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調査・報告 野菜情報 2023年6月号

北海道の野菜流通におけるモーダルシフトの現状と課題

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東京農業大学 国際食料情報学部 アグリビジネス学科 教授 佐藤 和憲
東京農業大学院 国際食料農業科学研究科 大堀 耕太郎

要約

 北海道のたまねぎやばれいしょの産地は、その立地条件や各輸送手段の輸送能力と輸送コストに応じて、貨物鉄道とトラック・フェリー等を選択し、組み合わせて利用している。しかしながら、両方の輸送手段とも現在、さまざまな課題に直面しており、それらの解決・緩和には、輸送機関サイドだけでなく生産サイドの課題認識と対策が必要である。

1 野菜流通と物流問題の課題

 野菜流通においても、トラック輸送から鉄道輸送や船舶輸送へのモーダルシフト(注1)が課題となっている。農産物の輸送問題は、輸送距離が長大な遠隔地の産地と消費地の間で顕在化しやすい。九州地方においては、首都圏などへのトラック輸送が困難に直面している中で、行政の後押しを受けてモーダルシフトを含めた物流合理化の取り組みが行われている。しかし、同じ遠隔地でも北海道は、道路で本州とつながっていないことから、現在も鉄道や船舶が一般に利用されているが、その実態は道外には知られていない。
 そこで、本調査では、北海道の代表的な野菜であり、膨大な出荷量を誇るたまねぎおよびばれいしょを対象とし、産地の出荷団体と輸送機関の調査を通じて、生産・出荷動向を概観したうえで、輸送体制の仕組みと輸送実態、および課題について明らかにすることにより、モーダルシフトの推進に資する報告としたい。
(注1)トラックなどで行われている貨物運送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換すること。

2 北海道におけるたまねぎ・ばれいしょの生産・出荷

(1)生産動向

 農林水産省「野菜生産出荷統計」によれば、北海道で最も作付面積が多い野菜は、ばれいしょ(2019~2021年3カ年平均4万8267ヘクタール)、次いでたまねぎ(同1万4600ヘクタール)となっている。
 図1に示すように、たまねぎの主な産地はオホーツク、上川、空知に、ばれいしょの主な産地は十勝、オホーツクおよび後志に集中している。このうち、たまねぎとばれいしょの合計面積が多い産地は、オホーツクと十勝である。

タイトル: p042
 
(2)出荷動向
ア たまねぎ
 北海道から出荷されるたまねぎは、野菜生産出荷統計によれば2019~2021年の3カ年平均で75.4万トン、うち生食用が56.4万トン(74.8%)、加工用が17.7万トン(23.5%)、業務用が1.3万トン(1.7%)であった。
 農林水産省「青果物卸売市場調査」によれば、全国の卸売市場に北海道から入荷したたまねぎは2019~2021年3カ年平均55.3万トンであることから、生食用は大半が全国の卸売市場に出荷されたことになる。
 北海道産たまねぎの収穫時期は8~10月であるが、全国の主要卸売市場に地理的に分散出荷されるだけでなく、普通冷蔵やCA貯蔵(注2)、エチレン貯蔵(注3)などの貯蔵を行い、翌7月頃まで長期間にわたって分散出荷されている。青果物卸売市場調査によれば、全国の卸売市場における北海道産のシェアは、2019~2021年3カ年平均で66.9%を占めていた。京浜地区だけでなく、関西、北九州などの卸売市場でも通年ベースで6~7割のシェアを有している。つまり、北海道から1660キロメートルの大阪、2250キロメートルの福岡という遠隔地にも、大量のたまねぎを8月から翌4月にかけてコンスタントに輸送しているわけである。
 
(注2)Controlled Atmosphere(空気調整)貯蔵。保管庫内のガス組織を調整し、野菜や果実などの鮮度保持と貯蔵期間の延長を図る貯蔵法。
(注3)倉庫内にエチレンガスを供給し濃度調整することにより、エチレンの生理作用を利用し作物の萌芽・発根を抑えて、より長期間にわたり高品質を維持する貯蔵法。


