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調査・報告 野菜情報 2024年9月号

農業法人における持続可能な経営の実現に向けて~ローソンファーム鹿児島の取り組み~

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鹿児島事務所 山下 佳佑

【要約】

 鹿児島県において主に加工・業務用野菜を生産する農業法人の株式会社ローソンファーム鹿児島は、大手コンビニチェーンの株式会社ローソンと連携して、経営管理の分業や全国ネットワークでの情報交換、JGAP認証の取得などの取り組みを行うほか、離農農家の農地を集約化するなど、持続的な経営を実現している。

1 はじめに

 食料・農業・農村基本法(以下「基本法」という)制定から25年が経った。わが国の食料をめぐる情勢は大きな変化を迎え、さまざまな課題に直面している。国際的な食料需給の変化による輸入リスクの増大や、持続的な発展を図るために環境・人権に配慮した生産工程の必要性が生じる中、農業経営体数は減少傾向にあるため、スマート農業・農業DX(デジタルトランスフォーメーション)などの技術革新による生産性の向上が求められている。
 これらの変化に対応するため、今後20年を見据えて、基本法の改正が行われたところである。改正に当たっては、基本法の基本理念について、(1)食料安全保障の確保(2)環境と調和のとれた食料システムの確立(3)農業の持続的な発展(4)農村の振興-という四つの論点から見直しが行われた。
 うち、(3)農業の持続的な発展の中に、「農業法人の経営基盤の強化等」が挙げられていることからも、多くの課題を抱える今日の日本農業において、農業法人に期待される役割がいっそう増してきていることが分かる。
 
 令和5年の法人経営体数は、前年から2.5%増加した3万3000経営体となっている(図1)。法人化していない経営体を含めた全体の農業経営体数が減少傾向で推移する中、法人経営体は緩やかながら増加を続けている。特に、耕地面積規模の大きい層ほど全体に占める法人経営体の比率が高まっている(図2)。

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タイトル: p053b
 
 近年、法人経営体は離農した経営体の農地の受け皿となることなどによって大規模化を進めている。そのため、基本法の改正に当たり示されたように、法人の「経営管理能力の向上」と「持続的な経営の実現」は欠かせない。
 本稿では、大規模な生産を行っている農業法人が他の企業と連携することで、上述の二つの課題に取り組む事例として、コンビニエンスストアのフランチャイズチェーンを展開する株式会社ローソン(以下「ローソン」という)と、鹿児島県(きも)(つき)東串良(ひがしくしら)町でだいこん、さつまいも、にんじん、キャベツなどの野菜を生産する株式会社ローソンファーム鹿児島(以下「ローソンファーム鹿児島」という)について紹介する。

2 ローソンの農業参入

 ローソンは、令和6年2月時点で国内店舗数1万4643店、社員数1万1666人(連結)、全店舗売上高2兆7509億円(連結)の企業である。
 最も店舗数の多いコンビニエンスストア「ローソン」のほかに、生鮮食品を取り扱う「ローソンストア100」、女性を中心に健康志向の強い顧客を意識した「ナチュラルローソン」などの多様な業態を展開している。また、消費者のニーズやライフスタイルの変化に合わせて、平成17年から一部店舗での生鮮野菜の販売をスタートした。
 
(1)農業参入の目的
 ローソンでは、グループの店舗向けに野菜を安定供給することを目的として、平成22年に農地所有適格法人「ローソンファーム千葉」を設立し、農業分野に参入した。安定供給という目的の実現のため、令和6年5月時点で、北海道から鹿児島県まで全国16カ所にローソンファームを展開し、適地適作を踏まえた営農を推進している。
 各地に展開しているローソンファームは、ローソン、地元の生産者、卸売業者または仲卸業者の共同出資による会社であり、長年のノウハウを持つ生産者が生産を担い、小売であるローソンが流通と販売を担うという分業で、互いの強みを生かした経営が行われている。
 また、ローソンファームの営農母体となる生産者には、地元でも有力な大規模生産者が選ばれている。ローソンファームの立ち上げ当初、既に農業者の高齢化による就農者の減少が問題となっており、ローソンでは、ローソンファームを通じた農地の有効活用や生産性の向上を目指して、これらの活動に取り組む意欲のある20代~30代の若手生産者を中心に提携を行っている。
 現在では、店舗で販売する生鮮野菜の供給に加えて、サラダや総菜の原料となる加工・業務用野菜の供給や、規格外品の有効活用にも積極的に取り組んでいる。
 
