(1)売れ行きが伸びている商品
漬物業界全体では、韓流ブームの再燃や、日本人の味覚に合った甘く
出汁の効いた味付けに変化していること、また他の食材と合わせることで簡単におかずになり、時短調理となることなどから、「キムチ(キムチ風味の浅漬けを含む)」の売れ行きが良く、各社とも販売を強化しているようである。
これまで売れ行きが伸び悩んでいただいこん漬は、「いぶりがっこ」がクリームチーズとの相性で注目を浴びたこと(写真1)、コロナ禍での中食需要や、コロナ禍が落ち着いてきたことによる外食需要の回復傾向で、寿司のたくあん巻きや恵方巻での使用量が増加傾向にあることから、需要減は底を打ち、回復に転じている。
カレーに付け合わされる「福神漬」は、定番の漬物として外食向け、中食向けおよび家計消費向けともに需要は堅調だが、学校給食向けについては減塩志向と1食当たりの予算が制約されていることなどから、漬物業者としてはカレー献立でも福神漬を付け合わせない学校調理場も多くなっていると感じている。
(2)売れ行きが衰退している商品
漬物全体では、高まる健康志向による消費者の減塩志向の影響で、高塩分含量という固定概念が消費者に持たれがちな漬物は需要が縮小傾向にある。
その中でも、特に「奈良漬」や「だいこん漬け」などの古漬け(塩蔵野菜を使用したきゅうり、なすやだいこんなどの漬物)は塩分が高いというイメージを持たれてしまっている。
漬物の中で塩分含量が少なく、これまで手軽においしく野菜を摂取できることから売れ行きを伸ばしてきた浅漬けにおいても、消費者意識としてはやはり塩分が高いというイメージが払拭できていないこと、また、いつでも手に入るコンビニエンスストアのカップサラダの売れ行きが伸び続けていること、さらに果実などを混合した、より食味の良い野菜ジュースの販売量増加など、手軽な野菜摂取を訴求する漬物以外の競合商品が多くなってきたことから、売れ行きが頭打ちになってきている。
消費者からの需要はあるものの、生産者の減少により原料調達が難しくなっているものとして、かぶ漬(浅漬け)が挙げられる。漬物原料用のかぶは、歩留まりなどの面で生食用と仕様が異なることから漬物原料用としての出荷ができる生産者が限られており、安定調達が難しくなってきているため、漬物製造業者によっては製造量を抑えざるを得ない状況となっている。
(3)浅漬け原料野菜の国産比率が高い理由と主な調達先
収穫後、鮮度を保ったまま短時間で漬け込み製造処理される浅漬けの原料野菜は、カット野菜などの商品と同等の鮮度感が求められる(写真2)。このため、浅漬け用原料野菜は国産比率が高く、その調達先は工場近隣の産地、生産者などが多い傾向にある。一方、通年で安定した量を調達するために、近隣の産地だけでなく全国にわたる産地リレーを確立している製造業者も多い。
漬物製造業者における原料野菜の調達は、産地、生産者などとの
播種前直接契約が主体となっており、原料不足分や市場価格が比較的安価な時期は卸売市場からの調達も行われる。国産比率が高い浅漬けの原料野菜だが、オクラやブロッコリーなど、国産の価格で対応できない一部の品目は、輸入の塩蔵原料や冷凍野菜を使用する傾向にある。
古漬けについても、差別化商材を中心に国産野菜を使用した商品がある。ただし、漬物製造業者は貯蔵性の高い塩蔵処理済み野菜(写真3)を調達することから、契約先は産地、生産者などではなく、塩蔵処理業者となっており、塩蔵処理業者の原料調達は浅漬け原料野菜同様に、播種前契約となっている。
(4)販売先の国産志向
消費者には、国産原料、国産製造品は安全・安心という意識が浸透していることから、量販店なども国産原料使用の漬物商品を取り扱いたいという要望が強い。浅漬けの原料野菜は国産比率が高いことから、量販店などもその認識は高く、浅漬けの引き合いは強い。
キムチについては、国産のキムチ風味の浅漬けと韓国産キムチは製造方法や発酵具合によって食味が異なるため、漬物製造業者はもちろん、量販店なども異なる商品として捉えている。一方、消費者は同じキムチ商品と認識しているものの、食味の嗜好により国産と韓国産を買い分けしているようである。
なお、所得層の幅が大きくなってきたことを受け、量販店などでは所得層に応じた業態や販売戦略を行っている。中流下位層に訴求する量販店などでは安価な漬物商品の取り扱いを行うことから、納入価格が高くなる国産原料および国産製造品よりも輸入原料使用商品を要望し、同層より上位に訴求する量販店などは、国産原料使用商品との併売を行うことから、両商品を要望するとのことである。
(5)原料および製造コストの上昇
今般の燃油高騰による工場の光熱動力費の上昇、また、人件費や原材料費の上昇により、商品の収益率が低下していることから、漬物製造業者は経営継続のため、商品価格の値上げをせざるを得ない状況となってきている。
しかし、EDLP
(注1)を志向する量販店などを中心に仕入れ価格の値上げに難色を示す取引先もあることや、値上げにより自社商品に対して消費者の離心を招く可能性もあることから、値上げに踏み切れない漬物製造業者もいる。
とはいえ、輸入原料を含む原材料費の高騰を筆頭に、為替安や人件費上昇など、漬物製造業者を取り巻く経営環境の厳しさが継続していることから、一部商品では量販店などの理解を得た上で値上げを実施している。
注1:EDLP:Everyday Low Priceの略。特売期間を設けず、周年で安価に販売する価格戦略。
(6)地域性の高い漬物の動向
漬物は、もともと野菜が収穫できない冬期の貯蔵食品であったことから、各地で地域独特の漬物が製造されているが、直売所や地域の量販店などでの販売など、地域内流通が主体である。日本三大漬菜である、「野沢菜漬」「高菜漬」「広島菜漬」(写真4)を筆頭とする地域性の高い漬物は、原料野菜の産地も限られている。一方、贈答品でも利用される「奈良漬」(写真5)や近年脚光を浴びている「いぶりがっこ」のように、通販や物産展などで販売されるなど、一般的な漬物商品ほどではないが全国的に流通しているものもある。
また、摘果した果菜類や果実の漬物など、これまで野菜および果実産地内で流通していたものも、テレビやSNS(Social Networking Service)などにより全国的な認知度を上げている。
なお、一部の漬物製造業者は、大都市部に漬物販売店舗を開設し、自社製品はもちろん、全国の地域性の高い漬物商品を販売し、漬物のおいしさの発信による需要の掘り起こしを行っている。
地域性の高い漬物は、上記のとおり地域内流通が主体となっており、地域固有品種など、原料野菜の生産も原産地域内に限られているものが多いため、認知度が向上して需要が高まった場合、生産者や産地からの原料野菜調達だけでは間に合わなくなることから、漬物製造業者による自社生産を行う動きも出てきているようである。