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調査・報告 野菜情報 2024年8月号

ボランティア・ボラバイトで労働ピーク時の労働力確保と交流人口拡大を進める飛騨古川池田農園

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国立大学法人 名古屋大学大学院 生命農学研究科 教授 徳田 博美

【要約】

 労働力不足は、わが国の農業にとって大きな問題となっている。過疎化が進む中山間地域では特に深刻である。岐阜県北部の中山間地で「『楽しい』が農村を救う」を経営理念として、地域の交流人口(その地域に訪れる、または交流する人数)の拡大を目指している池田農園では、多様な者を受け入れることで、必要な労働力を確保している。その中で地域内外のボランティア・ボラバイト(注)は、総労働時間に占める割合は小さいが、労働ピーク時を切り抜けるための貴重な労働力となっている。同時に池田農園が目指す交流人口の拡大にとっても、ボランティア・ボラバイトはその入り口となっている。

注:「ボランティア」と「アルバイト」を合わせた造語。

1 はじめに

 わが国の農業における大きな問題の一つは労働力不足である。他の作物に比べて労働時間の長い野菜作では、労働力不足問題は特に深刻である。従来、農業は農家、すなわち家族経営で担われ、季節間での労働の繁閑の大きい農業では、労働ピーク時に雇用労働力が導入されていた。昨今は規模拡大が進み、雇用型の農企業経営が増加してきた。一方、従来の農業雇用労働力の供給源であった農村の兼業農家の女性などの余剰労働力は、高齢化し、減少した。その結果、農村の余剰労働力のみで雇用労働力を確保することは難しくなった。
 しかし、農村の余剰労働力に代わる十分な労働力の供給源は地域内には見当たらない。そのため、農外からの新規雇用就農者、技能実習生などの外国人労働者、フリーター、農福連携での障がい者、農業ボランティア・ボラバイトなど多様な形態の労働力の導入が図られている。しかしこれらの労働力は、雇用条件、就労の動機、能力に違いがあり、一律に扱うことはできない。雇用する農業経営者は、その特性を理解し、自らと雇用者の特性やニーズがマッチするように導入することが必要である。
 過疎化が進む岐阜県北部の飛騨市で、通年および季節雇用のパート労働力に加えて、飛騨市が運営するボランティア(お手伝い)のマッチングシステムである飛騨市の関係案内所「ヒダスケ!」(以下「ヒダスケ!」という)や、宿泊滞在型のボラバイトマッチングサイトの「おてつたび」を利用して人材を確保することで、時期毎に需要量が異なる野菜作の農作業の労働力を確保するとともに、交流・体験人口を増やすことで、農村地域の活性化にもつなげることを目指している。本報告では、飛騨古川池田農園(以下「池田農園」という)の事例を紹介し、地域内外の多様な労働力を生かした野菜経営の可能性を検討したい。
 
~農業での雇用労働力の現状~
 池田農園の事例の紹介に入る前に、農業における雇用労働力の現状を概観しておく。農業雇用は大きく通年雇用(農業センサスでは「常雇い」)と季節雇用(同「臨時雇い」)に分けられる。季節間での労働の繁閑の差が大きい農業では、大規模な雇用型農企業などによる通年雇用とともに、小規模な家族経営を含めて労働ピーク時を切り抜けるための季節雇用の確保が問題となる。2020年農業センサスによると、延べ雇用人日は、常雇いが3225万人日で、臨時雇いが2100万人日であり、臨時雇いが延べ雇用人日の39.4%を占めている。10年には常雇いが3139万人日で、臨時雇いが3436万人日と、臨時雇いの方が多かった。臨時雇いが10年間で大幅に減少した要因は、雇用型農企業などで常雇いに移行したこともあるが、臨時雇いの供給源であった農村の余剰労働力が高齢化し、減少したことが大きい。
 雇用形態は、農業経営の規模や部門によって異なる。当然のことであるが、大規模な経営体では常雇いが主体であり、規模が小さくなると臨時雇いの比率が高くなる。20年農業センサスでの延べ雇用人日中の比率は、図1に示すように農産物販売金額1億円以上では、常雇いが85.2%を占めているが、同500万円未満では常雇いは27.7%である。
 農業部門による違いも大きく、販売金額1位部門別に見ると、畜産は大規模経営の比率が高いこともあるが、常雇い88.2%と、農業雇用の大部分を占めているが、果樹類ではわずか24.8%であり、臨時雇いが農業雇用の主体となっている。この違いは、年間での農作業の繁閑の大きさの違いによる。野菜作における常雇いは、露地野菜が53.7%、施設野菜が65.3%であり、農業全体の60.6%に近い比率となっている。野菜作においては、常雇い、臨時雇いのいずれの確保も重要な課題である。

