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調査・報告 野菜情報 2024年7月号

チラシからみる小売業者における野菜の販売促進企画実態調査

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野菜振興部
 当機構では、消費者の実際の購買行動の決定要因となりやすい、全国の主要な小売業者が発行するチラシに掲載された販売促進企画(以下「販促企画」という)などのデータを用いて、消費行動への訴求キーワードおよびトレンドを分析した。また、野菜主要品目における市場価格(卸売価格および小売価格)と販促企画の実施状況を比較することで、小売業者における野菜の販促企画の実施傾向を明らかにした。

1 調査目的

 小売向けを主とし、ほとんどが国産品で賄われている市場出荷用野菜の価格は、供給サイドの産地作況などの影響によるところが大きいが、需要サイドの家計消費需要の増減には、小売価格の変化や小売業者による集客取り組みなど、さらに近年では新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」という)感染拡大後の変化なども大きく影響していると考えられる。
 このため、消費者の実際の購買行動の決定要因となりやすい、全国の主要な小売業者が発行するチラシに掲載された販促企画などのデータを用いて、消費行動への訴求キーワードおよびトレンドを分析する。また、野菜主要品目における市場価格と販促企画の実施状況を比較することで、小売業者における野菜の販促企画の実施傾向を明らかにする。

2 調査方法

1 食品スーパーマーケットのチラシ発行状況
(1)調査時期:令和5年1月~令和5年12月
(2)調査対象:全国のスーパーマーケット573企業1万5755店舗
(3)調査方法:調査員の自宅に折り込まれたチラシから、チラシ発行状況を分析
 
2 食品スーパーマーケットの月別チラシテーマ状況
(1)調査時期:令和5年1月~令和5年12月
(2)調査対象:全国のスーパーマーケット100企業
(3)調査方法:調査員の自宅に折り込まれたチラシから販促テーマ、メニューをデータ化し、月別のテーマ状況を分析
 
3 価格動向とチラシ販促企画の実施状況
(1)調査時期:令和5年1月~令和5年12月
(2)調査対象:全国のスーパーマーケット100企業
(3)調査対象テーマ:(1)母の日(2)野菜の日(3)クリスマス(4)鍋(5)サラダ(6)カレー
(4)調査方法:調査員の自宅に折り込まれたチラシから販促テーマ、メニュー、商品をデータ化し、販促企画の傾向を分析。卸売価格および小売価格に関しては、「野菜小売価格動向調査」の全国平均数値を使用
 
※チラシ掲載率の定義:各企画やメニュータイトルの枠内に掲載された品目別の割合。
例:「母の日」の「たまねぎ」…5月に「母の日」企画が掲載された回数のうち、その枠内に「たまねぎ」が掲載された回数をチラシ掲載率とする。

3 調査結果

1 食品スーパーマーケットのチラシ発行状況
 令和5年のチラシ発行延べ店舗数は、前年比97.0%、コロナ発生前の令和元年比で82.8%となり、減少傾向にはあるものの、集客手段の1つとしてチラシ販促の活用は続いていた(表1)。特に、ゴールデンウィーク、盆、年末年始といった大型連休のタイミングでは、各小売業者で集客強化の様子がみられた。

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☆令和5年の特徴☆
 
(1)試食会など店内イベントの再開
 飛沫感染や3密を警戒し、コロナ禍では自粛されていた店内イベントであったが、3月には「試食会開催」を告知したチラシ紙面が確認された。特定の曜日や時間を狙ったタイムセールなどの集客施策は令和2年の早期から実施されていたものの、店内飲食は自粛が続いてきており、これらの店内イベントの開催告知はアフターコロナを実感させる出来事と感じられた。
 
(2)値上げの影響
 原材料価格や物流費の高騰が続き、節約志向による内食(注1)・中食(注2)需要拡大の傾向が見られ、チラシ上でも「生活応援」などの価格訴求系タイトルの掲載が増加した。価格上昇を受けた買い上げ点数減少も引き続きの課題となっており、「まとめ買い」提案に積極的に取り組む小売業者も多く見られた。

