ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 愛媛県におけるさといも生産・販売体制の強化 ―広域選果場を核とした販売体制整備と栽培技術支援の両輪による産地活性化―
担い手の高齢化と減少はどの野菜産地にも共通する課題である。特にさといもの場合、いも自体に重量があることや、かつての栽培体系では暑い夏に肥培管理作業をする必要があったため、労働負荷はかなり重い。
そこで主産地であるJAうまでは、さといも産地の維持拡大・所得向上対策として、子会社である株式会社JAファームうま(以下、「JAファームうま」という)を2016年に設立した。水稲の栽培受託を基本としているが、特産さといもの施肥・畝立・マルチ被覆などの作業も請け負っている。
特に、前述の全期間マルチ栽培技術体系による整形マルチ作業は、委託を希望する農家が多く、2022年には19.2ヘクタールの受託実績を上げている。JAファームうま自体も農地を取得し、組織自らさといもの栽培に取り組んでいる。2022年度の栽培面積は1.5ヘクタールである。
新しい取り組みとして、近年注目されている農福連携による作業支援も行っている。JAうま管内にあるB型作業所2法人が、さといもの調製作業に従事している。収穫期に3~4人でチームを作り、圃場に出向いて1日当たり5時間、いもの分離、根取り、泥落としなどの作業を行っている。
JAうま・特産部会に所属し、さといもを出荷する農家は2022年4月現在、363戸あり、所属メンバーによるJA出荷向けの同年産さといも作付面積は85ヘクタールである。構成農家の栽培規模に着目すると、10~20アール程度を栽培する農家が最も多いが、1ヘクタール以上を栽培する農家も一定数存在する。こうした農家の多くは全期間マルチ栽培体系を導入している。
近年の価格安定を受け、新たにさといも栽培に参入する農家も一定数存在する。
四国中央市は製紙業の盛んな町であるが、製紙工場をリタイアした従業員が実家の農業を継承してさといもに取り組むケースや、地元の若者が新規就農する際にさといもを選ぶケースなどが年間数件ではあるがコンスタントにみられる。こうしたさといも新規参入者を技術的に支援するため、JAうま営農指導販売課、青年農業者団体、全期間マルチ研究会などが定期的に技術研修を実施している。また、愛媛県の四国中央農業指導班(普及機関)、四国中央市の農業振興課などもサポートを行っている。四国中央市にあるJAうまの総合経済センターと同じ敷地内に「四国中央市農業振興センター」が置かれている。前述の県農業指導班、市の農業関係部署、農業委員会などが同じフロアに並んでおり、地域の農業に関する「ワンストップ・サービス」を提供できる体制が整っている。こうした体制づくりは近年全国各地に徐々に広がりつつあるが、四国中央市の事例はその中でも先駆的なものである。
本報告では、愛媛県東予地域におけるさといも産地の活性化方策について紹介した。試験研究・普及機関と産地(JA)が一体となって新品種を育成し、早期に普及させたことが、出荷先の高評価につながった。そのことがさらなる出荷・販売体制の必要性を自覚させ、東予地域の各JAと県本部が一体となって広域選果場を整備し、卸売市場向け高規格品と、多様な実需にフィットした加工・業務用向け品それぞれの安定出荷を実現した。生産の現場でも、新たな栽培技術体系の普及と担い手の支援に努めたことが、高品質さといもの安定した生産・供給につながった。さといもをはじめとする土物類・重量野菜の産地では、担い手の脆弱化とともに産地規模を縮小させる事例が多い中、東予地域の実践は、大いに参考になると思われる。
東予地域では今後の課題として、6次産業化の振興により産地自ら加工・流通部門を取り込んで高付加価値化を図ること、また機械化や全期間マルチ栽培技術のさらなる普及による省力化・軽労化を挙げており、農家の作付規模拡大に取り組んでいる。