イ ばれいしょ
 北海道から出荷されるばれいしょは、「野菜生産出荷統計」によれば2019~2021年3カ年平均158.4万トンで、うち加工用は124.7万トン(78.7%)を占め、生食用は33.7万トン(21.3%)になっている。ただし、農林水産省農産局地域作物課調べの2018~2020年3カ年の平均では、生食用は約24万トン(13%)とさらに少なく、でん粉原料用が約77万トン(43%)を占め最も多い。また、サラダ、コロッケ、フレンチフライなどの加工食品用が約50万トン(28%)を占めている。このように、でん粉原料用と加工用で大半を占めている点がたまねぎとは大きく異なる。
 北海道産ばれいしょの収穫時期は8月から10月であるが、普通冷蔵やCA貯蔵などの貯蔵を行っており、出荷時期は通年に及んでいる。また、全国の卸売市場に通年にわたって分散出荷されており、全国の卸売市場で2019~2021年3カ年平均で57.8%を占めていた。遠隔地の卸売市場に大量のばれいしょを通年にわたりコンスタントに輸送しているわけである。

3 たまねぎ・ばれいしょの物流実態

(1)北海道産の農畜産物・食品の物流体制
  北海道開発局によると、北海道における農畜産物および加工食品の道外への移出量は、2020年度には約368万トン、そのうち野菜は約106万トン(29%)と3割弱を占めていた。北海道と本州の間には海があるため、輸送は主に鉄道と船舶によるが、鉄道は青函トンネルを通過する必要があり、船舶は道内の港湾と航路による制約がある。つまり利用できる輸送機関とそのキャパシティが制約されるのも北海道の特徴といえるだろう(図2)。

タイトル: p043

ア 鉄道による輸送
 日本の貨物鉄道輸送は大半が日本貨物鉄道株式会社(以下「JR貨物」という)によって担われている。JR貨物では多くの場合、最大積載量5トンの12フィートコンテナが使用されている。鉄道コンテナ輸送の手順は次のようになる。
 まず、貨物は荷主によってコンテナに積載され、鉄道利用運送事業者(以下「通運事業者」という)のトレーラーによって貨物駅(写真1)または線路のない貨物駅であるオフレールステーション(以下「ORS」という)に運び込まれる。直接またはORSを経由して貨物駅に運び込まれたコンテナは専用貨車に積載、コンテナ列車に編成される。
 コンテナ列車は、道内では北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という)および道南いさりび鉄道の路線を経て輸送されるが、道外へは青函トンネルを通過し、1日に定期貨物列車は上り下り合わせて36本が通過している。

 青函トンネルを通過後は、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)など各地域のJR旅客鉄道会社や第三セクター鉄道の路線を経て着地に輸送される。なお、JR貨物は線路を保有しておらず、各地域のJR旅客鉄道会社などに線路使用料を支払って、列車を走行させている。北海道ではJR北海道の線路を使用していることから、新幹線との並行在来線問題、JR北海道の単独維持困難線区、青函トンネル内の共用走行問題がある。
 北海道開発局によれば、3カ年平均で約45万トンの野菜がJR貨物によって道外に輸送されており、これは全輸送機関の輸送量の約45%を占めている。近年、JR貨物の比率は大きくは変化していない。また、JR貨物調べによれば、2021年度コンテナによる全輸送量の約32%をたまねぎ、ばれいしょを含めた野菜類が占めている。

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 野菜の道外出荷においてJR貨物の利用比率の高い地域は、オホーツク地域で約23万トン(全出荷量の約57%)、次いで上川地域は約6.2万トン(同約53%)を占めている。他方、十勝地域は約6.6万トンがJR貨物であるが、全出荷量の約25%にとどまっている(図3)。
 なお、JR貨物調べによれば、北海道への到着貨物は2019~2021年の3カ年平均で208万トン、道外への発送貨物は同じく195万トンで大差はない。しかし、道外への発送貨物は9~12月に4割強が集中しており、1~2月および4~6月の比率は低くなっている。これは、秋冬期の出荷が多い野菜の輸送量が多いことの影響を受けているとみられる。