(2)安全・安心な野菜供給に向けた取り組み
 ローソンは安全・安心な野菜を消費者に提供するため、ローソンファームで生産する野菜の生産履歴の管理に力を入れており、JGAP認証(注1)取得を推進している。
 具体的な取り組み内容としては、独自のJGAPチェックリストを作成し、ローソン本部の担当者がローソンファーム訪問時に定期的にチェックを行う体制を構築していること、全国のローソンファームの社長が集まるローソンファーム社長会において、JGAP導入事例の意見交換を行っていることなどが挙げられる。こうしたJGAPの取得・維持継続をサポートする取り組みが評価され、ローソンとローソンファーム社長会はGAP普及大賞2016(注2)を受賞している。
 また、作付け前の土壌診断を経て作物が生育する上で理想的な土づくりを行い、作物の生育状態に応じて適切な栄養を供給することを目的とした「中嶋農法」(注3)を推奨し、収量・品質の向上と環境への配慮に取り組んでいる。
 
注1:農畜産物を生産する各工程の実施、記録、点検および評価を行うことによる持続的な改善活動を指すGAP(Good Agricultural Practices)の第三者認証のうち、一般財団法人日本GAP協会が認証するもの。
注2:対象年1年間で最もGAPの普及に貢献した取り組み事例を表彰するもの。NPO法人アジアGAP総合研究所(現GAP総合研究所)主催。
注3:土壌のミネラルバランスを整え、健康な野菜を育てる農法。株式会社生科研が商標登録。

3 ローソンファーム鹿児島の概要

(1)設立の経緯
 今回紹介するローソンファーム鹿児島は、ローソンファームとして全国で二番目に設立され、鹿児島県南東に位置する肝属郡東串良町(図3)において、だいこん、さつまいも、にんじん、キャベツなどの生産を行っている(写真1)。

タイトル: p055
 
 東串良町の位置する大隅半島は、古くからだいこんの漬物の大産地で、だいこんの生産が盛んな地域であった。現在ローソンファーム鹿児島の代表を務める片平氏は、27歳の時に、この地で大規模なだいこん生産を行っていた父親が経営する有限会社南九州農園(以下「南九州農園」という)に親元就農をした。
 就農から約2年後の平成22年に、ローソン側から「ローソンファームとして野菜を生産してもらえないか」と打診を受けた。ローソンは、全国各地で野菜のリレー出荷ができる体制を目指しており、ローソンファームの第一号であるローソンファーム千葉が主にだいこん、にんじんを関東地方で生産していたことから、千葉と出荷時期が異なる生産拠点として、鹿児島の南九州農園に着目した。
 同農園がローソンファームの候補に選ばれたこのほかの理由として、(1)大規模な経営をしており、すでに高い栽培技術を持っていたこと(2)若手の後継者が存在したこと(3)片平氏は4兄弟で、南九州農園の経営とは別にローソンファームを経営できる人材が揃っていたこと-などが挙げられる。
 全国的な知名度を誇る大企業からの提案に、要望に応じた生産ができるのか不安を感じ、一度は話を断ったが、ローソンの担当者から粘り強く説得されたという。その熱意に動かされた片平氏は、ローソンファームの設立、運営を引き受けることを決心したが、当初は不安や懸念が尽きなかったようである。しかし、ローソン側の担当者と一つ一つ懸念事項などを解消していき、最初の打診から約1年後にローソンファーム鹿児島を設立した。
 設立に当たり、片平氏はローソンファームを経営していく上での目標をまとめた決意表明文書ともいえる農場運営方針を作成し、ローソンに提出した。この目的は、ローソン側の目指すものとローソンファーム鹿児島との方向性の擦り合わせを行うことであり、2者の持続的な関係構築の一助となるものである。文書の一部は現在もローソンファーム鹿児島の事務所に掲示されている(写真2)。

タイトル: p056a
 
(2)経営概要
 ローソンファーム鹿児島の概要は表のとおりで、現在の主な栽培品目の構成比は、だいこん約4~5割、さつまいも約3割、にんじん約1割、キャベツ約1割となっている。このほかに、数量は少ないがごぼうの生産も行っている。だいこん、さつまいも、キャベツは、南九州農園でも生産していたが、にんじんはローソンからの要望によりローソンファーム設立後に生産するようになった。

