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調査・報告 野菜情報 2023年8月号

ブロッコリーの産地づくりと出荷予測システムの導入 -JA香川県の新たな取り組み-

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日本大学 生物資源科学部 食品ビジネス学科 教授 宮部 和幸

【要約】

 香川県のブロッコリーの作付面積は、全国では北海道に次ぐ第2位を誇る。香川県農業協同組合(以下「JA香川県」という)が進めるブロッコリーの産地づくりは、出荷量を確保した品質競争力の強化であり、またスマート農業としてのブロッコリーの出荷予測システムの導入は、JA香川県が進めるブロッコリーの産地づくりにおいて重要な意義を有している。

1 はじめに ―今、なぜブロッコリーなのか―

 あなたのお昼のお弁当には、ブロッコリーが添えられていないだろうか。ブロッコリーは、ミニトマトと並ぶお弁当の定番野菜であり、炒め物、揚げ物、スープなど、さまざまな料理で登場する万能野菜でもある。さらに、ビタミン、ミネラル、植物性たんぱく質、食物繊維などの多くの栄養素がバランス良く含まれる緑黄色野菜であり、子ども、若者からお年寄りまで支持される、いわゆる“推し”野菜なのである。
 こうしたブロッコリーに対する人気の高まりは、図1の世帯員一人当たりの生鮮野菜の品目別年間購入量の増減からも確認することができる。多くの生鮮野菜の購入量が減少しているのに対して、一人当たりのブロッコリーの年間購入量は、20年前の962グラムから1544グラムへと、著しく増加(約61%増)しているのである。

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 また、ブロッコリーの需要増大に伴う国内生産量の増加とともに、新しいブロッコリー産地も出現している。過去20年間の生鮮野菜の作付面積の推移を見ると、作付面積が減少する品目が多い中、ブロッコリーはこまつなと並び最も増加している野菜となっている。さらに、ブロッコリーは、野菜類の中でも軽量で扱いやすいなど、高齢者や女性、そして新規就農者などの多様な労働力にも適した品目であることから、多くの産地でブロッコリー栽培が開始され、産地間競争も進みつつある。
 競争が進むブロッコリー産地は、いかにして他産地に先んじて新たな取り組み(挑戦)をすべきか、産地を取り巻く新たな環境変化への適応力が求められている。そして、今、その新たな取り組みとして、スマート農業への関心と期待は高まっている。
 ロボット、AI、IoTなどの先端技術を活用するスマート農業は、施設野菜では展開しつつあるが、産地を取り巻く環境変化に適応するには、露地野菜におけるスマート農業の展開も必要であろう。
 そこで、本調査報告では、新たな取り組みを続けているJA香川県のブロッコリーの産地づくりに着目し、露地栽培におけるスマート農業としてのブロッコリーの出荷予測システムの導入について検討したい。

2 特産ブロッコリーの産地づくり

(1)全国における香川県のブロッコリー産地の位置付け
 2000年以降、国内のブロッコリー生産は拡大してきているが、香川県のその拡大スピードは極めて速い。香川県は、ブロッコリーの秋冬どり栽培産地であったが、年内どり、春どりなどの多様な作型を組み合わせ、11月から翌6月にかけての長期出荷を実現することで、栽培の拡大を実現してきた。その結果、今や香川県のブロッコリーの作付面積は、全国では北海道に次ぐ第2位を誇る。図2は、香川県におけるブロッコリーの作付面積と全国シェアの推移を示したものである。2000年の香川県の作付面積は187ヘクタール、全国シェアは2.3%に過ぎなかったが、この20年で作付面積は7倍にも跳ね上がり、作付面積は1380ヘクタール、シェア8.3%まで拡大している。

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 とりわけ京浜市場を中心に、香川県のブロッコリー産地の地位はますます高まってきている。図3は、東京都中央卸売市場におけるブロッコリー主要産地の入荷量シェアの推移を示したものである。香川県の場合、2000年時点では入荷量が少なく、そのシェアはわずか0.9%であったが、2020年になるといずれの産地と比べても最も入荷量が多くなり、そのシェアは20%を占めるまでになっている。埼玉県、愛知県といったブロッコリーの主要産地を超えるまでに、香川県のブロッコリー産地が成長したことを強調しておきたい。
 図4は、東京都中央卸売市場におけるブロッコリー主要産地の月別入荷量を示したものである。先述のように、香川県は、早生・中生・晩生・促成の品種と、年内・年明け・春・初夏どりの多様な作型を組み合わせながら、11月から翌6月までの8カ月間にわたる長期出荷産地となっている。特に、12月から翌5月の6カ月間は、香川県が京浜市場の基幹産地となっていることを確認することができる。


