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調査・報告 野菜情報 2024年5月号

機械のシェアリングによる露地野菜の産地化~作業受委託を中心に~

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株式会社農林中金総合研究所 リサーチ&ソリューション第1部 主席研究員 尾高 恵美

【要約】

 米の需給が緩和傾向のなかで、転換作物として露地野菜に期待が集まっている。現状の露地野菜作は、水田作に比べて収益性は高いが労働時間も長い。高性能機械や機械化一貫体系の導入は労働時間削減に寄与するが、投資は多額であるため、零細な家族経営が単独で導入するには採算面のハードルが高い。機械コストを抑制しつつ労働時間削減効果が大きい機械を導入するには、シェアリングが一つの選択肢となろう。
 取り上げた事例では、農業機械の所有者による作業受託という形で、高性能機械をシェアリングし、委託者である家族経営の生産者の労働時間削減に寄与していた。効率的運営だけでなく、個々の委託者の収益最大化も考慮してスケジュール調整することが、シェアリングを円滑に行うために有効であることが示唆された。

1 はじめに

 米の需給が緩和傾向のなかで、転換作物として露地野菜に期待が集まっている。現状の露地野菜作は、後述するように、水田作に比べて収益性は高いが労働時間も長い。高性能機械や機械化一貫体系の導入は労働時間の削減に寄与するが、多額の投資を必要とするため、零細な家族経営が単独で導入するには採算面のハードルが高い。機械導入コストを抑制しつつ、スマート農機など労働時間の大幅削減に寄与する高性能機械を活用するには、シェアリングが1つの選択肢となろう。そこで本稿では、露地野菜作に注目して、農業機械のシェアリングのポイントを整理することにしたい。
 以下では、露地野菜作の家族経営において農業機械のシェアリングが必要となる背景を確認したのち、先行研究に基づいて課題を整理したうえで、聞き取り調査の事例に基づいて課題への対応を考察する。

2 機械のシェアリングが必要となる背景

(1)露地野菜作への転換期待
 まず、露地野菜作において機械の共同利用が必要となっている背景を整理したい。食料・農業・農村基本計画において、稲作から野菜作への転換が位置づけられたのは、2020年決定の計画からである。2018年の生産調整の廃止を受けて、2019年12月改訂の「農林水産業・地域の活力創造プラン」では水田農業における高収益作物等への転換が明記され、2020年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画では、水田における高収益作物などへの転換、水田を活用した加工・業務用野菜の産地化が明記された。水田フル活用の対象に、従来の麦・大豆・飼料用米などに、高収益作物、特に加工・業務用野菜が加えられた。転作作物として露地野菜への期待が高まっている。
 
(2)露地野菜作経営の労働時間
 水田作から露地野菜作に転換する場合、水田を畑地化するための排水や販路確保など課題が多いが、その一つに労働時間の削減とそのための機械導入がある(引用文献1)。農林水産省「農業経営体の経営収支」により、2022年における個人経営体の10アール当たり農業所得(第1報)をみると、露地野菜作経営では15.1万円で、水田作経営(主業経営体)の2.1万円の7.2倍となっている(図1)。一方で、露地野菜作経営の10アール当たり労働時間は248.4時間で、水田作経営の29.9時間の8.3倍となっている。
 しかし露地野菜作でも、加工・業務用で機械化一貫体系を導入した場合には、労働時間を大幅に削減できると推計されている。農林水産省水田農業高収益化推進プロジェクトチーム(2022)(引用文献2)によると、機械化一貫体系を導入した実証事例では、2012~16年平均労働時間を10割とした場合、いずれも加工・業務用の、ほうれんそうで約2割(約8割削減)、たまねぎで約4割(約6割削減)、キャベツで約8.5割(約1.5割削減)という結果となった。露地野菜作に転換するには、労働時間を削減するために機械化を進めることが課題といえる。

