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調査・報告 野菜情報 2024年5月号

九州地方の野菜流通におけるモーダルシフトの現状と課題

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東京農業大学 国際食料情報学部 客員教授 佐藤 和憲、 元東京農業大学大学院 大堀 耕太郎

【要約】

 九州のたまねぎ(佐賀県)とばれいしょ(長崎県)を対象とし、出荷団体と輸送関係機関の調査を通じて、出荷団体の輸送体制と輸送実態およびその課題について検討した。九州のような遠隔地のたまねぎ・ばれいしょ産地における消費地への長距離輸送で、コストを抑えながら安定的に実施するには、産地の近辺に貨物鉄道の鉄路だけでなく、貨物駅、ターミナルなどが存在することが重要な条件になる。ただし、貨物鉄道には防災対策や品質保持対策の拡充が望まれる。他方、産地サイドには、低コスト化と運送事業者に対する交渉力強化のために、輸送ロットの拡大とそれを支える組織体制の整備が必要とみられる。

1 野菜流通と物流問題の課題

 物流の2024年問題や環境負荷の軽減を背景として、野菜流通においても、トラック輸送から鉄道や船舶へのモーダルシフトが課題となっている。このため、昨年度筆者は北の遠隔地である北海道を対象として、たまねぎ産地とばれいしょ産地の実態分析を行った。それにより、出荷団体は交通立地、品目特性、出荷時期などの条件および各輸送手段の輸送能力と輸送コストに応じて、鉄道貨物とトレーラー・トラック+船舶を選択、組み合わせて利用していることを明らかにした。また、北海道では両輸送手段とも困難な問題に直面しており、その問題の解決・緩和がなければ、道外への安定的な輸送は困難となり、野菜産地の存続にも影響しかねないことを指摘した。詳細は、野菜情報2023年6月号「北海道の野菜流通におけるモーダルシフトの現状と課題」をご参照ください(https://www.alic.go.jp/content/001226078.pdf)。
 これに対して、もう一方の遠隔地である九州については、すでに行政の支援を受けたモーダルシフトの取り組みが行われているが、野菜流通の実態と問題点は必ずしも明らかにされていない。そこで本調査では、前述の北海道の調査と同じくたまねぎとばれいしょを対象とし、産地の出荷団体と輸送関係機関の調査を通じて、生産・出荷動向を概観した。そのうえで、出荷団体の輸送体制と輸送実態および課題について明らかにすることにより、モーダルシフトの推進に資する報告としたい。

2 九州におけるたまねぎ・ばれいしょの生産・出荷

 九州における野菜の品目別・県別の出荷量は図1の通りである。ばれいしょは3位、たまねぎは5位となっており、いずれも九州における主要品目となっている。
 ばれいしょの主産県は鹿児島県と長崎県、たまねぎの主産県は佐賀県と長崎県である。そこで本稿では、ばれいしょは長崎県、たまねぎは佐賀県を取り上げる。

タイトル: p055

3 佐賀県におけるたまねぎの生産・出荷

(1)生産動向
 佐賀県におけるたまねぎの産地形成は、1957年に旧諸富町(現・佐賀市)に水田裏作物として導入されたことが始まりで、1962年に有明海沿岸の平坦水田地帯である白石町に導入された後、同町を中心として県内各地に広がった。1966年には早くも国の野菜指定産地となり、1970年代に入るとマルチ栽培の普及により早生(わせ)種へと作型が広がり、作付規模の拡大につながった。こうして1990年代後半には、従来、都府県で最大の産地であった兵庫県を抜いて、北海道に次ぐ全国第2位のたまねぎ産地となった。近年、担い手の高齢化などにより作付面積、出荷量とも減少傾向にあるが、作付面積、出荷量とも全国第2位で、産出額は70億円を超えており(2021年度)、県内で第6位の品目である。
 2020年農業センサスによれば、佐賀県全体のたまねぎの作付経営体は2266戸となっている。地域別では、作付面積の8割弱、出荷量の8割強が白石町を主体とした()(とう)地区に集中している(図2)。次いで唐津・伊万里地区、佐城地区、東部地区の順となっている。

