次に池田農園が利用しているボランティアなどのマッチングシステムの「ヒダスケ!」と「おてつたび」を紹介する。
(1)「ヒダスケ!」
「ヒダスケ!」は飛騨市が運営する地域内のさまざまな事業、活動で人手を必要とする者と市内でお手伝い(ボランティア)をしたい者をつなぐマッチングシステムであり、2020年に創設された。「ヒダスケ!」は飛騨市内での労働力不足解消の一助となる取り組みであるが、労働力不足対策として創られたものではない。
過疎化が進む飛騨市では、過疎化対策として地域外からの交流人口の拡大、見える化を目指して、飛騨市ファンクラブを17年に創設した。飛騨市ファンクラブは飛騨市に関心のある者、心を寄せる者に会員になってもらい、市内外でのイベントなどでより交流を深めるとともに、さまざまな形で飛騨市に関する情報発信をしてもらい、飛騨市のファンを増やし、全国的な認知度を高めることを目的としている。当初は会員が集まらず、苦戦したが、SNSの活用やマスコミへの露出などで会員拡大の好循環が生まれ、23年9月時点で会員数は1万2000人余り(その90%は飛騨圏外の者)となった。
飛騨市ファンクラブの取り組みを進めていく中で、利用者からより深い交流が求められるようになってきた。すなわち、単なる来訪者から地域に積極的に関わっていく関係への深化である。交流の深化形態として、地域でのさまざまな活動、特に人手不足などで困っている活動に積極的に関わり、手助けする取り組みとして「ヒダスケ!」が創設された。
「ヒダスケ!」の仕組みは図3に示した。飛騨市の市民・事業者で、何らかの活動や事業(プログラム)でお手伝いを求めている者(プログラム主催者=ヌシ)はサイトに登録して、お手伝いを募る。飛騨市内で何らかのお手伝い(ボランティア)をしてみたい者(プログラム参加者=ヒダスケ)、は「ヒダスケ!」のサイトから参加したいプログラムを選び、サイトやSNSでプログラム主催者に参加を申し込む。お手伝いをしてもらった場合には、オカエシをすることになっているが、「オカエシ」は金銭ではなく、何らかの体験や野菜などの現物、飛騨地域の地域通貨である「さるぼぼコイン」による。また、交流を目的とした事業の一環であるため、実際の作業では、プログラム参加者だけに任せてしまうのではなく、プログラム主催者とプログラム参加者が一緒に作業に取り組むことを原則としている。
「ヒダスケ!」に登録されるプログラムは、町の活性化を目的としたイベント、環境保全活動、商工業者の情報発信・販売促進活動など多彩である。その中で農業も主要なプログラムとなっている。図4にこれまでのプログラム主催者の内訳を示したが、地域で作る団体、事業者に次いで農家は三番目であり、全体の16%を占めている。
「ヒダスケ!」で行われる作業も、単純作業からイベントポスターやWebのデザインなどプログラム参加者のスキルを生かすものまで多彩である。農業に関わるプログラムでは、草取りや収穫作業など比較的単純な作業が多い。
「ヒダスケ!」が創設されてから23年9月までの約3年半で実施されたプログラムは、251件に達している。プログラム参加者は延べ2700人である。プログラム参加者を居住地別に見ると図5のように岐阜県内が3分の2を占めている。しかも、飛騨市の居住者が36%、隣接する高山市の居住者が18%であり、両者で過半を占めている。「ヒダスケ!」は地域外の交流人口の拡大を目指した飛騨市ファンクラブの取り組みの中で生まれたものであるが、プログラム参加者は地元の者が主体となっている。ただし、創設時期が行動制限の課せられたコロナ禍と重なったこともあり、行動制限がなくなってからは、地域外からの参加者の比率が次第に高まっている。参加者の年齢は40~60代の中高年者が多い。
(2)「おてつたび」
「おてつたび」は、文字通り滞在型のボラバイトのマッチングサイトである。ボラバイトとは、ボランティアとアルバイトをかけ合わせた造語であり、アルバイトと有償ボランティアの中間として位置付けられている。一般的には、地方の農林水産業や観光業(民宿、ペンションなど)が主な従事先となっており、滞在型のものが多い。宿泊(+食事)は受け入れる側が提供し、いくらかの労働の対価(アルバイトとしてみれば賃金、有償ボランティアとしてみれば謝礼)を支給する。その金額は一律ではないが、アルバイトとしての最低賃金程度(宿泊と食事の費用を差し引くこともある)が多いようである。また就労先までの交通費は参加者側の負担が一般的である。
ボラバイトのマッチングサイトはいくつかあるが、「おてつたび」はその一つであり、滞在型のボラバイトを対象としたウェブサイトである。ボラバイトを募集したい事業者が、希望するボラバイトの内容や条件をウェブサイトに掲載し、ボラバイトをしたい者が行きたいおてつたび先を選んで応募する。ウェブサイトに掲載されているボラバイトのほとんどは、長くても1~2週間程度の短期のものである。
「ヒダスケ!」や「おてつたび」を通じて働く者は、賃金のみを目的として働いているわけではない(ただし、「おてつたび」はアルバイト的な性格があり、最低賃金程度の金額は支払われるので、賃金も目的の一つではある)。受け入れる側にとっては、低賃金の労働力ともみなせるが、応募する者は賃金以外の何か(やりがい、交流・体験、ツーリズムなど)を求めて応募する。そのため、募集する側は、応募する側が求めているものを提供できなければ、必要な人員を確保することはできない。
また、応募する者の多くは、従事する作業の経験が乏しく、しかも就労期間も短期の場合がほとんどなので、担当できる作業は限られてくる。利用する事業者は、全体の作業の中で応募者に適した作業を見極め、彼らが従事しやすく、かつ満足感が得られるように作業体系を工夫していくことも求められる。