注1:家庭内で素材から調理して食べる食事の形態。
注2:家庭外で調理された食品を購入して家庭内などで食べる食事の形態。
 

(3)酒税改正(ビール値下げ)
 令和5年10月1日の酒税法改正により、ビールと清酒の税率は引き下げられ、新ジャンル(第3のビール)とワインは増税になった。特にビール系飲料は変化が大きく、手に取りやすい新ジャンルの値上がりとあって仮需要(価格上昇や物資不足が予測されるような時に在庫増加や投機的な狙いから生じる需要)獲得に向けたチラシ販促が多数見られた。直前の9月は「まとめ買い」「値上がり前に」とあおり、改正後の10月は「ビールがお安くなりました」と購買意欲をかき立てていた。
 
2 食品スーパーマーケットの月別チラシテーマ状況(表2、3、4)
【1月】
 初売チラシ後は、「鍋」の提案を主軸としながら「七草」「成人の日」「受験生応援」「大寒」「カレー」「節分」などの定番企画・メニューの大型掲載が目立った。正月後の「カレー」の人気は根強く、スパイスを使った本格カレーからレトルトまで広く提案されていた。「大寒」は毎年安定した数が掲載され、「(ぶり)鍋」などを中心に寒の味覚を紙面いっぱいに訴求する小売業者が多数あった。「受験」にも注力する小売業者は多く、(げん)担ぎメニューや体調管理を意識したメニュー提案など、例年通りさまざまな工夫が見られた。

【2月】
 「節分」「バレンタインデー」の人気は変わらず、特に「節分」は超大型イベントとして長期的かつ積極的な提案が続いている。「恵方巻」は惣菜が多数ながら手作り提案や「キンパ(韓国海苔巻き)」などのトレンド提案、「(おに)()う」と掛けた肉提案など、小売業者各社の工夫が続いている。「バレンタインデー」は、バレンタイン文化の衰退が話題になる中、小売業者の積極的な提案は変わらず、洋食メニューの提案を中心に紙面をにぎわせていた。立春以降は「鍋」の掲載が減り、入れ替わりで「春野菜メニュー」や「春中華」が目立った。

【3月】
 チラシ紙面の季節は完全に春に切り替わり、団らんメニューの主役は「鍋」から「焼肉」に切り替わった。「彼岸」「ひなまつり」は不動の人気企画で、「天ぷら」「ちらし寿司」の掲載が目立った。また「行楽」「花見」の提案も目立ち、外出を前提とした企画内容になっていた。「ひなまつり」は変わらず人気が高く「おとなのひなまつり」をテーマに酒類を合わせた提案も見られた。また、同年に行われ注目度が非常に高かったワールド・ベースボール・クラシックを意識した掲載も多く、スナックメニューや対戦国をイメージしたレシピの提案が目立っていた。

【4月】
 「ゴールデンウィーク」「行楽」や大型連休を意識した「家族団らん」「ごちそう」企画が目立った。年々掲載が増えている「春土用」は安定して掲載され、一方で以前は「ポストハロウィン」とも言われた「イースター」は、卵料理以外に決め手が無いこともあり、掲載数を減らしていた。「新生活」提案は新学期の定番企画で、それに合わせた「朝食」「手軽・簡単」の掲載は変わらず多かった。以前は「和食vs洋食」が基本だったが、グラノーラやオートミールなどが定着したこともあり、さまざまなメニュー提案が紙面をにぎわせるようになった。

【5月】
 「ゴールデンウィーク」の掲載は大きく数を伸ばし、「バーベキュー」で掲載頻度が上がった品目も多数見られた。「母の日」は各小売業者で大きく掲載され、惣菜も含めたさまざまなメニューと、それに合わせたスイーツや酒類が幅広く提案されていたが、その中でも「サラダ」の提案は目立っていた。「母の日」以降は大きなイベントがないこともあり、「漬物・果実酒」企画が多く見られた。初夏を迎え、気温上昇に合わせて掲載が増加する「スタミナメニュー」や「涼味」提案と併載されることも多く、地味ながら安定した掲載となっていた。

【6月】
 6月唯一の大型イベントである「父の日」は、以前までは肉やボリュームのあるメニュー一辺倒だったが、最近は健康関連商品やスイーツ掲載など提案の幅が広がっている印象を受けた。「父の日」以降は「スタミナ」「涼味」提案が増え、高気温の季節を意識したチラシ構成が進んでいた。環境月間ということもあり、「SDGs」「エシカル消費」「サステナブル」などをキーワードにした企画も多く見られた。また、直産などに取り組む小売業者もあり、注目度が高い企画となっていた。

