(1)連携による経営管理の分業
ローソンファーム鹿児島で生産する野菜は、青果用、加工・業務用の割合や品目の割合などのマーケティング戦略は、ローソン側が主体となって決定している。
例えば、平成23年の設立当初は主に青果用の野菜を生産していたが、青果用の需要が下火になる一方で、増加する加工野菜需要に対応するため、現在は加工用をメインとした生産にシフトしている。特に、キャベツでは全量が加工用で、主力のだいこんもほぼ加工用となっている。ただし、かんしょは、ローソンの店舗で調理するカウンターフーズ商品(レジ横に陳列される商品のこと)の焼きいもに仕向けられる分が青果用となるため、加工用の割合はほかの品目と比べると低い。また、品目別で見ると、設立当初と比較してだいこんの割合が減少し、かんしょの割合が増加している。これらはすべてコンビニおでんの売り上げが減少傾向にあることや、近年のさつまいもブームの影響など、小売側の需要動向を反映した結果であり、ローソンのマーケティング戦略に対応した計画的な生産を行っている。
一方で、品目ごとの品種構成や栽培計画については、ローソンファーム鹿児島に委ねられている。2社は事前に数量契約で期間ごとの出荷数量を取り決めており、ローソンファーム鹿児島では契約数量を順守するために、複数の品種を組み合わせた作付計画を立てる。例えば、最も出荷期間が長いだいこんでは、複数の作型で長期出荷を行う中で、作型によっても品種構成を変えていることから、一つの作型で2~3品種、通年では10~13品種を生産している。
このように、ローソンが流通と販売の主体となり、ローソンファーム鹿児島が生産を行うという形での提携により、経営管理がそれぞれの得意分野に基づいて分業され、効率的な経営が実現していると言える。
(2)ローソンファーム社長会における情報収集
全国のローソンファームの社長が一堂に会する社長会では、勉強会や懇親会が行われ、新たな知識の習得やローソンファーム間での情報交換が図られている。勉強会では、学びたい事項などについて事前アンケートが実施され、生産現場であるローソンファームのニーズに応じた講義内容となっている。過去には、ドローンの運営会社や日本GAP協会などが講師となった。
一方、懇親会では、ほかのローソンファームで利用している冷蔵・冷凍技術の紹介や、生産している品目を取り扱う実需者の仲介など、全国に存在するローソンファーム同士で、地域を超えた協力関係の構築が行われている。
このほか、ローソンファーム鹿児島では、同じ九州にある熊本や長崎のローソンファームを視察に訪れ、生育方法を学ぶという交流もあった。通常であれば、このような自社の技術を他社に共有しないものであるが、同じローソンファームという立場によって、お互いに協力的な情報交換が可能となっている。この全国ネットワークにより情報収集が積極的に行われることで、それぞれの良いやり方が広がっていき、生産性の高い農業経営の一助となっている。
(3)JGAP認証取得とその効果
前述の通り、取引先であるローソンがJGAP認証取得を推進していることから、ローソンファーム鹿児島もJGAP認証を取得している。もともと、南九州農園では、ローソンと取引を開始する以前から、鹿児島県が独自に策定したK-GAP(かごしまの農林水産物認証制度)の認証を取得していた。K-GAPは、農林水産省が策定した「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン(図4)」に準拠しており、JGAPと比較して、検査項目数を全て網羅はしていないものの、重複する取り組みも多く、認証取得にかかる経費は安価で生産者が取り組みやすいものとなっている。
ローソンからJGAP認証の取得を推奨された当初、すでにK-GAP認証を取得済みだった片平氏は、類似の認証を新たに取得する必要性をあまり感じなかったという。しかし、先にJGAPに取り組んだ他のローソンファームの社長からそのメリットや、実際の導入事例の経験談を聞いたことで、ローソンファーム鹿児島でもJGAP認証を取得することを決めた。
取得に当たって最も苦労したのは外国人技能実習生への説明で、JGAPの勉強会を実施し、取り組みの内容を浸透させていった。また、外国人技能実習生の間で先輩から後輩へJGAPの取り組みについて指導が行われるなど、知識や技術の共有が行われており、JGAPの取得を通して従業員の野菜生産への意識向上にも繋がっている(写真3)。
同時に、導入前に感覚的に行われていた作業手順や管理方法などを改めて明確に書面化することは大変な作業であったが、メリットもあった。生産履歴を記録に残すことで情報開示への対応が迅速化し、出荷後に取引先からクレームがあった場合も、JGAPに基づき適切な管理を行っていたことを説明することができるようになった。安全・安心というローソン側のリクエストに応じながら、クレームなどのトラブル発生時に迅速かつ適切な対応を可能としている。
また、価格面での上乗せ効果はほとんどないものの、JGAP認証を取得している生産者と取得していない生産者の間で差別化が図られていると感じるという。特に、令和3年に開催された東京オリンピック・パラリンピック競技大会において、食材の調達基準としてGAP認証などが採用されたことで知名度が上がり、JGAP認証を取得している生産者との取引を希望する企業が増え、新たな取引先の確保にもつながっている。同時に、オリンピック・パラリンピックで採用される規格を取得していることは、生産物に対する自信や生産者としての誇りに繋がり、モチベーションが向上したという効果もあった。
なお、ローソンファーム鹿児島がJGAP認証を取得する際に発生する審査料などの費用や、取得後に必要となる年に一度の更新料は、すべてローソンが負担している。