タイトル: p056
 
 たまねぎの生産者は、佐賀平野で一般的な水田作経営をベースに、米・麦・大豆にたまねぎを加えた複合経営が多くを占めている。ただし、北部の唐津地区では、傾斜地の普通畑でもたまねぎ生産が行われている。1戸当たり経営耕地面積は県平均3ヘクタール程度であるが、市町によっては平均が5~6ヘクタールに及ぶ。佐賀県全体のたまねぎの1戸当たり平均作付面積は約0.9ヘクタールであるが、中心的な産地である白石町では約1.2ヘクタールある。農協系統へ出荷しているたまねぎ生産者について見ると、作付面積が1~2ヘクタールの層が最も多いが、3~5ヘクタールの層も4割程度を占めている。さらに白石町では、15~16ヘクタールに及ぶ大規模経営も出現しているが、中小規模の生産者の減少を補うまでには至っていない。
 生産は、播種(はしゅ)→育苗→定植→肥培管理→収穫・調製→選別・出荷という体系である。播種、育苗は個々の生産者が行っており、9月中旬頃から下旬まで順次播種し、10下旬から11月中旬まで育苗している。セルトレーに播種するセル苗育苗と、苗床に直接播種する地床育苗があるが、機械移植の普及によりセル苗育苗が増加している。
 定植は10~12月にかけて行われる。あらかじめ耕うんした後で、極早生品種と早生品種には地温確保と病害防止のため平床にマルチを張っておき、そこに定植する。定植作業には半自動移植機が広く普及しているが、全自動移植機も一部導入されている。
 収穫は極早生種が3月上旬~4月上旬、早生種が4月中旬~5月中旬、中晩生(ちゅうばんせい)が5月~6月上旬にかけて行われる。作業は掘り取り→乾燥(圃場に根と外葉の着いた状態で並べる)→圃場での根茎葉の切断→選果場へ、といった手順となっている。掘り取りのみを行う歩行型掘取機は大半の生産者に普及しているが、多くの生産者はその後の根と外葉の切断を手作業で行っており、作業負担が大きい。従って、今後は作付け規模の拡大を前提として、茎葉処理機やピッカーなどの導入による機械化一貫体系の確立が課題である。
 出荷は、共同選果と個人選果に分かれる。共同選果の場合、圃場で根と外葉を切断したまねぎをコンテナに詰めて、地区の選果場に出荷される。
 
(2)集選果出荷体制
 たまねぎの出荷販売は、農協とそれ以外の商系に大別されるが、現在、農協共販率は50%程度と推計されている。農協共販にも、選果場で機械選果して出荷する共選と、個人で選別調製、段ボール箱詰めして出荷する個選があるが、現在は共選が90%を占めている。以下では農協共販の大半を占める佐賀県農業協同組合(以下「JAさが」という)の集選果出荷体制について述べていく。
 農協共販を支えるたまねぎ生産者部会は、管内の白石地区1部会、鹿島杵島地区1部会、東部地区5部会、そのほかの地区2部会の計9部会に組織されている。選果場は、白石地区3か所(写真1)、鹿島・杵島2か所、東部地区1か所に設置されている。これらのうち3か所の選果場にはたまねぎを乾燥させる強制通風式乾燥装置が、1カ所には光学式選果機が設置されている。

