(1)国産産地の開拓の経緯と協議会の設立
エム・シーシー食品は、産地から調達したセルリーを、スープやソースの原料として使用している。
かつて同社は、ほぼ全量米国産を使用していたが、2007年、2009年の米国での寒波到来により、輸入農産物の取引価格が急騰したため、国産野菜へ転換できないか模索が始まった。
当初、国産セルリーを卸売市場経由で購入したものの、単価が高いことから、新たな産地の開拓に着手した。2009年にエム・シーシー食品が中心となり、食品産業と産地との円滑な野菜取引の実現を目的とした「兵庫県国産農産物利用向上推進協議会(現在は解散)」を立ち上げた後、農林水産省の補助事業「国産原材料供給力強化対策事業(国産原材料サプライチェーン構築事業)」に応募し、採択された。同事業を通じて、国内の有力産地である長野県と静岡県を視察したことが契機となり、規格外品(写真3)や外葉(写真4)を原料として仕入れることとなった。
補助事業終了後、端境期や不足時の対応として、福岡県をリレー産地に加えることで、より強固な供給体制を形成し、現在も継続させている。
取引開始当時、主に取引していた品種は、米国産が「トップセラー種」、国産が「コーネル619種」である。
当時、実需者から原料に国産使用を強く求められていたこともあり、使用していた米国産20トン全量を国産に切り替えることとなった。味覚試験や製造試験などのさまざまな検証を実施し、これまでの米国産を使用した商品と、国産を使用した商品に味や品質などに遜色がないと判断し、導入に至ったという。米国産に比べ風味などが最終製品に反映されやすいというメリットもあった。
(2)両産地の出荷規格
出荷規格の詳細は、JA信州諏訪の基準によると、表2の通りである。
また、JAとぴあ浜松の出荷規格は、(1)かき葉(青果向けセルリーを出荷する際に、形を調製するために出る部位)(2)2Sサイズ(Sサイズに満たないもの)一の2点である。青果用の品質に近い規格外品(LA・SA・2Sサイズ)を使用しているが、一部でかき葉を活用することもあり、その多くは、漬物やジュース原料などに用いられる。場合によっては余剰となり、
圃場の
鋤き肥料になるなど、野菜として活用されないこともあった。エム・シーシー食品への出荷開始により、トレンドに左右されない安定した取引が可能になり、産地にとっても安心した取引先の一つとなっている。
両産地に共通する出荷の基準は、(1)軟腐などにより茎の芯が変色したものは避ける(2)泥付きの多いものは避ける(3)表皮が小さくめくれるささくれやキズなどは軽微なものまでとする―などである。
以上の通り、明確な出荷規格の基準を有していることから、加工向けとしての十分な品質が保証されているといえる。
(3)エム・シーシー食品の原料調達フロー
エム・シーシー食品の主な原料調達フローは、図で示す通りである。同社は、野菜加工において高い専門性を有する企業のアグリセールス社から、カットなど加工されたセルリー(写真5)を仕入れており、野菜原料はすべて加工済みのものを使用している。そのため、エム・シーシー食品の工場で原体のセルリーを加工することはない。
(4)原料調達と不足時の対応
表3は、エム・シーシー食品とアグリセールス社の加工用セルリーの取引概要を示したものである。
アグリセールス社は、長野県JA信州諏訪や静岡県JAとぴあ浜松から規格外品のセルリーの株やその外葉を調達しており、その割合は、長野県産約50%、静岡県産約50%である。
規格外品や外葉が足りない場合は、リレー産地の一つである福岡県から調達するほか、卸売市場から正規品を購入し対応することもある。
アグリセールス社は、兵庫県の卸売市場の近隣に位置しているため、加工用セルリーは、産地から卸売市場行きのトラックに混載・輸送される。これにより、運賃の低減につながり、よりリーズナブルな価格帯でのセルリーの取引が可能となっている。
(5)アグリセールス社の加工工程
アグリセールス社のセルリーの加工工程は、(1)セルリーの根元部のカット(2)外葉と株の分離(3)洗浄(4)5センチ程度にカット(5)10キログラムごとに袋詰―の順となっている。
カット加工の工程で外葉が株から分離されるため、鮮度保持を図ることが可能である。また、最終的に5センチ程度にカットされるため、元のセルリー形状は細かく問われない。カット後、袋詰めを行い、エム・シーシー食品へ納品している。
アグリセールス社の熟練スタッフによる品質管理のほか、産地や食品製造メーカーの意見をすばやくとりまとめられる機動性などにより、14年間の長年にわたり取引を継続しており、エム・シーシー食品は高品質な国産加工向けセルリーを途絶えることなく安定的に入手できる状況が続いている。
以上のように、エム・シーシー食品、アグリセールス社および産地において、出荷規格の基準や製造などにおける事前協議がしっかりとなされていることが、長きにわたる取引実現を可能としている一因といえる。
現在、エム・シーシー食品は年間30トンの国産セルリーを仕入れており、その納品のほぼ全量をアグリセールス社が担っている。同社からの聞き取りによると、米国産と国産では前者の仕入れ価格が1キログラム当たり40円ほど高くなり、コスト削減の有効な手段の一つにもなっているという。