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調査・報告 野菜情報 2023年3月号

冷凍野菜製造業者による直営農場を通じた原料野菜生産~イシハラフーズ株式会社の取り組み~

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日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 食品科学科 教授 木村 彰利

要約

 本稿では、農業生産が盛んな宮崎県都城市において地元で生産された野菜にこだわりながら冷凍野菜を製造するイシハラフーズ株式会社を事例に、自社直営農場による原料野菜生産について考察を行った。
同社は1983年から冷凍野菜の製造を行っているが、当時は高品質な原料野菜の安定調達を目的として、地元の生産者との契約栽培により野菜を確保していた。しかし、契約農家の高齢化によるリタイアを理由として、2003年からは自社直営農場による原料野菜生産を開始した。2022年時点では使用する野菜のほぼ全量を契約農場において生産している。
 直営農場では大型のトラクターや収穫機の導入により農作業の効率化が図られている。また、スマートフォンを活用した作業現場でのデータ入力により就業時間が短縮化している。圃場(ほじょう)単位での生産履歴の蓄積は圃場管理の高度化につながるとともに、消費者への情報公開などにも活用されている。一方で、圃場が小規模かつ多数分散して存在する傾向にあることから、効率的な農作業を行う上での課題となっており、今後、その改善が求められている。

1 はじめに

 わが国の食料自給率は経年的に低下基調で推移しており、その向上が重要な政策課題となっている。野菜については生産者の収益性の高さや高鮮度が求められるという商品特性もあり、自給率も比較的高く維持されている(注1)が、加工食品に供される原料野菜に関しては海外からの輸入に大きく依存する傾向がある。また上記の問題と並行して、国内の野菜生産地域においては生産者の高齢化が深刻となっている。近い将来、高齢生産者の大量リタイアが想定され、産地として長期にわたって存続していく上で大きな課題となっている。このような状況下で国内における野菜生産を継続していくためには、従来からの個人農家を中心とする生産に加えて、農業生産法人や株式会社などの組織を担い手とする生産の展開・成長が期待されるところである。
 本稿においては、加工原料を含む野菜生産の活性化に係る検討の一知見とするため、農業生産地域である宮崎県都城市の地元産原料野菜にこだわった冷凍食品を製造するイシハラフーズ株式会社(以下「イシハラフーズ」という)の取り組みについて考察したい(写真1)。同社は使用する原料野菜の調達に関しても、かつての生産者との契約栽培から経年的に自社直営農場による生産へとその方法を大きく転換させてきたという経緯があり、現在では野菜生産から製品製造までの一貫体系を確立させていることから、本稿において取り上げる意義は大きいといえよう。

(注1) 『令和3年版食料・農業・農村白書』によれば、2020年における供給熱量ベースの総合食料自給率が37%であるのに対し、野菜は76%と推計されている。

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2 イシハラフーズの沿革と概要

(1)イシハラフーズの沿革
 イシハラフーズは表1で示すように、前社長(現会長)の石原和秋氏が1980年に設立した石原青果株式会社(以下「石原青果」という)を起源としている。同氏は会社設立以前、大分県内の大学に在学していた1976年当時、既に個人で青果物の野菜の集荷・販売業務を行っていた。

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 石原青果は1983年に現在の本社所在地に工場を設置し、冷凍食品製造業者としての業務を開始した。また、1984年からチルド野菜(洗い加工)、1995年以降はコンビニエンスストア向けの総菜原料野菜の納品も行っている。このような経緯により同社全体に占める青果物の集荷・販売業務のウェイトが縮小したこともあって、1991年にはイシハラフーズへと名称変更し現在に至っている。
 同社の業務内容は前述の通り多角化が志向されていた時期もあったが、1989年頃からは冷凍野菜の製造が中心的な業務になっている。このため1996年には増産を目的に本社工場を増築するとともに、商品の利便性や付加価値の向上を目的としてIQF(個別急速冷凍)設備(注2)が導入されている。なお、工場におけるIQF設備の導入・更新は、その後も1998年、2000年および2003年と複数回にわたって実施された。また、2007年に残留農薬検査センターを設置するとともに、2020年にJGAP認証、2022年には有機JAS認証(加工食品・農産物)を取得するなどの取り組みが展開されている。
 以上、イシハラフーズの沿革について簡単に紹介したが、同社の特徴として原料野菜への国産・地元志向の強さが挙げられる。このような理念は創業以来一貫しており、その背景には先代社長の「地場産野菜にこだわらないと同社が野菜産地に立地していることの意義が見い出せなくなる」という考え方がある。そして、同理念は2021年12月に2代目社長となった石原祥子氏にも継承されている。現社長は、東京都内の大学を卒業後、宮城県石巻市などで東日本大震災の復興関連事業に関わっていたが、「雇用は最大の福祉である」との考え方に基づいて2018年に宮崎県へ戻り、イシハラフーズに入社した。このため同氏は地元で生産された野菜へのこだわりに加えて、同社の経営を通じて雇用を生み出すことにより地域に就業の場を提供したいとの思いが強い。

