(1)労働力確保支援のための体制構築
このようにJAあきた白神管内のねぎ生産は、大規模生産者を中心に産地規模の拡大が進んでいるが、一方では労働力不足という課題が顕在化している。秋田県における露地ねぎ栽培の場合、全労働時間(241時間/10アール)のうち収穫・調製作業が約7割を占める(図4)。調製作業には、収穫されたねぎの根・葉切りから、皮むき、選別、結束、箱詰め作業まで、ねぎを出荷できる状態にするまでの一連の作業がある。掘り取り機や自動収穫機、皮むき機や根葉切り機、結束機などの導入が進んでおり、収穫・調製作業の各工程では機械化が進んでいる。しかし、それは無人化ではなく、あくまで半自動化であり、省力化・軽労化であるため、作業ピーク時には多くの人手を確保する必要がある。しかし、近年の農業労働力の脆弱化は当地においても同様であった。
そこで、JAあきた白神と能代市、そして秋田県の出先機関である山本地域振興局では、2018年度から「園芸労働力確保に関する意見交換会」
(注3)を開催し、地域の労働力確保を支える仕組みづくりを構築するための協議を開始した。そして、秋田県農業労働力サポートセンター(事務局:秋田県農業会議)および秋田県農業協同組合中央会による支援を受けながら、多様な雇用労働力を確保していくための支援方策となる、「無料職業紹介所」の開設、「1日農業バイトアプリday work」の導入実証、ねぎ調製作業の一連の作業行程を体験できる「子育て世代向けアグリツアー」や「白神ねぎお仕事体験会」の開催、農福連携の推進などさまざまな取り組みを行っている(図5)。
(注3)園芸労働力確保に関する意見交換会には、2021年から秋田県立大学も参加している。
(2)職業紹介と労働力マッチング支援
「職業紹介」とは、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」(職業安定法第4条第1項)であり、「無料の職業紹介」とは、「職業紹介に関し、いかなる名義でも、その手数料又は報酬を受けないで行う職業紹介」(同法第4条第2項)である。2022年10月時点で、全国のJAでは、261JA・323事業所が無料職業紹介事業を行っている
(7)。
JAあきた白神は、2017年12月に秋田県内で最初に無料職業紹介事業を開始した(図6)。無料職業紹介事業を開始するに先立ち、組合員の労働力確保状況を把握するアンケート調査を実施するとともに、北海道や山形県などの先進事例調査を行った。また、無料職業紹介事業を円滑に推進するために、データベース管理ソフトウェアにより求人者と求職者の条件をマッチングさせる「JA無料職業紹介所マッチングシステム」を独自に開発している。
また、JAあきた白神では無料職業紹介事業に加えて、スマートフォン・アプリを介して生産者と農業アルバイト希望者を結びつける「1日農業バイトアプリday work」を活用する実証事業に取り組んでいる。「day work」は生産者が賃金や手当などの条件を設定し、農業アルバイトを1日単位で直接雇用する形式である。JAが求職者の募集事務を直接行うわけではないが、さまざまな機会を通じて、求人者と求職者の登録を促している。「day work」により、2020年度はアルバイト募集人数920人(延べ数)に対して523人(56.8%)、2021年度はアルバイト募集人数1939人(延べ数)に対して1387人(71.5%)の求職者がマッチングされ、1日単位で多くの農業アルバイトが確保されている。
(3)ねぎ調製作業体験会を通じた農業労働参加支援
山本地域振興局農林部農業振興普及課では、地域振興局が独自に企画実施する地域施策推進事業として、能代市内の保育所および小中学校に通う園児・生徒の保護者を対象に、ねぎの調製作業を体験してもらう「子育て世代向けアグリツアー」を、2020年の8月から10月にかけて複数回開催した。2021年および2022年には、シニア世代までに対象を広げた「白神ねぎお仕事体験会」として開催している(図7)。具体的な内容は、畑作技術の実証展示や研修を行う能代市農業技術センターを会場として、参加者にはねぎ産地の現状と課題を説明した後、能代市農林水産部ねぎ課と農業技術センターの職員の指導の下で、皮むき、選別、結束から箱詰めまでの一連のねぎ調製作業を体験してもらう。体験後は、JAあきた白神が無料職業紹介所と「1日農業バイトアプリday work」の紹介を行った。
コロナ禍での開催であったため参加人数は思ったよりも伸びなかったが、20代から70代までの学生から専業主婦や定年退職者までの男女の参加人数は、2020年7人、2021年17人、2022年11人であった。また、そのうち8人が無料職業紹介所に求職者登録を行った。また、JAあきた白神ではこのような機会を通じて多様な就労ニーズを把握することで、勤務頻度や時間帯などの働き方を柔軟に変更していくことの必要性を、求人者である生産者に伝えることができている。
(4)大規模ねぎ生産拠点と福祉事業所による農福連携への支援
2018年にJAあきた白神が福祉事業所とねぎ生産者1戸を仲介し、農福連携の初めての取り組みが行われた。生産者側が求める作業時間帯と福祉事業所側が対応できる作業時間帯にミスマッチがあったり、生産者の農福連携に関する知識不足があったりしたことで、障がい者に対する労働力としての過剰な期待や不安がみられたが、お互いの継続意向が確認された。そこで、山本地域振興局農林部農業振興普及課主導の下、2019年度から2022年度までの地域施策推進事業として、受け入れ側となるねぎ生産者が障がい者の働きやすい環境づくりへの理解を深めるとともに、障がい者に対してねぎ調製作業の事前トレーニングを実施した上で、農福連携へ移行する地域的なスキームの構築に取り組んだ(図8)。
まず、県内の農福連携実践事例への視察研修を通じて、障がい者が働きやすい配慮や指示の仕方など、農福連携を円滑に進めるポイントを先進事例から学んだ。次に能代市内の社会福祉法人が運営する就労継続支援B型
(注4)事業所の利用者に対するねぎ調製作業トレーニングを実施した。トレーニングは、能代市農業技術センターを会場とし、ねぎ課職員がマンツーマンで指導を行い、課題の洗い出しを行った。また、はかりの目盛りを色分けする、ねぎの選別作業台に線を引く、規格別の仕分けを見やすくするなど、障がい者が作業しやすい環境整備を検証した(写真)。そして、就労継続支援B型事業所との農福連携を希望するねぎ生産者をマッチングし、継続就労へ向けた農福連携現地トライアルを、メガ団地1地区とサテライト型団地1地区、ネットワーク型団地2地区で順次実施した。結果として、トライアル期間終了後も事業所と各団地との農福連携が継続して行われている。
(注4)障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスである。就労継続支援B型は、通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供および生産活動の機会の提供を行う。一方、就労継続支援A型では、通常の事業所に雇用されることが困難であるものの、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行う。