タイトル: p044
 
(3)機械投資額削減が課題
 例えば、加工・業務用たまねぎで機械化一貫体系を導入する場合、「小規模栽培で小型機械を一式そろえた場合で500~600万円、大規模栽培で大型機械をそろえた場合で数千万円」の資金が必要とされている(引用文献3)
 高性能あるいは一連の機械を整備するには多額の投資が必要になるが、用途や使用期間が限定的である機械が少なくないため、家族経営の個別農家にとっては採算の確保が難しい。露地野菜作の収益性を損なうことなく、高性能の大型機械や機械化一貫体系の導入により労働時間を削減するには、機械を複数の生産者で利用するシェアリングが一つの選択肢となろう。

3 野菜用機械におけるシェアリングの課題

(1)農業機械のシェアリングの概要
 総務省の「シェアリングエコノミー活用ハンドブック」によると、シェアリングエコノミーとは「個人・組織・団体等が保有する何らかの有形・無形の資源(モノ、場所、技能、資金など)を貸し出し、利用者と共有(シェア)する新たな経済の動き」と説明されている。つまりシェアリングとは、共有、共同利用、レンタルや受委託を総称する概念といえる。ここでは、農業機械のシェアリングについて、取得と利用に注目して、レンタル、共同所有・共同利用、作業受委託について整理したい。
 
ア レンタル
 レンタルは、所有者が利用者に機械を貸与するもので、モノをシェアする形態である。利用者にとっては、初期投資、保管スペースや定期点検などのメンテナンスが不要といったメリットがある一方で、利用する日時や、機械の機種やメーカーの選択において制約がある。
 事業として行うほかに、生産者同士が相対で行う場合もある。レンタル事業についてみると、事業者が所有し、利用者に賃貸している。事業者としては、JA、全農県本部、レンタル会社や農機メーカーが挙げられる。また、レンタルの貸し手と借り手のマッチング・サービスのみを提供する事業体もある。自己使用する耕作者や作業受託者が利用する。
 
イ 共同所有・共同利用
 共同所有・共同利用は、複数の生産者が出資して農業機械を取得し、共同で利用するもので、お金とモノをシェアする形態である。機械取得にかかる初期投資を抑えられるメリットがある。
 機械操作は、出資者が輪番で実施する場合もあれば、担い手経営体などの専門のオペレーターが作業を受託して一括で実施する場合もある。近年では、地域の複数の集落営農組織が出資して機械を取得し、各集落営農組織が利用するケースもみられる。
 
ウ 作業受委託
 作業受委託は、生産者から部分的に作業を受託して、受託者が機械を使って一括で作業を行うものである。機械とオペレーター、つまり、モノとスキルをセットでシェアする形態である。
 機械の調達については、受託者である大規模経営体、JAや作業受託組織が取得したり、集落営農や機械利用組合など地域営農組織の構成員が共同で取得したりする場合もある。使用頻度が低い作業ではレンタルを利用する場合もある。
 作業受託組織はコントラクターと呼ばれる。飼料生産に携わるコントラクターをみると、2008年に522組織だったが、2022年には828組織へと1.6倍に増加した(引用文献4)。コントラクターは地域の営農組織やJAが多いが、最近は、ドローンによる農薬散布を作業受託しているスタートアップ企業もある。また、受託者と委託者の仲介については、JAが農業機械銀行として行うケースのほか、近年はインターネットでマッチングを行う企業もみられる。
 委託者にとっては、機械取得のための初期投資が不要となることに加えて、熟練を要する機械操作を自ら習得する必要がないといったメリットがある。一方で、自ら作業する場合に比べて、委託料を支払う必要があるほか、作業日時に一定の制約がある。
 
エ シェアリングによる農業機械の利用状況
 シェアリングによる農業機械の利用割合を、農林水産省が2021年度に認定農業者などを対象に実施したアンケートから推計すると、全体で5%未満と見込まれる。農林水産省(2021)(引用文献5)によると、農業支援サービスを利用している割合は、全体で52.9%、露地野菜作で47.9%であり、このうち有償で利用している割合は、それぞれ、79.4%、75.1%である。有償サービス利用者のうち、「大型農機やスマート農機等の農業機械のレンタル、シェアリング」を利用している割合は、それぞれ8.1%、11.5%である。ここから、有償による農業機械シェアリングの利用について、無回答を含む全回答者に対する割合を計算すると、全体で3.4%程度、露地野菜作ではやや高い4.1%程度と推計された。
 
