「かぼちゃの里」として知られる南風原町は、沖縄本島南部に位置する那覇市と隣接しており、周りを六つの市町に囲まれ、県内では唯一、海に面していない(図3)。
近年は、宅地化が急速に進みつつあるものの、野菜は町の耕作面積の40%に作付けされるなど、県全体の割合(2%)と比較しても極めて高く(図4)、かぼちゃやきゅうり、へちま、トウガンなどさまざまな野菜生産を行う都市近郊型農業が展開されている。
(1)かぼちゃ生産の位置付け
沖縄県のかぼちゃ生産量は、全国7位の3140トンであり、全国の2%を占める(図5)。
東京都中央卸売市場におけるかぼちゃの産地別月別入荷実績(令和2年)を見ると、2月から4月にかけて入荷量の約1割を沖縄県産が占める(図6)。かぼちゃは生育適温が20度前後であるため、他産地の気温が低く、出荷できない端境期にニュージーランド産やメキシコ産などの外国産と並んで多く出荷されていることが分かる。
このうち、南風原町産の出荷量は、県内では宮古島市産、南大東村産に次ぐ259トンである(図7)。
南風原町では、昭和48年頃から町の特産品とすべく、さとうきび栽培からの転換が図られ、生産者が互いに栽培技術の研さんを積み重ねながら、端境期の県外出荷体制を少しずつ整えていった。
こうした努力の甲斐もあって、「生産拡大および付加価値を高めることが期待できる品目(戦略品目)および産地」を支援する沖縄県の『沖縄県農林水産振興ビジョン・アクションプログラム』において、かぼちゃの拠点産地として認定されている(表、写真1)。
近年の収穫量は横ばいの300トン前後で推移しており、令和2年時点の生産者数は65人、収穫面積は21.5ヘクタールとなっている(図8)。
主な栽培品種は、甘みの強い「えびす」を中心に、「グラッセ(えびすの新品種)」「栗五郎」、花粉交配用の「こふき」「くりほまれ」の5品種である。
台風が10月頃まで襲来することが多いことから、早播きはせず、11月上旬から播種作業を開始している。また、作付面積が限られることもあり、一つのツルから平均2回収穫する2果採り(定植から100~110日で1果目の収穫、その30~40日後に2果目の収穫)を採用している(図9)。
収穫したかぼちゃは、生産者自身がJAおきなわの選果場へ搬入し、自ら選別や箱詰めを行う個選を行っている(写真2)。個選のメリットとして、(1)生産者同士の情報交換において出荷基準の統一意識が持たれ、品質を上げていこうとする意識が譲成されること(2)手が空いている生産者同士の互助が機能すること―が挙げられるという。
そして、本州の各産地の出回り量が比較的少なくなり、高値になる傾向がある3、4月に出荷のピークを迎える。
(2)かぼちゃ生産の特長
ア 肥培管理の徹底による高い単収の実現
単収は、10アール当たり1.5トンと全国平均の1.2トンと比較しても高い単収を実現している。これは、生育期の苗を低温や風から守るためトンネル栽培を実施しているほか、脇芽取りの徹底や人工授粉による交配、防風ネットの設置、敷きワラの代用に遮光ネットを設置するなど、肥培管理を徹底していることによるものである。かぼちゃのツルが敷きワラをつかむことで風が吹いても動かず不定根が生えるほか、雑草が生えるのを防ぐ効果があり、これを遮光ネットで代用できるという。
トンネル内の温度は、何もしないと日中30~40度を超えるため、適温の23度を保てるよう、毎日トンネルビニールの開閉により温度調節をしている。
また(1)Lサイズ以上の大玉を目指して生産する方が高い単収を実現しやすいこと(2)相場の高い時期は小売店で2分の1もしくは4分の1にカットして販売されることが多いこと(3)2LサイズとLサイズの価格差が大きくないこと―から、大玉での収穫を心掛けているという。
イ 完熟果での収穫による高値取引実現
一般的にかぼちゃは、交配後、積算温度が1000~1100度に達した時点で収穫されることが多い。他方、南風原町では、積算温度1200度(平均気温20度で交配後60日目以降)に達してから収穫している。これにより、でん粉含有量が多くなり、さらに追熟させることで甘みが増して、市場での高値取引を実現している。
(3)資材費高騰に対応する化学肥料低減の取り組み
畝間の地表を覆うマルチ材として、以前はわらを
圃場に敷いていたが、20キログラム当たりの単価が昨年から1000円以上も値上がりし、3800円まで上昇した。
このため、資材費高騰に対応する新たな取り組みとして、12月から翌3月のさとうきびの収穫時期に発生する、さとうきびの葉ガラ(トラッシュ)や、無償での利用が可能なさとうきびの搾りかす(バガス)に納豆菌を蒔いて発酵させたものを、ススキやソルゴー(緑肥)と一緒に圃場に敷いて、マルチ資材として使用した後にすき込むことで、有機質の肥料(腐葉土)としている。トラッシュは300キログラム当たり1500~2000円で購入可能であり、これにより、3~4割の化学肥料の使用低減を実現している。以前から取り組む農家が一定数いたが、ここ1~2年でほとんどの農家が取り組んでいるという。
(4)減農薬栽培の推進による販売価格上昇の実現
管内の生産者からの要望を受けて、JAおきなわでは、3年前からBLOF理論(Biological Farming:生態系調和型農業理論)と呼ばれる減農薬栽培の講習会を開始した(写真3)。
この講習会は、県内全域から50人程度参加しており、生産者自らが土壌pHを測定器で測りながら、栽培に必要な納豆菌・酵母菌・乳酸菌を費用をかけて購入するのではなく、自身で生成できるように講義している。
さまざまな土壌改良法を模索・検討する中で、多くの生産者が効果を実感し、地域の土壌環境や特性に適していたのがBLOF理論だったと言う。
BLOF理論は、作物本来の力・機能を生かし、野菜の健全な生長を促すことを特徴とする。具体的には、(1)植物生理に基づいたアミノ酸の供給(2)土壌分析・施肥設計に基づいたミネラルの供給(3)太陽熱養生処理による土壌団粒の形成、土壌病害菌の抑制と水溶性炭水化物の供給による地力の向上―により、高品質・高栄養価・多収穫を実現するものである(図10)。
南風原町を含む沖縄本島南部は、ジャーガルと呼ばれる残積性未熟土壌が分布しており、養分の保持力が高い反面、粒子が細かく、締固められやすいことから、水はけが悪く、降雨後は作業性に難がある。
しかしながら、BLOF理論栽培導入後は、耕うんが容易となり、作土層に水や肥料がまんべんなく浸透し、根張りの良さを実感しているという。また、農薬や化学肥料の使用量低減により、生産物に付加価値が付き、販売単価の上昇につながる品目が徐々に増えているとのことである。