野菜 野菜分野の各種業務の情報、情報誌「野菜情報」の記事、統計資料など

ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 県内農協組織が一体となった加工・業務向け野菜販売の取り組み   ~JA熊本経済連によるキャベツ集出荷・販売の事例~

調査・報告 野菜情報 2024年1月号

県内農協組織が一体となった加工・業務向け野菜販売の取り組み   ~JA熊本経済連によるキャベツ集出荷・販売の事例~

印刷ページ
徳島大学大学院 社会産業理工学研究部 講師 橋本 直史

【要約】

 全国でも指折りの農業県である熊本県における野菜生産・販売の特徴に、農協組織が一体となって構築した集出荷体制が挙げられる。中でもキャベツについては、出荷量がトップ10に入る主産県であり、県内JAが一体となって、春キャベツ、夏秋キャベツ、そして冬キャベツと周年的な供給を実現している。
 本稿では、JA熊本経済連を核とした農協組織の集出荷体制の構築・対応が、安定供給が至上命題とされる加工・業務向け販売の拡大に寄与した点に焦点を当てて報告する。

1 はじめに

 昨今のスーパーなどにおける総菜の存在感の増大が象徴する通り、調理済み食品や外食の利用増加すなわち“食の外部化”の進展は顕著である。
 野菜産地にとっては加工・業務用需要への対応が重要になったが、その供給は専ら輸入品に席巻されてきた。この背景には、四半世紀以上続いたデフレ基調下での競争と、食品流通における川中・川下の諸事業者の構造変化により、取引に際していわば前提条件のように要求される野菜の“低価格性”並びに“安定供給力”と、国内産地の対応の間に乖離がみられたことがある。もちろん、国内の野菜農家を取り巻く厳しい社会・経済環境を踏まえれば、比較的高価格販売が見込める家庭用向けに注力するのは当然である。とはいえ、将来的により一層高まると考えられる加工・業務用需要への対応は、国内産地にとってますます重要になると考える。
 今回は、熊本県における熊本県経済農業協同組合連合会(以下「JA熊本経済連」という)を核とした加工・業務用販売対応について、キャベツの集出荷・販売を事例に報告する。
 全国指折りの農業県かつ野菜産地である熊本県においては、家庭用を含め加工・業務用にも農協組織が一丸となって集出荷体制を構築し、取引に臨んできた。質的・量的な安定供給が要求される現代の野菜流通に適した対応である点は言をまたないが、ここで見逃せないのは、その内実が単なる上意下達ではなく、各農協間の意向を反映しつつ築き上げられた協同的な体制であり、販売の不振にあえぐ国内産地への示唆に富むとも考えられる点である。

2 JA熊本経済連を核とした安定的な野菜の集出荷・販売体制の構築

(1)熊本県における野菜生産・流通
 熊本県が国内指折りの農業県であることは多言を要しまい。平野部である熊本・玉名・菊池地域や冷涼な中山間に所在する鹿本・阿蘇・上益城(かみましき)地域、島しょ部の天草地域では耕種から酪農・畜産まで多様な農業を展開してきた(図1)。
 2020年の農業産出額は全国第5位の3407億円であり、そのうち野菜はトップの1221億円(35.8%)を占め、熊本県農業を牽引する作目となっている。
 野菜生産は多様な品目が取り組まれており、収穫量ベースでみれば、指定野菜では全国首位のトマト、同第2位のなすをはじめ、トップ10圏内のピーマン、キャベツ、レタス、さといも、にんじんが挙げられ、果実的野菜であるすいか・メロン・いちごも全国屈指の生産量を誇る。
 そして当然ながら野菜販売に重要なのは流通過程であり、大消費地圏である関東・関西圏から見れば、熊本県は遠隔産地に位置付けられる。しかしながら、かつて筆者が2016年に実施した関西圏の中央卸売市場の卸売業者へのヒアリング調査において、全国的に野菜産地の衰退が進んだことによって川下への安定供給の課題が顕在化していく中、熊本県の取る安定供給体制への高い評価が複数の業者から聞かれたことが印象に残っている。その核となっているのがJA熊本経済連であり、県内JAの一体的な集出荷体制を構築・実現してきたのである。
 