(2)農業機械のシェアリングの課題
 次に、農業機械をシェアリングする場合の課題について、1970~80年代の機械の効率的利用に関する先行研究により整理したい(引用文献6、7)。当時、機械への過剰投資が問題になっており、生産費低減のためにその有効利用が課題となっていた点で、現在の状況と類似する部分がみられる。
 兼業化や米の生産調整の進展を背景に、地域で農作業受委託組織が設立され、1972年からは国の実験事業として農業機械銀行による受委託の仲介あっせんが開始された。共同利用や作業受委託という形式でシェアリングは徐々に進んでいたものの、個別生産者による機械所有が大宗を占めていた。兼業農家は個々の都合よいタイミングで農業機械を使いたいが、作業適期は短く、機械の利用時期が競合する。このため、個別に小型農業機械を所有し、過剰投資を招いていた。
 1970年代末から、農産物価格、とくに米価の伸び悩みにより、農業経営が悪化し、従来のような農業機械への投資が難しくなっていた。生産コストを低減するため、高性能機械の共同利用、組織的利用が一層求められる状況にあった。しかし、未整備の場が分散している状態では機械を効率的に利用できない。効率化するには、基盤整備に加え、機械の共同利用、組織的利用が必要で、それには土地利用や生産に関する取り決めが前提になることが指摘されていた。
 また、委託者と受託者の間に第三者が介在しない相対では、作業料金や作業品質についてトラブルが発生し、受委託の円滑な拡大を阻害する原因となっていた。そうした事態を回避しつつ受託者を増やすため、仲介あっせんする機能の重要性が指摘されていた。
 
(3)野菜用機械のシェアリングの注目点
 このように野菜用機械のシェアリングには克服すべき課題があるが、より多くの家族経営の生産者が参加して利用を拡大しつつ、円滑に効率的に運営するという観点から、これまでの議論を踏まえて注目点を整理したい。
 高性能機械や機械化一貫体系は投資額が多額であるため、家族経営の生産者の場合、オペレーターを固定することにより熟練が進むため、作業受委託が適していると思われる。
 一方で、作業適期が短い場合には、機械を利用する時期が生産者間で競合する。都府県では耕作地が零細で分散している場合が多く、運搬や段取りの時間がかさみ、作業量が限られてしまう。また、露地野菜の生育は天候の影響を受けるため、区画が多く分散しているほど現地確認に時間がかかり、作業の調整は複雑になる。
 そこで、作期の分散を図ることで期間を延ばしつつ、期間内により多く作業するためには、あたかも1人の生産者の圃場で作業するように、委託する複数の生産者間で生産に関する取り決めを行い、利用調整することが課題となる。
 以下では、2県のJAと農業法人による収穫作業受託を中心に、これらの課題にどのように対応しているか具体的にみてみたい。

4 にんじん収穫機のシェアリング―JAおいらせ・やさい推進委員会にんじん部会の取り組み―

(1)産地の概要
 まずJAおいらせ(以下「JA」という)のやさい推進委員会にんじん部会三沢地区部会の夏にんじんに焦点を当てて、高性能収穫機による作業受託について述べる。
 JAは、青森県三沢市、六戸町、おいらせ町の一部を管内としている。三沢市は太平洋沿岸部に位置し、降雪量が少ないため、にんじんやながいもといった根菜類の生産が盛んである。2021年度の野菜の販売・取扱高は59.9億円となっている。
 2021年度の三沢地区の部会員は90人で、いずれも家族経営である。作付面積は、夏にんじん98.7ヘクタール、秋にんじん28.6ヘクタールであり、家計消費用途で卸売市場に出荷している。夏にんじんの販売で安定した価格を維持するには、6月下旬から、北海道産が出回る前の7月末までに出荷することが重要となる。それを実現するために、高性能機械を利用して計画的に収穫を行っている。
 