タイトル: p055

2 調査事例について

(1)飛騨市の概況
 池田農園のある飛騨市は、図2に示すように岐阜県の最北部にあり、富山県と接している。飛騨市は、2004年に古川町、河合村、宮川村、神岡町の2町2村が合併して誕生した。周囲は3000メートルを越える飛騨山脈などの山々に囲まれ、総面積は792.53平方キロメートルで、東京23区の1.26倍であるが、その約93%を森林が占めている。人口は2万2000人(24年4月現在)であり、人口密度は27.8人/平方キロメートルと少ない。00年から20年までの人口減少率は25%で、典型的な過疎の進む山間地域である。市の中心を南北にJR高山線と国道41号線が通っているが、交通条件は恵まれているとは言えない。気候は、山間地にあるため全体として冷涼であるが、寒暖差が大きい。冬には最高気温が0度に達しない真冬日が少なくない一方で、夏には最高気温が35度を超える猛暑日がある。
 飛騨市の農業は、飛騨牛でブランドが確立している肉牛と、冷涼な気候を活かした高冷地野菜が基幹作目となっている。両者で農業産出額の80%を占めている。高冷地野菜では、トマトとほうれんそうで産地が形成されている。トマトの作付経営体数は20年において55経営体である。農協のトマト販売金額は、21年で4億1000万円であり、近年はやや増加傾向にある。
 肉牛や高冷地野菜では産地化が図られているが、中山間地域にある飛騨市の農業は総体でみれば、楽観できる状況ではない。10から20年の10年間で農業経営体数は42.6%も減少しており、20年には基幹的農業従事者(普段仕事として自営農業に従事している世帯員)の77.2%は65歳以上の高齢者である。また荒廃農地がピーク時の農地面積の約4分の1に達している。

タイトル: p056
 
(2)池田農園の概要
 池田農園は、経営主の池田俊也氏(41歳)が2013年に独立就農して始めた農園である(写真1)。池田氏は地元の稲作兼業農家の出身であるが、大学卒業後、岐阜市の企業に就職した。しかし、故郷の農業を何とかしたいという思いからUターンし、新規就農した。池田農園は、経営理念に「『楽しい』が農村を救う」を掲げ、「『移住や転職までは難しいが週末だけの農業体験なら』『子どもたちに土と触れ合う経験をさせてみたい』、そんな思いを持つ人たちの力を、楽しんでもらいながら少しずつ集めることで、農村が抱える問題を解決します。」と述べている。すなわち、農業を通じて、地域での交流人口を増やし、活性化に貢献することを目指している。事業内容でも、農産物の生産販売、観光農園とともに農業体験事業が挙げられている。

タイトル: p057
 
 池田農園は、地域の特産物である夏秋トマトの栽培から始め、徐々にその栽培面積を拡大してきた。数年のうちに地域でトップクラスの生産規模に達するとともに、ミニトマト、スナップえんどうなどを導入し、経営の複合化を進めた(表1)。品目別栽培面積はトマト(ミニトマトを含む)が84アール、スナップえんどうが8アール、いちごが8アールである。しいたけは3000菌床である。栽培面積が示しているようにトマトが基幹品目であり、ほかの品目はトマトの農閑期を利用した複合品目であり、年間を通じた労働の平準化の役割も果たしている。農産物販売金額で見ても、総販売金額は3000万円余りで、そのうちトマトが7割、ミニトマトが2割弱で、それ以外の品目が1割である。
 池田農園は本報告のテーマである多様な労働力の活用だけでなく、さまざまな面で新たな取り組みを積極的に試みている。
 トマトの栽培面では、地域で初めてココバック(ヤシ殻が袋に入った人工培土)を使った溶液栽培システムを導入した。このシステムには日射センサーによる自動潅水(かんすい)装置が取り入れられており、大幅な省力化となる。さらに作業にかかる高い習熟度が緩和されるとともに、計画的な作業も可能となり、多様な労働力を受け入れる上でも有効な技術である。販売面でも、多角化を図っている。トマトは農協出荷が大部分を占めているが、ミニトマトは農協出荷はわずかであり、さまざまな直販型流通チャネルを利用している。それは、農協出荷、地元公設市場、ネット販売、地元道の駅、都市部産直店舗、観光農園、直営直売所、ふるさと納税の8つに分けられる。そのうち、観光農園が池田農園の特徴的な事業部門である。観光農園はミニトマトといちごで行っている。その中でもいちごの観光農園が特筆される。
 飛騨市では、山間地で冬には気温が0度を超えない真冬日もあり、暖房費が(かさ)む上に、積雪でハウスが倒壊する恐れもあるため、いちごの栽培は難しく、これまで観光いちご園はなかった。池田農園では、ハウスの構造強度の向上や保温性の高い資材の利用、LEDによる補光(夜間の適当な時間帯に数時間電照する日長延長)などの工夫により、寒冷地でのいちご栽培に挑戦し、冷涼な山間地における冬場の観光資源としての観光いちご園を開設した。観光いちご園を始めるに当たっては、ニーズの調査も兼ねてクラウドファンディングで資金を募集した。

