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調査・報告 野菜情報 2023年3月号

施設園芸・植物工場をめぐる動向と課題

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一般社団法人 日本施設園芸協会 技術部長 土屋 和

要約

 近年の施設園芸・植物工場分野において大規模化やスマート農業、次世代施設園芸の取り組みなどが進展している。各種データに基づく緻密な管理も進展する一方で、生産コスト上昇の中での利益確保が今後の大きな課題と考えられる。

1 はじめに

 2016年に本誌に寄稿した「植物工場をめぐる現状と課題」(1)では、太陽光型植物工場、人工光型植物工場などの植物工場の実態調査内容、およびそれらの具体例と植物工場をめぐる課題、地域農業や野菜生産販売への影響などについて、紹介や考察を行った。それから7年が経過し、施設園芸や植物工場をめぐる環境も大きく変化している。本稿では、それらを踏まえた近年の施設園芸・植物工場についての動向や課題について、主に生産性の向上の視点から考察する。

2 施設園芸・植物工場分野の近年の動向

 図1に施設園芸の実態を表すガラス室・ハウス設置実面積の推移を示す。1999年の5万3517ヘクタールをピークに減少傾向が続いており、2020年には4万615ヘクタールとピーク時の約76%になっている。また全体の約4分の3を占める野菜の実面積は、近年3万ヘクタール程度で安定傾向にある。ガラス室・ハウスは毎年老朽化や廃業などで廃棄されるものがあり、一方で新設も行われている。面積が安定傾向にあるのは、廃棄分と新設分の実面積がほぼ均衡していることを意味する。新設では、施設の(のき)(だか)が高く、採光性も確保され、付帯設備も充実した施設が多く、生産性が高いものが多いと思われる。また大規模化も進み、次で述べる1ヘクタール以上で養液栽培装置が導入された太陽光型植物工場も近年増加している。

https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/sisetsu/haipura/setti_2.html、他より筆者集計〈2023/1/23アクセス〉

 表1に大規模施設園芸および植物工場の施設数の推移を示す。これは高度な環境制御を行う植物工場・大規模施設園芸の施設数について、生産物の販売を目的として運営している事業者を対象に経年調査を行ったものである。太陽光型は施設面積がおおむね1ヘクタール以上で養液栽培装置を有する大規模施設を対象としている。施設数は太陽光型では増加傾向、人工光型では平成29年以降は増減を繰り返しているように読み取れる。人工光型においても近年は大規模化が進んでおり、レタス類では日量最大3万株程度の生産能力を持つ工場も現れている(2)。これはレタス1株を80グラムとした場合、年間で800トンを超える生産能力となる。以前は日量1万株を超える工場も少なく、人工光型では施設数の推移以上に生産量は増加しているものと考えられる。また大規模化と並行し、人工光型では加工・業務用途向けのレタス類を生産する工場も現れている。コンビニエンスストア向け惣菜などの中食を製造する食品工場が植物工場を併設し、原料となるレタス生産を行う例もみられる(3)

3 大規模施設園芸と次世代施設園芸

 農林水産省の「次世代施設園芸導入加速化支援事業」が2015年より開始し、次世代施設園芸拠点として全国に2~4ヘクタール規模の大規模施設10箇所が建設された。これらはオランダの施設園芸をモデルとしながら、バイオマスなどの地域エネルギーを活用し、ICT利用による生産性の向上を目指す大規模施設園芸のモデルとして整備された。また各拠点では、育苗から栽培、選果の設備も整備され、生産から出荷の一貫体系化も行われた。表2に次世代施設園芸拠点の施設、生産、出荷の概要を示す。



 10拠点のうち7拠点でトマトが生産され、実績単収は40トン/10アール(大玉トマトの場合)を超える拠点も多く、現在はさらに収量を伸ばしている拠点もある。これは採光性の良いオランダ型の高軒高の「フェンローハウス」で、トマトの群落(ある範囲に形成された株の集まり)が充分に光を受けやすいハイワイヤー栽培(写真1)を行い、また後述のICTを活用したCO2施用など適切な環境制御や栽培管理を行って、トマトの光合成や着果および果実肥大を促進させることで、生産性を向上した結果と言えるだろう。パプリカも2拠点で生産され、同様な方法で栽培が行われている。また高糖度トマト栽培は、日本型の屋根型ハウスでの密植栽培が行われるなど、日本独自の技術での栽培も行われている。