イ トラック・フェリーによる輸送
 フェリーやRОRО船(注4)を利用した海上輸送では、まず道内の発地で貨物はトラックやトレーラーに積載され、苫小牧港、函館港、小樽港、釧路港などに陸送される。これらの港湾から、フェリーやRОRО船によって着地の最寄港まで航送され、そこからトラックやトレーラーで最終的な着地まで陸送される。
 北海道から道外への船舶輸送は、太平洋側の苫小牧港や釧路港からは茨城県大洗港、宮城県仙台港を経由し、愛知県名古屋港といった太平洋沿岸の港との間にフェリーやRОRО船の航路がある。他方、日本海側の小樽港からは、新潟県新潟港、京都府舞鶴港といった日本海沿岸の港への航路がある。また、函館港からは、青森県の青森港、大間港への航路がある。このうち苫小牧港は北海道「北海道港湾統計」によれば、2020年に道内港湾の取扱貨物量(一般貨物)の約48%を占めている。

 なお、ホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」という)は、釧路港から茨城県日立港との間に、農畜産物輸送専用のほくれん丸を最速20時間で毎日運航している。ほくれん丸はトラックやトレーラーを160台積載可能なRОRО船である。また、商船三井フェリー株式会社の苫小牧~大洗の航路には、トラックやトレーラー154~160台を積載可能なフェリーが就航しており、この輸送量も大きい。
 トラック・フェリーは、2020年に約57万トンの野菜を道外に輸送しており、これは道外に出荷された野菜の約54%を占めている。この比率も近年は大きくは変化していない。主な野菜産地のうちトラック・フェリーの利用比率が最も高い地域は、十勝地域(約20万トン、同地域の出荷量の約75%)で、次いで後志地域(約6万トン、同約55%)、オホーツク地域(約17万トン、同約42%)となっている(図3参照)。

(注4)トラックやトレーラーなどの車両を収納する車両甲板を持つ貨物船のこと。トラックやトレーラーのままで港から港へ輸送できるため、積み替え作業などが不要となり荷役時間を大幅に短縮することができるほか、陸路と海上の複合一貫輸送が可能となる。

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(2)たまねぎとばれいしょの輸送実態
ア たまねぎ
 たまねぎの道外出荷量は約42万トンで(2018~2020年の3カ年平均)、うちJR貨物が約60%、トラック・フェリーは約39%を占めている(図4)。また、最もたまねぎ出荷量が多いオホーツク地域からは約20万トン(2022年)がJR貨物によって道外へ輸送されており、同地域の道外出荷量の約60%を占めている。なお、これをJR貨物調べの貨物駅・ORS別輸送量で見ても、たまねぎの輸送量が最も多い北見駅は近年17~22万トン(全輸送量の68~69%)、次いで札幌貨物ターミナル駅の7.2~8.2万トン(同約10%)である。ただし、たまねぎの比率が最も高いのは富良野駅で輸送量は6万トン前後であるが、全輸送量の約80%をたまねぎが占めている。

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 他方、トラック・フェリーは約18万トン(38%)を輸送している。トラック・フェリーによる出荷量の比率が高いのは、オホーツク地域で約13万トン(39%)であるが、上川地域は約2.8万トン(37%)、空知地域は約1.8万トン(36.6%)とほぼ同比率である。