タイトル: p058

3 ボランティアのマッチングシステム「ヒダスケ!」と「おてつたび」

 次に池田農園が利用しているボランティアなどのマッチングシステムの「ヒダスケ!」と「おてつたび」を紹介する。
 
(1)「ヒダスケ!」
 「ヒダスケ!」は飛騨市が運営する地域内のさまざまな事業、活動で人手を必要とする者と市内でお手伝い(ボランティア)をしたい者をつなぐマッチングシステムであり、2020年に創設された。「ヒダスケ!」は飛騨市内での労働力不足解消の一助となる取り組みであるが、労働力不足対策として創られたものではない。
 過疎化が進む飛騨市では、過疎化対策として地域外からの交流人口の拡大、見える化を目指して、飛騨市ファンクラブを17年に創設した。飛騨市ファンクラブは飛騨市に関心のある者、心を寄せる者に会員になってもらい、市内外でのイベントなどでより交流を深めるとともに、さまざまな形で飛騨市に関する情報発信をしてもらい、飛騨市のファンを増やし、全国的な認知度を高めることを目的としている。当初は会員が集まらず、苦戦したが、SNSの活用やマスコミへの露出などで会員拡大の好循環が生まれ、23年9月時点で会員数は1万2000人余り(その90%は飛騨圏外の者)となった。
 飛騨市ファンクラブの取り組みを進めていく中で、利用者からより深い交流が求められるようになってきた。すなわち、単なる来訪者から地域に積極的に関わっていく関係への深化である。交流の深化形態として、地域でのさまざまな活動、特に人手不足などで困っている活動に積極的に関わり、手助けする取り組みとして「ヒダスケ!」が創設された。
 「ヒダスケ!」の仕組みは図3に示した。飛騨市の市民・事業者で、何らかの活動や事業(プログラム)でお手伝いを求めている者(プログラム主催者=ヌシ)はサイトに登録して、お手伝いを募る。飛騨市内で何らかのお手伝い(ボランティア)をしてみたい者(プログラム参加者=ヒダスケ)、は「ヒダスケ!」のサイトから参加したいプログラムを選び、サイトやSNSでプログラム主催者に参加を申し込む。お手伝いをしてもらった場合には、オカエシをすることになっているが、「オカエシ」は金銭ではなく、何らかの体験や野菜などの現物、飛騨地域の地域通貨である「さるぼぼコイン」による。また、交流を目的とした事業の一環であるため、実際の作業では、プログラム参加者だけに任せてしまうのではなく、プログラム主催者とプログラム参加者が一緒に作業に取り組むことを原則としている。
 「ヒダスケ!」に登録されるプログラムは、町の活性化を目的としたイベント、環境保全活動、商工業者の情報発信・販売促進活動など多彩である。その中で農業も主要なプログラムとなっている。図4にこれまでのプログラム主催者の内訳を示したが、地域で作る団体、事業者に次いで農家は三番目であり、全体の16%を占めている。
 「ヒダスケ!」で行われる作業も、単純作業からイベントポスターやWebのデザインなどプログラム参加者のスキルを生かすものまで多彩である。農業に関わるプログラムでは、草取りや収穫作業など比較的単純な作業が多い。
 「ヒダスケ!」が創設されてから23年9月までの約3年半で実施されたプログラムは、251件に達している。プログラム参加者は延べ2700人である。プログラム参加者を居住地別に見ると図5のように岐阜県内が3分の2を占めている。しかも、飛騨市の居住者が36%、隣接する高山市の居住者が18%であり、両者で過半を占めている。「ヒダスケ!」は地域外の交流人口の拡大を目指した飛騨市ファンクラブの取り組みの中で生まれたものであるが、プログラム参加者は地元の者が主体となっている。ただし、創設時期が行動制限の課せられたコロナ禍と重なったこともあり、行動制限がなくなってからは、地域外からの参加者の比率が次第に高まっている。参加者の年齢は40~60代の中高年者が多い。