【7月】
 「土用」はウナギの蒲焼の予約販売を狙った先行提案も多く、当日の号外チラシが発行されるなど、変わらず人気企画であった。ウナギの稚魚の価格高騰や産地の(こだわ)りによる差別化も進み、惣菜でありながらも専門店並みの価格でチラシ掲載される一方で、販売競争の激しさからポイントアップなどの施策も度々見られた。「(はん)()(しょう)」「七夕」「涼味」などの定番企画も紙面をにぎわせていたが、値上げの影響による生活防衛を意識させる紙面も多く、「まとめ買い」「よりどり」「均一」といった価格訴求系のタイトル掲載も増加傾向にあった。

【8月】
 最重要企画である「盆」は、帰省などによる人流が前年以上に活発になったこともあり、アフターコロナを実感させるタイトルが多数見られた。「おもてなし」や「家族団らん」をテーマに「焼肉」「寿司」などの「ごちそう」提案が中心となっていた。そのほかでは、「中華」「韓国」「アジアン」企画も多く、本格的な手作りレシピや惣菜の提案が度々見られ、価格訴求に頼らないための新しい、なおかつ目を引く珍しいメニュー提案に積極的な小売業者が見られた。

【9月】
 「彼岸」「十五夜」「敬老の日」が毎年の人気企画となるが、令和5年は10月の酒税法改正に合わせた、新ジャンル(第3のビール)とワインの酒税の値上げ前のまとめ買い訴求が早期から目立っていた。また、ラグビーワールドカップの開催もあり、酒類の掲載が目立つ月となった。下旬からは旬の味覚訴求が中心となり、「鍋」「おでん」「シチュー」などの「あったか」メニューの掲載がスタートし、店頭も紙面も季節感は秋へと切り替わった。

【10月】
 夏日、真夏日が連続し、秋の気配が感じにくい10月だったが、チラシ紙面は「鍋」を中心に「あったか」メニューの提案が本格的にスタートしていた。前半は「ビールの値下げ」を強くアピールする小売業者もあり、酒税法改正の影響が当月も見られた。10月10日はさまざまな記念日に制定されているため、「まぐろの日」「トマトの日」「お好み焼きの日」を中心に「食の記念日」としてくくる形での掲載が多く、メイン企画として据える小売業者も多数見られた。定番の大型企画となった「ハロウィン」は、令和5年も多数のチラシ紙面をにぎわせていた。

【11月】
 定番の「鍋」を紙面の主役にしつつ「チーズの日」「鮭の日」などの11月11日に制定されている記念日や「七五三」「ボージョレ・ヌーボー解禁」「ブラックフライデー」などが紙面をにぎわせていた。秋冬は「鍋」の提案に偏りがちだが、「ボージョレ・ヌーボー解禁」は洋食メニューを大きく掲載する機会のため、永く注力企画として扱われている。また、ここ数年で認知度が上がった「ブラックフライデー」は採算度外視の均一価格で生鮮や加工食品の掲載が多く見られた。

【12月】
 値上げを意識した「生活応援」企画が随所で見られるものの、前半はボーナス支給を意識した「ごちそう」「贅沢」提案で1ランク上の食材やメニューの掲載が目立った。中盤は「クリスマス」に加え「冬至」「鰤の日(12月20日)」、後半は「歳末・年越し」が紙面の主役となっていた。超大型イベントである「クリスマス」の洋食提案、「歳末・年越し」のまとめ買い、「正月」準備に注目しがちだが、「鰤の日」「冬至」企画を採用する小売業者も非常に多く、和食メニューの大型掲載に取り組む事例も多く見られた。

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3 価格動向とチラシ販促企画の実施状況
(1)母の日(5月第2週)
ア 卸売価格動向

 5月は、多くの品目で中旬まで春作型の入荷最盛期になることから、市場入荷量は安定し、春季の中でも比較的安定した卸売価格となった。令和5年5月の同価格については、生育中期以降が温暖に推移したことで順調な生育となったため、多くの品目で中旬以降下げに転じ、市場入荷量が多かった「たまねぎ」を中心に平年を下回ったことから、指定野菜全体では平年を下回った。
 
