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調査・報告 野菜情報 2023年11月号

調理食品専業メーカーにおける規格外セルリーの利活用 ~エム・シーシー食品株式会社と株式会社アグリセールスの連携~

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山口大学大学院 創成科学研究科 農学系学域 准教授 種市 豊
元山口大学大学院 創成科学研究科 農学専攻 木寺 航大

【要約】

 兵庫県神戸市にあるエム・シーシー食品株式会社(以下「エム・シーシー食品」という)は、「価格が高くてもおいしいものを提供すること」をモットーに、レトルト食品や冷凍食品などの製造販売を行う調理食品専業メーカーである。
 セルリーについて、以前は、米国産を使用していたが、加工・販売を行う株式会社アグリセールス社(以下「アグリセールス社」という)と連携して、徐々に複数の産地の国産への切り替えを進めた結果、現在はほぼ全量、国産の規格外品や出荷調製の際に発生する外葉などを使用している。
 国産の規格外品や外葉の利用は、食品ロスの削減につながるだけでなく、円安や輸送費高などにより輸入野菜の価格が上昇する中、コスト削減の有効な手段の一つにもなっている。
 エム・シーシー食品は、農福連携にも取り組んでおり、その取り組みは産地の雇用につながり、加工・業務用野菜の国産化を進めるに当たり、産地や食品製造メーカーの指標になるものと思われる。

1 企業と産地の概要

(1)エム・シーシー食品
ア 同社の特徴と加工用セルリーの利活用の実態
 エム・シーシー食品は、兵庫県神戸市東灘区深江浜町に本社を有し、調理缶詰・レトルトパウチ・冷凍食品の製造販売を行う調理食品専業メーカーである。
 同社は、1923年に「水垣商店」として始まり、その後、1954年にエム・シーシー食品が設立された。今年、創業100年を迎える同社の売上高は131億円(2022年8月期)、現在の従業員数は298人である。「味の感動を伝える―」を使命に、日々商品づくりに取り組んでおり、新鮮な野菜の使用や兵庫県産野菜の使用など原材料にこだわり、手間ひまを惜しまぬ生産工程により、安全・安心かつ高品質な商品を製造している。2022年には、需要の高まりを背景とした製造規模の拡大に向けて、新たにポートアイランド工場(写真1)を竣工した。

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イ セルリーを使用した同社の主な製造商品
 同社は、主力商品である「100時間かけたビーフカレー」などの「100シリーズ」(小売店向け商品)や「ソースDEハンバーグソースシリーズ」(業務用商品)など、さまざまな商品を製造しており、多くの商品で規格外セルリーを使用している。
 このうち、同社が規格外セルリーを多く活用している商品は、「ミネストローネ」「国産6種野菜のスープ」である(写真2)。

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ウ 同社の主な販路・販売戦略
 同社の主な販路は、生協やスーパーマーケット、大手インターネットサイトでの直接販売である(表1)。
 主な購入層は、子どもがいる家庭や働いている女性、シニア世代である。彼らのニーズは、調理時間にかける時間が限られる中で、金額が多少高くてもおいしいものを食べたいといったことが挙げられ、美食志向や手軽に野菜を摂取できるといった健康志向を反映したものとみられる。そのため、同社は「価格が高くてもおいしいものを提供すること」を販売戦略としている。

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(2)アグリセールス社の概要
 エム・シーシー食品が使用するカット野菜の製造を担うアグリセールス社(従業員90人)は、1999年に設立した兵庫県神戸市に本社を有する企業であり、主に野菜の加工・販売を行っている。
 取扱品目は、ごぼう、たまねぎ、しょうが、にんじん、さといも、キャベツ、れんこん、かぼちゃ、そのほか季節の野菜などさまざまである。エム・シーシー食品とは、同社が国産セルリーへ転換する以前から取引を行ってきた。
 
(3)JA信州諏訪・JAとぴあ浜松との連携による周年調達の実現
 エム・シーシー食品とアグリセールス社との取引には、日本有数のセルリー産地である二つの産地が関わっている。一つは長野県にあるJA信州諏訪であり、もう一つは静岡県にあるJAとぴあ浜松である。
 本来、加工用には米国で栽培される「トップセラー種」が大株・多収で取り扱いやすいことから好ましいとされるが、両JAとも、味覚が良く、汎用性の高い青果用のコーネル種を栽培している。
 出荷時期は、JA信州諏訪が6~10月、JAとぴあ浜松が11月上旬~翌5月上旬であり、両産地から調達することで、年間を通じた産地リレーの確立による周年調達を可能にしている。