(2)収穫・洗浄・選別・荷造工程を機械化
 当地域でのにんじんの収穫適期は5日間と短い。適期より遅れると肥大して規格外になったり、胴割れで出荷できなくなる。機械導入前の段階では、1戸当たり面積はそれほど大きくなく、生産者はそれぞれ20~30人を臨時雇用して手作業で収穫を行っていた。にんじん収穫作業は他作物の作業と重複し、さらに労働力確保が難しくなるなかで、適期に収穫するために、JAでは、1995年に高性能の収穫機を購入して試験的に共同利用を開始し、2004年からはにんじんオペレーター協議会に貸与して作業受託を開始した。
 高性能収穫機は、作業時間短縮の効果が大きい。手作業では10アール当たり50時間ほどかかっていたが、収穫機を使ってオペレーターが作業することで2時間弱に短縮できた。
 さらに、収穫後の洗浄・選別・荷造工程を省力化するため、1989年にJAが洗浄・選別施設を取得し、にんじんの作付面積拡大に合わせて2010年に更新・拡張した。
 
(3)効率的に作業を行うための調整
ア 体制

 三沢地区は13支部からなっている。JAでは部会事務局として営農指導員を1人配置し、部会運営支援を行っており、収穫作業受託についても、現地確認や日程調整を行っている(図2)。

タイトル: p048
 
イ 支部ごとに播種(はしゅ)日を分散
 各部会員は、前年10月に作付計画をにんじん部会に提出する(表)。部会事務局が集計し、面積合計が収穫機や洗浄・選別施設の処理能力を超えた場合には、事務局と生産者で公平性の観点から時期の調整を行う。
 調整の後、収穫機や洗浄・選別施設の処理能力に合わせて、事務局が「掘り取り日程表」を策定し、支部長会議で決定する。
 日程表では、三沢市は南北約25キロメートルと細長いことを生かして、トンネル栽培とべた掛け栽培のそれぞれについて、南から北へと順に支部別の日程を割り当てて、収穫作業日を約1カ月に延ばしている。トンネル栽培の早期出荷は単収が少ないため、時期の分散を目的に精算価格にインセンティブをつけている。各生産者は、日程表を基に所属する支部の収穫日から生育日数を逆算して播種を行っている。各生産者は播種作業に播種機を使用しているが、その条間と株間は、作業受託で使用する収穫機に対応したものとなっている。

タイトル: p049
 
ウ 生育状況と天候に合わせて調整
 播種日を分散させても、生育は天候の影響を受けるため、当初の掘り取り計画どおりに収穫できるわけではない。そこで事務局では、4月の発芽後、被覆資材を除去した5月以降、生育が進んだ6月中旬の少なくとも3回、約180区画の圃場を巡回して現地で生育状況を確認している。
 そして収穫開始予定の1週間前に、支部長会議を開催している。そこで、収穫予定の早い2つの支部のにんじんの現物で生育状況を確認して、収穫開始日を決めている。さらに収穫日の3日ないし4日前には、各生産者と事務局が現物を見ながら話し合い、圃場ごとに収穫日を確定している。現地確認は各生産者が生育状況を確認する機会にもなっており、翌年以降の改善に生かしている。
 収穫予定日が強雨の場合には、事務局が生産者に面会して実施について確認を行う。延期の場合は、数日以内に実施するように調整している。
 