タイトル: p049
 
(2)JA熊本経済連を核とした安定供給体制
ア JA熊本経済連の概要
 県の農業協同組合連合会であるJA熊本経済連は、専門農協、連合会を含む18組織で構成されている(参考文献)。幾多の都府県の連合会においてJA全農県本部への統合・再編が進められた一方、現在まで県単位の連合会として存続・運 営してきたことから、野菜販売においても比較的独自の対応が取られてきたことは間違いない。
 熊本県の2021年度の農畜産物の総取扱高(販売総額1028億円)の内訳は、農産物(米・麦・大豆・茶など)が90億円、畜産物が119億円、園芸作物(果実・野菜・花き・直販)が819億円と、園芸作物が8割以上に達している。
 ただし、野菜の品目別構成はここ30年で大きく変貌を遂げてきた。過去最高の取扱高955億円を記録した1991年はメロン・すいかの2品目で取扱高の半分以上を占めたのに対し、2021年度はトマト・ミニトマトが取扱高の半分近くを占めるに至った。このことは、バブル崩壊後の贈答用需要の減少や、消費者の簡便志向・低価格志向などの諸変化が関係している。そして見逃せない点は、2000年代半ばから、流通過程において“安定供給”を実現するための集出荷体制の構築を目指したことである。その下で、看過できない潮流となった食の外部化に伴う加工・業務用需要の増加への対応も模索してきたのである。
 
イ 青果物コントロールセンターの取り組み
 JA熊本経済連が中心となり、青果物の価格交渉や販売の一本化に向けた協力体制である「青果物コントロールセンター」を設置したのは2008年である。その目的は県内のJAが協働して青果物の安定供給体制を構築することであり、同年は県内計14JAのうち2JAが参加した。翌年には5JA、2010年には8JAと順調に増え、2011年には加盟組織数が現在と同じ11JAに至った。そして、通常ならば単協の部会レベルで取り組まれる「査定会」「()(ぞろ)え会」「研究会」などを加盟農協全体で実施している(写真1)。出荷に際する品質・出荷規格の統一化や各地域における生産状況・見通しを取引先に周知するための情報の集約と発信を実施し、情報共有を図ることで、県内レベルでの安定供給体制を整備してきた。特に、出荷権を持つ各JAの担当者が熊本市内のJA熊本経済連のオフィスに常駐することで、綿密かつ迅速な連携体制を取っていることは特筆に値する。コントロールセンターの設置により、生産から販売までの安定供給体制を確立した結果、取引先からの信頼を獲得し、安定販売につなげてきたといえる。
 取引先への情報発信にも積極的に取り組んでおり、2020年からのコロナ禍においては、You Tubeを利用した情報発信や、小売店の店頭におけるデジタル機器を利用した販売促進・プロモーションを精力的に実施してきた。加えて、熊本県内の各JAの農産物直売所の品揃えの充実にも貢献している。こうした中で、加工・業務向けの野菜販売も取り組まれているのである。

タイトル: p050

3 加工・業務用キャベツの集出荷体制の形成と取引の動向

(1)熊本県内のキャベツ生産の概要
 2021年産の全国のキャベツ作付面積総計は3万4300ヘクタール、総出荷量133万トンのうち、熊本県はそれぞれ1330ヘクタール、3万9600トンであり、都道府県別のトップ10圏内に入る産地である。総出荷量が10万トン台に達する上位4県の愛知県・群馬県・千葉県・茨城県には及ばないものの、熊本県は春キャベツ1万900トン、夏秋キャベツ1万3300トン、冬キャベツ1万5400トンと、地域毎の寒暖差を生かして周年的な出荷を行っている。また、出荷総量のうち加工・業務用は2割程度を占める(表)。
 熊本県内における季節別にみたキャベツ生産主要地域は、春キャベツは熊本・八代・上益城地域、夏秋キャベツは阿蘇・上益城地域、冬キャベツは八代・玉名地域となっており、それぞれJA熊本市、JAやつしろ、JAかみましき、JA阿蘇およびJAたまな管内に該当する(注)
 
注:熊本県農林水産部生産経営局農産園芸課「熊本県主要野菜生産状況調査結果について(令和2年産、令和3年産)」に基づく。

タイトル: p051
 
(2)加工・業務用に向けた集出荷体制の形成過程
 収穫したキャベツを農家が圃場で鉄コンテナに詰め(写真2)、JAの集出荷施設・選果場に持ち込む。品質維持を図るため、収穫のタイミングはJA職員が見計らって決定している。そして、選果段階でのサンプル検査を必ず実施しており、出荷後のクレームを防止するためにもキャベツの芯周辺の品質劣化、変色チェックには細心の注意が払われている。等階級は熊本県が設けた基準が用いられている。コントロールセンターの設置当初は、選果の基準となる等階級の相違は農協間で見られなかったが、包装・箱詰めに関してはそれぞれで対応していたため、センター発足後に13キログラムの鉄コンテナを導入することで統一が図られた。
 加工・業務用取引においては、単価水準が低い場合もあるため、農家の生産・集出荷におけるモチベーション維持が課題である。各JAの担当者は、加工・業務用向け販売が今後、一層重要となることを踏まえ、加工・業務用取引にしっかり対応することが産地の評価向上につながることを根気強く説明するとともに、選別を卸売市場・家庭向けと同レベルで実施することや、量目の順守(例:13キログラムの鉄コンテナに10キログラムや14キログラムといった過不足が生じないように)を周知徹底してきた。こうして築き上げられてきた安定供給に向けた集出荷体制は、並大抵ではないJA関係者の努力があった。