タイトル: p057
 
 各選果場では、共選の場合、生産者がコンテナでたまねぎを持ち込み、これを機械選果機でサイズ別に選別し、さらに目視・手作業で腐敗果などを除いたうえで、出荷用段ボール箱に詰められて卸売市場などに出荷される。個人選果の場合は、個々の生産者が選別・調製したうえで、段ボール箱に詰めて選果場などに出荷される。
 包装形態は、卸売市場への出荷が大半を占めることもあり、ほぼ全量が段ボール箱で、20キログラム箱を主体とし、一部10キログラム箱も用いられている。
 近年まで、たまねぎの出荷輸送ではトラック、JRコンテナのどちらでも、積載方法は一部を除いてベタ積みであった。しかし、運転手不足が危機的な状況となり、手作業の荷役が困難となってきたため、2023年4月からレンタル方式の11型パレット(発地から着地まで同じパレットに積載したまま輸送する「一貫パレチゼーション」対応の標準的プラスチック製パレット)を導入した。これにより、たまねぎ総出荷量4万1000トンのうち97%がパレット化された。 パレットの導入と運用に伴いコストが上昇したが、関係者で費用分担することで合意を得た。これにより、荷役作業は半分以下に省力化されたが、問題はまだ残されている。具体的には、輸送手段を問わず、パレット使用により積載率は低下するため、1箱当たりの輸送コストは上昇する。また、現行の段ボール箱は11型パレットに適合していないこともあり、荷台に箱状のボックスが乗っているトラックいわゆる「箱車」の場合はうまく積載できないという問題が生ずることもある。このため、今後は段ボール箱のサイズの微調整を行う予定であるが、これに伴い、選果ラインの改修や調整が必要となり、その費用の捻出が課題となっている。
 各選果場で箱詰めされたたまねぎの大半は卸売市場に出荷されるが、JAさがでは、青果物コントロールセンターが青果物の出荷輸送を含めた物流を一元的に管理している。たまねぎの一部は、青果物コントロールセンターで冷蔵保管され、他の品目と混載されてから、出荷されている。
 たまねぎの販路としては、600~800トンが食品メーカーに直販されているが、残りはすべて卸売市場であり、取引方法は基本的に委託・相対取引である。現在、地方別の出荷比率は図3の通りで、関東・中部地方に7割弱が集中しており、次いで九州内が2割を占めているが、これら以外の地方を合わせても1割強に過ぎない。指定卸売市場は50数社であるが、メインは20社程度で、地方別に拠点化を進め、物流の効率化を図っている。こうした出荷輸送に伴う配車業務は、青果物コントロールセンターが一元的に担っている。

タイトル: p058

4 長崎県におけるばれいしょの生産・出荷

(1)生産動向
 長崎県におけるばれいしょ栽培は、江戸時代初期に始められていたが、明治以降急増し、1979年には8570ヘクタールとピークを迎えたが、その後は減少傾向をたどり、近年は3000ヘクタール程度となっている。近年、担い手の高齢化などにより、作付面積、出荷量とも減少傾向にあるが、2021年には作付面積、出荷量とも全国3位であり、県内の品目別産出額では肉用牛に次ぎ第2位となっている。
 2020年農業センサスによれば、長崎県全体のばれいしょの作付経営体は1817戸である。県内地域別の作付面積は7割強を島原半島の雲仙市と南島原市とで占め、2割は諫早市と集中しているが、五島列島にも小規模ながら春ばれいしょの早期出荷の産地がある(図2参照)。
 ばれいしょ生産者の多くは、島原半島や諫早市の海岸沿いの傾斜地に立地する田畑作経営で、多くの地区では「春ばれいしょ+秋ばれいしょ」という、ばれいしょ年2作が一般的であるが、諫早地区では「春ばれいしょ+秋冬にんじん」、島原半島では「春ばれいしょ+冬レタス」という作付け体系もみられる。主な作型の春ばれいしょの品種は「ニシユタカ」が7割弱、「メークイン」が2割強を占めている。島原半島を主体とした秋ばれいしょの品種は、「ニシユタカ」および一部は「メークイン」である。なお、冬作トンネル栽培では「デジマ」が若干栽培されている。
 1戸当たりの経営耕地面積は、県全体の平均は1.53ヘクタールであるが、経営体数で見ると0.5~1ヘクタール層が最も多く、経営規模は全般に零細である。長崎県全体のばれいしょの1戸当たりの平均作付面積は約1ヘクタール弱あるが、主産地の雲仙市は1.36ヘクタール、諫早市が1.36ヘクタール、南島原市1.22ヘクタールといずれもやや大きい。農協系統に出荷している7割強の生産者について見ると、生産者数では1ヘクタール未満が9割強、特に0.5~1ヘクタールに集中しているという。諫早干拓地などには作付面積が数ヘクタール規模の大規模生産者もあるが、少数派にとどまっている。
 栽培体系は、12月中旬~翌年2月中旬に植付けて4月下旬~6月中旬に収穫する春ばれいしょと、8月下旬~10月上旬に植付けて11月上旬~翌年2月中旬に収穫する秋ばれいしょに大別されるが、7割以上は春ばれいしょである。生産は、植付け→マルチ張り→肥培管理→収穫・調製→選別・出荷という体系である。
 植付けは、一部の大規模生産者に半自動植付け機が導入されているが、一般的には手作業である。
 収穫は歩行型掘取機で堀り上げ、手で拾うのが一般的である。収穫されたばれいしょは、出荷用コンテナで各地区の農協または商系の選果場に出荷される。
 