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(2)ブロッコリーの産地づくり
 県内でのブロッコリー栽培は、1970年代、野菜品目の多様化需要を踏まえ、冬期においても温暖で年間降水量の少ない瀬戸内海式気候を生かして始まった。1980年代に入ると、地域を代表する新しい品目を育てようという動きが当時のJA(豊中農業協同組合)の中で高まっていった。新品目といっても、販売を卸売市場に全面委託するような競争力のない品目では収益性は望めない。そこで、自らが販売計画を立て、安定した収入が見込める特産品づくりを目指し、80年代前半、当時の担当者と組合長が中心となってブロッコリーの導入を図った。
 1983年に組合員農家わずか2戸でブロッコリー生産がスタート、89年にブロッコリー研究会が発足し、10年後の99年には組合員は175人にまで増加した。導入当初は輸入ブロッコリーに押され、拡大は思うように進まなかったが、後述するJAによる手厚い支援事業と、「JAの支援を得て栽培に専念すれば、安定した収入が得られる」という組合員の口コミも相まって、ブロッコリーは転作田や水田裏作の主力品目として広まっていく。そして、三豊地域(豊中地区)で始まったブロッコリー栽培は、2000年のJA香川県の誕生を契機に、県下全域へと普及していったのである(写真1)。














 

 


 
 JA香川県は、2000年以降、県内8カ所に育苗センターを設置し、県内全域にブロッコリーの苗を供給できる体制を整備した。併せて集出荷施設の大型冷蔵庫を利用した氷詰め出荷のコールドチェーンを確立した。さらに、2018年には出荷予測システムの導入を図った。
 JA香川県は、県下市町村にあった43のJAが合併した県域JAであり、現在(2021年度)の組合員数は14万735人、うち正組合員数は5万8457人、組合員数や貯金残高など、その規模においては全国トップクラスにある。販売品取扱高は379億2500万円、うち野菜が171億円(45%)となっている。
 図5は、合併した2001年度からのJA香川県のブロッコリーの年度別取扱実績などの推移を示したものである。ブロッコリーの販売数量・金額はともに2001年度以降、年度によって変動があるものの増加傾向で推移している。ブロッコリーの作付組合員農家数については19年度の1740戸まで増加したが、その後は減少傾向に転じ、22年度には1523戸になっている。しかし、ブロッコリーの生産拡大は、作付組合員農家数の増加を伴って展開してきていることは同図からも十分推察できよう。

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 ブロッコリーを基幹とする野菜作経営体(組合員農家)では、1戸当たりの平均耕地面積は50アールであるが、レタス、たまねぎ、にんにく、夏ねぎなどの他品目との複合経営体も少なくない。
 図6は、JA香川県の7つの地域別(地区営農センター別)に見たブロッコリー作付組合員農家数の現況(2022年度)を示したものである。県西部の三豊地域は、県全体(1523戸)に占める割合が最も大きく(532戸)、前述の通り、香川県のブロッコリー生産を常に先導してきた地域でもある。三豊地域における経営主の年齢別に見たブロッコリーの作付組合員農家は、「70歳以上」の高齢者が主となる経営体(組合員農家)が4割、そして「60~70歳未満」が4割で、いわゆる60歳以上の高齢者専従経営体が全体の8割ほどを占めている。香川県のブロッコリー生産は、高齢労働力に依存した多品目の野菜作経営体によって担われている。
 

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3 ブロッコリーの生産・出荷

 こうした香川県における特産ブロッコリーの産地づくりに関して、次の諸点を指摘することができる。
 一つは、ブロッコリーという品目特性を生かした産地づくりである。ブロッコリーは、キャベツやはくさいなどに比べて軽量な露地野菜であり、栽培管理の手間が比較的少なく、農家間での品質格差が比較的生じにくい品目特性を持っている。そのため、生産拡大や新規就農の品目として選択されるケースが少なくない。ブロッコリーの作付組合員(写真2)の経営主の平均年齢は60歳代超と高齢化は進んでいるが、高齢者ばかりが栽培しているのではなく、県の農業インターン制度などの後押しを通して、20歳代や30歳代の新規就農者がブロッコリー栽培に取り組んでいる。
 また、こうした新規の生産者でも容易に出荷規格を判断できるように、JA香川県のブロッコリーの生産部会を中心に、食べる部分である花蕾サイズを測るためのプラスチック製の出荷規格目安板(写真3)を配布するなど、きめ細かな対策も講じられている。