イ ばれいしょ
 ばれいしょの道外出荷量は約29万トンで(2018~2020年の3カ年平均)、うちトラック・フェリーが約64%、JR貨物は約36%を占めている(図5)。また、トラック・フェリーは、全道から約19万トンのばれいしょを道外に輸送しているが、最も多いのは十勝地域(約12万トン)で、道外出荷量の73%を占めている。
他方、JR貨物は全道で約11万トンを輸送しているが、最もJR貨物による出荷量が多いのは十勝地域で約4.5万トンであり、道外出荷の約27%を占めている。
 なお、これをJR貨物調べの貨物駅・ORS別輸送量で見ても、最もばれいしょの輸送量が多いのは帯広貨物駅で近年6.7~7.3万トン、次いで北見駅の近年2.6~3.4万トンである。貨物駅・ORSの全輸送量に占めるばれいしょの比率が最も高いのは帯広貨物駅で近年20~22%を占めている。

タイトル: p047

 以上のように、北海道から道外への野菜出荷は、JR貨物を主体とした貨物鉄道またはトラック・フェリーによって担われており、野菜全体としては後者の比率がやや高いが、相半ばしている。ただし、品目別では、たまねぎはJR貨物の比率が、ばれいしょはトラック・フェリーの比率が高い。また、地域別では、オホーツク地域と上川地域は、JR貨物の比率が高く、十勝地域、後志地域はトラック・フェリーの比率が高い。この地域別の比率が品目別の比率にも反映しているとみられる。輸送運賃は一般的に長距離になるほど、鉄道の方がトラック・フェリーよりも低いため、コスト面だけからするとJR貨物がより多く選択されるはずである。しかし、現実には発地(産地)と着地の最寄りの港湾または貨物駅・ORSまでの距離や道路・線路状況、品目とその商品特性、出荷時期、その他の要因の影響を受けるため、産地の置かれた諸条件によって2つの輸送手段を組み合わせて選択されているとみられる。

4 道内の主産地の生産・出荷と物流実態

 続いて、道内産地におけるたまねぎとばれいしょの生産・出荷および輸送実態を紹介する。

(1)JAきたみらい
 JAきたみらいは、オホーツク海沿岸部のほぼ中央に位置し、北見市(一部地区を除く)、置戸町、訓子府町の1市2町を区域とする。2021年度現在、組合員7495人(906戸)、販売取扱高491億円の総合農協である。農用地は3万1260ヘクタール(うち耕地2万4775ヘクタール)で、耕種作物は、たまねぎ(4619ヘクタール)、ばれいしょ(2146ヘクタール)を主体に小麦(5105ヘクタール)などが、生産されている。中でも、たまねぎの生産量は日本一であり、全国の約2割が生産されている。そこで、以下では、たまねぎとばれいしょを取り上げる。

ア たまねぎ
 たまねぎの出荷販売について見ると、2022年産の出荷予定量は24万5000トンの見込みであるが、用途別では、約75%が生食用(一般消費向け)、残り約25%が加工・業務用となっている。生食用は大半が卸売市場向けであるが、出荷地域別は、道外が92.5%で大半を占めており道内は7.5%に過ぎない。道外は関東信越の比率が3割弱と最も高いが、中京2割強、関西・中四国2割、九州1割強、東北1割弱と、全国各地に出荷されている。なお、北海道では1989年から農協系統によるたまねぎの全道的な共同販売体制が確立し、その下で、需給と価格動向に応じて、生食用と加工・業務用への出荷が行われてきた。このうち加工・業務用は契約により安定した価格を実現してきている。

 たまねぎ選果は、管内5カ所の選果施設で行われており、1日当たり計1100トンの処理能力を有している。選別されたたまねぎは自動箱詰機で計量して段ボールに詰め込まれ、さらにロボットパレタイザー(注5)によって自動でパレット積みされ、フォークリフトでコンテナやトレーラーに積載される。なお、選果場の現場操業は、通運事業者に委託されている。このように、たまねぎ出荷では大規模で効率的な選別・包装・出荷システムが確立されている。
 生食用の荷姿は、正品は段ボール箱(20キログラム用)が基本であるが、規格外品と一部の正品には鉄コンテナとフレキシブルコンテナバックが使われている。また、パレットについては、シートパレット(注6)が多く使用されている。