(2)集選果体制
 ばれいしょの出荷販売は、農協と商系に大別される。現在、農協共販率は出荷量で55%程度と推計されている。農協共販にも選果場で機械選果して出荷する共選と、個人で選別調製、段ボール箱詰めして出荷する個選があるが、現在、 共選が9割を占めており、個選は1割程度である。以下では農協系統の集選果出荷体制について述べていく。
 共販を支えるJAの生産者部会は、JAながさき県央1部会、JA島原雲仙5部会、JA長崎せいひ1部会、JAごとう1部会の計8部会に組織されている。選果場は、JAながさき県央は飯盛に1カ所、JA島原雲仙は雲仙、北串、南串、大雲仙の4カ所、計5カ所に設置されている。このうちJAながさき県央の選果場は2018年に高性能選果機を導入して新設されたもので、2レーンで日量170トンの処理が可能である。そのほかの選果場も、日量70~80トンの処理能力を有している。
 包装形態は、ほぼ全量が卸売市場出荷であるため、99%が段ボール箱で、そのうち大半は10キログラム詰めであるが、一部15キログラム詰めも使用されている。また、ごく一部であるが、加工用には20キログラムコンテナや、フレキシブルコンテナも使用されている。
 パレット利用については、現在、ばれいしょ総出荷量の82%がパレットを利用しており、そのうちトラック輸送では87%がパレットを使用している。パレットは大半が11型である。パレット導入は、運転手不足や運転手負担軽減の必要性を背景として、運送を受託している運送事業者主導で進められ、パレットは運送事業者の持ち物(サイズや規格などがばらばらで使い回されている「雑パレット」など)またはレンタル使用となっている。
 選果場で選別・調製・箱詰めされたばれいしょは、各JAが全国の卸売市場ごとに分荷し、運送事業者を手配して、各選果場からトラックを主体に出荷されている。出荷期間は5~6月の短期間に集中しており、この間に農協系の年間出荷量の7割弱が出荷される。出荷ピーク時には日量500~550トンが出荷されるため、10トントラック50台以上になる。
 ばれいしょの販路について見ると、99%が青果用として全国の卸売市場に出荷されており、食品メーカーなどに加工用として出荷されるのは1%に過ぎない。取引方法は、委託・相対取引が大半を占めており、スーパーなどとの直接的な商談はあまり行われていない。地方別では、図4の通り京浜と北陸、東海を合わせると6割弱が集中している。次いで関西が2割を占めている。

タイトル: p060

5 佐賀県と長崎県におけるたまねぎ・ばれいしょの輸送体制と実態

(1)佐賀県と長崎県の交通立地の比較
 両県の輸送実態を検証する前に、それぞれの輸送上の特徴を整理しておく。まず、輸送手段選択にとって最重要な要因であるコストについて検証する。ここでは、佐賀県と長崎県の発地から全国の主要消費地の着地までのトラックの標準的な運賃と鉄道貨物運賃を算出して比較した(注1)。なお、実際の運賃は輸送条件に応じた割増または割引がある。
 試算結果は図5の通りである。JAさが本所のある佐賀県佐賀市からと、JA島原雲仙のある長崎県雲仙市からの運賃を試算している。貨物鉄道がトラックと比較して運賃上優位(安価)となるのは、佐賀市からは広島市以遠、雲仙市からは大阪以遠となる。つまり、佐賀市からの方が、貨物鉄道の優位性が近距離から発現する。しかし、もう一つの選択要因である輸送時間は、同様の試算によれば、図6のようにトラックがいずれの発地・着地でも貨物鉄道の6割程度と短く、かつ両県間に大きな差はない。この輸送時間の短さは品質保持にとってはプラスに働く。また、たまねぎやばれいしょの場合は高温期を除き比較的問題は少ないが、JR貨物の所有するコンテナは、通風機能を有するが冷蔵機能がないのが弱点となっている。さらに、発地の出発時刻は貨物鉄道が固定されるのに対して、トラックは相対的にフレキシブルに対応できる。例えば着地が関東の場合、トラックでは出荷後3日目の販売が可能であるが、鉄道貨物では4日目の販売となる。ただし、自動車運転業務の年間時間外労働の上限が960時間に規制された場合は、トラックでも4日目販売にならざるを得なくなる可能性が高い。
 以上のように、運賃は長距離になればなるほど貨物鉄道が有利であるが、輸送時間、品質保持、フレキシビリティなどの点についてはトラックが有利と見られる。