(注2) イシハラフーズがIQFを導入した理由の一つに、かつてのブロック冷凍では量販店やコンビニエンスストアなどへ業務用として販売せざるを得なかったことから、販売先を生協へとシフトさせていくためにはコンシューマーパックに対応できる冷凍方法が求められたことが挙げられる。

(2)イシハラフーズの概要
 現在のイシハラフーズの概要は表2の通りである。本社および工場所在地はJR都城駅に近い都城市下川東にあり、敷地内には残留農薬検査センターも併設されている。

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 同社は前述のように青果物の集荷・販売や総菜原料野菜の納品を行っていた時期もあったが、現在の事業は冷凍野菜関係、具体的には加工原料野菜の生産および冷凍野菜の製造・販売に特化している。製造品目については冷凍ほうれんそうを中心としているが、それ以外にも後述の表6で示すように、えだまめやごぼう、さといも、こまつななど多品目にわたる冷凍野菜を製造している(写真2)。

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 同社の年間取扱額は近年に限ると10億円前後で推移しており、大きく変化していない。その理由として、この間は冷凍野菜の販売価格が固定化されていたことに加えて、工場の稼働率が上限近くに維持されていることから現有施設のままでは増産が難しく、取扱額を拡大する余地がなかった点が挙げられる。同社の販売先構成(金額)は、全体の95%が生協の連合会向けであり、これらは最終的に生協の共同購入や宅配事業を通じて消費者へと供給されている。また、残りの5%は地元の学校給食など向けである。同社が生協を主要販売先とする理由は、生協およびその組合員が国産野菜の価値を認めてくれることに加えて、消費者の顔が見える点や製品のストーリーを訴求できる販売先であることによる。
 同社のパートを含む従業員数は80人であり、その内訳は経理などの管理部門が3人、直営農場で野菜を生産する生産部門(農産部)が18人、冷凍野菜の製造を行う製造部門(冷凍食品部)が59人となっている。また、上記以外に海外からの技能実習生を25人受け入れており、圃場や工場に配置している。このように、同社は多くの職員を雇用していることから、地域に大きな雇用の場を提供していることは明らかであろう。

3 かつての契約栽培の概要

 イシハラフーズが使用する原料野菜は、次節で見るように現在ではその大部分を自社直営農場で生産しているが、かつては地域の生産者との契約栽培により調達していた。本節においては、同社が高品質な原料野菜の安定調達に対し、いかに努力してきたかを明らかにするため、かつて行っていた契約栽培について紹介したい(注3)。1999年当時の同社は、販売先をそれまでの大手量販店やコンビニエンスストアから生協へと転換させる過渡期にあった(注4)
 同社における1999年の野菜仕入量は5369トン(うち冷凍野菜仕向けは3463トン、64.5%)であり、このうち64.6%にあたる3468トンが契約栽培により調達されていた(注5)。契約栽培は同社が冷凍野菜の製造を開始した1983年当時から行われており、その対象は主として都城市周辺の野菜生産者であった。品目は、ほうれんそうやえだまめ、こまつな、さといも、ごぼうなど現在も使用している加工原料野菜に等しい。契約生産者数は186人、契約栽培面積は8246アール、生産者1人当たりの契約面積は44.3アールであった。
 同社が生産者との直接取引を開始した理由は、(1)生産者の直接的な組織化による原料野菜の安定調達方法として (2)都城市周辺の生産者との直接取引を志向する量販店や商社への対応として (3)これからの農業は販売先や価格を決めてから作るべきであるという理念ーの3点が挙げられる。そして(3)については、調達方法が直営農場へと変化した現在においても継承されている。生産者との契約に際しては、(1)対象圃場 (2)契約期間 (3)品目および品種 (4)使用する資材および肥料 (5)規格 (6)収穫方法 (7)取引価格ーなどが定められた文書の作成とともに、生産者の圃場ごとのカルテとして取りまとめられていた(注6)
 このような取り組みにより、高品質かつ高鮮度な地場産野菜の安定的な確保を実現してきた同社であるが、その後の地域農業の変容により、原料野菜の調達方法は大きく変化することになった。

