(1)産地の概要
まずJAおいらせ(以下「JA」という)のやさい推進委員会にんじん部会三沢地区部会の夏にんじんに焦点を当てて、高性能収穫機による作業受託について述べる。
JAは、青森県三沢市、六戸町、おいらせ町の一部を管内としている。三沢市は太平洋沿岸部に位置し、降雪量が少ないため、にんじんやながいもといった根菜類の生産が盛んである。2021年度の野菜の販売・取扱高は59.9億円となっている。
2021年度の三沢地区の部会員は90人で、いずれも家族経営である。作付面積は、夏にんじん98.7ヘクタール、秋にんじん28.6ヘクタールであり、家計消費用途で卸売市場に出荷している。夏にんじんの販売で安定した価格を維持するには、6月下旬から、北海道産が出回る前の7月末までに出荷することが重要となる。それを実現するために、高性能機械を利用して計画的に収穫を行っている。
(2)収穫・洗浄・選別・荷造工程を機械化
当地域でのにんじんの収穫適期は5日間と短い。適期より遅れると肥大して規格外になったり、胴割れで出荷できなくなる。機械導入前の段階では、1戸当たり面積はそれほど大きくなく、生産者はそれぞれ20~30人を臨時雇用して手作業で収穫を行っていた。にんじん収穫作業は他作物の作業と重複し、さらに労働力確保が難しくなるなかで、適期に収穫するために、JAでは、1995年に高性能の収穫機を購入して試験的に共同利用を開始し、2004年からはにんじんオペレーター協議会に貸与して作業受託を開始した。
高性能収穫機は、作業時間短縮の効果が大きい。手作業では10アール当たり50時間ほどかかっていたが、収穫機を使ってオペレーターが作業することで2時間弱に短縮できた。
さらに、収穫後の洗浄・選別・荷造工程を省力化するため、1989年にJAが洗浄・選別施設を取得し、にんじんの作付面積拡大に合わせて2010年に更新・拡張した。
(3)効率的に作業を行うための調整
ア 体制
三沢地区は13支部からなっている。JAでは部会事務局として営農指導員を1人配置し、部会運営支援を行っており、収穫作業受託についても、現地確認や日程調整を行っている(図2)。
イ 支部ごとに播種(はしゅ)日を分散
各部会員は、前年10月に作付計画をにんじん部会に提出する(表)。部会事務局が集計し、面積合計が収穫機や洗浄・選別施設の処理能力を超えた場合には、事務局と生産者で公平性の観点から時期の調整を行う。
調整の後、収穫機や洗浄・選別施設の処理能力に合わせて、事務局が「掘り取り日程表」を策定し、支部長会議で決定する。
日程表では、三沢市は南北約25キロメートルと細長いことを生かして、トンネル栽培とべた掛け栽培のそれぞれについて、南から北へと順に支部別の日程を割り当てて、収穫作業日を約1カ月に延ばしている。トンネル栽培の早期出荷は単収が少ないため、時期の分散を目的に精算価格にインセンティブをつけている。各生産者は、日程表を基に所属する支部の収穫日から生育日数を逆算して播種を行っている。各生産者は播種作業に播種機を使用しているが、その条間と株間は、作業受託で使用する収穫機に対応したものとなっている。
ウ 生育状況と天候に合わせて調整
播種日を分散させても、生育は天候の影響を受けるため、当初の掘り取り計画どおりに収穫できるわけではない。そこで事務局では、4月の発芽後、被覆資材を除去した5月以降、生育が進んだ6月中旬の少なくとも3回、約180区画の圃場を巡回して現地で生育状況を確認している。
そして収穫開始予定の1週間前に、支部長会議を開催している。そこで、収穫予定の早い2つの支部のにんじんの現物で生育状況を確認して、収穫開始日を決めている。さらに収穫日の3日ないし4日前には、各生産者と事務局が現物を見ながら話し合い、圃場ごとに収穫日を確定している。現地確認は各生産者が生育状況を確認する機会にもなっており、翌年以降の改善に生かしている。
収穫予定日が強雨の場合には、事務局が生産者に面会して実施について確認を行う。延期の場合は、数日以内に実施するように調整している。
(4)熟練オペレーターにより計画的に実施
事務局が調整した計画どおりに作業を行うことも、円滑な運営に不可欠である。2004年にオペレーターによる受託を始める前は、JAから貸与を受けて各生産者が作業する方式で共同利用を行ったこともあった。年1回ないし2回の利用では機械の操作に熟練しないため、作業が遅れ気味になり、計画どおりに進まなかった。そこで、オペレーターを配置して受託するようにした。
JAでは1台の購入価額が1000万円ほどの高性能収穫機を9台取得し、にんじん部会の下部組織であるにんじんオペレーター協議会に貸与している。協議会には、常勤オペレーターが9人と臨時オペレーターが2人所属している。
機械操作の熟練には20日程度を要すると見込んでおり、新規に加入したオペレーターは、夏と秋のシーズンを通して、ベテランのオペレーターに同乗して、操作技術を習得するようにしている。
また、操作しやすい機械の速度やデバイダ(収穫する爪)の角度などの設定は人により異なっており、故障を少なくするために、使用する収穫機は各オペレーターの専用にしている。
(5)生産者の規模拡大と所得増大に寄与
三沢地区では、ほぼすべての部会員が収穫作業と洗浄・選別作業をJAに委託している。収穫・洗浄・選別作業を省力化したことにより、夏にんじんの1戸当たり作付面積は、手作業で収穫していた時には30アール程度だったが、2004年に70アール程度、2021年には118アール程度へと拡大した。生産者の所得増大と出荷量の増加に結びついている。加えて、生産者はにんじんと時期が重なるにんにくやばれいしょの収穫作業に注力できるようになった。