次に、農業ビジョンにおいて分野横断的な政策の方向性の一つに掲げている有機農業の推進に係る取り組みをご紹介します。
化学的に合成された「肥料」や「農薬」を使用しない有機農業は、環境負荷低減を目指した持続的な社会の実現に重要であり、その生産物は付加価値の高い有機農産物として、生産と流通の両面で注目されています。
(1)有機農業の推進目標と現状
有機農業は、中山間地域といった土地条件の優劣や経営規模の大小にかかわらず、「儲かる農業」を実践する取り組みであることから、本県では、2009年に「第1期茨城県有機農業推進計画」を策定し、その拡大推進に取り組んでまいりました。
22年策定の第3期計画では、27年に有機JAS認証取得面積を560ヘクタールへ拡大する目標を掲げております。
22年4月1日現在、本県の有機JAS認証取得面積は321ヘクタールで全国第10位となっており、その7割強が普通畑での野菜生産です。
(2)有機農業に係る施策の展開
有機農産物の供給強化と販路拡大を分野横断的な政策として位置付け、「有機農業と言えば茨城」というポジションを確立すべく、各種の施策を展開しています。
19年には、県北地域に有機農業のモデル団地を形成する「いばらきオーガニックステップアップ事業」を創設しました。23年からは有機農業の関連予算を「有機農業推進関連事業」としてパッケージ化し、有機農産物の生産・流通拡大の支援を一層強化しています。
(3)有機農業のモデル団地育成支援
国の補助事業を活用し、県北地域における有機農業モデル団地の整備に必要なパイプハウス資材の導入や、農業機械などのリース導入を支援しています。
これまでに、常陸大宮市三美地区において、基盤整備と事業活用を契機に地域外の有機農業に取り組む法人が2社参入し、露地にんじんや施設こまつな、ほうれんそうなどを栽培しています。
地元法人も追随して有機野菜の露地栽培を開始しており、現在は、同地区を中心に20ヘクタール超の大規模有機モデル団地が形成されています(写真2)。
(4)有機農産物の供給能力向上
生産した農産物を「有機」「オーガニック」などと表示して販売するためには、有機登録認証機関に認証を申請(有料)し、有機JAS認証を取得することが必要となります。
このため、県では、有機農業の規模拡大や生産性向上を目指す有機JAS認証取得者および新規取得予定者などを対象に、認証の取得費用や生産拡大に向けた農業機械の導入などを支援しています。
22年には、省力化のための掘り取り機や
播種機、除草機などの農業機械の導入や、作期拡大のためのパイプハウス資材の導入を支援し、これにより、25年までに有機JAS認証取得面積が大幅に増加する見込みです。
(5)消費者の理解度向上に向けた内容成分調査
本県における有機農業の更なる拡大には、有機農産物に対する消費者の理解度向上により、消費機会の増加を図ることが重要です。
県では、有機野菜と一般野菜の内容成分の違いについて、消費者へ有機野菜の特長をアピールする差別化指標づくりのため、県内の有機栽培で多く生産されているにんじんやこまつななどを対象に、生活習慣病や老化の要因となる「活性酸素」を抑制・除去する「抗酸化物質」の含有量などの分析調査に取り組んでいます。
(6)有機農業関係者によるネットワークの構築
生産者、流通業者、消費者、学識経験者など、有機農業の関係者が有機農産物の生産方法、販路開拓、需要動向などについて意見交換を行い、相互理解を深め、本県有機農業を推進することを目的に、22年3月に「いばらきオーガニック推進ネットワーク」を設置しました。
これまで、年2回の意見交換会を実施し、本県における有機農業推進のための提案をいただいています。
(7)有機農業指導員の育成と有機農業技術推進チームの設置
22年から、有機農産物の栽培技術や有機JAS認証制度などについて指導・助言を行う「有機農業指導員」を育成しています。23年5月には、研究・普及・教育の有機的な連携を図る部内機関である農業総合センターに「有機農業技術推進チーム」を設置し、有機農業担当の専門技術指導員を配置することで、生産者への技術指導や情報提供、現地栽培技術のデータ化、栽培技術事例集の作成などの支援を実施しています。
また、有機栽培土壌の総合的な評価手法の開発や、有機農産物生産に適した土壌条件の解明など、生産現場における課題解決のための試験研究を、茨城大学や農業総合センター農業研究所・園芸研究所で実施しています。
(8)有機農産物のプロモーションと販売促進
本県産農産物の販売・流通対策を担う庁内組織と連携して、有機農産物のイメージアップおよび認知度向上を図るためのプロモーションや、オーガニック専門店や量販店での茨城県産オーガニックフェアの開催、県内有機農業者への商談会やフェアなどを通した販路拡大などの支援を実施しています。
県では、こうした取り組みを通じて、計画目標の達成に向けて有機農業の拡大を強力に推進するとともに、より付加価値の高い農業への構造転換を図ることで、本県農業の持続的発展に取り組んでまいります。