イ チラシ掲載傾向
 母の日は1年の中でも大型販促企画の一つであり、紙面はカーネーションカラーの「赤・ピンク」をベースに「トマト」「牛肉」「サーモン」「まぐろ」「寿司」「ピザ」といった商品掲載が目立った。企画の特徴として「家族・団らん」をテーマとした企画が多く、父と子が調理に参加しやすい「サラダ」「ステーキ」「カレー」といったメニューが目立った。「サラダ」提案では、「トマト」の掲載が多く、「ありがトマト」「花言葉は感謝」といったフレーズが度々見られた。また、惣菜の掲載も充実し、母の日限定商品も多く掲載されていた(表5、6、図1)。
 
ウ 市場価格とチラシ掲載率
 「カレー」提案に必須である「たまねぎ」は、卸売価格および小売価格とも安値で推移したことから、チラシ掲載率が大幅に増加した。「なす」は、4月までは成り疲れで市場入荷量が伸び悩んでいたが、5月に入り着果量が回復したことにより安定してきたことから、チラシ掲載率が増加した。「にんじん」は、干ばつ傾向でやや市場入荷量が伸び悩んだことから卸売価格が平年を上回り、小売価格も高くなっていたものの、「カレー」にはなくてはならない材料であることから、チラシ掲載率は前年並みとなった(表7)。
 
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(2)野菜の日(8月第5週)
ア 卸売価格動向
 8月は、果菜類が全国各地から市場入荷するものの、比較的冷涼な気候を好む葉茎菜類などは高冷地を中心とした産地からの入荷が中心となることから、大きな増減もなく市場入荷量は比較的安定しており、卸売価格も一年のうちで安定して高い時期となる。令和5年8月の同価格は、きゅうりなど一部の果菜類やレタスは安定した入荷量となったものの、各産地とも著しい高温・干ばつで推移したことから、根菜類や葉茎菜類を中心に入荷量が伸び悩んだことにより平年を上回ったことから、指定野菜全体では平年を上回った。
 
イ チラシ掲載傾向
 昭和58年に制定された「野菜の日(8月31日)」は、消費者の健康志向の高まりや、国や業界団体などによる野菜の消費拡大に向けた取り組みにより知名度が上がり、チラシ上でも多くの小売業者で掲載が見られた。同時期に「焼肉の日(8月29日)」もあり、2つの記念日を併載するパターンも多々見られた。最近では、「野菜を1日350グラム以上食べよう!」をテーマに企画展開されることも多く、掲載品目も多種にわたり、メニュー提案も定番から多角的なものまで幅広く展開されている(表8、9、図2)。
 
ウ 市場価格とチラシ掲載率
 野菜の日の企画で最も多くメニュー提案される「サラダ」は、夏野菜として定着している果菜類を中心に、定番のサラダ商材である「レタス」のチラシ掲載率が高い。
 品目別に見ると「トマト(大玉)」は、小玉傾向ながら生育が前進して市場入荷量が多く、卸売価格および小売価格とも前年を下回り、チラシ掲載率が前年を上回った。一方、「レタス」および「ピーマン」は、生育期の干ばつの影響により市場入荷量が伸び悩み、卸売価格および小売価格とも前年を上回り、チラシ掲載率が前年を大きく下回った(表10)。
 
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(3)クリスマス(12月第4週)
ア 卸売価格動向

 12月は、葉茎菜類を中心に、関東以南の平坦地などを中心とした秋冬作型が終盤となることで市場入荷量も落ち着いてくる。一方、同作型の入荷最盛期で一年のうちで最も卸売価格が低くなる11月からの価格回復期になることに加え、市場入荷量が比較的多くない中で下旬は需要期に入ることから、卸売価格は年末に向かって上がっていく。令和5年12月の同価格は、これまでの高温・干ばつにより生育が遅れていた「ねぎ」が、市場入荷量が伸びてきたことから平年を下回ったものの、葉茎菜類や果菜類等を中心に、生育初期の高温・干ばつ、その後も干ばつ傾向で推移したことにより生育が遅れ、市場入荷量が伸び悩んだことで、平年を上回ったことから、指定野菜全体では平年を上回った。
 