(4)熟練オペレーターにより計画的に実施
 事務局が調整した計画どおりに作業を行うことも、円滑な運営に不可欠である。2004年にオペレーターによる受託を始める前は、JAから貸与を受けて各生産者が作業する方式で共同利用を行ったこともあった。年1回ないし2回の利用では機械の操作に熟練しないため、作業が遅れ気味になり、計画どおりに進まなかった。そこで、オペレーターを配置して受託するようにした。
 JAでは1台の購入価額が1000万円ほどの高性能収穫機を9台取得し、にんじん部会の下部組織であるにんじんオペレーター協議会に貸与している。協議会には、常勤オペレーターが9人と臨時オペレーターが2人所属している。
 機械操作の熟練には20日程度を要すると見込んでおり、新規に加入したオペレーターは、夏と秋のシーズンを通して、ベテランのオペレーターに同乗して、操作技術を習得するようにしている。
 また、操作しやすい機械の速度やデバイダ(収穫する爪)の角度などの設定は人により異なっており、故障を少なくするために、使用する収穫機は各オペレーターの専用にしている。
 
(5)生産者の規模拡大と所得増大に寄与
 三沢地区では、ほぼすべての部会員が収穫作業と洗浄・選別作業をJAに委託している。収穫・洗浄・選別作業を省力化したことにより、夏にんじんの1戸当たり作付面積は、手作業で収穫していた時には30アール程度だったが、2004年に70アール程度、2021年には118アール程度へと拡大した。生産者の所得増大と出荷量の増加に結びついている。加えて、生産者はにんじんと時期が重なるにんにくやばれいしょの収穫作業に注力できるようになった。

5 たまねぎの機械化一貫体系におけるシェアリング―株式会社 関東地区昔がえりの会の取り組み―

(1)組織の概要
 株式会社関東地区昔がえりの会(以下「農業法人」という)は、1999年に30人の生産者が出資して埼玉県児玉郡上里町に設立された(設立時は有限会社)。現在の株主は生産者を中心に45人で、資本金は7000万円である。2021年度の会員数は35人、うち22人は株主である。子会社を含まない単体の従業員数は40人で、売上高は計7億1380万円、うち野菜販売が4億円となっている。主力品目は、青ねぎ、キャベツ、こまつな、レタス、はくさい、たまねぎである。
 設立当初、農業法人の業務は、生産資材の共同購入や農産物の共同販売など、会員の農業経営のサポートが中心だったが、それに加えて近年は自社と子会社でも農業生産を行うようになった。現在は、会員、自社と子会社の農産物を販売している。機械についても、当初は、農業法人のなかに機械利用組合を作り、分担金を出し合って共同購入し共同利用していた。現在は農業法人が取得して、会員から作業を受託したり、個々の会員が共同で利用したりしている。
 
(2)たまねぎの機械化体系
 農業法人は、2020年度事業の埼玉加工・業務用野菜スマート農業実証コンソーシアム(代表機関:東京電機大学)の「加工・業務用野菜サプライチェーン最適モデル構築を目的とした、キャベツ・玉ねぎの機械化栽培技術体系と産地リレーと連動したスマート農機の県間広域シェアリングによる低コスト技術体系の実証」に参加し、たまねぎとキャベツの機械化一貫体系と、キャベツ収穫機のシェアリングなどに取り組んだ。以下では、キャベツに比べて短期間に収穫が集中するたまねぎを取り上げる。
 農業法人では、2016年から業務用たまねぎを強化している。会員8人に加え、自社と子会社で生産しており、作付面積は合わせて17ヘクタールであり、今後拡大を目指している。
 たまねぎの播種から、育苗、定植、肥培管理、収穫、運搬、乾燥、選果、低温保管まで、ほとんどの作業工程で機械を使用している。トラクターについてはGPS自動操舵システムを搭載しているものも使用している。大部分の機械は補助事業を活用して取得しており、その一部はリースを活用している。たまねぎ関係の機械を含む年間の支払リース料は1500万円程となっている。
 農業法人では、会員の希望に応じて上記作業工程を受託している。ほとんどの作業を農業法人に委託する会員が多い。収穫については、2021年に農業法人が作業を実施した面積は42区画、計10.5ヘクタールであり、このうち会員からの受託は38区画、計9ヘクタールである。
 
