(1)産地の概要
JAとなみ野は富山県の北西部に位置し、水稲を中心とした主穀作農業が展開されている。北陸地方における水田転換によるたまねぎ産地化の先駆け的な地域で、平成20年に8ヘクタールで取り組みが始まった。作付面積は順調に拡大し、近年は140~200ヘクタールの規模で推移している(図1)。当初は青果用出荷がメインで、規格外品を加工用に振り分ける程度であったが、加工用の割合は徐々に増加し、現在は全量の4分の1を加工用に出荷している。たまねぎの単収は、当初10アール当たり2トンにも満たない年が続いたが、以下に述べる取り組みにより、現在は同4トンを超える水準に向上している。10アール当たりの作業時間は35時間、単収4.5トンの仮定で、時間当たり1183円の収益を見込むことができている。
平成30年からは、1億円産地づくり
(注1)の中で広域産地形成品目に位置付けて、当地から富山県内全域への産地化の展開を図っている。
注1:富山県では、2010年度から農協ごとに戦略品目を選定し、園芸産地の形成を目指した「1億円産地づくり」に取り組んでおり、15の農協で延べ23品目が戦略品目に選定されている。
(2)北陸の条件に合わせた機械化作業体系の構築
たまねぎは農作業の全工程において機械化が図られており、水稲との複合化を図ろうとする生産者にとっては導入しやすい作目である。当地では、以前から水田への大麦や大豆の導入が進められており、
圃場排水対策のための作業機械
(注2)の導入は、ある程度進んでいる状況にあった。たまねぎ生産では、これに加えて高
畝成型機、定植機、根切・葉切・掘取機、収穫機(ハーベスター、ピッカー)が必要となるが、北海道で構築された加工・業務用を前提とした鉄コンテナ出荷での機械化作業体系は、当地の条件ではそのままでは適応できないものもあったことから、メーカーと連携して改良を行った。
一つはハーベスターの高畝への対応である。転換畑では湿害対策として20センチ以上の畝高を確保する必要がある。北海道で普及しているハーベスターは平畝仕様であったため、高畝に適応できるようにした。もう一つはピッカーの改良である。中規模圃場の生産者はハーベスターでは規格が大き過ぎるので、収穫作業にはピッカーを用いる。しかし、当時のピッカーは樹脂製のミニコンテナへの収集を前提としており、鉄コンテナへの収集は未対応であった。そこでピッカーの後部に昇降機を取り付け、鉄コンテナへ収集ができるように改良を行った。なお、当地が初の試みとなったピッカーの鉄コンテナ仕様(写真1)は、メーカー各社でラインナップ化され、全国への普及が進んでいる。
これらの改良によって、現在は、各生産規模に応じた形での機械化一貫体系が構築されている。JAではこれらの機械の貸し出しも行っており、新規参入のハードルを下げるための初期投資の軽減を図っている。
注2:圃場排水対策のための作業機械としては、地表の排水対策として地表面に排水用の溝(明きょ)を設けるための溝堀機、地下の排水対策として地下40~70センチに通水路(補助暗きょ)を設けるためのサブソイラやカットドレーンなどがある。
(3)単収向上に向けた栽培技術の高度化
圃場準備については、以下の対策を進めた。当地では、田面から落水口底面までの落差が30センチ未満の排水能が乏しい水田が全体の約6割を占めている。このため、湿害対策として適切な圃場排水対策を実施するための排水対策早見表を作成しており、それに沿った明きょや暗きょの施工を実施している。生産者の多くはこの取り組みの中で個々の圃場の排水性などを熟知しており、適切な管理がなされている状況にある。
たまねぎの品種は、全体の9割を中生の「ターザン」が、残りを晩生の「もみじ3号」が占める。2品種とも水分が少なく、機械収穫時に損傷が少ないこと、長期貯蔵が可能であることが選定の理由である。定植時期は両品種とも同じで10月中旬~11月上旬、収穫時期は「ターザン」が6月中旬~下旬、「もみじ3号」が7月上旬~となる。JAが一括して播種して苗を農家に配布し、育苗は個々の農家が行っている。
当初低かった単収が向上した要因には、排水対策が徹底されたことや薬剤による雑草、病虫害の防除体系が確立されたことなどいくつかあるが、中でも北陸の条件に合わせた草勢管理を見出したことが大きい。冬期に圃場が雪で覆われる当地では、苗が小さいと十分な生育量が確保されないまま雪中で越冬することになり、その間に株が消耗し、消失してしまうことが減収の一因となっていた(写真2)。これに対し、西南暖地で慣行的な324穴のセルトレイを用いて大きめの苗を作ろうとすると、根鉢形成に長期間を要し、北陸の気象条件では定植適期までに苗が完成しないという問題があった。そこで、育苗法を見直し、448穴のセルトレイを用い、播種期を前倒して育苗期間を確保するとともに、液肥追肥によって苗の生育を促す方法に改良を行った。
また、定植後の生育については、生育が旺盛になると、かえって株が軟弱化して病気になりやすく、また、春に
抽苔が早まるという問題があったことから、追肥に重点を置く肥培管理に切り替え、草姿を見ながら追肥を行うことで問題の解決を図っている。
(4)乾燥貯蔵施設の整備
当地の収穫時期は6月中旬以降の梅雨の時期と重なるため、鉄コンテナに詰めた状態では強制的な乾燥が必要となる。JAでは共同の乾燥貯蔵施設および選別調製施設を国の補助事業等を利用して整備し、運用しており、これによって、生産者各々での乾燥・調製作業がなくなり、省力化と初期投資の負担軽減が図られている。
生産規模の拡大に応じて施設の拡充を図っており、現在は、効率の良いアスパレーション式のものなど3タイプの乾燥庫
(注3)があり、合計で2000トン近くを同時に乾燥させることが可能となっている(写真3)。乾燥したたまねぎは、根と茎を適正位置でカットするタッピングセレクターで根葉切と荒選別がなされ、この時点で加工・業務用と青果用に分けられる。青果用はさらに選別施設に運ばれ、選別箱詰めとなる。
また、830トンの収容量がある冷蔵庫も整備しており、出荷調整時の一時保管のほか、収穫ピーク時にタッピングセレクターの処理待ちとなる場合の保管場所としても利用している。昨今の気象変動により収穫のピークを見込むことが難しくなりつつあるが、事前に全圃場を対象にした生育調査によって各圃場の収穫時期と量の予測を行っており、一連の作業がスムーズに進むように受け入れ態勢の調整を行っている。
ここでの管理された乾燥処理が高い品質の維持に寄与しており、また、出荷先から納品時期や量の変更を依頼された場合にも柔軟に対応できるようになったことで、出荷先の信頼確保にもつながっている。青果用では、県内市場のほか中京や東京の市場へ、加工・業務用は関東を中心に10社以上へ出荷している。
注3:現在、除湿乾燥庫、ラック式乾燥庫、アスパレーション式乾燥庫の3タイプがある。除湿乾燥庫は、庫内の除湿機で乾燥させる方式、ラック式乾燥庫は、これに加え庫内を減圧して乾燥を早める方式である。アスパレーション式乾燥庫は、吸引差圧を利用して加熱乾燥した外気を庫内に取り込んで乾燥させる方式で、効率が良く、均一に乾燥できるなどのメリットがある。