イ チラシ掲載傾向
 クリスマスは、チラシ上でも1年のうちの大型企画の一つであり、当週は非常に多くのチラシが発行され、年末年始、ゴールデンウィーク、節分に次ぐ発行数であった。サンタクロースやツリーを想起させる「緑」と「赤」を基調とした華やかな紙面構成になり、掲載野菜も同系色の掲載が目立つ。メニューは「チキン」を中心に、「ステーキ」や「ピザ」など洋食がメインだが、「寿司」の掲載も多く、和洋混在の構成になっている。肉類メニューと相性の良い「サラダ」では、「ツリーサラダ」「リースサラダ」といったクリスマスオリジナルの提案も多数見られた(表11、12、図3)。
 
ウ 市場価格とチラシ掲載率
 「サラダ」は、主な材料であるレタスなどの卸売価格および小売価格が高くなったことからチラシ掲載率が前年を下回った。一方、強い寒気の流れ込みで中旬から気温が大きく低下したことから、「シチュー」のチラシ掲載率は前年を上回った。品目別に見ると、サラダメニューの主な材料である「レタス」は、11月までの生育前進や干ばつによる市場入荷量の減少により、多くの品目のチラシ掲載率が前年を下回る中、卸売価格および小売価格が高値で推移していたものの、チラシ掲載率は前年並みとなった。「シチュー」でも利用される「はくさい」は、卸売価格および小売価格とも前年を上回ったものの、他の品目より対前年の価格変動が比較的小さかったことから、チラシ掲載率は前年を上回った。一方「たまねぎ」は、生育期の高温・干ばつの影響により不作傾向で市場入荷量が減少し、卸売価格および小売価格ともに高値になり、チラシ掲載率が前年を大きく下回った(表13)。
 
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(4)鍋
ア チラシ掲載傾向

 令和5年のチラシ掲載回数を見ると、1月は3桁台で、2月は2桁台となり、暖候期の3月は1桁台となった。8月から2桁台に増加して12月にピークを迎えた。近年はスタミナメニューや冷房で冷えた体を温めるメニューとして夏にも掲載が見られる。メニューの土台には鍋つゆがあり、具材の組み合わせを変えるだけで「寄せ鍋」「キムチ鍋」「もつ鍋」といった定番鍋から、変わり種鍋まで多種類の提案が可能なため、小売・消費者側ともに提案・導入がしやすく、シーズンを通して多くの掲載が見られる。また、「節約」「手軽・簡単」といったテーマでも鍋メニューは多く登場し、昨今の値上げにも役立つ提案がされている(表14、図4)。
 
イ 市場価格とチラシ掲載率
 鍋の主な材料となる品目を見ると、高温・干ばつで不作傾向となった。卸売価格および小売価格ともに前年を上回った「ねぎ」は、年間を通して掲載率は前年を下回った。最も掲載率の高かった月は、令和4年が12月であったことに対し、令和5年の12月は卸売価格および小売価格が年間で最も前年を上回ったことで掲載率が減少したため、厳寒期に入る1月となった。「はくさい」は、「ねぎ」よりも価格の上げ幅が少なかったことから、2月および11月の掲載率は前年を上回った。年間で最も掲載率が高かった月は、令和4年が12月であったことに対し、令和5年は、高温・干ばつで遅れていた秋冬作型のものが入荷したことで市場入荷量が徐々に増え、市場価格が落ち着いてきた11月となった(表15)。
 
タイトル: p051a

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(5)サラダ
ア チラシ掲載傾向

 令和5年のチラシ掲載回数を見ると、定番メニューであることから2桁台を下回ることはなく、一年を通して多かった。歳時と連動した掲載も多く、「クリスマス」企画の12月、「母の日」「GW」のある5月に掲載回数は多くなる。昨今の健康志向の高まりから「サラダ」単体での提案も多く見られるようになり、肉類や鮮魚を組み合わせた主菜の役割を担うようなボリューム感のある提案も見られる。また、メーカーとのコラボレーションなど、購入を促すキャンペーンでの掲載も見られた。アレンジ用の素材やドレッシングなどの掲載は多彩で、食卓や食味の変化を促す機会提案にもなっている(表16、図5)。
 