タイトル: p061
 
タイトル: p062
 
(2)佐賀県におけるたまねぎの輸送体制と実態
 先に述べたように、JAさがにおける配車業務は、青果物コントロールセンターが一元的に担っており、運送事業者などに委託して輸送している。青果物コントロールセンターは従来、管内の地区ごとに行われていた分荷、配所業務を統合するために2018年に本所園芸部に設けられた。
 たまねぎの出荷における地方別の輸送手段比率は図7の通りである。近隣の九州内はすべてトラック、中国地方は9割強がトラック、関西は6割弱がトラックで残り4割強はJRコンテナ、関東・中部は7割弱がJRコンテナで残りはトラック、東北はすべてJRコンテナである。このように、輸送距離が長くなるにつれてJRコンテナの比率が高まり、逆にトラックの比率は低くなる傾向が明確に見てとれる。ただし、北海道はJRコンテナは1割強に過ぎず、9割弱はトラックである。これは、北海道向けは九州内ではトラック輸送するが、九州・北海道間はトレーラーをフェリーなどで海上輸送し、北海道の港湾から各市場へはトラック輸送するためである。
 貨物鉄道の場合、各選果場で段ボール箱をパレットに載せたうえでJRコンテナに詰め込み、最寄りのJR貨物・鍋島駅にトラックで運ばれる。鍋島駅でコンテナ列車に積載されて各地に輸送される(写真2)。なお、鍋島駅は主要な選果場が3カ所ある白石町から約18キロメートル、最も遠い鹿島市からでも約30キロメートルで、道路は平坦地を走行し、幅員も十分あり輸送上に障害は少ない。
 トラックの場合は、各選果場で段ボール箱をパレットに積載したうえでトラックに積み込み、各選果場から直接、全国の卸売市場などに輸送されていく。

タイトル: p063a
 
タイトル: p063b
 
(3)長崎県におけるばれいしょの輸送実態と体制
 先に述べたように、長崎県におけるばれいしょの出荷輸送は、JA・選果場ごとに運送事業者に委託して行われている。
 輸送手段別比率は、図8の通り県全体(農協系のみ)で、トラックが94%、JRコンテナが6%と、トラックが大半を占めている。
 実際の輸送手段の選択は、各JA・選果場から出荷輸送を委託される運送事業者の判断であるが、基本的にコストの高低により選択されているとみられる。先の運賃試算では、長崎県島原市を発地とした場合でも、大阪市以遠はJR貨物が運賃は低いことになる。しかし、現在、長崎県内に貨物駅はなく、長崎ORS(「オフレールステーション」の略)はあるが、ここではコンテナ列車へ直接積み込みはできず、最寄りの貨物駅の鍋島駅までJR貨物がトラック事業者に委託して陸送することになる。このような利便性の低さもあって、大半の運送事業者においてトラックが選択されていると推定される。

