長年親しまれることによって後世にも残したいという想いから、同社の商品も、ドライ(干し野菜)、粉末状またはペースト状に加工しただけの素材感の強いものが多い。今では金城氏の宝物となったこの技術を支える機械の選定には相当な苦労があった。
そもそも食品の乾燥技術や機械の知識がなかったことから、各地の工場や販売店に足を運び、担当者や機械エンジニアとの意見交換を重ねながら自社の考え・理想とする乾燥の仕上がりのイメージを固めつつ、それを実現できる機械を探した。そこでたどり着いたのが、50度以下で乾燥することで素材の色や風味を損ないにくくすることを特長とする減圧低温による乾燥法と、そのための機械だった。沖縄県で生産された野菜を生果で県外に出荷すれば、輸送コストがかかる、長期保存できないなどの課題が生じる。しかし、減圧低温乾燥により余計な水分を飛ばして軽量化し、かつ、素材の味が損なわれなければ、こうした課題を克服して、より多くの消費者に島野菜を届けることができるのではないかと考えた。
機械の導入には、国の補助事業を活用した。慣れない申請書類に日々苦労したが、さまざまな協力者の意見やアイディアを得ながら、平成24年10月末に計画承認に至った。とはいえ、経費の半分は銀行から借り入れてのスタートとなった。
初年度は、加工しやすいとの情報を基に、トマトとパパイヤの乾燥野菜に挑戦した。取扱説明書を片手に温度や時間を調整しながら試行錯誤し商品化したものの、商品として形になったことがただただうれしく、とにかく生産することに無我夢中になりすぎて、今振り返ると、この商品をどの層をターゲットに、どのように売るか(アプローチするか)という販売における最も大切な視点がおろそかになっていた。しかし、販売先で消費者の声を聞く機会が増えるにつれて、販売の仕方や商品のターゲットが明確になってきた。
パパイヤを例にすると、台風に強く、沖縄県では昔から貴重な食料源としてなじみ深い食品の一つであるが、庭先にパパイヤの木がある家も多く、地域の人々からは、新鮮な生果が手に入る環境下で、わざわざ乾燥させる必要があるのか、高いお金を払ってまで買う消費者がいるのかといった懐疑的な意見が大半だった。そこで、マンションやアパートに住む世帯や移住者が多い那覇市やその近郊、そして県外のオーガニックスーパーなどの健康志向の消費者をメインターゲットにしたことで、徐々に販路が拡大していった。加えて、ここ数年はインバウンドの影響によりお土産需要が伸びており、物産店での売り上げも好調のようだ。
また、特異な例として、北海道札幌市にある沖縄県のアンテナショップでは、しりしり用(野菜などを千切りにした炒め物用)のパパイヤが売れ筋となっている。ただし、その調理方法を尋ねると、北海道の郷土料理であるジンギスカンを家庭で楽しむ際、鉄板に敷き詰める具材(一般的にはたまねぎ、にんじん、もやしなど)の一つとしてパパイヤを購入しているという話を聞き、地域によって調理方法がさまざまでとても面白いと感じているという。このような情報や意見を貪欲に取り入れることで、パパイヤはしりしりとして料理するものという固定概念を覆す良いきっかけ・気付きにもなり、売り方や宣伝の仕方を日々進化させることにつながっている。
他方、現在、同社で一番人気の商品は、島とうがらしを粉末状に加工した一味「ひりひりシリーズ」で、非常に辛い商品のため、お土産で驚かせようと購入する観光客が多いのではないかと同社では分析している。視点を変えると、「ナスミバエ」という害虫のまん延を防止するため、島とうがらしは生果での県外出荷が禁止されているが、同社の乾燥加工技術を用いることで、このような課題・障害を乗り越えて県外にも島とうがらしの魅力を伝えることができることから、生産者にとっても、次につながるチャンスとなる大きな可能性を秘めている。例えば、沖縄そばに欠かせない調味料「コーレーグース」としての用途が多い島とうがらしの生産量は、右肩下がりで推移しているのが現状であるが、同社のように従来とは異なる用途、新しい喫食の機会を提案することで、生産維持に貢献することが期待される。
なお、これらの商品は、各地で開催される沖縄フェアやイベントへの出店、ヤフーショッピングなどの電子商取引(EC)サイトでも販売されている(写真5)。