(注5)段ボール箱や袋詰めされた荷物を自動でパレットに積み付けるシステム。
(注6)従来のパレットと比べて軽量・省スペース・耐水性・耐薬品性・衛生的など多くの特長を持つ特殊クラフト紙や合成樹脂製で構成された薄いシート状のパレット。


イ ばれいしょ
 ばれいしょの出荷販売については1950年代半ばまでは個人で選別する個選出荷であったが、農協の選別施設が整備されるとともに共同選別・共同販売が広がってきた。現在の用途別出荷比率は、生食用が4割弱、加工用が4割弱、でん粉原料用が1割強、種子用が1割強である。生食用の主な出荷先は全国の卸売市場であるが、ばれいしょの嗜好性は地域によって異なるため、品種によって主な出荷市場は異なっている。
 現在、ばれいしょは3カ所の選果場での共同選果が行われており、10キログラム用段ボール箱に自動箱詰され、さらにパレタイザーでパレット上に積載されていく。たまねぎと同様に、大規模で効率的な選別・包装・出荷システムが確立されている。
 生食用の荷姿は、段ボール箱(10キログラム用)が基本であるが、規格外品は鉄コンテナとフレキシブルコンテナバックで出荷されている。なお、パレットについては、シートパレットがほぼ100%使用されている。

ウ 輸送体制と実態
 輸送についてはたまねぎ、ばれいしょとも、基本的にホクレンが品目ごとに出荷先、コスト、品質などを考慮して各農協に配車している。輸送手段別の比率は、年次や出荷時期によって変化するが、近年たまねぎはJR貨物が約6割、トラック・フェリー等(以下、RОRО船を含む)が約4割弱、ばれいしょはJR貨物が約7割、トラック・トレーラー等が約3割になっている。
 JR貨物の場合、選果場で段ボール箱はJRコンテナに積み込まれ、最寄りの北見駅まで通運事業者が輸送し、コンテナ列車に積載される。出荷量の多い8月から翌4月には北見駅から札幌ターミナルまで「たまねぎ列車」が1日1往復走行している(写真2)。ただし、路線状況から貨車数は11両(コンテナ55基)に制約されている。コンテナ1基に20キログラム詰め段ボール箱が約250箱として、1日1列車約275トンが出荷可能である。しかし、JAきたみらいのたまねぎ出荷量は日量1000トン以上に及ぶため、北見駅からのコンテナ列車だけでは積みきれない。このため「たまねぎ列車」に積載しきれないコンテナは、通運事業者が近距離ながら165~180キロメートル、3時間弱の北旭川駅(貨物駅)まで輸送し(写真3)、コンテナ列車に積載している。しかし、それでも全ての出荷量は輸送しきれないため、トラック・フェリー等による輸送との組み合わせが不可欠になっている。

 トラック・フェリー等の場合は、選果場で段ボール箱がトレーラーに積載され通運事業者によって苫小牧港まで輸送される。苫小牧港ではトレーラー部分だけフェリーに積載され、着地の最寄港で降ろされると、ヘッドがつなぎ直されて着地まで輸送される。ただし、主な積出港である苫小牧港までは、片道約330キロメートル、5時間近い中距離輸送となる。
 JR貨物とトラック・フェリー等を比較すると、一般的にJR貨物の方が長距離輸送になるほど低コストである。しかし、貨物鉄道は停車などにより庫内が高温となることがあるため、高温期の8月にはトラック・フェリー等が用いられることが多いという。ただし、地域内で調達できるトラックやトレーラーの台数、確保できる運転手数からして、トラック・フェリー等だけで輸送するのは困難である。

タイトル: p049a

タイトル: p049b

(2)JAふらの
 JAふらのは北海道中央部に位置する上富良野町、中富良野町、富良野市、南富良野町、占冠村の1市3町1村を区域とする2021年度現在、正組合員2125人(1168戸)、販売取扱高267億円(その他に加工・直販44億円)の総合農協である。2万2100ヘクタールの農用地で、たまねぎ(約1800ヘクタール)、ばれいしょ(約600ヘクタール)、にんじん、生乳などの農畜産物が生産されている。