 暖房などに用いる主要エネルギー源には、木質チップ(写真2)や木質ペレットなど地域で生産されるバイオマスを用いる拠点が多く、他に温泉熱といった自然エネルギーを用いる拠点もある。昨今の原油価格高騰下では、こうした新たなエネルギー源を安定的にかつ安価に取り入れ、経営の安定化に結びつけている拠点もある。



 各拠点の主要販路は量販店、加工・業務用向け、契約出荷などさまざまであるが、高い生産性と生産量の下で選果設備を活用し、販売先に向けた量目や包装形態での安定的な出荷や販売が多くの拠点で行われている。次世代施設園芸拠点では、以上のように生産、出荷販売、エネルギー利用の面で新たな取り組みが行われ、また数十人から100人規模の多くのパート従業員を雇用し、組織体制や作業管理体制を確立するなど、生産性を向上するための取り組みも行われている(4)。このようなさまざまな取り組みは、次世代施設園芸拠点のみならず、わが国の施設園芸の技術面や経営面の底上げに少なからず影響を与えているものと考えられる。

4 野菜苗生産における大規模植物工場施設の導入

 果菜類を中心に野菜生産では苗生産の分業化が進み、育苗業者やJAの育苗センターでの接ぎ木苗など、専門的な野菜苗生産が行われている。育苗業者には地域の産地に向けた中小規模の経営体や、全国に農場を展開しグループ経営を行う大規模な経営体がある。後者では農場の大規模化も進み、近年では徳島県に本社がある有限会社竹内園芸のグループ会社として、4.2ヘクタールの大規模育苗施設(株式会社九州野菜育苗センター)が熊本県に建設された(5)。ここでは、播種(はしゅ)から出荷までの工程を搬送ラインで結ぶことで、省力・省人化を徹底している。また、断熱壁で覆われた空間内でLED照明や空調装置、自動潅水装置による人工光育苗を行う大型の植物工場施設も導入され、寡日照や猛暑など気象変動の影響を受けにくい育苗を可能としている(写真3)。この施設では年間110万本のポット苗生産が可能である。



 愛媛県に本社があり、全国に自社農場や提携農場を持つベルグアース株式会社では、第一閉鎖型施設と呼ばれる小型の人工光育苗施設を多数設置し、トマトの接ぎ木苗などを中心に、気象条件に左右されず、また無農薬での無病苗の育苗を行っている。さらに同社では、2021年に第二閉鎖型施設と呼ばれる大型の人工光育苗施設を建設した。この施設はきゅうりなどのウリ科の育苗専用に設計され、全体で月間100万本程度の大量のきゅうりの接ぎ木苗生産が可能である(6)(写真4)。
 野菜苗の購入需要は増加しており、野菜生産や施設園芸にとっての育苗業の役割はますます重要となっている。一方で、気候変動や猛暑、新たな病虫害の出現、人手不足など、育苗業には施設園芸と同様にさまざまな課題があり、それらの解決のため、こうした大規模な植物工場施設の導入が進展し、育苗における生産性の向上に寄与している。


5 スマート農業の進展とデータ活用による生産性の向上

 近年、スマート農業の取り組みが各方面で進展している。農林水産省では基本政策としてスマート農業を「ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業を実現」としている(7)。令和元年度から始まったスマート農業実証プロジェクトでは、施設園芸分野の課題が8課題採択(令和元年度分)され、表3に示す野菜の施設栽培を中心とした課題が各地で取り組まれてきた。いずれも研究機関、指導機関、生産現場などが一体で取り組む、ロボット技術やICTを活用した先端的な実証プロジェクトである。ここでのICTとは、センシングやモニタリング、自動制御といった「計測制御分野」、通信網やデータベース、AIといった「情報通信分野」などを包含した広範なものと考えられる。

 一方で、施設園芸分野では表4に示すような加温設備、高度環境制御装置、炭酸ガス発生装置、カーテン装置などの導入による、いわゆる「環境制御技術」により、ハウス内を植物生育に適した環境に制御することで生産性や品質の向上が図られている。「環境制御技術」は前述の「計測制御分野」に属するものである。これらの設備や装置類は、スマート農業の取り組み以前より導入が行われてきた。近年普及が進んでいるものとして、高度環境制御装置(設置実面積に対する割合は、平成21年が1.7%、令和2年が2.9%に上昇)、炭酸ガス発生装置(同、平成21年が2.9%、令和2年が4.8%に上昇)、2層以上のカーテン装置(同、平成21年が10.2%、令和2年が14.4%に上昇)が挙げられる。