(3)効率的に作業を行うための取り決めと調整
ア 申込み・作付計画段階の取り決め

 機械の移動や段取りの時間を削減し、作業性を良くするために、会員から作業受託する条件を設定している。20アール以上の区画であること、および機械作業に適した条間や株間など統一した栽培体系を採用することである。
 受託した圃場を3ブロックに分け、それぞれ早生(わせ)中生(なかて)晩生(おくて)の3品種を作付けし、作業時期を1週間程度ずつずらし、収穫適期を25日間に延ばしている。また、機械の移動時間を短縮するため、ブロックごとに道路の動線に沿って定植している。
 
イ 現地確認と収穫適期の予測に基づく調整
 たまねぎの出荷規格はM、L、2L、3L以上の4階級で、Lサイズ以上の単価は一律だが、Mサイズはそれよりやや低く設定している。収益を増やすにはLサイズ以上を増やす必要があり、それには収穫適期の見極めが重要となる。葉の7割が倒伏した時を収穫適期と判断している。収穫の順番は、定植実績を基本にして、生育状況を見ながら適期を予測してスケジュールを決めている。具体的には、農場長と出荷担当の3人の社員が、収穫前に分担してそれぞれ半日以上かけて全区画の状況を把握し、それを見ながら倒伏時期を予測し、日程を調整している。いずれもベテラン社員で、予測の精度は高いという。
 
(4)効率的に実施するための作業員体制
 収穫作業は、茎葉・雑草の破砕処理、マルチはがし、根切り、掘り上げ・寄せ、収穫、運搬、乾燥の七つの工程に分けられる。農業法人では、1日当たりの作業面積が60~100アールになるように、工程別に班を編成して、期間中、各従業員は担当する工程に専従している。
 さらに、機械を安全に効率よく操作するには熟練が必要であるため、各班のなかで機械のオペレーターを固定している。特に掘取機は、刃の深さや機械速度の設定が重要で、現場での作業経験を通じて体得している。
 このように熟練の操作技術が求められるため、各生産者が共同利用するのではなく、農業法人が作業受託し、固定のオペレーターが経験を蓄積することで熟練を促すようにしている。
 
(5)労働時間の大幅削減と営農継続
 作業受託による労働時間削減効果は大きく、2013年度の県の慣行栽培による作業時間は10アール当たり170時間だが、農業法人による機械化一貫体系では4分の1以下の40時間に抑えることができた。負担の重い作業を農業法人が機械の活用を前提に受託することで、小規模経営や高齢生産者によるたまねぎ生産が可能となっている。

6 事例にみるシェアリングのポイント

(1)シェアリングの形態
 シェアリングの形態と、作業を円滑に行うための取り組みの観点から、二つの事例を改めて見てみたい。JAの事例では高性能機械、農業法人の事例では機械化一貫体系を導入しており、いずれも労働時間削減の効果が確認された。一方で、導入にかかる投資は多額で、機械の操作には熟練の技術が求められる。このため、安全で計画的に運営するために、複数の生産者からの委託を受けて、専門のオペレーターが作業するというシェアリングの形態がとられていた。委託者は作付け規模に応じた変動費の負担で労働時間短縮のメリットを受けられ、JAの事例では平均作付面積の拡大に結びついていた。
 
(2)効率的に運営するための取り決め
 事例ではJAや農業法人が機械を取得しており、長期にわたって高い稼働率を維持し投資額を回収しなければならない。つまり、固定費のリスクを負っている。稼働率を上げるには限られた期間により多くの作業を受託する必要があり、圃場や生産に取り決めを設けている。
 圃場の条件に関して、農業法人では申込段階で受託する区画の面積に下限を設けている。これにより、多くの零細な圃場で作業することによる非効率を回避して、作業量の拡大に寄与している。
 生産に関しては、計画段階から、JAでは南北に長い地域性を生かして、農業法人では品種を組み合わせて、作期を分散している。これにより、使用期間の長期化を図っている。また、機械作業に適した条間や株間などの栽培体系を採用することを受託の条件としている。また収穫はいずれも梅雨の時期に当たり、現地確認しつつ、JA生産部会の支部長会議による協議や、農業法人のコーディネートにより、天候や生育状況を優先して作業スケジュールが決められている。
 このような取り決めは、生産者が個々に作業する場合に比べて、自由度を制限する面もある。JAの事例では、地域の生産者代表で構成する支部長会議における協議と決定により、農業法人では入会時の賛同と出荷契約により、委託者の協力を得ていると考えられる。
 