(注3) 本節の内容は、2000年に当時の石原和秋社長に行ったヒアリングに基づいている。
(注4) 1999年当時のイシハラフーズの販売先構成(金額)は量販店 10.1%、コンビニエンスストア 21.4%、生協 39.2%、学校給食 7.9%、その他は21.4%であった。なお、同社が販売先を変更した理由として、大手量販店やコンビニエンスストアの契約条件の厳しさが挙げられている。
(注5) 1999年当時の契約栽培以外の野菜仕入先は、宮崎県経済連、産地出荷業者、卸売市場などが挙げられる。
(注6) 圃場単位のカルテの作成は、農林水産省の特別栽培農産物等ガイドラインに準拠させて開始した。

4 自社直営農場による加工原料野菜の生産

(1)自社直営農場への転換の経緯
 前述のように、イシハラフーズは生産者と直接結びつくことで加工原料野菜の安定調達を図ってきたが、農業の盛んな都城市周辺においても生産者の高齢化に伴い、経年的に契約生産者のリタイアが相次ぐことになった。このような状況の変化により、同社の原料野菜の調達方法も契約栽培から自社生産へとシフトせざるを得なくなったことが直営農場設置の理由である。しかし、このような変化は急速に生じたのではなく、当初は高齢生産者の農作業を同社職員が手伝うところから始まっており、圃場における管理作業の代行へと業務内容が変化し、最終的に同社が土地を借り受けて自社生産へと移行したという経緯がある。
 同社が最初に農地を借用したのは2003年5月である。その後、2009年には100ヘクタール、2015年には200ヘクタールと直営農場の面積は急速に増大し、訪問時の2022年時点では宮崎県内の210ヘクタール(620圃場)および鹿児島県内の50ヘクタール(102圃場)にまで拡大している。なお、品目別の作付面積と生産量については、ほうれんそうが面積で52.7%、数量では58.6%を占めている(表3)。また、これら圃場の所在地は収穫した野菜を速やかに工場へと搬入する必要があることから、そのほとんどが工場から20キロメートル圏内に立地している。このため、宮崎県では都城市周辺、鹿児島県であっても曽於市など宮崎県に近い地域にある。

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 上記のような経緯を経て、現在では使用する原料野菜(写真3~6)のほぼ全量が自社生産品(注7)となっているように、圃場での原料生産から製品である冷凍野菜の製造・販売に至るまでの全工程を一貫して自社で行うスタイルを確立している。食品製造業者が原料生産を行うことのメリットは、契約栽培と比較して生産にかかる技術水準や選別規格を均一化できる点や、工場における稼働率の平準化を前提として計画的な原料野菜の生産が行える点(詳しくは後述)が挙げられる。また、イシハラフーズの事例を6次産業化という観点から見ると、一般的な6次化は農業生産者が2次産業などに進出するのに対して、同社の場合は地域に存在していた2次産業が1次産業である農業へと進出した事例ということができよう。

(注7) 現在、契約栽培の対象者はごぼうを生産する1人のみであり、外部からの購入についてもミックス野菜に使用するたけのこを鹿児島県内の業者から購入するケースに限定されている。

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(2)原料野菜生産の概要
ア スタッフと農業機械の現状

 ここからはイシハラフーズによる野菜生産について見ていきたい。同社の野菜生産に係るスタッフ(写真7)である18人は、比較的高齢者が多いものの若い人も含まれている。例えば室田兼一郎氏は30歳であり、同氏はかつて広島県内の工場で働いていたが、就農希望に加えて出身地である宮崎県に帰りたいという理由から2年半前に同社へ転職した。また、スタッフの中には国内で農業を勉強した後に渡米し、帰国後に香川県内の農業生産法人に就職した後、同社へ転職した女性もいる。

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 同社が所有する主要な農業機械についてまとめたものが表4である。ただし、表4以外にも、例えばトラクターには多種類にわたるアタッチメント類が付属するなど機材は多い。また写真8、9で示すように、同社が使用するトラクターなどはキャビン付きの大型機だけでなく、圃場内の耕耘や播種などの作業を自動で行う自動走行トラクターも含まれている。このように、同社の直営農場で使用される農業機械は大型かつ高度な技術が用いられたものが多いという特徴がある。

