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調査・報告 野菜情報 2024年6月号

青果物卸売業者によるカット野菜事業の展開~岡山県倉敷市の倉敷青果株式会社を事例に~

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日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 食品科学科 教授 木村 彰利

【要約】

 本稿においては、地方卸売市場の青果物卸売業者である倉敷青果株式会社(以下「倉敷青果」という)および同社を中心に構成されたクラカグループを事例として、卸売業者によるカット野菜への事業への取り組みと、グループ企業を通じた原料野菜の生産について調査を行った。
 倉敷青果(倉敷青果荷受組合)では、従来からスーパーを中心に青果物の卸売業務を行ってきたが、1998年からは自社内に洗浄野菜プロジェクトチームを設置してカット野菜の製造を行っている。その後、同社は施設に関してもカット工場やプロセスセンター(集出荷貯蔵施設)などを順次設置しているが、青果物の卸売業務とカット野菜の相乗効果もあって、経年的に取扱額を拡大させながら現在に至っている。その一方で、卸売業者としての倉敷青果には将来的な集荷量の確保や端境期対策、県内産品の県内消費拡大などの課題があるだけでなく、カット野菜事業においても従業員の確保や収益性の確保などが求められている。
 クラカアグリ株式会社(以下「クラカアグリ」という)による野菜生産については、岡山県内の中山間地を含む遊休農場を活用しながら、青ねぎやキャベツなどを生産し、倉敷青果に対して加工原料野菜として供給している。そしてこのような取り組みを通じて、国産原料野菜の安定調達や消費拡大が図られている。

1 はじめに

 わが国の供給熱量ベースの食料自給率は、ここ数年は4割弱で推移しているが、野菜などの生鮮食品に関しては生産額ベースの自給率が比較的高い。しかし、野菜であっても加工原料については価格的な問題もあって輸入品の使用比率が高く、このため国産原料率の向上が課題となっている。一方、青果物の基幹的流通機構とされる卸売市場については、経由率が経年的に低下する傾向にあり、2019年には果物を含む青果計で53.6%、野菜では63.2%にまで減少している(注1)。そして、市場ごとの動向では当該市場の所在地や規模などによる傾向の差異が大きく、なかでも地方都市の中小規模市場において取扱額の減少は顕著である。しかし、卸売市場は青果物の集荷および分荷に加えて、価格形成といった重要な機能を担っており、生産者および出荷団体の販売先や量販店などの仕入先として今後ともその役割を果たしていくことが求められることから、不断に卸売市場の効果的な活性化方策について検討していく必要がある。
 このため、本稿においては、国産加工原料野菜の利用促進や卸売市場の活性化方策について検討するための一知見として、岡山県倉敷市に所在する地方卸売市場の卸売業者である倉敷青果とその関連企業で構成されるクラカグループを事例に、卸売業者が展開する国産野菜を原料としたカット野菜事業と、グループ企業による原料野菜生産について報告したい。
 
注1:「令和3年度卸売市場データ集」P19による。

2 クラカグループの概要と取扱額の動向

(1)クラカグループの概要
 クラカグループの構成企業は表1の通りとなる。同グループは合計5つの企業および組合によって構成されており、具体的にはグループの起源であるとともに現在では不動産事業やレジャー事業を展開するクラカコーポレーション株式会社、卸売市場の卸売業者として青果物の受託集荷を担うとともにカット野菜の生産・販売を行う倉敷青果、グループの資産管理や運用を担う倉敷青果荷受組合、青果物を原料としてドレッシングなどの製造・販売を行うことに加えて近年はフィットネスクラブの運営も行うクラカフレッシュ株式会社、野菜生産を担うクラカアグリからなっている。

タイトル: p051
 
 同グループの現在に至るまでの経緯についてまとめたものが表2である。その起源は、1932年に砂糖の卸売業者として創業した吉田商店に始まる。なお、同商店は後に吉田商事株式会社となり、さらに1988年には現社名であるクラカコーポレーション株式会社へと名称を変更している。戦後間もない1946年には青果市場の運営主体として倉敷青果荷受組合を設立し、青果物卸売業者として集分荷業務を開始した(注2)。そして1986年に同組合は、他1社とともに新たに認可された倉敷地方卸売市場の卸売業者となっている(注3)。また、2021年には倉敷青果荷受組合の出資により新たに倉敷青果を設立するとともに、青果物の卸売業務およびカット野菜の製造・販売業務が同組合から新会社へと譲渡されている(注4)。青果物に関連する企業としては、1982年に卸売市場の分荷機能向上を目的として、仲卸業者であるクラカフルーツ株式会社とクラカフレッシュ株式会社を設立したが、これらは2013年に統合されるとともに、現在では加工食品の製造・販売へと業務内容が変化している(注5)。最後にクラカアグリ株式会社は、2015年の農地法改正を機に、2016年に農地所有適格法人として設立し、後述するように岡山県内で農地を所有・借入しながら加工原料野菜の生産を行っている。なお、これらのグループ企業はいずれも2010年に新設された本社屋に収容されている(写真1)。

