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調査・報告 野菜情報 2023年7月号

持続可能な白ねぎ栽培は腰痛対策から!~白ねぎ作業改善プロジェクトの取り組み~

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鳥取県西部総合事務所 農林局 西部農業改良普及所 普及主幹 前田 英博

1 はじめに

 県西部地区は本県の白ねぎ主産地であるが、高齢化により、生産者数が徐々に減少しており、産地の維持のためには生産者の確保が重要となっている。しかしながら、生産者の大半が腰痛をはじめとする疾患に悩まされている。
 そこで、鳥取大学医学部と連携し、「白ねぎ作業改善プロジェクトチーム」(以下「白ねぎ作業改善PT」という)を設置し、腰痛対策を目的に、農具や機械の改良や開発による作業姿勢の改善および軽労化、身体的管理の2面から白ねぎ栽培の作業改善に取り組んだ。

2 普及活動の課題・目標

(1)背景と課題
 白ねぎは、鳥取県を代表する特産野菜で、西日本でも有数の産地である。その中でも、県西部地区は本県の主産地であるが、高齢化により、生産者数が徐々に減少しており、産地の維持のためには生産者の確保が重要である。
 こうした中、次世代の担い手である若手農業者からも、腰痛をはじめとする疾患の声が聞かれており、安定的な経営継続のためには対策が必要であるが、普及所では身体的負担の実態把握に乏しく、適切な対策を検討できていないのが実情であった。
 
(2)普及活動の目標
 若手組織を重点対象として、将来にわたって身体的負担が少なく、継続的に作業ができるような作業体系の組み立て・普及を図るため、生産者の身体的負担の詳細な実態を把握し、対策が必要な項目を抽出し、対応策を検討・実証することとした。
 さらに、この取り組みを生産部全体へ普及させ、白ねぎ生産部の担い手の減少の歯止めにつなげることとした。

3 普及活動の内容

(1)生産者の身体・作業負担の実態把
 生産者の身体・作業負担把握のため、平成29年に236人を対象にアンケートを実施した結果、腰痛のある人は54%(うち通院30%)認められ(図1)、特に負担のかかる作業が、土押さえ(人力による白ねぎ株元への土寄せ作業)、収穫、運搬(収穫した白ねぎを包んだ十数キロの束の運搬)であることが明らかとなった(図2)。

タイトル: p041a

 そこで、身体面の専門である鳥取大学医学部と連携するため「白ねぎ作業改善PT」(メンバー:農業改良普及所、専門技術員、鳥取大学医学部、JA、白ねぎ生産部、生産者若手組織)を平成30年3月に設置した(図3)。
 白ねぎ作業改善PTでは、毎年度活動の方向性を検討し、活動を行った。
 平成30年度には、より詳細な実態把握のための調査(アンケート、身体的特徴、腰痛、発生状況、作業実態のビデオ撮影)を行い、対策が必要な項目を整理した(図4)。

タイトル: p041b

タイトル: p041c

(2)負担の大きな作業(土押さえ、収穫、運搬)の軽減に向けた対策案の開発・実証検討
ア 土押さえ農具の改良および開発
 従来の市販品では、(1)中腰の作業姿勢が多いこと(2)柄が長く、柄の後ろがねぎに当たり、作業がしにくいこと(写真1)(3)作業を続けるに連れて、土が付着し、農具が重くなる(写真2)―といった生産者の声を基に、農具メーカーとともに土押さえ農具(ねぎレーキ)の改良を行い、試用実施し、さらに改良を加えていった。再度改良品を試用実施し、評価も高いことから、商品化に向けて関係機関と調整を進めた。
 また、新たに開発された土押さえ用培土機については、まずは県内の主産地に多い砂丘畑での3回の試運転を実施した結果、ねぎレーキと比較し2倍以上の効率となった。軽労で誰でも操作できることを確認し、これを基に砂丘畑での実演会を令和2年度に開催した。また、ねぎ産地は全県下に拡大しており、水田転換畑での作付けもかなり広がっていることから、水田転換畑でも試運転を実施し、砂地より土が重い当該圃場(ほじょう)での効果も確認することができたため、その後、水田転換畑での実演会を令和3年度に開催した。

