野菜 野菜分野の各種業務の情報、情報誌「野菜情報」の記事、統計資料など

ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 沖縄県産野菜を全国と後世に~沖縄県のネクストステージ沖縄合同会社の取り組み~

調査・報告 野菜情報 2025年1月号

沖縄県産野菜を全国と後世に~沖縄県のネクストステージ沖縄合同会社の取り組み~

印刷ページ
那覇事務所 近能 真優

【要約】

 沖縄県名護市のネクストステージ沖縄合同会社では、野菜の生産にとどまらず、沖縄県の伝統野菜を県内外の多くの消費者に広め、後世にも残したいという想いから、減圧低温乾燥機などを用いた県北部野菜の乾燥加工、販売を行い、高付加価値化のほか、軽量化による輸送コスト削減や長期保存も実現している。また、県内野菜の生産維持や6次産業化による雇用確保など、県内の農業、産業振興にも寄与している。

1 はじめに

 沖縄県で伝統的に栽培され、食されてきた野菜を同県では「島野菜」と呼ぶ人々が多く、戦前から今日に至るまで県民に親しまれている。国内でも珍しい亜熱帯海洋性気候に属し、太陽の光をたっぷり浴び、海風を受けながら独特の土壌で育った野菜は、抗酸化作用が強く、ミネラルも豊富であるとされている。また、温暖な自然条件を生かし、本州の端境期となる冬から春にかけて県外出荷が行われている。
 他方、周りを海に囲まれている島しょ部であるがゆえ、本州と比べコールドチェーンを構築する各事業者のコスト負担が大きく、燃油高騰の影響を受けやすいなど地理的なハンディキャップを抱えている。
 令和4年の沖縄県の農業産出額は890億円で、そのうち野菜は14%強に当たる127億円を占めている。前年に比べ全体の農業産出額は32億円減少しているものの、野菜は8億円増加している(図1)。しかしながら、燃油高騰による物流コストの値上がりの影響を受けて、県外出荷の推移を見ると、出荷額では約23.5億円、出荷量では3940トンと、ここ10年で最も出荷が少ないことが分かる(図2)。









 
 こうした状況下において、野菜の生産および加工販売を手掛けるネクストステージ沖縄合同会社(以下「ネクストステージ沖縄」という)では、島野菜の乾燥加工技術を用いた軽量化による輸送コスト削減および長期保存を実現し、全国に販路を拡大している。本稿では同社の取り組みについて紹介する。

2 農業への参入 他業種から農業へ

 ネクストステージ沖縄代表の金城氏は、もともと県外の建築関係の仕事に従事していたが、生まれ育った沖縄県の発展に貢献したいとの想いから、一念発起して起業した。そこで目を付けたのが県外ではあまり知られていない沖縄県の伝統野菜だった。
 しかしながら、就農するためには想像以上に初期投資が必要な上、農業に関するノウハウはゼロであった。このため、前職の建築関連の仕事で培ってきた接客やモノづくりのノウハウを生かし、地元から調達した農産物を加工、商品化して販売する事業を柱に据え、資金的にも労働力的にも手の届く無理のない範囲で農業を営むことを「第2の柱」として進めることを決めた。