タイトル: p056b
 
 ローソンファーム鹿児島は、トラクターや薬剤散布機などの機械の運用については、南九州農園と協力して事業を行っている。収穫は手作業のみで、機械収穫は行っていない。雇用している外国人技能実習生の人数で収穫が可能な範囲の作付計画を策定した結果、この規模となっている。
 このため、圃場面積を大きく増加させる予定はないが、知り合いの生産者が離農した際などに、自社にとって立地のいい圃場を借りると同時に、立地の悪い遠方の圃場を切り離し、農地の集約化と作業の効率化を図っている。

4 ローソンファーム鹿児島における経営管理能力の向上および持続可能な農業に向けた取り組み

(1)連携による経営管理の分業
 ローソンファーム鹿児島で生産する野菜は、青果用、加工・業務用の割合や品目の割合などのマーケティング戦略は、ローソン側が主体となって決定している。
 例えば、平成23年の設立当初は主に青果用の野菜を生産していたが、青果用の需要が下火になる一方で、増加する加工野菜需要に対応するため、現在は加工用をメインとした生産にシフトしている。特に、キャベツでは全量が加工用で、主力のだいこんもほぼ加工用となっている。ただし、かんしょは、ローソンの店舗で調理するカウンターフーズ商品(レジ横に陳列される商品のこと)の焼きいもに仕向けられる分が青果用となるため、加工用の割合はほかの品目と比べると低い。また、品目別で見ると、設立当初と比較してだいこんの割合が減少し、かんしょの割合が増加している。これらはすべてコンビニおでんの売り上げが減少傾向にあることや、近年のさつまいもブームの影響など、小売側の需要動向を反映した結果であり、ローソンのマーケティング戦略に対応した計画的な生産を行っている。
 一方で、品目ごとの品種構成や栽培計画については、ローソンファーム鹿児島に委ねられている。2社は事前に数量契約で期間ごとの出荷数量を取り決めており、ローソンファーム鹿児島では契約数量を順守するために、複数の品種を組み合わせた作付計画を立てる。例えば、最も出荷期間が長いだいこんでは、複数の作型で長期出荷を行う中で、作型によっても品種構成を変えていることから、一つの作型で2~3品種、通年では10~13品種を生産している。
 このように、ローソンが流通と販売の主体となり、ローソンファーム鹿児島が生産を行うという形での提携により、経営管理がそれぞれの得意分野に基づいて分業され、効率的な経営が実現していると言える。
 
(2)ローソンファーム社長会における情報収集
 全国のローソンファームの社長が一堂に会する社長会では、勉強会や懇親会が行われ、新たな知識の習得やローソンファーム間での情報交換が図られている。勉強会では、学びたい事項などについて事前アンケートが実施され、生産現場であるローソンファームのニーズに応じた講義内容となっている。過去には、ドローンの運営会社や日本GAP協会などが講師となった。
 一方、懇親会では、ほかのローソンファームで利用している冷蔵・冷凍技術の紹介や、生産している品目を取り扱う実需者の仲介など、全国に存在するローソンファーム同士で、地域を超えた協力関係の構築が行われている。
 このほか、ローソンファーム鹿児島では、同じ九州にある熊本や長崎のローソンファームを視察に訪れ、生育方法を学ぶという交流もあった。通常であれば、このような自社の技術を他社に共有しないものであるが、同じローソンファームという立場によって、お互いに協力的な情報交換が可能となっている。この全国ネットワークにより情報収集が積極的に行われることで、それぞれの良いやり方が広がっていき、生産性の高い農業経営の一助となっている。
 
(3)JGAP認証取得とその効果
 前述の通り、取引先であるローソンがJGAP認証取得を推進していることから、ローソンファーム鹿児島もJGAP認証を取得している。もともと、南九州農園では、ローソンと取引を開始する以前から、鹿児島県が独自に策定したK-GAP(かごしまの農林水産物認証制度)の認証を取得していた。K-GAPは、農林水産省が策定した「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン(図4)」に準拠しており、JGAPと比較して、検査項目数を全て網羅はしていないものの、重複する取り組みも多く、認証取得にかかる経費は安価で生産者が取り組みやすいものとなっている。

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 ローソンからJGAP認証の取得を推奨された当初、すでにK-GAP認証を取得済みだった片平氏は、類似の認証を新たに取得する必要性をあまり感じなかったという。しかし、先にJGAPに取り組んだ他のローソンファームの社長からそのメリットや、実際の導入事例の経験談を聞いたことで、ローソンファーム鹿児島でもJGAP認証を取得することを決めた。
 取得に当たって最も苦労したのは外国人技能実習生への説明で、JGAPの勉強会を実施し、取り組みの内容を浸透させていった。また、外国人技能実習生の間で先輩から後輩へJGAPの取り組みについて指導が行われるなど、知識や技術の共有が行われており、JGAPの取得を通して従業員の野菜生産への意識向上にも繋がっている(写真3)。

