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調査・報告 野菜情報 2024年10月号

夏秋キャベツ指定産地における野菜価格安定制度の活用を基盤としたさまざまな 取り組み~群馬県嬬恋村(JA嬬恋村)~

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嬬恋村農業協同組合 営農畜産課 篠原 真治
 野菜価格安定制度は昭和41年の制度創設から今日まで、野菜生産者の経営安定を通じて、消費地への野菜の安定供給と価格の安定を図ってきました。半世紀以上が経過した今、改めて、同制度の活用を基盤とした野菜指定産地の取り組みについて紹介します。

1 群馬県嬬恋村の農業概況

 嬬恋村(人口9486人〈令和6年〉)は、群馬県の西北端に位置し、標高700~1400メートルに広がる高原地帯で、冷涼な気候を活かして夏秋キャベツを生産している。村の耕作面積約4200ヘクタールのうち約3000ヘクタールが農協系統出荷で、約300戸の農家が約19万トンのキャベツを生産し、関東、京阪神をはじめとする全国へ出荷している(系統出荷率約81%)。
 嬬恋村では、昭和38年に村内4農協が合併して「嬬恋村農業協同組合(以下「JA嬬恋村」という)」が発足し、さらに野菜価格安定制度が創設された41年に夏秋キャベツの指定産地の指定を受けた。45年から平成13年の31年間に、2期にわたる国営農地開発事業により約980ヘクタールの農地を造成し、併せて予冷庫や集出荷場の整備、栽培技術の向上、生産の効率化、品種改良などを積極的に進め、全国の夏秋キャベツの出荷量の約5割を担うキャベツ産地を作り上げた(写真1)。
 キャベツの生育適温は15~20度であり、高原地帯の冷涼な気候を生かし、2月下旬から6月上旬まで種まきを十数回に分けて行って定植し、6月中旬から10月にかけて全国へ出荷する。
 午前3時頃から収穫し、圃場(ほじょう)で大きさごとに6個詰め、8個詰め、10個詰めの規格で箱詰めした後(写真2)、トラクターで村内の約190カ所の集荷場へ運び、そこから運送会社により村内6カ所の予冷庫に運ばれ、予冷する。その際、農家の出荷数量と注文を擦り合わせ、当日出荷するものと翌日まで冷やしてから出荷するものに振り分ける。
 キャベツづくりは、基本的に1年に1作で(2期作は全体の約1割)、収穫・出荷時期が始まると、農家は朝の3時頃から夕方6時頃まで作業に追われ、特に最盛期の7~9月の3カ月間は、休日なく働き続けている。
 7~10月の東京都中央卸売市場の月別キャベツ入荷量の7割程度を群馬県産が占め(図)、そのほとんどが嬬恋村産であり、夏秋期においてはまさに全国一のキャベツ産地となっている。
 
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2 JA嬬恋村の産地維持と強化~野菜価格安定制度の活用を基盤としたさまざまな取り組み~

 キャベツは露地栽培のため天候の影響を受けやすく、天候次第で価格が変動しやすい。また、出荷の最盛期が7~10月の4カ月間であるため、生産農家にとって価格安定と経営安定が非常に重要である。このため、JA嬬恋村ではキャベツ出荷量の約8割で野菜価格安定制度を活用して経営安定を図るとともに、市場ニーズに合わせた信頼と競争力のある産地づくりを推進している。
 
(1)「嬬恋高原キャベツ」のブランド化
 JA嬬恋村では、年間約1800万ケース(10キログラム箱と15キログラム箱の合計)、20万トンのキャベツを全国各地の市場へ出荷し、全国出荷量の約5割を占めるブランドとなっているが、平成20年に「嬬恋高原キャベツ」の商標登録をし、さらなる消費促進に取り組んでいる。
 家庭では、サラダや千切りなど生食で食べられることも多く、柔らかい食感が好まれることから、食味を重視した品種の選定に取り組み、市場ニーズに対応している。
 毎年出荷が始まる6月下旬にJA嬬恋村とJA全農ぐんまが共催し、東京の大田市場で「キャベツ試食宣伝会」を開催している。出荷シーズン中には、大都市圏のスーパーを中心に店頭にて消費宣伝を行い(写真3)、またテレビCMや交通広告などのメディアを活用するなど、広く嬬恋高原キャベツのPR活動に力を入れている(写真4)。

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(2)新品種の開発
 安全・安心なキャベツの安定供給に向け、種苗会社を視察し、産地に適した品種をJA嬬恋村の試験圃場で栽培し、その中からさらに厳選したものを野菜研究会の生産者(約100人)が自らの圃場で栽培し、商品化の可能性を模索している。また、試験圃場では約50種の品種が栽培され、食味・形状・在圃性(品質などに問題なく収穫し続けられること)・耐病性などを確認しながら、品種開発を行っている。また、近年の猛暑対策として、早生品種から晩生品種への品種の切り替えと、平準出荷に向けた計画的な作付けを推奨している。
 
(3)環境保全型農業の推進
 嬬恋村では、生産者・嬬恋村役場・JAが一丸となり、「嬬恋村環境保全型農業推進協議会」を設け、農業用廃資材の回収を年に数回実施し、環境に配慮した取り組みを積極的に行っている。また、トレーサビリティーシステムの導入や、ドリフト(農薬散布時に散布対象の作物以外に農薬が飛散すること)対策として、収穫予定日の1週間前に圃場に黄色い旗を設置し、近隣圃場への注意喚起を行っている(写真5)。また、出荷期間に合わせて残留農薬検査を80検体実施するなど、農産物の安全性の確保にも取り組んでいる。
 嬬恋村は山なりの傾斜の強い圃場が多く、近年頻発している集中豪雨の影響により、圃場の表土の流亡が深刻化している。このため、グリーンベルト(圃場などの周辺に植物を帯状に植栽したもの)の設置(写真6)や収穫後のカバークロップ(緑肥)の作付けなど、表土流亡防止対策を積極的に行っている。

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3 まとめ

 嬬恋村は、制度が設立された昭和41年に夏秋キャベツの指定産地に指定され、以来、半世紀以上にわたり、夏秋期におけるキャベツの出荷量の約5割を担う産地を造り上げた。しかしながら、露地栽培のキャベツの生産は天候の影響を受けやすく、また平均経営規模が8ヘクタールと大きいことから、天候による価格変動は農家の経営に大きな影響を与えるため、JA嬬恋村では、夏秋キャベツの出荷量の約8割について野菜価格安定制度を活用し、経営の安定を図ってきた。
 また、野菜価格安定制度により経営安定を図りながら、新たな挑戦もしている。最近では、人工衛星データ活用による出荷時期の予測や価格動向を、調味料などの野菜関連商材の広告と連動させる取り組みにも参画しており、需給を最適化することにより、廃棄ロス低減の目標達成にも貢献したいと考えている。
 生産資材費などの高騰による再生産価格の上昇を販売価格に転嫁することが求められる状況ではあるが、生産者・行政・JAが一体となり、野菜価格安定制度によりキャベツ生産の価格変動リスクに対応しながら、引き続き嬬恋高原キャベツのブランド強化に積極的に取り組んでいきたい。
 
篠原 真治(しのはら しんじ)
嬬恋村農業協同組合 営農畜産課
【略歴】
平成16年 嬬恋村農業協同組合入組
同年より金融共済部、共済課
平成29年 三原支所
令和4年より現職