タイトル: p042

イ 収穫作業姿勢の改善の検証
 手堀り作業では、負担の少ない作業姿勢モデル3つを農家とともに検討し、筋電計(筋の活動状態を計る装置)を用いて腰部にかかる負荷を比較し、それぞれの腰部への負担軽減効果を農家5戸で検証した。
 収穫機での作業では、中腰姿勢改善のための「高さ調整作業台」を農家5戸で実証した。また、活動途中に、土落としに課題があるという農家からの声があったことから、「土落とし装置(ブロア)」を農家1戸で検討した。

ウ 運搬作業の改善
 腰痛予防対策指針の姿勢による運搬方法について、筋電計を用いて1戸で検証した。また、ブロッコリー収穫運搬台車を利用した、ノーリフティング法(持ち上げない運搬方法)を農家1戸で検討した。
 
(3)身体的側面における腰痛対策の検討(鳥取大学医学部との連携)
 若手組織の会長3人と、鳥取大学の研究担当者を参集し、身体面での対策案を検討し、整形外科の先生による腰痛の基礎知識についての講演(腰痛対策講演セミナー)を開催した。
 また、理学療法士による筋肉強化・ストレッチの指導も行った。

(4)腰痛対策案の普及
 腰痛の基礎知識、腰ラクラク白ねぎ体操(以下「白ねぎ体操」という)、負担の少ない作業姿勢などについては、動画を作成し、YouTubeやホームページへの掲載、DVDの作成・貸出体制を整備し、生産者への情報浸透を図っている。また、動画紹介のパンフレットを作成し、JA経由で生産者全戸に配布した。
 白ねぎ体操については、野菜専門分野普及員と連携し、各地区の指導会、勉強会、出荷打ち合わせ会などを通じて実演指導を実施し、普及に努めた。
 負担の少ない作業姿勢の紹介動画については、白ねぎ作業改善PTの若手組織に協力を要請し、4人の協力を得た。
 作業(土押さえ、収穫、運搬)の負担軽減に向けた対策案の普及については、実演会を開催し、生産者への普及を図った。

4 普及活動の成果

(1)負担の大きな作業の軽労化、効率化
 生産者とともに検証した結果、腰痛対策案が6つ提案できた。

ア 土押さえ
 ねぎレーキについては、農具メーカーと共同で、押さえ板に土付着防止のためのパンチ穴を設置し、コンパクトで軽く、柄にはアルミ伸長ポールを採用したタイプに改良・商品化し、販売を開始した(※1)(写真3、4)。令和4年度末までに新規45本導入されている。
 また、土押さえ用培土機が2機種(※2、3)完成し、令和2~3年度に実演会を開催したところ、生産者に広く広報することができ、実演会の開催も全県に普及し(写真5)、令和4年度末までに91台(2機種合計)が新規導入されている。
 
※1 改良ねぎレーキ 八島農具興行株式会社  https://yashima-iron.co.jp/
※2 「ウイングローラー」桂見MESA工房
※3 「PREMINUMネギ美人」有限会社 松村精機 https://www.matsumuraseiki.com/


タイトル: p043

イ 収穫
 手掘り作業における負担の少ない作業姿勢のモデル案を作成するとともに、中腰姿勢の改善効果の実証を経て、2パターンを提案した。また、実態調査でさまざまな方法があることを生産者に情報共有したところ、各自の収穫方法を見せ合って検討するといった生産者の自主的な動きへと波及し、作業を「少しでも楽に、効率よく」という意識の変化が見られ始めた。
 機械収穫では、白ねぎ収穫機の高さ調整作業台を提案し、中腰姿勢を立ち姿勢に改善することで腰痛軽減が図れ(写真6)、2戸で導入された。
 また、白ねぎ収穫機の土落とし対策については、ブロアの活用を検証し、作業の効率化、作業安全性の向上、中腰姿勢の改善が図れることを確認した。その後導入を提案したが、最新機にはメーカー仕様の土落とし装置が取り入れられたこともあり、現場導入には至らなかった。