2 取引に至った背景と取引・流通形態

(1)国産産地の開拓の経緯と協議会の設立
 エム・シーシー食品は、産地から調達したセルリーを、スープやソースの原料として使用している。
 かつて同社は、ほぼ全量米国産を使用していたが、2007年、2009年の米国での寒波到来により、輸入農産物の取引価格が急騰したため、国産野菜へ転換できないか模索が始まった。
 当初、国産セルリーを卸売市場経由で購入したものの、単価が高いことから、新たな産地の開拓に着手した。2009年にエム・シーシー食品が中心となり、食品産業と産地との円滑な野菜取引の実現を目的とした「兵庫県国産農産物利用向上推進協議会(現在は解散)」を立ち上げた後、農林水産省の補助事業「国産原材料供給力強化対策事業(国産原材料サプライチェーン構築事業)」に応募し、採択された。同事業を通じて、国内の有力産地である長野県と静岡県を視察したことが契機となり、規格外品(写真3)や外葉(写真4)を原料として仕入れることとなった。
 補助事業終了後、端境期や不足時の対応として、福岡県をリレー産地に加えることで、より強固な供給体制を形成し、現在も継続させている。
 取引開始当時、主に取引していた品種は、米国産が「トップセラー種」、国産が「コーネル619種」である。
 当時、実需者から原料に国産使用を強く求められていたこともあり、使用していた米国産20トン全量を国産に切り替えることとなった。味覚試験や製造試験などのさまざまな検証を実施し、これまでの米国産を使用した商品と、国産を使用した商品に味や品質などに遜色がないと判断し、導入に至ったという。米国産に比べ風味などが最終製品に反映されやすいというメリットもあった。

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(2)両産地の出荷規格
 出荷規格の詳細は、JA信州諏訪の基準によると、表2の通りである。
 また、JAとぴあ浜松の出荷規格は、(1)かき葉(青果向けセルリーを出荷する際に、形を調製するために出る部位)(2)2Sサイズ(Sサイズに満たないもの)一の2点である。青果用の品質に近い規格外品(LA・SA・2Sサイズ)を使用しているが、一部でかき葉を活用することもあり、その多くは、漬物やジュース原料などに用いられる。場合によっては余剰となり、圃場(ほじょう)()き肥料になるなど、野菜として活用されないこともあった。エム・シーシー食品への出荷開始により、トレンドに左右されない安定した取引が可能になり、産地にとっても安心した取引先の一つとなっている。
 両産地に共通する出荷の基準は、(1)軟腐などにより茎の芯が変色したものは避ける(2)泥付きの多いものは避ける(3)表皮が小さくめくれるささくれやキズなどは軽微なものまでとする―などである。
 以上の通り、明確な出荷規格の基準を有していることから、加工向けとしての十分な品質が保証されているといえる。
 
(3)エム・シーシー食品の原料調達フロー
 エム・シーシー食品の主な原料調達フローは、図で示す通りである。同社は、野菜加工において高い専門性を有する企業のアグリセールス社から、カットなど加工されたセルリー(写真5)を仕入れており、野菜原料はすべて加工済みのものを使用している。そのため、エム・シーシー食品の工場で原体のセルリーを加工することはない。

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(4)原料調達と不足時の対応
 表3は、エム・シーシー食品とアグリセールス社の加工用セルリーの取引概要を示したものである。
 アグリセールス社は、長野県JA信州諏訪や静岡県JAとぴあ浜松から規格外品のセルリーの株やその外葉を調達しており、その割合は、長野県産約50%、静岡県産約50%である。
 規格外品や外葉が足りない場合は、リレー産地の一つである福岡県から調達するほか、卸売市場から正規品を購入し対応することもある。
 アグリセールス社は、兵庫県の卸売市場の近隣に位置しているため、加工用セルリーは、産地から卸売市場行きのトラックに混載・輸送される。これにより、運賃の低減につながり、よりリーズナブルな価格帯でのセルリーの取引が可能となっている。