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 二つは、新規就農者、高齢者、女性、兼業の土日農業者などの多様な労働力を生かすとともに、それをサポートするJA香川県の支援事業を活用した産地づくりである。JA香川県の徹底した支援事業は、広域育苗センターで一括受注してすべての苗を育苗し供給する「育苗支援」と、定植作業を受託し作業負担を軽減する「定植支援」にある。
 育苗支援では、技術的格差が生じやすい高齢者や新規就農者などの組合員農家に対する技術的支援が付加されている。また、定植支援では、JAが専門的に移植機によって苗の植付作業を担っている。ブロッコリーの主要地域である三豊地域の場合、定植支援実績は作付面積の9割を占め、特に、多くの高齢者専従経営体がこの定植支援事業を活用している。
 三つは、出荷調整機能を発揮する産地づくりである。組合員農家がブロッコリーを収穫後、コンテナ容器(軽量ケース)のまま集出荷場に持ち込めば、後はJAが選別・箱詰め・氷詰めまで、一連の作業を行う体制が整備されている。集出荷場の担当者は、花蕾の大きさ13センチ以上、茎の長さ17センチ以上、葉を3枚残すという基準で、見た目や大きさ、硬さなどを厳しくチェックし、ポリ袋をかぶせた高分子吸水シートを敷いた段ボール箱に横詰めし、氷を入れてふたをする。そして、こうした棚持ちの良いブロッコリーを大型冷蔵倉庫(写真4)に移動し、冷蔵保管のストックコントロールによって出荷量を調整することで、注文に対し、切れ目のない出荷を実現している。

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4 ブロッコリーの出荷予測システム

 一般に露地野菜は、施設野菜に比べて天候の影響を大きく受けやすく、収穫量、出荷時期は変動しやすい。ブロッコリーには生育適温があり、適温を外れると生育遅延や生育停止を起こす。近年の異常気象で、ブロッコリーの出荷量の予測は一段と難しくなっていた。たとえ出荷量を調整することができたとしても、産地全体の長期的出荷量予測に基づいた出荷量を調整できなければ、有利販売にはつながらない。しかし従来、産地全体の出荷量を早い段階で予測するには、ベテランのJA営農担当者の知見や、圃場・地域ごとの生育傾向の把握のための調査や情報収集が不可欠であり、そのために多くの時間を要するものと考えられていた。
 そこで、2018年に、JA香川県は株式会社NTTデータ(以下「NTTデータ」という)、株式会社JSOL(以下「JSOL」という、NTTデータおよび日本総研のグループ企業)、香川県、市町村などと「香川県スマート農業技術推進連絡協議会」を設立し、NTTデータの営農支援プラットホーム「あい作」(写真5、6)を活用したブロッコリーの出荷予測モデルの構築を目指すこととした。

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 図7のブロッコリーの出荷予測システムは、生産者(組合員)、JA香川県および香川県など、ブロッコリーに関わる多様な主体が持つ知見・データをアプリケーション「あい作」上に集積し、実用的な出荷予測を行うものである。組合員は「あい作」で定植日、定植数などの栽培情報、出雷・収穫開始日などの生育情報を入力し、JA香川県や香川県農業試験場は、品種、販売実績、気象条件などの情報を提供する。JSOLは生育状況や積算気温などのデータから出荷時期に影響を与える要因を分析した「出荷予測基本モデル」によって出荷予測を行う。品種や気象条件などによっては、基本モデルからズレが発生するため、JA香川県は出荷予測の補正を行う。