3 野菜栽培および野菜の仕入れについて

 ネクストステージ沖縄では、島とうがらしとよもぎをハウス内で無農薬栽培している(写真1、2)。栽培品目は、加工を前提に、商品化した時に素材の魅力を引き出せるかどうか、他社との差別化が図られるかどうかを考えながら選定している。沖縄県は、気候の特性上、本州と比べものにならないくらい雑草と害虫の増殖力が強く、丁寧に防除しても、増殖を繰り返すことから、無農薬栽培を継続することは困難を極める。また、過去には収穫間近の作物が一夜にしてイノシシに食い尽くされるという苦い経験もしている。
 それでもなお、無農薬栽培を行う理由は、それによって引き出せる素材本来の香りや色合い、風味があると感じており、何よりもそれを求めている消費者が確実にいるという事実がモチベーションになっている。独学で始めた野菜栽培だが、今ではよもぎ栽培に新たに挑戦する生産者の畑の開墾作業などを請け負うこともあり、同社の寄与もあって無農薬栽培の輪が広がっている。
 また、加工用の野菜は自社生産の他、県北部の生産者からも仕入れている。事業を始めた当初は、知り合いの生産者もいない中、名護市役所の担当者の協力を得ながら、公民館に生産者を集めて、加工用の野菜を栽培してもらえないか直談判したこともあった。その後、口コミで知り合いの生産者の輪が広がっていき、今では約20戸の生産者から30種類の野菜などを仕入れている。仕入先は、市民農園などで趣味として野菜を育てている農業者以外の人や兼業・高齢の生産者がほとんどのため、出荷が安定しないことが現在の課題である。生産者との信頼関係を構築するため、頻繁に畑に出向き、現物を自分の目で確認し、生産者との交流の時間を大切にしている。
 
タイトル: p034a
 

【コラム1~沖縄県で古くから愛されるよもぎ「フーチバー」~】

 沖縄の方言で「フーチバー(コラム1ー写真)」と呼ばれる「にしよもぎ」は、苦みが少なく生食できるのが特徴である。沖縄そばやヤギ汁などに彩りと風味を添える薬味としてのほか、沖縄県の各家庭で行われている民間療法の万能薬としても古くから親しまれている。
 同社では自社農園および地元農家で無農薬栽培されたよもぎを用いて入浴剤やよもぎオイルなどの販売を手掛けている。また、近年は美容サロンなどへ「よもぎ蒸し(加熱したよもぎから出る蒸気で身体を温める施術)」としても供給している。減圧低温乾燥技術を用いることでよもぎ本来の香りが強く残り、利用者から好評を得ている。蒸されたよもぎの蒸気は、特性上、顔や身体に直接触れることから、その原料であるよもぎは国産かつ無農薬であることが付加価値を高める要素となっている。そのため、調達先の地元農家にも自社の理念や無農薬で栽培する意義をしっかり説明し、生産者の理解が得られるように努めているという。
 
タイトル: p034b

4 6次産業化の取り組み

 同社は、色、香り、風味、栄養価を残し、素材の味をそのまま凝縮できる減圧低温乾燥による加工技術が強みである(写真3、4)。加えて、個性的な島野菜を県内外に広め、長年親しまれることによって後世にも残したいという想いから、同社の商品も、ドライ(干し野菜)、粉末状またはペースト状に加工しただけの素材感の強いものが多い。今では金城氏の宝物となったこの技術を支える機械の選定には相当な苦労があった。
 そもそも食品の乾燥技術や機械の知識がなかったことから、各地の工場や販売店に足を運び、担当者や機械エンジニアとの意見交換を重ねながら自社の考え・理想とする乾燥の仕上がりのイメージを固めつつ、それを実現できる機械を探した。そこでたどり着いたのが、50度以下で乾燥することで素材の色や風味を損ないにくくすることを特長とする減圧低温による乾燥法と、そのための機械だった。沖縄県で生産された野菜を生果で県外に出荷すれば、輸送コストがかかる、長期保存できないなどの課題が生じる。しかし、減圧低温乾燥により余計な水分を飛ばして軽量化し、かつ、素材の味が損なわれなければ、こうした課題を克服して、より多くの消費者に島野菜を届けることができるのではないかと考えた。
 機械の導入には、国の補助事業を活用した。慣れない申請書類に日々苦労したが、さまざまな協力者の意見やアイディアを得ながら、平成24年10月末に計画承認に至った。とはいえ、経費の半分は銀行から借り入れてのスタートとなった。