注2:1946年当時の市場所在地は現在地ではなく、JR倉敷駅に近い場所に設置されていた。
注3:その後、倉敷地方卸売市場の他の卸売業者は廃業し、2020年からは倉敷青果荷受組合(現在の倉敷青果)の1社制となっている。
注4:倉敷青果荷受組合は卸売業務を倉敷青果に譲渡しているが、これまでに農林水産省補助事業等の事業実施主体であった関係もあり、現在においても実態のある組織として存続している。
注5:現在の倉敷市場に仲卸業者は存在しないが、クラカフレッシュは倉敷青果がスーパーに納品する青果物のパッキングを行うなど仲卸業者と似た機能を担っている。


タイトル: p052
 
(2)クラカグループの取扱額
 クラカグループの2022年における取扱額は、前掲の表1にあるように総額でおおよそ214億円、このうち青果関連は168億3000万円であることから、全体の79%を占めている。取扱額の経年動向について確認すると図1のとおりである。同グループの取扱額は2013年に134億185万円であったものが、2016年には186億7861万円にまで拡大している。その後は一時的に数値を落としながらも拡大傾向で推移し、直近の2022年では213億5927万円となっている。
 同じく倉敷青果の取扱額の動向を確認すると、2013年の92億8389万円から、2022年には144億6490万円と1.56倍に拡大している。近年は地方の卸売市場の業績が低迷する傾向にある中で、同社の動向は注目に値しよう。カット野菜事業の取扱額については、2013年に26億9154万円であったものが2022年には49億4597万円と1.84倍にまで拡大している。そして、このようなカット野菜を含む青果関連の取扱額拡大の要因として、スーパーにとって倉敷市場を利用した場合、青果物だけでなくカット野菜も調達できるという相乗効果が考えられる。

タイトル: p053

3 倉敷青果の概要と課題

(1)倉敷青果の概要
 倉敷青果の概要について取りまとめたものが表3である。同社の所在地は倉敷市西中新田であり、同地はJR倉敷駅の南2キロメートル程の場所にあたる。また、市場の300メートルほど東側に倉敷市役所があるように、市域のほぼ中央に位置している。また、市場の南側には国道2号の岡山バイパスが通るなど、交通の便の良い場所ということができる(注6)
 すでにみたように、倉敷青果の2022年における取扱額は145億円弱であるが、同年における岡山市中央卸売市場の青果物取扱額(2社計)が206億1780万円であることを踏まえると、同社が県内でも有数の市場であることは明らかであろう(注7)。なお、同社においては合計351人が雇用されているように、その特徴として取扱額に対する従業員数の多さが挙げられる。そして、これらの多くは野菜のカット加工を担当するパートタイマーなどによって占められている。また、従業員には103人の外国人が含まれているが、これらは技能実習生や特定技能外国人、地元大学などの留学生となっている。
 倉敷青果の集分荷については、その取扱規模の大きさもあり、全国のJAなどから比較的広域な集荷を行うとともに、産地出荷業者や場外流通業者、他市場、輸入商社など多様な業態からも集荷している。また、分荷については岡山県および中国・四国地方にチェーン展開するスーパーを中心に販売している。なお、同社においては相当以前からセリ取引は行わず、全量を相対によって販売している。
 同社の施設について確認すると、卸売場(写真2)に併設して第1~第3のプロセスセンター(写真3)やバナナ熟成室を設置している。これら施設においては、管理された温度帯のもとで貯蔵やピッキング(受注商品を揃える作業。写真4)、追熟作業などを行っていることに加えて、後述のカット野菜製造業務でも使用している。

注6:国道2号の岡山バイパスは岡山市東区浅川と倉敷市中島字大西を結ぶ延長38.3キロメートルのバイパス道路である。
注7:「令和4年度岡山市中央卸売市場年報」による。


