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調査・報告 野菜情報 2024年4月号

水田転換畑における加工・業務用たまねぎの生産安定に向けた技術的アプローチ ~北陸地方の二つの事例について~

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国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門
露地生産システム研究領域 露地野菜花き生産技術グループ
グループ長 佐藤 文生

【要約】

 北陸北陸水田地域においては、減反や米価の下落が進む中、稲作に頼る経営から脱却し、高い収益性が見込まれる園芸作物の導入による収益向上が課題となっている。本稿では、水田転換により、たまねぎ産地化を進めている北陸地方の二つの事例を取り上げ、稲作との複合経営において、たまねぎ生産を安定させるための技術的な改善の取り組みを紹介する。

1 はじめに

 たまねぎは、生鮮野菜の中では海外からの輸入量が最も多い品目である。その一つの要因として、年間を通じて安定調達が求められる加工・業務用需要に対し、従来産地の北海道および西南暖地の生産では6~7月が端境期となり、国内の産地リレーでは十分に対応できていないことがある。
 一方、東北地方から北陸地方にかけては、長年稲作中心の農業が展開されてきたが、減反や米価の下落が進む中、稲作に頼る経営から脱却し、高い収益性が見込まれる園芸作物の導入による収益向上が課題となっている。これらの地域は、たまねぎの端境期の出荷が可能な気候的条件を有することから、たまねぎの輸入依存からの脱却を目指す行政や民間実需者からは、稲作経営へのたまねぎ導入による新たな産地形成が期待されている。
 本稿では、今後新たなたまねぎ産地化に取り組む際の参考に資することを目的に、水田転換によりたまねぎ産地化を進めている北陸地方の二つの事例を取り上げ、水稲作との複合経営において、たまねぎ生産を安定させるための技術的な改善の取り組みを紹介する。

2 JAとなみ野の取り組み

(1)産地の概要
 JAとなみ野は富山県の北西部に位置し、水稲を中心とした主穀作農業が展開されている。北陸地方における水田転換によるたまねぎ産地化の先駆け的な地域で、平成20年に8ヘクタールで取り組みが始まった。作付面積は順調に拡大し、近年は140~200ヘクタールの規模で推移している(図1)。当初は青果用出荷がメインで、規格外品を加工用に振り分ける程度であったが、加工用の割合は徐々に増加し、現在は全量の4分の1を加工用に出荷している。たまねぎの単収は、当初10アール当たり2トンにも満たない年が続いたが、以下に述べる取り組みにより、現在は同4トンを超える水準に向上している。10アール当たりの作業時間は35時間、単収4.5トンの仮定で、時間当たり1183円の収益を見込むことができている。
 平成30年からは、1億円産地づくり(注1)の中で広域産地形成品目に位置付けて、当地から富山県内全域への産地化の展開を図っている。
 
注1:富山県では、2010年度から農協ごとに戦略品目を選定し、園芸産地の形成を目指した「1億円産地づくり」に取り組んでおり、15の農協で延べ23品目が戦略品目に選定されている。
 
タイトル: p058
 
(2)北陸の条件に合わせた機械化作業体系の構築
 たまねぎは農作業の全工程において機械化が図られており、水稲との複合化を図ろうとする生産者にとっては導入しやすい作目である。当地では、以前から水田への大麦や大豆の導入が進められており、圃場(ほじょう)排水対策のための作業機械(注2)の導入は、ある程度進んでいる状況にあった。たまねぎ生産では、これに加えて高(うね)成型機、定植機、根切・葉切・掘取機、収穫機(ハーベスター、ピッカー)が必要となるが、北海道で構築された加工・業務用を前提とした鉄コンテナ出荷での機械化作業体系は、当地の条件ではそのままでは適応できないものもあったことから、メーカーと連携して改良を行った。
 一つはハーベスターの高畝への対応である。転換畑では湿害対策として20センチ以上の畝高を確保する必要がある。北海道で普及しているハーベスターは平畝仕様であったため、高畝に適応できるようにした。もう一つはピッカーの改良である。中規模圃場の生産者はハーベスターでは規格が大き過ぎるので、収穫作業にはピッカーを用いる。しかし、当時のピッカーは樹脂製のミニコンテナへの収集を前提としており、鉄コンテナへの収集は未対応であった。そこでピッカーの後部に昇降機を取り付け、鉄コンテナへ収集ができるように改良を行った。なお、当地が初の試みとなったピッカーの鉄コンテナ仕様(写真1)は、メーカー各社でラインナップ化され、全国への普及が進んでいる。
 これらの改良によって、現在は、各生産規模に応じた形での機械化一貫体系が構築されている。JAではこれらの機械の貸し出しも行っており、新規参入のハードルを下げるための初期投資の軽減を図っている。