イ 市場価格とチラシ掲載率
 サラダの主な材料品目をみると、「レタス」はほぼ一年中掲載率が2桁台で推移している。年間で最も掲載率の高かった月は、前年の令和4年が12月であったことに対し、令和5年は、春作型が気温の上昇により入荷前進となったことで市場入荷量が安定し、卸売価格および小売価格とも前年を下回った5月となった。「トマト(大玉)」も、一年を通じて掲載率は2桁台で推移していたが、令和5年10月は、夏秋作型が高温・干ばつの影響による生育不良のため市場入荷量が減少し、卸売価格および小売価格とも前年を上回ったことから、掲載がなかった。年間で最も掲載率の高かった月は、前年の令和4年が5月であったことに対し、令和5年は卸売価格および小売価格は前年を上回っていたが、冬春作型の市場入荷量が安定していた3月となった(表17)。
 
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タイトル: p052b

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(6)カレー
ア チラシ掲載傾向

 令和5年のチラシ掲載回数を見ると、一年を通して多いが、中でも1月が最も多く、正月明けの定番メニュー提案や「受験」「カレーの日(1月22日)」関連での掲載が見られた。また、5月の「母の日」、7月の「七夕」「夏野菜」関連での掲載も多く見られた。12月は生育期の高温により不作になった「ばれいしょ」や「たまねぎ」などの貯蔵ものの市場入荷量が少なくなった影響もあり、掲載数が1桁となった。定番カレーのほか、スパイスを使った「本格カレー」、北海道フェアでの「スープカレー」、冬の時期には「シチュー」との合同企画も多く見られた。また、副菜として「サラダ」が同時に掲載されるパターンも多く見られた(表18、図6)。

イ 市場価格とチラシ掲載率
 カレーの主な材料品目をみると、「にんじん」は、一年を通じて掲載率は2桁台で推移しているが、年間で最も掲載率の高かった月は、前年の令和4年が5月であったことに対し、令和5年は卸売価格および小売価格とも前年を上回ったものの、生育期の気温高により、冬作型の市場入荷が安定した1月だった。「ばれいしょ」も、一年を通じて掲載率は2桁台で推移しているが、年間で最も掲載率の高かった月は、前年の令和4年が5月であったことに対し、令和5年は小玉傾向ながら、貯蔵ものおよび新ものの市場入荷量がともに安定し、卸売価格および小売価格とも前年を下回った1月となった。「たまねぎ」も、一年を通じて掲載率は2桁台で推移しているが、年間で最も掲載率の高かった月は、前年の令和4年が12月であったことに対し、令和5年は貯蔵ものの残量がある中、天候に恵まれて前進傾向となった即売ものが安定して入荷したことから、卸売価格および小売価格とも前年を下回った5月となった(表19)。
 
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タイトル: p054b

タイトル: p054c
 

4 まとめ

 令和5年は社会生活が「ウィズコロナ」に移行してきたことから、前年以上にチラシを活用した販促企画による集客強化が行われた。野菜のチラシ掲載傾向をみると、多くの小売業者で8月31日の「野菜の日」の掲載が多く、掲載品目も多岐にわたっていた。チラシにおける品目の掲載は、チラシ企画時期に市場入荷が最盛期を迎える品目が多くなるとともに、掲載に当たっては卸売価格に左右される傾向がある。顕著な例として、本来は彩りとして掲載率が高い「トマト(大玉)」は、令和5年10月は夏期の高温・干ばつの影響により市場入荷量が大幅に減少し、卸売価格が平年を大幅に上回ったため、最も野菜を取り上げやすい「サラダ」企画への掲載がなかった。また、令和5年12月は「たまねぎ」を中心に、多くの品目で生育前進や干ばつによる市場入荷量の減少によってチラシ掲載率が前年を下回っていた一方で、クリスマスに肉類メニューと併せて多く掲載される「サラダ」の主な材料である「レタス」は、卸売価格および小売価格が高値で推移していたにも関わらず、チラシ掲載率は前年並みであるなど、小売業者の販促企画の意向によっては、卸売価格に左右されない品目も見られることが分かった。
 
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タイトル: p055b
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タイトル: p058
 
〈詳細〉
機構ホームページ「チラシからみる小売業者における野菜の販売促進企画実態調査」
https://www.alic.go.jp/y-gyomu/yajukyu02_000176.html
 
〈参考データ〉
株式会社チラシレポート「チラシタイトル100」
https://www.chirashi.co.jp/service/title/
 
農畜産業振興機構「野菜小売価格動向調査(月別調査報告書)」
https://vegetan.alic.go.jp/retail-price-trends/price-trend-survey.html