タイトル: p054
 
(2)倉敷青果の課題
 ここで、倉敷青果が指摘する青果物の卸売業務の課題についてまとめるとおおよそ以下のとおりである。
 第1に、倉敷市の人口は約50万人の規模であるが、市場の集荷力が供給圏域の人口に比例すると考えるならば、関西や中京地方の拠点市場と比較してその集荷力の差は歴然である。このような中で、将来的にいかに集荷力を維持していくかが問われている。
 第2に、産地からの集荷に端境期が存在し、産地が切り替わる時期における必要数量の集荷が難しく、特に近年は天候不良による影響が大きいとのことである。このような中で安定的な集荷を実現するためには、新たな産地を開拓することによる周年集荷体制の維持・構築が求められる。
 第3に、周年集荷とも関連するが、岡山県内の園芸産地を振興するとともに、同社への集荷を通じて県産品の県内消費拡大を促進していく必要がある。
 第4として、直近の課題として物流の2024年問題が市場にどのような影響を及ぼすかを注視している。将来的にJAなどの出荷が拠点市場に集中すれば、中小市場は転送集荷に依存することになり、輸送費や輸送時間などの面で不利な状況に置かれることも想定される。

4 倉敷青果のカット野菜事業

(1)カット野菜事業開始の経緯
 倉敷青果がカット野菜事業を開始したのは、表4で示すように1998年からである。なお、1998年から2021年までの間は倉敷青果ではなく倉敷青果荷受組合がカット野菜事業を行っていたが、読者の混乱を避けるため、本稿のこれ以降の記述においては2021年以前であっても倉敷青果で統一したい。
 倉敷青果がカット野菜事業を開始した1998年当時は、JAの広域合併に伴う出荷先市場の集約化によって地方都市の市場は集荷量が減少し、同社においても1991年頃をピークに集荷量の漸減が生じていたことから、市場活性化に向けた何らかの対応が求められていたことが取り組みの背景にある。その一方で、当時から同社の販売先はスーパーが中心であったが、これら販売先から惣菜原料としてカット野菜の納品が求められていたことに加えて、かつてJR倉敷駅の北側に存在したテーマパーク内の飲食店からカット野菜に対する要望が寄せられたことも一因となっている。さらに、市場に入荷する青果物は例えば2Sから4Lというように、多種類の規格のものが含まれているが、実際にはMやL、2Lなど、比較的数量の揃うものでなければスーパーへの販売は難しく、いわゆる「(すそ)もの」の販路に苦慮していたこともカット加工が行われた理由の一つとなっている。
 このため倉敷青果では、社内に野菜のカット加工に対応する部署として、7人の職員からなる「洗浄野菜プロジェクトチーム」を組織することにより、取り組みを開始することになった。また、開始時は現在のように事業として拡大するとの予測がなかったことから、当初は独立した加工施設を設置せず、既存の卸売場の一角を延伸パネルで覆うことにより確保した32平方メートルほどのスペースに、洗浄野菜工場(現カット野菜部第1工場)を設けた。
 
(2)カット野菜事業の成長
 上記のような経緯で開始したカット野菜事業であるが、その後は第2節でみたように取扱額を拡大させ、2008年には10億円を超えるまでになっている。そして、この頃には社内でも将来的に有望な業務と評価されるようになり、卸売場内の施設も繰り返し増設しただけでなく、2010年には洗浄野菜プロジェクトチームを発展的に改組して「カット野菜部」を発足した。それと同時に、表4および表5で示すように、新たにカット野菜部第2工場を新設し、さらに2018年にはカット野菜部新設第1工場を設置するなど、業務拡大に併せた施設整備をしている(注8)

注8:これらは倉敷青果のホームページなどとの表記とは異なるが、本稿においてはカット野菜工場の名称をカット野菜部第1工場、同第2工場、同新設第1工場で統一した。

タイトル: p056
 
(3)カット野菜事業の現状
 以下では倉敷青果のカット野菜事業の現状について報告する。最初に原料野菜の調達から確認すると、同社のカット野菜は総計130アイテムにも及んでいることから、使用する原料野菜の種類も多く、その仕入先を一概に述べるのは難しいとのことである。しかし、その多くは同社の蔬菜(そさい)部をメインの調達先としながら、必要に応じて他市場や場外流通業者などを組み合わせて野菜の調達を行っている。また、調達に当たっては、国産を優先しており、輸入品は一部の品目に限定される。一方、原料野菜の品質維持や数量的な安定調達を実現するため、2009年からは生産者との契約栽培を行うだけでなく、2016年以降は後述するようにクラカアグリを設立し、クラカグループとして野菜生産に参入している。
 次に、カット野菜の販売先構成についてみると、図2のとおりである。最も構成比の高いのはスーパー・コンビニエンスストアなどの41%であるが、これにはコンシューマーパック(一般消費者用商品)として販売されるものに加えて、スーパーが自社で製造する惣菜・弁当類の原料として納品するものも含まれている。また、図示していないが、コンシューマーパックは全体の26.1%を占めており、これらは倉敷青果が自社ブランドとして販売するものがある一方で、スーパーやコンビニエンスストアの仕様により調製し、プライベートブランド商品として納品されるものも含まれている。次いで構成比の高いものが弁当・惣菜製造業者と外食業者の各22%となるが、前者には弁当・惣菜などに加工した後に、最終的にスーパー・コンビニエンスストアで販売されるケースが含まれている。なお、外食業者のなかには広く中国・四国地方にチェーン展開する業者も存在している。そして残りの15%は、事業所給食受託業者となっている(写真6)。

