(1)生産動向
佐賀県におけるたまねぎの産地形成は、1957年に旧諸富町(現・佐賀市)に水田裏作物として導入されたことが始まりで、1962年に有明海沿岸の平坦水田地帯である白石町に導入された後、同町を中心として県内各地に広がった。1966年には早くも国の野菜指定産地となり、1970年代に入るとマルチ栽培の普及により
早生種へと作型が広がり、作付規模の拡大につながった。こうして1990年代後半には、従来、都府県で最大の産地であった兵庫県を抜いて、北海道に次ぐ全国第2位のたまねぎ産地となった。近年、担い手の高齢化などにより作付面積、出荷量とも減少傾向にあるが、作付面積、出荷量とも全国第2位で、産出額は70億円を超えており(2021年度)、県内で第6位の品目である。
2020年農業センサスによれば、佐賀県全体のたまねぎの作付経営体は2266戸となっている。地域別では、作付面積の8割弱、出荷量の8割強が白石町を主体とした
杵藤地区に集中している(図2)。次いで唐津・伊万里地区、佐城地区、東部地区の順となっている。
たまねぎの生産者は、佐賀平野で一般的な水田作経営をベースに、米・麦・大豆にたまねぎを加えた複合経営が多くを占めている。ただし、北部の唐津地区では、傾斜地の普通畑でもたまねぎ生産が行われている。1戸当たり経営耕地面積は県平均3ヘクタール程度であるが、市町によっては平均が5~6ヘクタールに及ぶ。佐賀県全体のたまねぎの1戸当たり平均作付面積は約0.9ヘクタールであるが、中心的な産地である白石町では約1.2ヘクタールある。農協系統へ出荷しているたまねぎ生産者について見ると、作付面積が1~2ヘクタールの層が最も多いが、3~5ヘクタールの層も4割程度を占めている。さらに白石町では、15~16ヘクタールに及ぶ大規模経営も出現しているが、中小規模の生産者の減少を補うまでには至っていない。
生産は、
播種→育苗→定植→肥培管理→収穫・調製→選別・出荷という体系である。播種、育苗は個々の生産者が行っており、9月中旬頃から下旬まで順次播種し、10下旬から11月中旬まで育苗している。セルトレーに播種するセル苗育苗と、苗床に直接播種する地床育苗があるが、機械移植の普及によりセル苗育苗が増加している。
定植は10~12月にかけて行われる。あらかじめ耕うんした後で、極早生品種と早生品種には地温確保と病害防止のため平床にマルチを張っておき、そこに定植する。定植作業には半自動移植機が広く普及しているが、全自動移植機も一部導入されている。
収穫は極早生種が3月上旬~4月上旬、早生種が4月中旬~5月中旬、
中晩生が5月~6月上旬にかけて行われる。作業は掘り取り→乾燥(圃場に根と外葉の着いた状態で並べる)→圃場での根茎葉の切断→選果場へ、といった手順となっている。掘り取りのみを行う歩行型掘取機は大半の生産者に普及しているが、多くの生産者はその後の根と外葉の切断を手作業で行っており、作業負担が大きい。従って、今後は作付け規模の拡大を前提として、茎葉処理機やピッカーなどの導入による機械化一貫体系の確立が課題である。
出荷は、共同選果と個人選果に分かれる。共同選果の場合、圃場で根と外葉を切断したまねぎをコンテナに詰めて、地区の選果場に出荷される。
(2)集選果出荷体制
たまねぎの出荷販売は、農協とそれ以外の商系に大別されるが、現在、農協共販率は50%程度と推計されている。農協共販にも、選果場で機械選果して出荷する共選と、個人で選別調製、段ボール箱詰めして出荷する個選があるが、現在は共選が90%を占めている。以下では農協共販の大半を占める佐賀県農業協同組合(以下「JAさが」という)の集選果出荷体制について述べていく。
農協共販を支えるたまねぎ生産者部会は、管内の白石地区1部会、鹿島杵島地区1部会、東部地区5部会、そのほかの地区2部会の計9部会に組織されている。選果場は、白石地区3か所(写真1)、鹿島・杵島2か所、東部地区1か所に設置されている。これらのうち3か所の選果場にはたまねぎを乾燥させる強制通風式乾燥装置が、1カ所には光学式選果機が設置されている。
各選果場では、共選の場合、生産者がコンテナでたまねぎを持ち込み、これを機械選果機でサイズ別に選別し、さらに目視・手作業で腐敗果などを除いたうえで、出荷用段ボール箱に詰められて卸売市場などに出荷される。個人選果の場合は、個々の生産者が選別・調製したうえで、段ボール箱に詰めて選果場などに出荷される。
包装形態は、卸売市場への出荷が大半を占めることもあり、ほぼ全量が段ボール箱で、20キログラム箱を主体とし、一部10キログラム箱も用いられている。
近年まで、たまねぎの出荷輸送ではトラック、JRコンテナのどちらでも、積載方法は一部を除いてベタ積みであった。しかし、運転手不足が危機的な状況となり、手作業の荷役が困難となってきたため、2023年4月からレンタル方式の11型パレット(発地から着地まで同じパレットに積載したまま輸送する「一貫パレチゼーション」対応の標準的プラスチック製パレット)を導入した。これにより、たまねぎ総出荷量4万1000トンのうち97%がパレット化された。 パレットの導入と運用に伴いコストが上昇したが、関係者で費用分担することで合意を得た。これにより、荷役作業は半分以下に省力化されたが、問題はまだ残されている。具体的には、輸送手段を問わず、パレット使用により積載率は低下するため、1箱当たりの輸送コストは上昇する。また、現行の段ボール箱は11型パレットに適合していないこともあり、荷台に箱状のボックスが乗っているトラックいわゆる「箱車」の場合はうまく積載できないという問題が生ずることもある。このため、今後は段ボール箱のサイズの微調整を行う予定であるが、これに伴い、選果ラインの改修や調整が必要となり、その費用の捻出が課題となっている。
各選果場で箱詰めされたたまねぎの大半は卸売市場に出荷されるが、JAさがでは、青果物コントロールセンターが青果物の出荷輸送を含めた物流を一元的に管理している。たまねぎの一部は、青果物コントロールセンターで冷蔵保管され、他の品目と混載されてから、出荷されている。
たまねぎの販路としては、600~800トンが食品メーカーに直販されているが、残りはすべて卸売市場であり、取引方法は基本的に委託・相対取引である。現在、地方別の出荷比率は図3の通りで、関東・中部地方に7割弱が集中しており、次いで九州内が2割を占めているが、これら以外の地方を合わせても1割強に過ぎない。指定卸売市場は50数社であるが、メインは20社程度で、地方別に拠点化を進め、物流の効率化を図っている。こうした出荷輸送に伴う配車業務は、青果物コントロールセンターが一元的に担っている。