 たまねぎの出荷販売について見ると、8月上旬から9月頃に収穫されるが、常温貯蔵、保冷庫、エチレン貯蔵庫、CA貯蔵庫で翌年7月上旬まで貯蔵され、生食向けの場合は選果場で選別、箱詰されたうえで、8月上旬から翌7月上旬まで全国の卸売市場を通じてスーパーマーケットなどに出荷されている。2022年産の出荷量は約10万トンであるが、用途別では、約7割が生食用(一般消費向け)、約3割が加工・業務用となっている。生食用の出先は、道外が約90%で、道内は約10%に過ぎない。道外は関東信越の比率が5割弱と最も高く、次いで関西・中四国3割強、九州2割弱と、これらの地域に分散して出荷されている。
 たまねぎ選果(写真4)は、これまで管内4カ所の選果施設で計400トン/日の処理能力を有していたが、2023年には1カ所の施設に集約統合される。新施設では、AIを用いた光学選別システムによって、選別精度を向上させるとともに作業の省力化、低コスト化が進められる予定である。

タイトル: p050a

 生食用の荷姿は、段ボール箱(20キログラム用)が約9割を占めているが、業務用の納品には鉄コンテナも使われている。パレットの利用については、これまで4選果場のうち2カ所がパレット輸送に対応できない選果場であったため利用率は50%程度であったが、2023年度より稼働する新選果場では全発送をパレット対応とすることができる。
 輸送手段はJAきたみらいと同様に基本的にホクレンが品目ごとに出荷先、コスト、品質などを考慮して各農協に配車している。たまねぎの輸送手段別の比率は、年次や出荷時期によって変化するが、JR貨物が約9割と大半を占め、トラック・フェリー等は約1割に過ぎない。選果場で箱詰めされたたまねぎはコンテナに積み込まれ、通運事業者が最寄りの富良野駅までトレーラーで輸送し(写真5)、同駅でコンテナ列車に積載している(写真6)。富良野発のコンテナ列車(ふらのベジタ号)は、秋冬季には15両編成で札幌貨物ターミナルとの間を1日1往復走行している。1列車への積載コンテナを75基とすると、最大約375トン出荷可能なため、JAふらのの1日当たり出荷量の9割程度は富良野駅からJR貨物で出荷可能とみられる。ただし、最盛期にはコンテナ列車に積みきれないこともあり、その場合は札幌貨物ターミナルまで通運事業者が輸送し、そこでコンテナ列車に積載している。

タイトル: p050b

タイトル: p051a

 JR貨物とトラック・フェリー等を比較すると(表1)、運賃は長距離になるほどJR貨物の方が低い傾向にあるため、コスト面からするとJR貨物が有利であるという。したがって、現状のJR貨物の輸送体制が存続する限り、今後もJR貨物主体の輸送が選択されるとみられる。ただし、8~9月の高温期には、鉄道コンテナは庫内が高温となり荷傷みのおそれがあるが、トラック・フェリー等は、着地への到着日数が相対的に短く、陸上で停車する時間も少ない。海上航送中は温度上昇しにくいため品質低下も少ない。このような点から、繁忙時や高温期にはトラック・フェリー等による補完は必要であろう。

タイトル: p051b

5 遠隔地たまねぎ・ばれいしょ産地の物流上の課題

 これまで見てきたように、北海道のたまねぎ産地、ばれいしょ産地は、その交通立地、品目特性、出荷時期などの条件および各輸送手段の輸送能力と輸送コストに応じて、JR貨物を主体とした貨物鉄道とトラック・フェリー等を選択、組み合わせて利用している。しかし、現在両方の輸送手段とも課題に直面しており、それらの解決・緩和がなければ、北海道外への安定的な輸送は困難となり、全国への供給や野菜産地の存続にも影響しかねない。
 そこで、北海道の野菜輸送のオペレーションに関わる課題への対策を挙げて結びとしたい(表2)。