タイトル: p060
 
(2)「おてつたび」
 「おてつたび」は、文字通り滞在型のボラバイトのマッチングサイトである。ボラバイトとは、ボランティアとアルバイトをかけ合わせた造語であり、アルバイトと有償ボランティアの中間として位置付けられている。一般的には、地方の農林水産業や観光業(民宿、ペンションなど)が主な従事先となっており、滞在型のものが多い。宿泊(+食事)は受け入れる側が提供し、いくらかの労働の対価(アルバイトとしてみれば賃金、有償ボランティアとしてみれば謝礼)を支給する。その金額は一律ではないが、アルバイトとしての最低賃金程度(宿泊と食事の費用を差し引くこともある)が多いようである。また就労先までの交通費は参加者側の負担が一般的である。
 ボラバイトのマッチングサイトはいくつかあるが、「おてつたび」はその一つであり、滞在型のボラバイトを対象としたウェブサイトである。ボラバイトを募集したい事業者が、希望するボラバイトの内容や条件をウェブサイトに掲載し、ボラバイトをしたい者が行きたいおてつたび先を選んで応募する。ウェブサイトに掲載されているボラバイトのほとんどは、長くても1~2週間程度の短期のものである。
 
 「ヒダスケ!」や「おてつたび」を通じて働く者は、賃金のみを目的として働いているわけではない(ただし、「おてつたび」はアルバイト的な性格があり、最低賃金程度の金額は支払われるので、賃金も目的の一つではある)。受け入れる側にとっては、低賃金の労働力ともみなせるが、応募する者は賃金以外の何か(やりがい、交流・体験、ツーリズムなど)を求めて応募する。そのため、募集する側は、応募する側が求めているものを提供できなければ、必要な人員を確保することはできない。
 また、応募する者の多くは、従事する作業の経験が乏しく、しかも就労期間も短期の場合がほとんどなので、担当できる作業は限られてくる。利用する事業者は、全体の作業の中で応募者に適した作業を見極め、彼らが従事しやすく、かつ満足感が得られるように作業体系を工夫していくことも求められる。

4 池田農園の農作業とボランティア・ボラバイト

(1)農作業スケジュールと担当者
 池田農園の年間農作業スケジュールを表2に示した。トマトを基幹作目として、しいたけやいちごなど多品目を栽培しているため、寒冷地にありながら、冬季も含めて年間を通じて農作業がある。しかしながら、年間での繁閑差は大きく、労働ピークとなるのは、トマトの収穫・出荷時期の7~8月である。

タイトル: p062a
 
 池田農園の農業従事者は家族、雇用者、ボランティア・ボラバイトで構成されている。家族労働力は経営主である池田夫妻と両親の4人である。雇用労働力はすべてパートであるが、通年パートと季節パートの2つの雇用形態があり、通年パートが3人、季節パートが14人である。季節パートの中でも夏季(5~9月くらい)を通じて従事する者と、労働ピーク時(8月前後)の1カ月程度のみ従事する者があり、それぞれ7人である。それ以外に「ヒダスケ!」や「おてつたび」を通じて募集したボランティア、ボラバイトが労働ピーク時にスポット的に従事している。
 
 池田農園の年間の総労働時間は8000時間余りである。そのうち家族労働力が5000時間程度、雇用労働力が3000時間程度である。「ヒダスケ!」や「おてつたび」で募集した者は500時間弱である。労働時間数で見れば、「ヒダスケ!」や「おてつたび」の労働力確保の効果は小さい。しかし、労働ピーク時での就労であり、労働時間数以上の役割を果たしている。図6は賃金支払額で見た雇用労働の月別比率である。月別の雇用量には大きな差があり、夏季は冬季の2~3倍となっている。それでも夏季には労働力不足となり、それを補うものとして「ヒダスケ!」や「おてつたび」でのボランティア・ボラバイトが導入されている。
 池田農園での農作業は多様な従事者によって担われているが、それぞれ就労条件や技能・熟練性は異なっている。そのため、従事者の条件に応じた作業分担がなされている。労働ピーク時の夏季では、経営主は農作業全般を統括している。通年パートと季節パートの一部はトマトの管理と収穫を担当し、経営主の妻と季節パートの一部は直売や荷造り・発送などの出荷業務を担当している。「おてつたび」でのボラバイトはミニトマトの収穫を担当し、「ヒダスケ!」のボランティアはミニトマトの収穫(写真2)とともにハウス内の草取りやまき割りを担当している。