タイトル: p064

6 九州におけるたまねぎ・ばれいしょ産地の物流上の課題

 佐賀県と長崎県は隣接しており、大消費地である京阪神、京浜への鉄道および道路の距離は県庁所在地間で100キロメートル程度の差があるに過ぎない。これは大阪まででは13%程度の距離差になるが、東京までは7%程度に過ぎない。しかし、たまねぎ・ばれいしょの輸送手段選択は、佐賀県の農協系統出荷ではJRコンテナとトラックがほぼ半々なのに対して、長崎県の農協系統出荷ではトラックが9割以上を占めており、両者間には大きな違いがある。そこで、この点について若干検討し結びとしたい。
 まず、佐賀県は海上輸送については県外への定期中・長距離フェリー、RoRo船(貨物を積んだトラックやトレーラーが、そのまま自走して乗り込み運搬できる貨物用船舶)航路のある港湾はないが、貨物鉄道については佐賀平野の中央部に貨物駅の鍋島駅、県東部に鳥栖貨物ターミナルがあり、主要産地の白石地区から鍋島駅まで陸路20キロメートル程度と近く、産地サイドから見て貨物鉄道の利便性は高い。このことが、京浜市場などへの長距離輸送において低コスト性を発揮しやすく、現在も貨物鉄道の高い利用率を維持している大きな要因とみられる。
 これに対して、長崎県は海上輸送についてはコンテナ船が長崎港から神戸港に運航しているが、海上コンテナであり、便数も少なく青果物輸送には適さない。また、先にも述べたように県内にJR貨物の貨物駅はなく、佐賀県にある貨物駅・貨物ターミナルまで100キロメートル程度を、JR貨物がトラック事業者に委託して陸送することになる。このような利便性の低さが、貨物鉄道が低コストであっても、運輸事業者がトラック輸送を選択する要因になっていると考えられる。
 以上を踏まえ、佐賀県と長崎県の比較を通じて以下の点が課題として指摘できる。
 貨物鉄道には鉄路と貨物施設、海上輸送には港湾施設という物流インフラが不可欠であり、これらを欠いてはその機能発揮は望めない。もちろん、発地・着地周辺でのトラックやトレーラーとの組み合わせは不可欠ではあるが、トラックでの輸送距離が長くなれば、貨物鉄道や海上輸送の低コスト性というメリットは小さくならざるを得ない。
 遠隔地のたまねぎ・ばれいしょ産地において、遠隔消費地へコストを抑えながら、安定的な輸送を確保するには、産地の近辺に貨物鉄道の鉄路だけでなく、貨物駅やターミナルが存在することが重要な条件になっており、これらを欠くと低コスト・安定輸送の実現は困難であろう。また、現状の貨物鉄道には冷蔵機能を持ったコンテナは少なく、品質保持レベルの向上にはその拡充が必要であろう(注2)
 また、近年多発している豪雨災害による不通区間の発生による滞貨は、青果物輸送での利用を躊躇させる大きな要因となっており、防災対策の拡充が望まれる。
 なお、交通インフラ以外の要因としては、産地における輸送体制の在り方も上げられる。佐賀県のたまねぎの農協系統出荷では、輸送についても県連機能を兼ねたJAさがにより、一元的にコントロールされている。これに対して、長崎県のばれいしょでは、農協系統出荷についても輸送は単協・選果場単位である。こうした輸送体制の違いも輸送手段選択に影響しているのではないかとみられる。輸送コストの低減には、輸送業務の効率化と、運送事業者に対する交渉力の強化が必要であり、そのためは輸送ロットの拡大とそれを支える組織体制の整備が必要ではなかろうか。
 
注1:発地は、佐賀県はJAさが本所、長崎県はJA島原雲仙本所とした。着地は福岡市、広島市、大阪市、東京都、青森市の代表的な中央卸売市場とした。トラック、貨物鉄道ともに10トンの荷物を積載することとした。トラック運賃の試算は、公益社団法人全日本トラック協会が提供している「『標準的な運賃』簡易計算シート」を利用した。トラックの移動経路・移動距離・有料道路の利用料金の値は、株式会社ナビタイムジャパンが提供しているナビゲーションアプリ「トラックカーナビ」を利用している。鉄道運賃の試算は、発地から貨物駅などまでおよび貨物駅などから着地まではトラックによるが、その際の運賃は、別途定められている貨物運送取扱事業運賃料金に従った。輸送拠点間の鉄道輸送運賃にはJR貨物のコンテナ時刻表に記載されている値を採用している。上記の料金は一般的に鉄道輸送で利用されるJR貨物の5トンコンテナ1つ分の料金のため、10トンの基準に合わせるために合計した金額を2倍にしている。なお、輸送時間には、休憩時間などは含まない。

注2:JRコンテナについては、非農業分野の荷主による利用の多い10トントラックと積載量がほぼ同等の、31フィートコンテナ(積載量10トン)を今後増備するのが望ましいとされている。青果物でもたまねぎやばれいしょの卸売市場出荷では、トラック輸送では10トントラックが一般的であり、一部の大規模卸売市場向け輸送では20トントレーラーも利用されている。ただし、荷置き場の狭い卸売市場などでは、サイズの小さいJR貨物の12フィートコンテナ(約5トン)の方が都合が良いという。