タイトル: p035

 初年度は、加工しやすいとの情報を基に、トマトとパパイヤの乾燥野菜に挑戦した。取扱説明書を片手に温度や時間を調整しながら試行錯誤し商品化したものの、商品として形になったことがただただうれしく、とにかく生産することに無我夢中になりすぎて、今振り返ると、この商品をどの層をターゲットに、どのように売るか(アプローチするか)という販売における最も大切な視点がおろそかになっていた。しかし、販売先で消費者の声を聞く機会が増えるにつれて、販売の仕方や商品のターゲットが明確になってきた。
 パパイヤを例にすると、台風に強く、沖縄県では昔から貴重な食料源としてなじみ深い食品の一つであるが、庭先にパパイヤの木がある家も多く、地域の人々からは、新鮮な生果が手に入る環境下で、わざわざ乾燥させる必要があるのか、高いお金を払ってまで買う消費者がいるのかといった懐疑的な意見が大半だった。そこで、マンションやアパートに住む世帯や移住者が多い那覇市やその近郊、そして県外のオーガニックスーパーなどの健康志向の消費者をメインターゲットにしたことで、徐々に販路が拡大していった。加えて、ここ数年はインバウンドの影響によりお土産需要が伸びており、物産店での売り上げも好調のようだ。
 また、特異な例として、北海道札幌市にある沖縄県のアンテナショップでは、しりしり用(野菜などを千切りにした炒め物用)のパパイヤが売れ筋となっている。ただし、その調理方法を尋ねると、北海道の郷土料理であるジンギスカンを家庭で楽しむ際、鉄板に敷き詰める具材(一般的にはたまねぎ、にんじん、もやしなど)の一つとしてパパイヤを購入しているという話を聞き、地域によって調理方法がさまざまでとても面白いと感じているという。このような情報や意見を貪欲に取り入れることで、パパイヤはしりしりとして料理するものという固定概念を覆す良いきっかけ・気付きにもなり、売り方や宣伝の仕方を日々進化させることにつながっている。
 他方、現在、同社で一番人気の商品は、島とうがらしを粉末状に加工した一味「ひりひりシリーズ」で、非常に辛い商品のため、お土産で驚かせようと購入する観光客が多いのではないかと同社では分析している。視点を変えると、「ナスミバエ」という害虫のまん延を防止するため、島とうがらしは生果での県外出荷が禁止されているが、同社の乾燥加工技術を用いることで、このような課題・障害を乗り越えて県外にも島とうがらしの魅力を伝えることができることから、生産者にとっても、次につながるチャンスとなる大きな可能性を秘めている。例えば、沖縄そばに欠かせない調味料「コーレーグース」としての用途が多い島とうがらしの生産量は、右肩下がりで推移しているのが現状であるが、同社のように従来とは異なる用途、新しい喫食の機会を提案することで、生産維持に貢献することが期待される。
 なお、これらの商品は、各地で開催される沖縄フェアやイベントへの出店、ヤフーショッピングなどの電子商取引(EC)サイトでも販売されている(写真5)。
 
タイトル: p036

5 OEM・ODMの取り組みとOJTプラン(※)

 自社商品だけでなく、月に1件のペースで企業などから委託加工の依頼(OEM)がある。県内産の野菜や果実だけでなく、(かん)()(ざくら)やカカオなど農産物以外の依頼でも、県内の産業振興に貢献できるものがあれば、積極的に請け負っている(写真6)。また、要望があれば商品開発の段階から相談に乗っている(ODM)。
 生産者からも、規格外の野菜の委託加工を同社に依頼されることもあるが、委託料が高いことを理由に断念する例が一定数ある。そこで、同社の加工場、機械設備を貸し出し、生産者自ら加工、商品化する「OJTプラン」のサービスも始めた。同社社員の指導の下、試作品の完成までは関与するが、販売する商品は、原則として加工からパッケージングまでのすべての工程を生産者が完遂することをサービス提供の条件としている。このサービスの副次的な効果として、野菜を加工して商品化するまでにどれくらいの手間暇がかかっているのかを生産者自身に認識・実感してもらう良い機会になっている。
 委託料が高いと言っていた生産者も、自ら加工する「体験」を通じて、最終的には、同社に委託する価値と料金設定の妥当性に気付いてもらい、納得して委託してくれるようになり、信頼関係の一層の強化につながっている。