タイトル: p062b
 
(2)「ヒダスケ!」と「おてつたび」の利用
 2023年における池田農園の「ヒダスケ!」および「おてつたび」での募集内容をそれぞれのウェブサイトで確認すると、表3に示すように、「ヒダスケ!」は4回、「おてつたび」は夏季に3つの日程で募集している。
 「ヒダスケ!」の4回の募集のうち、3回は夏季のトマトの管理作業であり、1回は初冬のまき割りである(作られたまきは観光いちごのハウスに設置されたまきストーブで利用される)。いずれの日程も1日ないし2日で、作業時間も長くて3時間であるため、まさにスポット的なお手伝いである。オカエシ(謝礼)は、いずれも地域通貨「さるぼぼコイン」500ポイントと池田農園の農産物である。まき割りでは、「焚き火を囲んで語る」もメニューにあり、交流・体験もオカエシの一つとなっている。また、草取りを「雑草ハンター」と名付けて募集し、「迫りくる雑草からトマトを守ってください!!」とプログラム主催者が呼びかけ、オカエシは「集めた雑草の半分の重さの訳ありトマト」という遊び心のある成果報酬型のゲーム感覚の募集となっている(写真3)。
 「おてつたび」では、7月末から9月上旬の6週間を2週間ごとにボラバイトを募集している。業務内容は基本的にはミニトマトの収穫である。作業時間は午前中の4時間が基本であり(残業の可能性あり)、滞在型ではあるがフルタイムではなく、地域での観光などほかの活動に時間が充てられるようになっている。宿泊は近所の民泊施設で、食事は参加者が用意する(自炊可能)。報酬は40時間(前後2日の移動日と期間中2日の休日を除いた10日間×各4時間)で3万6400円であり、これは時給に換算すると岐阜県の最低賃金の910円/時間(2023年9月時点)である。宿泊費は池田農園が負担しており、サイトの利用料も含めると、「おてつたび」に要する費用は、通常のパート賃金の2倍程度となる。

タイトル: p063
 
 2023年の参加者は「ヒダスケ!」で延べ70~80人、「おてつたび」は7人であった。作業時間は「ヒダスケ!」が約160時間、「おてつたび」が約300時間であった。「ヒダスケ!」の参加者は、愛知県や岐阜県南地域などの地域外からが多く、リピーターもいる。「おてつたび」の7人中、20代と30代が各1人で、残りの5人が50代以上の中高齢者であった。23年はそれまでに比べて中高齢者の比率が高かったようである。「おてつたび」のサイトには過去の参加者の感想が寄せられているが、感想を寄せている者の年齢、性別は表4のとおりである(各年の募集件数からみて、参加者の大部分が感想を寄せているとみられる)。20~70代以上まで年齢は幅広いが、20代が最も多く、全体の6割を占めている。うち8割は女性であり、20代女性で半数を占めている。30代以上の女性は1人であり、年齢が高くなると男性がほとんどとなっている。感想を見るとおおむね好評である。収穫体験とともに、池田農園のスタッフや従事者および宿泊先のオーナーなどとの交流や、午後の空いた時間などでの観光が評価されている。

タイトル: p064
 

5 池田農園の将来展望と多様な従事者の意義

 過疎化が進む山間地域にある池田農園は、多様な者を農作業の従事者として受け入れることで、地域でトップクラスの生産量を誇るトマトを基幹品目とした農業経営を実現している。多様な者の中で「ヒダスケ!」と「おてつたび」を通じたボランティア・ボラバイトは、労働時間の比率で見れば、その割合はわずかであるが、労働ピーク時を切り抜ける実利のあるパーツとして、その比率だけでは評価できない役割を果たしている。
 経営的にみても、ボランティアなどの参加者は、その後に農産物の購入やSNSなどで池田農園に関する情報を発信するなど、さまざまな関わりを持ち、いわば池田農園のサポーターとなる者も少なくない。ボランティア・ボラバイトの存在は、繁忙期の農作業を補う労働力以上の役割を果たしていると言える。
 さらに、池田農園にとってボランティアなどの参加者は、現在の経営を支える役割以上の意味を持っている。池田農園は、以下のような2022年に中長期計画を策定している。
 「『楽しい』が農村を救う」を経営理念に掲げ、交流人口の拡大を目指し、10年後には参加型の有機農業を拡大し、年間5000人を受け入れることとしている。また、地域の宿泊、飲食業者と連携し、総合的に来訪者を迎える「農のテーマパーク」の土台を築き、地域として年間1万人を受け入れることを目指している。
 ボランティア・ボラバイトは交流人口の一つの形態であり、その受け入れは、この中長期計画に沿ったものであり、その実現の第一歩でもある。