タイトル: p044a

ウ 運搬
 ブロッコリー収穫運搬台車を利用したノーリフティング法は、中腰姿勢を改善し、作業の軽労化が図れ(写真7)、この運搬台車は3戸の農家で導入が図られている。

タイトル: p044b

(2)腰痛対策案の普及
 腰痛対策講演会セミナーは好評で、おおむね良い感想を得ている。セミナーで紹介のあった筋肉強化・ストレッチは、「腰ラクラク白ねぎ体操」として、野菜花き班と共同で継続して指導会などでの実演指導に当たっており、令和4年度末までに153回、延べ955人に対し実施している(写真8)。生産者からは、「実践している」、「楽になった」といった声も聞かれる。
 動画は、生産者の協力も得て4シリーズ作成し、YouTubeにアップすることにより、腰痛対策を「どこでも、誰でも、いつでも見られる」ようにした(写真9)。また、パンフレット(図5)やホームページ、マスコミなどを通じて、動画を広く広報した。

タイトル: p045

5 今後の普及活動に向けて

(1)効果が見込まれるものについて、普及促進を図る
 収穫作業姿勢の動画や、改良・開発した農具、運搬台車などについて、調査データや農家の感想を盛り込みながら資料化し、実演会、巡回などで一層の周知と改善、導入に向けて紹介する。
 白ねぎ体操については、JAと連携し、研修会などを通じて実演指導を継続し、さらなる定着を目指す。また、白ねぎ体操パンフレットのラミネート版を生産者へ配布し、作業場などへの掲示を可能とし、浸透を図っている。
 また、作業管理(腰に負担の少ない収穫・運搬姿勢)および身体管理(腰痛の基礎知識・白ねぎ体操)の紹介動画を活用し、YouTube、ホームページ、マスコミ、DVDなどを通じて、継続して広く紹介を図っている。
 
(2)新たな課題の解決
 白ねぎ栽培における作業時間の約7割を占める収穫・出荷調製作業の改善については、まだ十分に検討できていない。このため、効率的に作業されている優良事例を解析し、現場へフィードバックすることで、収穫・出荷調製作業の効率化の推進を図りたい。
 また、手作業が多く、手間がかかるトンネル栽培の作業改善農具(支柱打ち込み機やマルチはぐり機など)についての検証を行い、現場へ速やかにフィードバックすることや、現場で工夫され、開発された作業改善につながるようなアイデアや農具を現場から抽出・検証し、優良事例としての普及を図ることも考えている。
 さらに、白ねぎ体操の取り組みの効果を検証することも今後の課題である。現在、本県では、今回の白ねぎを先進事例に、農業者の運動器疾患の予防的取り組みを、すいかや梨などの他品目でも拡大・展開中である。野菜専門分野以外での普及員や他の普及所とも連携して効果を検証し、運動器疾患の予防的取り組み定着につなげていきたい。
 
(参考)
白ねぎ生産者のための腰痛対策動画
https://www.pref.tottori.lg.jp/295404.htm
 
タイトル: p046

前田 英博(まえた ひでひろ)
【略歴】
鳥取県西部総合事務所 農林局 西部農業改良普及所 普及主幹
1989年 鳥取県 果樹野菜試験場(現 園芸試験場) 研究員
2008年 鳥取県 園芸試験場 生物工学研究室室長
2014年 鳥取県 農業試験場 有機・特別栽培研究室室長を経て2021年から現職