注2:圃場排水対策のための作業機械としては、地表の排水対策として地表面に排水用の溝(明きょ)を設けるための溝堀機、地下の排水対策として地下40~70センチに通水路(補助暗きょ)を設けるためのサブソイラやカットドレーンなどがある。
 
タイトル: p059
 
(3)単収向上に向けた栽培技術の高度化
 圃場準備については、以下の対策を進めた。当地では、田面から落水口底面までの落差が30センチ未満の排水能が乏しい水田が全体の約6割を占めている。このため、湿害対策として適切な圃場排水対策を実施するための排水対策早見表を作成しており、それに沿った明きょや暗きょの施工を実施している。生産者の多くはこの取り組みの中で個々の圃場の排水性などを熟知しており、適切な管理がなされている状況にある。
 たまねぎの品種は、全体の9割を中生の「ターザン」が、残りを晩生の「もみじ3号」が占める。2品種とも水分が少なく、機械収穫時に損傷が少ないこと、長期貯蔵が可能であることが選定の理由である。定植時期は両品種とも同じで10月中旬~11月上旬、収穫時期は「ターザン」が6月中旬~下旬、「もみじ3号」が7月上旬~となる。JAが一括して播種して苗を農家に配布し、育苗は個々の農家が行っている。
 当初低かった単収が向上した要因には、排水対策が徹底されたことや薬剤による雑草、病虫害の防除体系が確立されたことなどいくつかあるが、中でも北陸の条件に合わせた草勢管理を見出したことが大きい。冬期に圃場が雪で覆われる当地では、苗が小さいと十分な生育量が確保されないまま雪中で越冬することになり、その間に株が消耗し、消失してしまうことが減収の一因となっていた(写真2)。これに対し、西南暖地で慣行的な324穴のセルトレイを用いて大きめの苗を作ろうとすると、根鉢形成に長期間を要し、北陸の気象条件では定植適期までに苗が完成しないという問題があった。そこで、育苗法を見直し、448穴のセルトレイを用い、播種期を前倒して育苗期間を確保するとともに、液肥追肥によって苗の生育を促す方法に改良を行った。
 また、定植後の生育については、生育が旺盛になると、かえって株が軟弱化して病気になりやすく、また、春に抽苔(ちゅうだい)が早まるという問題があったことから、追肥に重点を置く肥培管理に切り替え、草姿を見ながら追肥を行うことで問題の解決を図っている。
 
タイトル: p060
 
(4)乾燥貯蔵施設の整備
 当地の収穫時期は6月中旬以降の梅雨の時期と重なるため、鉄コンテナに詰めた状態では強制的な乾燥が必要となる。JAでは共同の乾燥貯蔵施設および選別調製施設を国の補助事業等を利用して整備し、運用しており、これによって、生産者各々での乾燥・調製作業がなくなり、省力化と初期投資の負担軽減が図られている。
 生産規模の拡大に応じて施設の拡充を図っており、現在は、効率の良いアスパレーション式のものなど3タイプの乾燥庫(注3)があり、合計で2000トン近くを同時に乾燥させることが可能となっている(写真3)。乾燥したたまねぎは、根と茎を適正位置でカットするタッピングセレクターで根葉切と荒選別がなされ、この時点で加工・業務用と青果用に分けられる。青果用はさらに選別施設に運ばれ、選別箱詰めとなる。
 また、830トンの収容量がある冷蔵庫も整備しており、出荷調整時の一時保管のほか、収穫ピーク時にタッピングセレクターの処理待ちとなる場合の保管場所としても利用している。昨今の気象変動により収穫のピークを見込むことが難しくなりつつあるが、事前に全圃場を対象にした生育調査によって各圃場の収穫時期と量の予測を行っており、一連の作業がスムーズに進むように受け入れ態勢の調整を行っている。
 ここでの管理された乾燥処理が高い品質の維持に寄与しており、また、出荷先から納品時期や量の変更を依頼された場合にも柔軟に対応できるようになったことで、出荷先の信頼確保にもつながっている。青果用では、県内市場のほか中京や東京の市場へ、加工・業務用は関東を中心に10社以上へ出荷している。
 
注3:現在、除湿乾燥庫、ラック式乾燥庫、アスパレーション式乾燥庫の3タイプがある。除湿乾燥庫は、庫内の除湿機で乾燥させる方式、ラック式乾燥庫は、これに加え庫内を減圧して乾燥を早める方式である。アスパレーション式乾燥庫は、吸引差圧を利用して加熱乾燥した外気を庫内に取り込んで乾燥させる方式で、効率が良く、均一に乾燥できるなどのメリットがある。
 