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 スマート農業としての本出荷予測システムの特徴の一つは、インタラクション(情報のやりとり)機能を持ったシステムという点である。ブロッコリーは、年内どりの場合、花雷が500円玉程度の大きさになると、おおむね2週間後に収穫適期を迎える。組合員が撮影した花蕾の画像を「あい作」にUPすることで、経験の浅いJA営農担当者でも、事前に出荷見込み時期を把握することができる。「あい作」は、組合員とJA営農担当者との営農情報のプラットホームであり、新たな情報共有ツールとなり得るシステムでもある。
 もう一つの特徴は、既存の情報・データを利活用するシステムという点である。ここで利用されているのは、JA香川県が保有している苗の供給データや定植支援のデータである。JA香川県は、育苗支援で県全体の苗の9割を供給している。このことは、生産者自らがこれらの入力をする手間を省くとともに、入力作業の手間による生産者の心理的負担も軽減していることに注目しなければならない。すなわち、出荷予測システムは、負担なく取得可能な生育状況などの情報を収集することができるシステムでもある。
 JA香川県は、2020年から出荷予測システムの本格導入を始め、試行錯誤を経ながら、今では、ブロッコリーの出荷量のピーク時期を把握する段階まで到達している。とはいえ、現在「あい作」を利用している組合員は県全体で110人、三豊地域でも50人程度であり、必ずしも多くはない。そのため、JA香川県の予測補正は極めて重要となるが、予測精度を上げるためには、より多くのブロッコリー生産者(組合員)のデータ蓄積も必要となってきている。

5 おわりに―出荷予測システムの導入が意味するもの―

 JA香川県が進める支援事業は、多様な労働力、すなわち高齢者や女性、土日農業者、そして新規就農者の組合員に対して、ブロッコリーの品質がブレないような仕組みをつくり、作付組合員農家数を増やすことで産地を維持・拡大してきた。また、他産地に先立ち、いち早く氷詰め出荷を導入し、棚持ちの良いブロッコリーを京浜市場の実需者をターゲットとして戦略的に出荷してきた。JA香川県が進めるブロッコリーの産地づくりは、出荷量を確保した品質競争力の強化であったともいえる。
 そして、こうしたJA香川県におけるブロッコリーの産地づくりの展開を踏まえれば、今回の出荷予測システムの導入という新たな取り組みは、「生産・出荷」から「販売」への段階的な整備として位置付けられる。JA香川県が新たに取り組む出荷予測システムは、まだ緒に就いたところではあるが、次の3つの重要な意味を持っている。
 第1に、出荷予測システムによる出荷量の予測は、販売事業の強化、集出荷業務の効率性と密接に関連している(注)。予測出荷量をより正確に提示できれば、実需者からの信頼や評価が高まり、契約栽培も増えるなどの販売事業の強化にも結び付く。また、事前に出荷量が分かれば、集出荷施設の要員配置や冷蔵倉庫の有効利用、配車計画も容易となる。特に、物流の2024年問題を踏まえれば、効率的な配車計画を実現する上で極めて有効になるであろう。
(注)販売業務などの効率化については引用文献による。

 第2に、出荷予測を踏まえた出荷量の平準化は、計画的、周年的な育苗・定植作業などの支援事業の強化につながることである。出荷量を事前に予測し、出荷量の平準化を図れば、育苗・定植作業などの支援事業は早めに計画立案できるとともに、より長期継続的な支援事業を展開することも可能となる。
 第3には、JA香川県の産地づくりの基本となる品質競争力のより一層の強化である。「あい作」は、単なるペーパーレス化を目的としたデジタルの情報の集積ではなく、営農プラットホームとしてのデータベースであり、固有の産地情報の蓄積と整備を実現するという点に最大の特徴がある。今後のブロッコリー品質競争において、こうした固有の産地情報が付加されることで、データベースとしての価値が高まり、それを活用することによってますますその競争力は高まるものと考えられる。
 ただ、これらが重要な意味を持つには、まだまだ超えなければならないハードルも存在している。通常、利用者が増えれば増えるほど情報量も増え、その精度は高まるものである。現在の利用者は必ずしも多くはなく、より精度を向上させるためには、利用者自体を増やすことが重要である。そのためには、ブロッコリーを栽培している多くの高齢者などが使いやすいような仕掛けや、デザインのカスタマイズも含めた改善活動を生産部会が中心となって進めることも大切であろう。
 「あい作」の利用によって、ブロッコリーの栽培記録の整理、振り返りが容易となったことにより、記録の整理と活用に関する意識や行動に変化がみられる組合員もいる。組合員にとっての出荷予測システムの導入の意義を明確にしつつ、JA香川県のさらなる挑戦を期待したい。
 
謝辞:本稿執筆にあたり、JA香川県(本店・営農部・三豊地区営農センター)およびNTTデータからは資料・データなどを提供いただくとともに詳細な点についてご指導いただいた。改めてお礼申し上げたい。
 
引用文献
・尾高恵美「JA香川県におけるブロッコリーの出荷予測」『調査と情報』83号、農林中金総合研究所、2021年、26~27頁。