タイトル: p052

 貨物鉄道については、災害対策を含めた運休回避策の強化、短いリードタイムを可能とするダイヤ設定、高温期の品質保持対策の強化などが挙げられる。他方、利用者としての農業サイドとしては、貯蔵や加工による出荷量の通年平準化、空コンテナ輸送を減らすための農業資材輸送における鉄道利用の推進などが挙げられる。
 トラック・フェリー等については、ドライバー不足は今後一層深刻化すると予想されることから、共同輸送、ダブル連結トラック(注7)の活用などの対策が挙げられる。また、2024年以降の時間外労働上限適用後の輸送力低下に対しては、中継輸送や荷役・待機時間の削減などが挙げられる。
 両方の交通手段に共通する課題・対策としては、産地から消費地に至る一貫パレチゼーション(注8)によって荷役作業を軽減することが挙げられる。そのためには、パレット規格の統一を前提として、パレットの回収システムの確立、クランプリフト(注9)などの荷役機器の整備、積載方法の改善などが挙げられる。また、これと関係して標準の11型パレットに出荷用の段ボール箱や出荷コンテナの規格を整合させることも挙げられる。

(注7)大型トラックの荷台の後ろにトレーラーの荷台部分をつなげ、1台で2台分の荷物が運べるようになったトラックのこと。
(注8)貨物を発地から着地まで同じパレットに積載したまま輸送する方法。
(注9)フォークリフトに取り付けるアタッチメントの一つ。両側からモノを挟んで運搬できる仕様を有する。

 
 謝辞:本稿執筆にあたり、JAきたみらい、JAふらの、ホクレン農業協同組合連合会、東京青果株式会社、ならびに日本貨物鉄道株式会社の皆様には、調査に快くご協力いただきましたことを記して感謝してここに記します。


引用・参考資料
(1)大坂直樹(2020)解決に大きな前進、新幹線「青函トンネル問題」独自取材で判明した「貨物列車との共存策」、東洋経済オンライン・社会をよくする経済ニュース
(2)越智秀信・石井吉春・山内弘隆(2019)第124回運輸輸送コロキウム、北海道鉄道貨物の行方、運輸政策研究vol.21.
(3)鎌田隆行(2018)北海道産農産物の安定輸送力確保に向けた取り組みについて、野菜情報2018.9
(4)黒瀬康弘(2017)ハイブリッドフェリー「さんふらわあ ふらの」竣工、マリンエンジニアリング52巻(2017)5号
(5)国土交通省(2017)時間帯区分案における時速200km以上での高速走行について、第2回青函共用走行区間等高速化検討WG資料を一部加筆
(6)国土交通省海事局(2019)我が国の国内物流における内航海運、交通政策審議会海事分科会第10回基本政策部会資料2
(7)北海道開発局(2020)平成31年度・令和元年度農畜産物及び加工食品の移出実態調査(平成30年)結果報告書、北海道開発局開発監理部開発調査課
(8)北海道開発局(2021)令和2年度農畜産物及び加工食品の移出実態調査(平成31年・令和元年)結果報告書、北海道開発局開発監理部開発調査課
(9)北海道開発局(2022)令和3年度農畜産物及び加工食品の移出実態調査(令和2年)結果報告書、北海道開発局開発監理部開発調査課
(10)北海道経済連合会(2018)北海道における食関連産業を支える物流のあり方-北海道の食産業の発展と活性化につながる物流システムの実現に向けて-
(11)北海道交通・物流連携会議 物流対策WG(2021)北海道における安定的かつ効率的な物流体制の確保に関する検討中間報告書
(12)北海道総合政策部交通政策局(2020)令和2年北海道港湾統計年報≪概要版≫
(13)永吉大介・相浦宣徳(2021)バランスのとれた北海道内物流の構築にむけた貨物鉄道利用促進の再検討-この10年間の社会情勢の変化を踏まえて