タイトル: p061

3 JA福井県坂井地区の取り組み

(1)産地の概要
 JA福井県坂井地区(前JA花咲ふくい)は福井県の北部にあり、地区内は地形的に北部の畑作園芸が盛んな砂丘・丘陵地と南部の稲作が盛んな坂井平野に分けられる。坂井平野では、コシヒカリを中心とした稲作経営が盛んであったが、減反で転作が進んでいる。転作作物として六条大麦が作付けされていたが、その需要には限りがあることから、これに代わる収益性が高い作目としてたまねぎの導入が進められている。先行するJAとなみ野の取り組みを参考に、平成27年に2戸の生産者、1ヘクタールの面積で始まった(図2)。現在は16ヘクタールを超えるに至っており、規模の大小はあるが16戸の生産者が参画している。以下に述べる取り組みにより単収は取り組み当初から1.5倍に増加している。10アール当たりの作業時間は45時間、単収5.3トンの仮定で時間当たり1151円の収益を見込むことができている。
 
タイトル: p062
 
(2)育苗と機械化の状況
 先行のJAとなみ野を参考としてきたこともあり、栽培方法は基本的にJAとなみ野と共通の部分が多い。主な品種は、中生の「ターザン」、晩生の「もみじ3号」である。ほかに中生で大玉の「七宝甘70」の利用もあるが、その割合は少ない。育苗は、JAとなみ野と同様に播種以外を自家で行っている生産者もいるが、たまねぎの育苗期間が水稲の収穫、乾燥作業と重なるため、生産者の多くは苗生産業者に委託している。ただし、育苗に要する時間はそれほど多くはないので、コスト削減のためにも自家育苗する生産者を増やしていきたいと考えている。
 当地では、これまでの圃場整備事業によって、ほぼ全ての圃場で本暗きょ(注4)が整備されており、対策として補助暗きょと明きょを設置し、高畝で栽培すれば、湿害の問題は、ほとんどないという(写真4)。これらを設ける作業機械は、大麦作とも共通しており、全ての生産者が所有している。たまねぎ生産に必要な高畝成型機や移植機などの作業機の整備も進んでいる。新規参入者向けにJAでも貸し出しているが、繁忙期に作業が集中するので、50アールを超えるような生産者には、適期作業ができるように個人所有を推奨している。
 
注4:圃場の地下に埋設した排水用の水路。地下60~100センチ程度の深さに樹脂製の暗渠管を敷設するケースが多い。補助暗きょを本暗きょに対し、直角に設置することで排水効率が高まる。
 
タイトル: p063
 
(3)単収向上に向けた栽培技術の高度化
 当初たまねぎの単収は産地全体で10アール当たり3トンを下回ることがあったが、近年では同4トンを超えており、漸増傾向にある。このように単収が向上した要因には、生産者が経験を重ねる中で、当地に合わせた防除や肥培管理のコツをつかんできたことがあるが、中でも雑草対策が徹底されるようになったことが大きい。初めてたまねぎを栽培する生産者にとっては、どのタイミングでどのような除草剤を施用すべきかを的確に捉えることが難しく、適切な防除ができずに雑草を繁茂させてしまうことが多かった(写真5)。このため、普及所とも連携して除草剤の選定を行うとともに、適期施用の徹底を指導した。現在は、圃場準備から収穫1カ月前にかけて時期ごとに適剤施用法を示したマニュアルを作成しており、生産者に配布して指導している。
 また、除草剤の効力を高めるためには、畝立時の土塊を細かくすることが重要で、土壌に程良い湿り気がある状態の時に畝立作業を実施することが求められる。生産者は作を重ねるごとに、その状態を見極められるようになってきているという。適切に畝を立てるためには、圃場の場所ごとに異なる土壌の状態を勘案してロータリーの掛け方を微調節する必要があるが、長年水稲作に取り組んできた生産者は、土質や水はけの良否など個々の圃場の特性を熟知しており、水稲作で長年培ってきた経験がこういった場面で生かされている。
 北陸では10月の畝立て時期は雨が多く、乾きにくい水田転換畑での作業適期は限られている。その時期をピンポイントで見定め、入念にロータリーを掛けるようになった点が雑草対策の徹底につながっている。
 