(※)OEM(Original Equipment Manufacturer):他社ブランドの製品を製造すること。
   ODM(Original Design Manufacturer):他社ブランドによる製品を設計・製造すること。
   OJT(On-the-Job Training):職場などの現場で実務をさせることで行う職業教育。

タイトル: p037

【コラム2~ジーマーミ生産再興の取り組み「落花生ぐわーピーナッツペースト」の誕生~】

 ジーマーミとは、沖縄の方言で落花生のことである。土の中に実を付けることから落花生を「地豆(じまめ)」と呼ぶ地域もあるが、沖縄県ではそれが変化して「ジーマーミ」と呼ばれるようになったとされる。琉球料理の一つである「ジーマーミ豆腐」は、落花生の絞り汁とでん粉を火にかけて練り上げたもので、落花生の甘みと餅のようなモチモチとした食感が特徴で、今ではお祝い事などの際に食されているほか、お土産品の定番となっている。沖縄県がもともと落花生の産地だったことで定着した料理であるが、落花生の生産量は全盛期と比べると大きく減少しており、現在使用されている原料のほとんどが中国産である。
 そのため、金城氏はかつて県内でも有数の落花生の産地だった()()(じま)での落花生生産の再興を目指す活動も行っている。約10年にわたり何度も伊江島に足を運び、農家の方々との親睦を深め、落花生の生産に協力してくれる農家を増やした結果、現在では伊江村に村営や民間の落花生の加工施設が操業するまでに至った。
 ネクストステージ沖縄では伊江島と県北部で栽培された落花生を用い、「落花生ぐわーピーナッツペースト」を販売している。県の6次産業化表彰事業にて優秀賞に選ばれ、日本トランスオーシャン航空(JTA)国内線の機内でも販売された。
 味はプレーン、カカオマス、蜂蜜の3種類あり、保存料無添加・無着色にこだわり、そのままはもちろんドレッシングや料理の隠し味にも使えるという。
 
タイトル: p038

6 おわりに

 農業も加工業もゼロからのスタートであった金城氏は、沖縄県野菜の魅力を多くの人に届けるために試行錯誤を重ね、商品の細部にまでこだわり続けているが、無農薬、保存料無添加・無着色にこだわる理由について、「農薬を使うノウハウがないだけ。それに自分の家族に安心して届けられるものをつくりたい。」と金城氏は笑顔で話された。今後は、野菜や加工品のサブスクリプション(定額制サービス)にも挑戦したいと考えているという。
 また、沖縄県野菜の魅力を発信するだけでなく、島とうがらしや落花生といった沖縄県の農産物の生産維持や再興、6次産業化による雇用確保、生産者が自ら加工業に参入しやすいよう確立した「OJTプラン」など、県内の農業、産業振興にも大きく寄与しており、金城氏の沖縄県への強い愛が感じられた。
 猛暑などの異常気象の影響により野菜の不作や品質低下、価格高騰が頻出する昨今、野菜の貯蔵性を高める同社の乾燥加工技術は、安定供給や不足時を乗り切る方法の一つでもある。また、フードロスやSDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まる中で、低価格で加工業に参入できる「OJTプラン」の取り組みは、規格外農作物の活用を推進し、加工製造のノウハウがない生産者が自ら6次産業化に取り組む後押しとなっている。
 地元野菜の6次産業化に取り組み、その素材の味と魅力を伝え続ける同社の商品がより多くの消費者の元に届くと同時に沖縄県内の地域振興を願っている。
 最後に、今回取材にご協力いただいたネクストステージ沖縄の金城氏に深く感謝を申し上げます。