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 収穫機(写真10~12)に関しては、葉菜用、根菜用、えだまめ用、ごぼう用に大別される。このうち、ごぼうは既存の収穫機を使用しているが、それ以外は農機メーカーに依頼して製造してもらったものである。

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イ 圃場における作業と記録作成
 イシハラフーズの直営農場では同社の作成した計画に従って原料野菜の生産が行われているが、同計画は本社工場における冷凍野菜の製造予定から遡って作成されている。つまり先に工場における製造計画があり、それに対応する形で必要となる原料野菜の生産計画が組まれている。このように計画的な生産・製造が可能となる理由としては、同社の中心的な販売先が生協の共同購入や宅配事業であることから、製品の販売量が比較的安定しており、一年を通じて生産・製造の見通しが立てられる点が挙げられる。
 次に、同社の野菜生産で特徴的なのは、職員が作業を行うに当たり、職場から支給されたスマートフォンで圃場に設置された表示版(写真13)(注8)のQRコードを読み込んで情報システムにアクセスし、現場で当日実施した作業内容を入力・記録している点が挙げられる。機動性の高い情報端末を利用することで職員は会社に立ち寄る必要がなくなり、自宅から現場に直行し作業後も直接自宅へ帰るという勤務形態が可能になり、就業時間の短縮化も実現している。また、同システムにより圃場単位で経年的な栽培管理記録が蓄積されることから、長期的な視点に立った圃場管理も可能となっている。

(注8)イシハラフーズの直営農場には表示板が設置されており、そこには圃場番号、面積、圃場名、所在地、栽培責任者、情報システムにアクセスするためのQRコードが記載されている。

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 なお、消費者が手にする冷凍野菜の個包装には11桁の数字が記載されており、同社のホームページ(写真14)から同数字を入力することで、当該製品の生産履歴を確認することが可能になっている。この場合の生産履歴とは、圃場情報(圃場番号、所在地、栽培面積など)や生産記録(品種、播種日、作業記録、使用肥料および農薬など)などである。

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(3)自社直営農場の課題
 イシハラフーズは、かつての契約栽培から自社直営農場における野菜生産へとシフトすることで計画的な原料調達を実現してきたが、その一方で課題も存在している。最大の課題としては、直営農場の圃場が零細であることに加えて多数かつ分散して所在している点が挙げられる(注9)
前述のように同社の直営農場は宮崎県と鹿児島県に合計260ヘクタール存在しているが、圃場数では722区画に分散されている。1圃場の平均面積は36.0アールであり、最大の圃場でも2ヘクタールに過ぎず、最小では10アールに満たないものまで存在する。また、圃場の形状が不規則なものが多いのが実態である。このため、圃場内における作業効率が問題となっている。具体的には、同社が所有する農業機械は小回りの利かない大型機が多く、狭小な圃場における効率的な稼働が困難であるとともに、圃場の形状によっては機械が入れず作業できない場所が残ってしまうなどの問題がある。圃場は広範囲に分散して存在することから圃場間における農業機械などの移動に時間がかかり、作業効率を低下させる一因となっている。
 また、都城市およびその周辺地域は野菜生産が盛んであることから、同社以外にも農地を借入しながら大規模農業を展開する農業生産法人が存在している。このため同社とこれら生産法人との間で圃場をめぐる競争が生じており、中でも条件の良い圃場ではより激しい競争となる傾向にある。その一方で、これら農業生産法人の圃場もイシハラフーズと同様に零細・分散性の問題があることから、今後は同社と農業生産法人との間で協議し、それぞれが管理する農地の交換・調整などを通じた圃場の集積・集約化が検討されているところである。

(注9) この他にも、所有者不明の圃場の存在が挙げられており、圃場の集積・集約化の障害となっている。

(4)その他の取り組み
 以下においては、同社による直営農場における原料野菜生産以外の取り組みについて紹介したい。
同社は、2007年に内部組織として残留農薬検査センター(写真15、16)を設置している。当時、国内で流通する野菜および同加工品に農薬の残留事故が多発したことを踏まえて、販売先や消費者に安全・安心を提供するため、加工原料野菜の農薬残留について検査することを目的に設立した。同センターでは圃場の土壌分析も行っており、肥料の適正使用に役立っている。
 また、消費者の安全志向に応えるとともに、製品に付加価値を付けるため2020年にJGAP認証を取得(注10)し、2022年には加工食品と農産物(注11)の有機JAS認証を取得するなどの取り組みも行っている。