タイトル: p057

タイトル: p058
 
(4)カット野菜事業の課題
 倉敷青果のカット野菜事業は、取扱額の推移に明らかなように、これまで比較的安定的に拡大してきたといえるが、課題も存在している。具体的には、同社の従業員に技能実習生や留学生を含む外国人労働者が多いことはすでにみたが、これは言い換えれば長期雇用が可能な人材だけでは必要とするスタッフを確保できないことを意味しており、今後、安定的な雇用を確保していくことが課題となっている。また、近年は最低賃金の引き上げが話題となっているが、これは雇用する側の人件費拡大につながるものである。さらに経費に関しては、一昨年以来の円安も影響して、近年は資材費、水道・光熱費などの諸経費が軒並み高騰している。その一方で、カット野菜は販売先と通年価格で契約するケースが一般的であるだけでなく、販売先に価格の引き上げに応じてもらえるとは限らないことから、経費の高騰は収益性に大きな影響を及ぼすことになる。
 以上から、カット野菜事業は将来的な雇用の確保に加えて、収益性の確保が課題として挙げられる。

5 クラカアグリによる原料野菜生産

 最後に、岡山県内の遊休農地を活用して野菜の生産を行うクラカアグリについてみておきたい。同社は、加工原料野菜の安定調達を目的として2016年に設立した。その概要は、前掲の表1にあるように、8人の正社員と技能実習生を含む12人のパートタイマーなどを雇用しながら野菜生産を行っており、年間販売額はおおよそ1億2000万円となっている。
 同社が管理する圃場(ほじょう)については表6のとおりであり、倉敷市内に2カ所、総社(そうじゃ)市、岡山市、小田郡矢掛(やかげ)町にそれぞれ1カ所の計5カ所、面積は合計21.36ヘクタールとなっている。ちなみに、これら圃場の多くは地域の遊休農地であるだけでなく、矢掛圃場は耕作放棄地となりやすい中山間地に所在する。また、2029年には岡山県北部の新見市に10ヘクタールの圃場を設置することを予定している。これらの圃場では、カット加工用として青ねぎ、キャベツ(写真7)、たまねぎ、かんしょなどを、生食用としてはスイートコーンを栽培している。これらの品目のうち、同社が力を入れているのが青ねぎであり、その作付面積を拡大させるとともに、加工処理能力を向上させるため、2021年には青葱集出荷調製施設(表5参照)を設置するなど、販売先のニーズの変化を踏まえた対応を行っている(注9)(写真8、9)。

注9:クラカアグリが青ねぎ生産を拡大した理由として、カット加工ねぎの販売先であるうどんチェーンが、かつての中国産から国産に切り替えた点があげられている。

タイトル: p059
 

6 おわりに

 本稿では倉敷青果によるカット野菜事業と、グループ企業による原料野菜生産について報告した。前述のような取り組みによって、同社は青果物流通が厳しさを増すなかで取扱額を拡大してきただけでなく、原料野菜の契約栽培により、安定した原料調達の実現や、国産野菜の消費拡大を促進したということができる。そして卸売業者による加工業への進出は、定率の手数料が収益となる卸売業と異なり、加工食品には大きな付加価値がつくことから、会社の収益性向上にもつながったと考えられる。また、クラカアグリによる遊休農地を活用した農業参入は、農業の生産現場で問題となっている耕作放棄地などの解消も期待されるところである。
 以上から、本稿で報告したクラカグループの取り組みは、国産野菜の生産振興や消費拡大を推進するうえで重要な知見になると考えられる。ただし、その一方で人材確保が難しくなりつつあることに加えて、人件費や資材費などの高騰といった問題があり、さらには物流の2024年問題などにも直面していることから、将来にわたって安定的な経営環境を維持していくことが課題とされる。
 
謝辞:本稿の作成に係るヒアリングに当たっては、倉敷青果株式会社カット野菜部の寺田幸司部長にご協力をいただいた。また、圃場訪問に際し、同じくカット野菜部の久郷元治氏とクラカアグリ株式会社の岡聡一朗氏にご協力をいただいた。ここにおいて改めて感謝を申し上げる。