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(5)アグリセールス社の加工工程
 アグリセールス社のセルリーの加工工程は、(1)セルリーの根元部のカット(2)外葉と株の分離(3)洗浄(4)5センチ程度にカット(5)10キログラムごとに袋詰―の順となっている。
 カット加工の工程で外葉が株から分離されるため、鮮度保持を図ることが可能である。また、最終的に5センチ程度にカットされるため、元のセルリー形状は細かく問われない。カット後、袋詰めを行い、エム・シーシー食品へ納品している。
 アグリセールス社の熟練スタッフによる品質管理のほか、産地や食品製造メーカーの意見をすばやくとりまとめられる機動性などにより、14年間の長年にわたり取引を継続しており、エム・シーシー食品は高品質な国産加工向けセルリーを途絶えることなく安定的に入手できる状況が続いている。
 以上のように、エム・シーシー食品、アグリセールス社および産地において、出荷規格の基準や製造などにおける事前協議がしっかりとなされていることが、長きにわたる取引実現を可能としている一因といえる。
 現在、エム・シーシー食品は年間30トンの国産セルリーを仕入れており、その納品のほぼ全量をアグリセールス社が担っている。同社からの聞き取りによると、米国産と国産では前者の仕入れ価格が1キログラム当たり40円ほど高くなり、コスト削減の有効な手段の一つにもなっているという。

3 加工・業務用野菜の国産化に向けた新たなチャレンジ

 エム・シーシー食品の活動は、単に使用野菜を国産に切り替えるだけではなく、本社が位置する兵庫県の農産品の生産振興と障害者の雇用促進にも積極的である。その一例を紹介したい。
 主な活動の一つは、2004年から開始した兵庫県産のバジルの生産振興である。良質の原材料を地元で調達することで、安全・安心な商品製造だけでなく、地域の活性化にもつなげようと、県内の農業生産法人株式会社ささ営農との契約栽培を長きにわたり継続している。2014年に本格的な生産管理体制を確立した。今後も、地域内の農業生産法人と継続して取り組むことで、地域の活性化につなげたいとしている。
 その他、上述した本社の生産・製造工程や、神戸工場、ポートアイランド工場、甲南工場において、障害者雇用を推進している。担い手不足や高齢化が進む農業分野において、この先、国産農産物を安定的に供給するに当たり、農福連携の推進は重要であり、このような取り組みは、継続的な加工・業務用野菜の国産化に向けた重要な取り組みといえる。

4 おわりに

 以上は、生産・加工・流通・販売の各段階で互いの信頼関係を構築したことにより、加工・業務用野菜の国産原料使用が成功した事例である。
 エム・シーシー食品は、販売商品自体が消費者ニーズを的確に捉え、高い商品価値を有しているため、国産野菜への切り替えがスムーズだったとも考察できる。さらに、農福連携にも取り組みながら加工用野菜産地の振興も積極的に行い、より国産品の利活用を進めている。
 以上を総括すると、産地―野菜加工業者―食品製造メーカーが長きにわたって取引できる要因は、互いの信頼関係のみならず、(1)加工向けにしっかりとした出荷規格の基準を持った産地であること(2)高度な品質管理や機動性の高い野菜加工事業者であること(3)国産野菜や地域経済の振興に積極的な食品製造メーカーの連携―にあるといえる。
 今回紹介した国産野菜の規格外品の積極的な活用や農福連携推進の取り組みは、今後日本の食品産業にその導入が求められるものではないだろうか。
 近年、輸入野菜は、円安や輸送費上昇などに伴い取引価格が値上がりし、これまで通りの取引継続が困難な状況にある。それに伴い、最終商品の値上げが一層進むことも予想できる。
 規格外野菜の利用は、生産者手取りの向上のほか、食品ロスの削減や、加工食品製造の継続、コスト削減のため、重要な選択肢の一つとなり得る。また、エム・シーシー食品は地域産業との連携や発展に資する取り組みも積極的に行っており、これらの事例は今後、産地や食品製造メーカーの重要な指標となるのではないだろうか。
 
 
参考文献
(1)種市豊「食品加工企業と農協が連携したセルリーにおける規格外品の活用 ―レトルト製造企業を中心とした取引事例―」『農業および園芸 88』:pp377-381,  2013年
(2)種市豊・相原延英・野見山敏雄(2017)『日本農業市場学会研究叢書16 加工・業務用青果物における生産と流通の展開と展望 』筑波書房
(3)野見山敏雄(2022) 『産直と地産地消の地平を拓く』筑波書房
(4)木立真直 編・坂爪浩史 編(2022)『講座これからの食料・農業市場学 3 食料・農産物の市場と流通』筑波書房