タイトル: p059

 同時に、導入前に感覚的に行われていた作業手順や管理方法などを改めて明確に書面化することは大変な作業であったが、メリットもあった。生産履歴を記録に残すことで情報開示への対応が迅速化し、出荷後に取引先からクレームがあった場合も、JGAPに基づき適切な管理を行っていたことを説明することができるようになった。安全・安心というローソン側のリクエストに応じながら、クレームなどのトラブル発生時に迅速かつ適切な対応を可能としている。
 また、価格面での上乗せ効果はほとんどないものの、JGAP認証を取得している生産者と取得していない生産者の間で差別化が図られていると感じるという。特に、令和3年に開催された東京オリンピック・パラリンピック競技大会において、食材の調達基準としてGAP認証などが採用されたことで知名度が上がり、JGAP認証を取得している生産者との取引を希望する企業が増え、新たな取引先の確保にもつながっている。同時に、オリンピック・パラリンピックで採用される規格を取得していることは、生産物に対する自信や生産者としての誇りに繋がり、モチベーションが向上したという効果もあった。
 なお、ローソンファーム鹿児島がJGAP認証を取得する際に発生する審査料などの費用や、取得後に必要となる年に一度の更新料は、すべてローソンが負担している。

5 おわりに

 日本における生産年齢人口が減少し、鹿児島県内では、離島のみならず本土においても労働力不足の問題は深刻である。特に一次産業である農業においては機械化ができずに手作業に頼らざるを得ない作業があり、農業生産に必要な人材を確保することは、容易ではない。
 ローソンファーム鹿児島の片平氏は、今後の展望について、経営規模はおおむね現状を維持していく意向であるという。近隣の農家には、昨今の資材費や燃料代の高騰などの経営環境の悪化の中で、高齢化も相まって離農していく生産者が多いという。海外市場の拡大や異常気象など、わが国の農業を取り巻く情勢が想定されなかったレベルで変化する中でも、この先も長く農業に従事することができる若手生産者が、地域の農業を支えるべく、生産基盤を整備しながら農業経営を継続していくことは、基本法の基本理念の一つである「農業の持続的な発展」とも合致する。
 作付面積だけに着目すると大きな変化がなくても、経営面から見れば、自社にとって立地の悪い遠方の圃場を切り離し、隣接している離農した生産者の農地を借り受けて、徐々に農地を集約化することは、作業の省力化や効率化につながっている。農地の集約化によって移動時間の削減など、労働力不足への対応や燃料代節減にもつながっている。加えて、ローソンとの連携によるJGAP認証の取得を通して、安全・安心の工程で、需要に応じた生産を行っており、トレーサビリティなど消費者ニーズにも対応した生産性の高い経営に成長している。
 さらに、ローソンファーム鹿児島では、トラックドライバー不足による輸送日数の掛かり増しによる鮮度低下などの品質劣化を防止するために、今後は貯蔵管理に力を入れ、長期的に出荷できる仕組み作りを検討している。また、地球温暖化による異常気象や自然災害などの天候の影響を受けにくい栽培技術などの習得により、需要に応じた安定した出荷に努めていきたいという。
 ローソンファーム鹿児島の取り組みは、基本法の「農業の持続的な発展」に向けた基本施策の一つでもある「農地集積に加えて、農地の集約化・農地の適切かつ効率的な利用(第28条)」にも合致しており、同社に期待される役割は、今後も一層増していくものと思われる。農業を取り巻く情勢が厳しい中でも、全国各地で同様の取り組みが行われ、日本の農業生産を支えになっていくことを期待したい。
 
 最後に、お忙しい中、調査にご協力いただいた株式会社ローソンファーム鹿児島の片平氏、株式会社SCI(注4)の谷中氏(写真4)に心より感謝申し上げます。
 
注4:ローソンの機能会社で、ローソン向けの加工食品、冷凍食品などの食肉や包装資材等の卸売業を主な業務内容とし、生鮮食品の調達も行っている。全国のローソンファームや契約農家との連携も担当。

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参考資料
・農林水産省大臣官房広報評価課情報分析室「令和5年度 食料・農業・農村白書」
・農林水産省農産局農業環境対策課「GAP(農業生産工程管理)をめぐる情勢」令和6年5月
・ローソンホームページおよび「ローソン統合報告書2023」