タイトル: p064a
 
(4)品質改善の方策
 品質については、抽苔や鱗片褐変症が問題となった。特に鱗片褐変症は、貯蔵中に球の内部が変色する症状で、収穫時には見分けられない。このため、発生が分からずに出荷してしまい、取引先でクレームとなる厄介な問題となっている。鱗片褐変症は、葉物野菜でみられるチップバーン(注5)と同じカルシウム欠乏症で、施肥窒素が多い場合に発生しやすい。当初、施肥量が比較的少ない水稲に対し、野菜は肥料が多く必要という先入観が生産者にあり、これが肥料の過剰施用を招いていたことから、元肥を減らし追肥に重点を置いた施肥とする施肥設計の見直しを行った。
 なお、施肥設計の見直しは、鱗片褐変症や抽苔の発生軽減のほか、減肥による生産費削減といった効果ももたらしている。肥料価格はこの数年で1.5倍程度上昇しており、経営への圧迫が懸念されている。販売価格への転嫁が難しい中、当地では使用する肥料を見直し、より安価な銘柄へ切り替えるなどして収益の確保にも取り組んでいる。
 現在は、貯蔵中に球の内部が腐敗する乾腐病(写真6)が問題となっており、土壌の物理性の改善や適正な薬剤の導入など、他産地の対策を参考にしながら対策の検討に取り組んでいる。
 
注5:新葉や生長点など生理活性の高い部位のカルシウム含量の相対的な不足によって変色する生理障害。高温や窒素の過剰施肥などによって発生しやすい。
 
タイトル: p064b
 
(5)青切り出荷による調製作業の簡素化
 たまねぎは全量が加工・業務向けで、関西の実需者に出荷している。出荷先には大規模な貯蔵施設と一次加工場があることから、畑で根切り、葉切りをしてピッカーで拾い上げた、いわゆる青切りという状態でたまねぎを出荷している(写真7)。このため、産地側でのこれらの処理やそのための施設整備の必要はない。乾燥処理したものに比べると取引単価は低いものの、施設の整備費やその運用費の負担を考えると、当地のような規模で水稲生産者が取り組む場合には、メリットの方が大きいという。ただし、青切り出荷はほぼ掘り上げた状態で出荷するので、石が混入しやすく、出荷先での調製処理時にトラブルの原因となる。このため、石混入の懸念がない圃場に限定される点に注意が必要である。
 このような青切りでの出荷は、たまねぎを導入を図る産地にとっては取り組みのハードルは低くなるものの、貯蔵施設を有する出荷先があることが前提となる。JAでは先行して取り組んでいる加工・業務用キャベツ、だいこんで出荷先の実需者と取引があり、その過程の中でこの青切りたまねぎの出荷契約にも至っているという点にも留意する必要がある。この実需者は元々近隣産地からたまねぎを調達していたが、都市化に伴う近隣産地の生産が少なくなったことから、これを補うため、北陸地方の産地とも取引を広げようとしているという。現在の出荷量に対し、出荷先の受入はまだ十分に余裕があることから、JAでは産地規模が50ヘクタール程度に達するまでは、当面この出荷体制を維持する考えである。
 
タイトル: p065

4 おわりに -課題と今後の展開-

 両事例とも、単収は取り組み当初に比べ1.5倍~5倍に向上したが、その過程では、各種作業機や施設などのハード面での環境が整ってきたことに加え、栽培管理のノウハウが構築されてきたことを見ることができた。北陸地方は栽培期間中に圃場が長期間雪に覆われるという気象的な特徴がある。この特徴を踏まえた北陸地方ならではの作業適期と草勢管理があり、それらが圃場特性を熟知する生産者によって的確に実施できていることがポイントになっているといえよう。べと病など日和見的に発生する病虫害への対応など、まださまざまな課題があるが、試験場や普及所とも連携して絶えず栽培マニュアルの更新を行っており、今後もさらなる技術の向上が期待される。
 懸念される課題としては、担い手の高齢化が挙げられる。全国的な課題であるが、地方ではより深刻で、このことがJAとなみ野の場合にはここ数年の作付面積の漸減として表れている。集落営農が多いこれらの地域では、人手を要する定植や収穫作業も、これまでは集落営農の中で人手を確保できていたが、近年ではそれも難しい状況である。
 一方で、生産者の中には、以前から危機感を持ち、従業員を確保しながら、規模拡大を進めている人も多く、また、経営に優れた人材を外から呼び込み組織を委ねる第三者継承の流れも進んでいる。今回の調査では、集落営農が従来の地域維持から利益創出のための組織に転換しつつあることも見ることができた。このような動きの中で、安定した収益が見込める加工・業務用たまねぎが一つの経営の柱になることによって、当地の競争力が強化されるとともに、たまねぎの国産シェア拡大につながることを期待したい。
 
 最後に、お忙しい中、ヒアリングにご対応いただくとともに画像などをご提供いただいた富山県農林水産部農産食品課の宮元史登氏、上杉知佳氏、福井県坂井地区たまねぎ推進協議会の坪田清孝会長、JA福井県坂井営農経済センターの後藤博一氏、福井県坂井農林総合事務所の冨田瑞恵氏、福井県農林水産部園芸振興課の牧野晶子氏にこの場を借りて感謝申し上げます。