(3)全体の作業効率化と委託者の収益最大化の両立
 露地野菜の生育は天候の影響を受けるため、当初計画どおりに収穫適期が訪れるとは限らない。一方で収穫のタイミングは、規格の変動を通じて委託者の収益を左右する。このため、トラブルの原因になりやすい。そこで適期に合わせて収穫するように、生育状況を加味して作業スケジュールを調整する必要がある。
 上述したように、事例では、取り決めによって作業の効率化を図ると同時に、個々の委託者の収益が最大化するように収穫スケジュールを調整している。具体的には、播種前に収穫計画を策定しているが、収穫作業の前に現地や現物の確認を行い、生育状況を加味して作業実施のスケジュールを調整している。作業の順番を決めるために、JAでは営農指導員、農業法人ではベテランの農場長と出荷担当者がすべての圃場を巡回して現地、現物で生育状況を確認し適期を見極めている。これによってトラブルが回避され、円滑な運営につながっているといえよう。

7 おわりに

 本稿では、露地野菜作の作業受委託による農業機械のシェアリングを取り上げた。水田作から露地野菜作への転換において労働時間の削減は大きな課題であり、事例では、高性能機械の所有者による作業受託という形でシェアリングし、委託者の労働時間削減に寄与していた。効率的運営だけでなく、個々の委託者の収益最大化も考慮してスケジュール調整することが、シェアリングを円滑に行うために有効であることが示唆された。
 今回は、市内や郡内といった比較的狭い範囲でのシェアリングを取り上げた。受委託に限らず、都道府県を越えてより広範囲でシェアリングすることは、運搬コストや調整コストがかさむものの、利用時期の分散を通じて年間の稼働期間を長期化できるため、コスト低減に寄与する可能性がある。運搬コスト・調整コストと稼働期間のバランスについては今後の調査課題としたい。
 
 
引用文献
(1)尾中謙治(2021)「水田園芸の実態と課題に関する調査(総括)」『水田園芸の実態と課題に関する調査』総研レポート2020基礎研No.4、1~13ページ
(2)農林水産省水田農業高収益化推進プロジェクトチーム(2022)「水田フル活用による野菜・果樹、子実用とうもろこしの生産拡大」
(3)鈴木利徳(2021)「となみ野農協における水田園芸の取組み」『水田園芸の実態と課題に関する調査』総研レポート2020基礎研No.4、86~94ページ
(4)農林水産省(2023)「飼料生産組織をめぐる情勢」
(5)農林水産省(2021)「農業支援サービスに関する意識・意向調査結果」
(6)農林省農蚕園芸局肥料機械課(1975)『農業機械銀行の実際―その設立と運営のために―』地球社
(7)全国農業協同組合中央会編(1983)『農業機械効率利用の課題と今後の方向』
 
なお、本稿は、以下の2編の著作物に加筆修正したものである。
・尾高恵美(2019)「ニンジン産地における大型収穫機の共同利用―青森県JAおいらせ・やさい推進委員会人参部会―」『農中総研 調査と情報』web誌、7月号、16~17ページ
・尾高恵美(2022)「野菜用機械のシェアリング」『農林金融』、6月号、2~15ページ
 
タイトル: p053
 
尾高 恵美(おだか めぐみ)
株式会社農林中金総合研究所 リサーチ&ソリューション第1部 主席研究員
【略歴】
2000年3月 東京農業大学大学院農学研究科博士後期課程修了 博士
      (農業経済学)
2000年4月 株式会社農林中金総合研究所入社
2019年4月より現職