(注10) イシハラフーズによれば、JGAP認証に準じた取り組みは認証取得前の2012年から実施していたとのことである。
(注11) イシハラフーズにおける2022年の有機栽培によるほうれんそうの作付面積は5ヘクタールである。


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5 工場における冷凍食品の製造

(1)冷凍野菜製造の一般的工程
 以下においては、同社の工場で行われている冷凍野菜製造について簡単に見ておきたい。同社の工場概要は表5、年間の原料野菜使用量と製品製造量については表6の通りである。

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 同社の工場における冷凍野菜の処理工程は品目によって若干異なるものの、「工場搬入→洗浄・皮むき→ブランチング(加熱処理)→冷凍→一時保管→包装→保管→出荷」という流れで処理されており、その工程中に適宜選別・検査が行われている。本稿取材時においては、さといもの冷凍加工と冷凍後に一時保管されていたほうれんそうの包装作業が行われていたことから、以下ではこれら2品目の作業内容について写真を中心に紹介したい。

(2)さといもの例
 圃場で収穫されたさといもは金属製のカーゴに入れられた状態で工場に搬入され、洗浄が行われる(写真17~19)。

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 洗浄後はさらに機械による皮むき作業が行われ、選別・検品が繰り返された後にブランチングされる。ブランチング後は冷水で冷却され、次の冷凍工程に移される(写真20~22)。

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 次に、IQFフリーザーにより急速かつ個別に冷凍される(写真23、24)。その後、段ボールに入れた状態で営業倉庫などに一時保管され、販売先への納品に応じてコンシューマーパックされた後に出荷される。

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(3)冷凍ほうれんそうの例
 圃場で収穫されたほうれんそうは当日中に工場に搬入され、洗浄、選別(注12)、冷凍後、さといもと同様に一時保管され、販売先への納品に合わせて包装・出荷という工程をたどる。以下では、一時保管後の工程について見ていきたい。
 営業倉庫などで段ボールに入れた状態で保管される冷凍ほうれんそうは工場搬入後に開封され、再度、選別・検品作業が行われる(写真25、26)。なお、写真25の右側に見える筒状の装置はくず状の冷凍ほうれんそうを除去するためのものである。

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 選別後は300グラム単位で計量され、コンシューマーパックとして包装し、段ボールに詰められた状態で工場から搬出される(写真27~29)。なお、包装後の検査には異物混入などを防ぐため、金属探知機とX線検査装置が用いられている。

(注12) 工場に搬入された葉菜などは目視による選別に加えて、装置を用いた色彩選別が行われている。

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6 まとめ

 本稿においては、宮崎県都城市の冷凍食品製造業者であるイシハラフーズを例に、同社が行う直営農場による原料野菜の生産を中心に、工場における製造工程も含めて考察を行った。
 その結果、同社は過去において原料野菜の数量や品質を安定させるため地域の生産者と直接的に結びつき、契約栽培を行うことによって安定的な調達を実現していた。しかし、高齢化などを背景に契約生産者の確保が難しくなったことから、2003年以降は自社直営農場による野菜生産を開始している。その後、契約生産者数の減少を補完する形で自社生産を拡大し、現在ではほぼ全量が自社生産に置き換わっている。自社生産に移行することにより原料野菜の安定調達や品質向上だけでなく、工場における稼働率を前提とした計画的な原料野菜生産が実現される。そして圃場で作業を行う際には、その内容を逐次会社のシステムにデータ入力することで情報が一元的に記録・管理できるだけでなく、消費者に対する情報提供にも活用されている。また、同社が多数の従業員を雇用することは地域における就業の場の創出につながることから、地域活性化の一助となっていることは明らかであろう。
 以上、イシハラフーズの取り組みについて見てきたが、自社直営農場による原料野菜生産には多くのメリットがあることを確認できた。その一方で、圃場の多数零細性に基づく課題も存在しているが、これについては、地域の他法人との間で協議し、それぞれが管理する農地の交換・調整などを通じた圃場の集積・集約化が望まれる。
 同社の取り組みには生産者の高齢化により将来的な農業の維持・継続に課題を持つ多くの生産地域において参考となる知見が多く含まれており、考察に値する事例といえよう。

 謝辞:本稿の作成に当たっては、ご多用中にもかかわらずイシハラフーズの石原祥子社長および農産部統括の吉川幸一氏にご高配を頂きました。ここにおいて改めてお礼申し上げます。