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調査・報告 野菜情報 2024年8月号

野菜価格安定制度について

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農林水産省 農産局 園芸作物課 価格班
 野菜価格安定制度は昭和41年の制度創設から今日まで、野菜生産者の経営安定を通じて、消費地への野菜の安定供給と価格の安定を図ってきました。半世紀以上が経過した今、改めて、野菜価格安定制度が果たす役割の重要性を紹介いたします。

1 はじめに

 野菜は、天候などによって生産量や品質が大きく左右される上、保存性に乏しく、出荷量を調整することが難しいため、卸売市場などに供給される量の多寡により価格が乱高下しやすい特徴があります。こうした価格変動は、価格の暴落時には、生産者の所得が低下し、生産意欲の喪失や資金不足などにより再生産が難しくなる一方、価格の高騰時には、消費者が十分に野菜を購入することが難しくなるなど、生産者の経営の安定や消費者への野菜の安定供給に重大な影響を及ぼします。このため、野菜の価格を安定させることは非常に重要な課題となっています。
 この課題に対しては、これまで、昭和41年に制定された野菜生産出荷安定法に基づいて「野菜価格安定制度」により対処してきております。ここでは、野菜価格安定制度の概要と最近の動きについてご紹介いたします。

2 野菜価格安定制度の概要

 野菜価格安定制度には複数の事業がありますが、野菜の種類により「指定野菜」を対象とする事業と「特定野菜」を対象とする事業に分けられます。また、取引形態により卸売市場出荷を対象とする事業と契約取引を対象とする事業に分けられることから、大きく4つに分類されます。これに加え、指定野菜の一部における著しい価格低下時の出荷調整を対象とする事業があります。
 
(1)野菜の種類による分類
 指定野菜は、国民消費生活上重要な野菜として、キャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、トマト、なす、にんじん、ねぎ、はくさい、ピーマン、レタス、たまねぎ、ばれいしょ、ほうれんそうの14品目が農林水産大臣により指定されています。この指定野菜の出荷の安定を図るため、産地として形成することが必要な区域を農林水産大臣が「野菜指定産地」として指定しており、当該産地から出荷される指定野菜が、指定野菜価格安定対策事業や契約指定野菜安定供給事業の対象となっています。
 特定野菜は、アスパラガスやブロッコリー、かぼちゃ、こまつな、いちご、すいかなど、国民消費生活や地域農業振興の観点から指定野菜に準ずる重要な野菜として35品目(うち6品目は都道府県知事の要請によるもの)が農林水産大臣により指定されています。この特定野菜の出荷の安定を図るため、産地として形成することが必要な区域を都道府県知事が「対象産地」として選定しており、当該産地から出荷される特定野菜が、特定野菜等供給産地育成価格差補給事業や契約特定野菜等安定供給促進事業の対象となっています。このうちブロッコリーについては、昨今の生産量の増加等を背景として、今後指定野菜に移行することを予定しています。こちらについては後述いたします。
 
(2)取引形態による分類
 卸売市場出荷を対象とする事業(指定野菜価格安定対策事業、特定野菜等供給産地育成価格差補給事業)は、出荷先の卸売市場における当該野菜の平均販売価額が、当該卸売市場の過去6年間の平均価格の原則9割(保証基準額)を下回った場合に、下限となる最低基準額(平均価格の原則6割)を上回る部分について、その差額の原則9割を補てんするものです(発動基準や補てん割合は野菜の品目や事業の種類により異なります)(図1)。
 
タイトル: p067
 
 この補てんは、他の事業も同様ですが、国、都道府県、生産者が、事業の種類や野菜の品目などに応じて一定割合で拠出して造成した基金を原資として交付されます。例えば、指定野菜価格安定対策事業の場合、国、都道府県、生産者が、原則3:1:1の割合で拠出することとしています。
 契約取引を対象とする事業(契約指定野菜安定供給事業、契約特定野菜等安定供給促進事業)は、安定的な契約取引の維持に必要な取り組みなどを支援の対象としており、次の3つのタイプに分けられます。
 (1)価格低落タイプは、取引価格が市場価格に連動して変動する契約を締結している生産者に対し、卸売市場出荷を対象とする事業の場合と同様に、価格の低落時に差額の一部を補てんするものです。(2)出荷調整タイプは、生産者が契約数量を確保するため余裕のある作付けを行い、価格が低落した際に、契約以外の生産量の出荷調整を行った場合、その差額の一部を補てんするものです。(3)数量確保タイプは、生産者が契約数量の確保のために、自らの生産で足りない量を卸売市場などから調達した場合、その掛かり増し経費を補てんするものとなっています。
 また、指定野菜の契約取引に対するセーフティネットを強化するため、「契約野菜収入確保モデル事業」を実施しており、(1)出荷調整タイプとして、生産者が契約数量を確保するため余裕のある作付けを行い、価格が低落した際に、契約以外の生産量の出荷調整を行った場合、その差額の一部を補てん(2)数量確保タイプとして、中間事業者が契約数量の確保のために、不足分を卸売市場などから調達した場合に、その掛かり増し経費の一部を補てんする事業を行っています。

(3)緊急需給調整事業
 上記の事業に加えて、指定野菜の一部の特に重要な野菜については、価格高騰時には出荷の前倒しを、価格低落時には出荷の後送りや加工用販売、市場隔離などを行う「緊急需給調整事業」があり、上記の取り組みについてその経費の一部を補てんしています(図2)。

タイトル: p068
 
 本事業については、近年の極端な気象変動などに対応し、実効性の高い需給調整の仕組みとするため、令和3年度から交付金の引き上げや生産者負担の引き下げなどの拡充、強化を行っているところです。
 これら野菜価格安定制度のすべての事業は、JAなどの出荷団体などの単位や、一定規模以上の生産者・法人の単位で利用することができます。
 
(4)価格、供給の安定に向けた取り組み
 指定野菜については、需要を踏まえた計画的な生産・出荷により、価格や供給を安定させるため、国は全国の野菜需給に係るガイドラインを作成しています。生産者や出荷団体は、これを参考に、自らの販路や販売力、価格動向などを踏まえた生産・出荷の計画(供給計画)を作成し、野菜価格安定制度を利用する産地においては、この供給計画に沿った計画的な生産・出荷を行うこととしています。
 
(5)ブロッコリーの指定野菜追加
 近年、全般的に野菜の出荷量が減少傾向にある中、ブロッコリーの出荷量は増加傾向にあり(図3)、他の指定野菜と引けを取らない水準にまで増加しています。また、加工・業務用を中心に輸入品も多く利用されています。こうした状況を踏まえ、国民への安定供給の確保に向けて計画的な生産・出荷を確実に進めるため、ブロッコリーを指定野菜に追加する方針としています。
 指定野菜への追加に当たっては、制度上の技術的事項の整理や各種手続きを順次行うことや、産地でのご準備などを進めていただく必要があることから、令和6~7年度にかけて準備、手続きを進め、令和8事業年度から適用することを予定しております。

タイトル: p069

3 おわりに

 昨今、気候変動が顕在化し、高温による生育の前進や、低温や多雨などによる生育の遅延などを要因とした出荷の集中や不足、それによる野菜価格の乱高下といった局面もみられるところです。こういった環境において、国産野菜の計画的、安定的な生産・出荷、消費者への安定供給の取り組みは引き続き重要と認識しています。農林水産省としては、今後も産地や出荷団体、生産者の皆様と一体となって、野菜価格安定制度を軸とした国産野菜の安定生産、安定供給に努めてまいります。