(1)カット野菜事業開始の経緯
倉敷青果がカット野菜事業を開始したのは、表4で示すように1998年からである。なお、1998年から2021年までの間は倉敷青果ではなく倉敷青果荷受組合がカット野菜事業を行っていたが、読者の混乱を避けるため、本稿のこれ以降の記述においては2021年以前であっても倉敷青果で統一したい。
倉敷青果がカット野菜事業を開始した1998年当時は、JAの広域合併に伴う出荷先市場の集約化によって地方都市の市場は集荷量が減少し、同社においても1991年頃をピークに集荷量の漸減が生じていたことから、市場活性化に向けた何らかの対応が求められていたことが取り組みの背景にある。その一方で、当時から同社の販売先はスーパーが中心であったが、これら販売先から惣菜原料としてカット野菜の納品が求められていたことに加えて、かつてJR倉敷駅の北側に存在したテーマパーク内の飲食店からカット野菜に対する要望が寄せられたことも一因となっている。さらに、市場に入荷する青果物は例えば2Sから4Lというように、多種類の規格のものが含まれているが、実際にはMやL、2Lなど、比較的数量の揃うものでなければスーパーへの販売は難しく、いわゆる「
裾もの」の販路に苦慮していたこともカット加工が行われた理由の一つとなっている。
このため倉敷青果では、社内に野菜のカット加工に対応する部署として、7人の職員からなる「洗浄野菜プロジェクトチーム」を組織することにより、取り組みを開始することになった。また、開始時は現在のように事業として拡大するとの予測がなかったことから、当初は独立した加工施設を設置せず、既存の卸売場の一角を延伸パネルで覆うことにより確保した32平方メートルほどのスペースに、洗浄野菜工場(現カット野菜部第1工場)を設けた。
(2)カット野菜事業の成長
上記のような経緯で開始したカット野菜事業であるが、その後は第2節でみたように取扱額を拡大させ、2008年には10億円を超えるまでになっている。そして、この頃には社内でも将来的に有望な業務と評価されるようになり、卸売場内の施設も繰り返し増設しただけでなく、2010年には洗浄野菜プロジェクトチームを発展的に改組して「カット野菜部」を発足した。それと同時に、表4および表5で示すように、新たにカット野菜部第2工場を新設し、さらに2018年にはカット野菜部新設第1工場を設置するなど、業務拡大に併せた施設整備をしている
(注8)。
注8:これらは倉敷青果のホームページなどとの表記とは異なるが、本稿においてはカット野菜工場の名称をカット野菜部第1工場、同第2工場、同新設第1工場で統一した。
(3)カット野菜事業の現状
以下では倉敷青果のカット野菜事業の現状について報告する。最初に原料野菜の調達から確認すると、同社のカット野菜は総計130アイテムにも及んでいることから、使用する原料野菜の種類も多く、その仕入先を一概に述べるのは難しいとのことである。しかし、その多くは同社の
蔬菜部をメインの調達先としながら、必要に応じて他市場や場外流通業者などを組み合わせて野菜の調達を行っている。また、調達に当たっては、国産を優先しており、輸入品は一部の品目に限定される。一方、原料野菜の品質維持や数量的な安定調達を実現するため、2009年からは生産者との契約栽培を行うだけでなく、2016年以降は後述するようにクラカアグリを設立し、クラカグループとして野菜生産に参入している。
次に、カット野菜の販売先構成についてみると、図2のとおりである。最も構成比の高いのはスーパー・コンビニエンスストアなどの41%であるが、これにはコンシューマーパック(一般消費者用商品)として販売されるものに加えて、スーパーが自社で製造する惣菜・弁当類の原料として納品するものも含まれている。また、図示していないが、コンシューマーパックは全体の26.1%を占めており、これらは倉敷青果が自社ブランドとして販売するものがある一方で、スーパーやコンビニエンスストアの仕様により調製し、プライベートブランド商品として納品されるものも含まれている。次いで構成比の高いものが弁当・惣菜製造業者と外食業者の各22%となるが、前者には弁当・惣菜などに加工した後に、最終的にスーパー・コンビニエンスストアで販売されるケースが含まれている。なお、外食業者のなかには広く中国・四国地方にチェーン展開する業者も存在している。そして残りの15%は、事業所給食受託業者となっている(写真6)。
(4)カット野菜事業の課題
倉敷青果のカット野菜事業は、取扱額の推移に明らかなように、これまで比較的安定的に拡大してきたといえるが、課題も存在している。具体的には、同社の従業員に技能実習生や留学生を含む外国人労働者が多いことはすでにみたが、これは言い換えれば長期雇用が可能な人材だけでは必要とするスタッフを確保できないことを意味しており、今後、安定的な雇用を確保していくことが課題となっている。また、近年は最低賃金の引き上げが話題となっているが、これは雇用する側の人件費拡大につながるものである。さらに経費に関しては、一昨年以来の円安も影響して、近年は資材費、水道・光熱費などの諸経費が軒並み高騰している。その一方で、カット野菜は販売先と通年価格で契約するケースが一般的であるだけでなく、販売先に価格の引き上げに応じてもらえるとは限らないことから、経費の高騰は収益性に大きな影響を及ぼすことになる。
以上から、カット野菜事業は将来的な雇用の確保に加えて、収益性の確保が課題として挙げられる。