(3)加工・業務用向けの取引の成果と課題
 JA熊本経済連が取り扱うキャベツ総出荷量の推移は図2の通りである。2020年以降はコロナ禍による外食需要の減少を受けて加工・業務用の取引数量が伸び悩んだものの、徐々に回復傾向にあり、2023年3月~6月末の期間においては、合計220ヘクタール、3068トン(計画値)のうち加工・業務用の契約は3~5割程度を予定しているとのことである。加工・業務用向けの供給量は、コントロールセンター設置以前には総出荷量の6割程度を占めることもあったが、万が一欠品した場合に対応できるよう、確実に出荷できる契約数量にとどめる方向に転換した経緯がある。また、加工・業務用の販売先は、以前はその大半が熊本県内の飲食店であったが、センター設立後は全国の食品関連企業(大手のコンビニエンスストア、ファーストフード、居酒屋チェーン、飲食店)へと展開し、現在は計10社程度に至っている。

タイトル: p052
 
 取引交渉は直接ベンダー(販売先)との間で行われる。その際は、上述した周年供給体制の利を生かした通年の取引を提案し、価格面では年間を通じた固定的な契約が結ばれている。短期的に変動する取引先の数量面での要望に対して、JA熊本経済連がハブとなり、出荷に関する単協との調整が迅速かつ的確に行えるため、業者側の評価・信頼の向上につながったという。
 産地側にとっての加工・業務向け契約・販売のメリットとして挙げられたのは、需給動向・市況に左右されない確実な販売にある。そして取引実績を積むことで、取引先の業者からねぎ・だいこん・にんじんなどの他品目に関する要望があり、実際に契約に至ったことも見逃せない点である。とはいえ取引先が求める安定供給は容易ではなく、台風などによる被害の可能性が高まる夏~秋期の供給に万全を期すため、5年前から全農群馬県本部と連携している。他方、交渉は行われるものの取引に至らないケースは少なからずある。輸送費・運賃負担の折り合いがつかず、遠方に所在する業者との交渉で取引に至らないケースが多い傾向にある。物流2024年問題が、取引に影を落とさないことが望まれる。

タイトル: p053

4 おわりに

 以上、JA熊本経済連を核とした農協組織が一丸となったキャベツの加工・業務向け販売における安定供給の取り組みについて紹介した。
 
現代の野菜流通において安定供給は“当たり前”とされるが、それが“言うは易し行うは難し”である。その上、身を削るような販売競争に置かれ続けてきた国内野菜産地が、安価で取引される場合が多い加工・業務用向け販売に二の足を踏みがちなのも当然である。しかし、そうした中でも今回紹介したJA熊本経済連のキャベツ販売は、青果物コントロールセンターの活動を軸に県内JAが一体となって安定供給を実現し、全国規模の大手事業者にまで販売を展開・拡大してきたのであり、加工・業務向け対応における一つの優良事例と言える。
 食の外部化は加工・業務用野菜の需要の量的拡大を後押ししていく一方、供給面には心もとない状況である。すなわち昨今の国内外における社会・経済情勢を鑑みれば、安価な輸入品の安定的な調達は将来的に持続可能なのか不透明感を拭えない。その上、取引価格が安い条件下では、当然ながら国内野菜産地の加工・業務用向け対応は消極的になってしまう。端的には、国内農家にとって加工・業務用野菜は“あまりにも安い”のである。それ故、農家から消費者に至る供給面の課題に関する“三方良し”的な解決策を描くことは容易ではない。
 そのような中で、JA熊本経済連が中心となって設置した「青果物コントロールセンター」は、安定供給体制の確立により、安定販売や取引価格の安定に寄与しており、他産地にとっても参考になる取り組みといえる。今後、国内産地の県レベルを超えた連携・協力関係の構築ならびに産地の維持・発展が展望出来る条件について、訴求・提案していくことが重要と考える。それとともに最近20年の家庭用野菜における国産志向と同様のスパイラルが加工・業務用にも編み出されていくことが期待される。

 
謝辞:本稿執筆にあたり、快く調査にご協力頂いたJA熊本経済連の末廣健氏・桑住洋平氏に厚く御礼申し上げます。
 
 
参考文献
・JA熊本経済連の概要・生鮮野菜に関する販売については、末廣健・橋本直史(2023)「熊本県における青果物販売の実態と課題-JA熊本経済連の取り組み-」食農資源経済学会『食農資源経済論集』 Vol.74, No.1, 37-47.