(1)ばれいしょ生産の概要(令和3年)
更別村農協の生食用、加工用、でん粉原料用ばれいしょ生産の概要については、表6の通りである。また、主な出荷先は生食用が関東、東海、中国地方の市場で、加工用は大手ポテトチップス製造業者などの加工業者、でん粉原料用は南十勝農産加工農業協同組合連合会(でん粉工場)にそれぞれ出荷している。
(2)種ばれいしょ生産の取り組み
更別村農協の種ばれいしょ生産の取り組みについては、表7の通りである。
※「生食用・加工用」と「でん粉原料用」の種ばれいしょ生産に特段の違いはない。また、以下の種ばれいしょの報告は、「採種生産者」の報告
である。
ア 種ばれいしょの生産の省力化について
上述の通り、北海道の種ばれいしょの生産の投下労働時間については、生食用・加工用が10アール当たり11.4時間のところ、同20.8時間かかっており、省力化が急務とされている。更別村農協では、国による年3回の防疫検査(病気株などの検査)に備え、発病株を抜き取る巡回作業などで、年ごとの種ばれいしょの生育状況にもよるが、20.8時間を超える場合もあるという。
更別村農協では、生産者団体の選別・貯蔵施設を整備するほか、生産者段階での選別の後、コンテナで集荷し、その後の選別作業などをすべて農協で行い一元化することで省力化につなげている(写真2、3)。
生産者が収穫する際、石・土塊・腐敗・変形・規格の大小をハーベスターによる機上選別で行っているが、細かな選別はできない。より品質を高めるため、更別村農協の共同選別施設にて選別を行っている(写真4、5)。秋は9月中旬~11月下旬、春は3月中旬~4月下旬に出庫に合わせて再度確認のための選別を行っている。現在、選別作業員(10人程度)を短期雇用しているが本来は12人必要であり、人材確保が問題となっている。
また、道の補助事業により近年開発された消毒機能付きカッティングプランターを種ばれいしょ生産者15人全員が使用することで、種ばれいしょ生産における
予借作業(種子を植え付ける前に、発芽および発芽後の生育を良くするために行う消毒作業)などの削減を図っている。
その他、作業省力化の取り組みとしては、生産現場での1日農業アルバイトによる人員の確保を行っている。コントラクター(請負業者)への農作業委託については、種ばれいしょ生産では、病害が伝染する可能性があるため行っていない。今後は抜き取り作業などの圃場管理も含めた対策を検討していかなければならないとしている(写真6)。
イ シストセンチュウ対策および病害虫対策
更別村農協管内では平成29年にシストセンチュウが発生したが、シストセンチュウ対策、病害虫対策として、農水省や道などの指針
(注7)やマニュアルに沿って、表8のような順で対策に取り組んできた。
注7:各都道府県は、農水省が平成31年2月に定めた「ジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種の作付拡大のための目標」に基づき、生食用、加工用品種については、シストセンチュウの発生が確認されている圃場を、令和10年度までに抵抗性品種への切り替えの目標達成(100%)することとし、取り組みを推進している。
なお、圃場の団地化(種ばれいしょ圃場を一般ばれいしょ圃場から隔離し、集約化すること)に取り組んできたが、今後も継続した場合、種ばれいしょの生産面積を確保することが難しくなるため、種ばれいしょ生産者確保のためにも撤廃した。
ウ 種ばれいしょの労働作業の将来的な省力化に向けた「ICT活用種ばれいしょ生産実証事業」
上述の通り、種ばれいしょ生産者が圃場を巡回する際に、発病株の検出やその抜き取り作業に時間を要する。このため北海道庁は令和4年度から、この作業時間の軽減に向けてドローンからの撮影画像を活用し、人工知能(AI)を用いた新たな発病株検出技術の確立を目指す実験を始めた。同年度は、民間企業に委託し、更別村で、(1)ドローンによる発病株(色などで判断)・生理障害株の写真・映像データ収集(2)AIによる発病株の判定の精度向上のための技術実証(3)従来の目視確認による抜き取り回数などのデータ集計(モニタリング検査)-などの実証実験を行った。調査訪問時の更別村農協によると、「現在、実証データを蓄積中であるが、すべての作業工程の中で抜き取り作業の負担が間違いなく大きい(1日5~6時間ほどかかる)。また、専門知識があり、発病株の見分けがつく者しか抜き取りに入れないのが現状であり、もし発病株をAIが認識できたら、素人でも対応が可能となる。一方、どんなに病気の発生が少ない状況でも圃場すべてを歩き、確認する必要があるので、時間というより何日という単位で作業が軽減されるのではないかと期待している」とのことであった。
なお、令和5年度以降は、4年度の実証結果を見ながら、他地区での実証を検討するとしている。
エ その他
(ア)新規就農者の参入に関する課題
更別村農協管内では、上述の通り、個々の生産者の面積が比較的大きい。既存の生産者は面積拡大を望んでおり、営農中止された(される)生産者の圃場は既存の生産者に配分されることから、新規就農がなかなか進んでいない。
(イ)最近の肥料価格や原油価格の高騰による畑作(種ばれいしょ)への影響
種ばれいしょで言えば、基肥のみなのであまり影響はないが、営農に直結するので、来年以降は非常に不安視している。
オ 種ばれいしょ生産に係る今後の取り組み(課題)
現在、15人の種ばれいしょ生産者によって、管内すべてのばれいしょ生産の種ばれいしょを賄っている。それが可能なのは、同農協が、安定的な種ばれいしょの生産を行えるよう、取引価格を引き上げて種ばれいしょ生産者の所得を向上させることで、生産量を確保しているためと考えている。
更別村でも、種ばれいしょ生産に係る作業負担が大きいため、これまで生食用・加工向けばれいしょに転換した生産者もいる。これを避けるためには、労働作業に対する価格面でのメリット(労働対価に対する報酬)がポイントになってくるのではないかと考えており、今後とも種ばれいしょ生産を維持する課題として対策を検討していく。