 こうした装置類は、設置し稼働させるだけでは効果を得ることは難しく、環境条件や植物の生育状態などに応じた最適な使用方法が求められる。具体的には、環境制御装置における温度条件などの設定、炭酸ガス発生装置におけるCO2濃度条件の設定などがある。これらの設定や意思決定において、前述の「情報通信分野」の技術の活用が重要となる。温湿度やCO2濃度、日射量といった環境要素のセンシングを行った結果、日々大量のデータが発生し、それらをデータベース化してモニタリングを行い、一定の「管理基準」などとの比較検討をした上で適正に調整する行為がなされている。そこでは4Gや5Gといった通信網、クラウド上で管理されるデータベース、スマートフォンなどのサービスが安価に利用できる環境が近年整備され、施設園芸生産者による利用も進んでいる。すなわち、いつでもどこでも栽培環境のデータを、リアルタイムでも、過去にさかのぼっても確認することが可能になっている。こうした機能は民間の商用サービスとして各社から提供が進む一方で、産地や地域でのネットワーク化された情報提供も行われている。表5は、高知県で取り組まれている農業データ連携基盤「IoP(Internet of Plants)クラウド(通称「SAWACHI(サワチ)」で提供される各種データである。SAWACHIでは、連携しているメーカー各社の計測機器などから環境データを取り込み、また燃油タンクの燃料使用量、選果場の出荷データ、市況データなど、広範な情報が希望する県内生産者に提供されている。例えば燃料使用量をリアルタイムで把握することで、無駄の無いハウスの暖房や、市況データを合わせてタイミングを見計らったエネルギー投入など、さまざまな利活用も期待される。



 こうしたネットワークやサービスが進展する中で、具体的な「管理基準」については、個々の作物や地域、栽培方法などに合わせ構築し、実際に運用する必要がある。そのためには、環境要素のデータ化と同様に、作物の生育状態のデータ化が求められ、近年は栽培中の作物の「生育調査」が行われるようになった。これは1週間単位などで調査株の伸長量や茎径、果実数などを測定するものである(表6)。



 ここでは各項目における管理基準と比較し、適正範囲から外れた場合に温度条件や潅水条件、あるいは作業条件などを調節する方法が採られている。生育調査→管理基準との比較→環境条件の設定→環境制御や潅水制御などの調節→作物の生育状態の適正化といった栽培管理の流れが果菜類を中心に取り入れられ、作物の生育を健全な状態とすることで収量や品質の向上に寄与している。また生育調査を簡易に行う手法(8)なども開発され、生産者が生育調査を短時間で行うための工夫もされている。このような新たなデータ活用による栽培管理に加え、近年では作物の生育モデルなどに基づく生育・収量予測(9)、光合成速度などの推定などの新技術も開発されている。生育・収量予測では、環境要素、品種や栽培条件などのデータを入力し、生育や収量を演算により予測することで、適正な環境制御に反映することを目的の一つとしている。また現在の作物の生理的な機能の状態(純光合成速度、蒸散速度など)を環境要素のセンシングとクラウド上での演算により提供するサービスも実用化されている(図2)。作物の収量や品質の向上の基本となる光合成の最大化のため、これらの演算結果を基に適正な環境制御への反映を目的として利用されている。



 以上のように、施設園芸におけるスマート農業とデータ活用の取り組みについて紹介したが、これらは生産性や経営の向上のための手段であり、それ自体が目的ではないことは言うまでもない。また新技術の導入には新たなコスト負担も発生するため、与えられた機能を適切に使いこなし費用対効果を高めることが求められよう。

6 経営面から見た課題と対応策

 施設園芸・植物工場における生産コストや出荷・流通コストの多くは、近年増加傾向にある。最低賃金などの上昇、物流運賃の上昇、施設園芸資材費や建設コストの上昇、世界的な肥料原料の供給不足による肥料のコスト上昇とひっ迫、原油高騰による光熱費の上昇などの影響を直接的に受けている。一方で、野菜販売において、市場取引価格は需給により決まることが多く、コロナ禍での飲食産業需要などの低迷の影響も受け、それらコスト上昇が適正に価格転嫁されているとは言い難い。こうした状況は経営にも大きな影響を与えており、利益率の低下や、場合によっては赤字経営への転落を招いている。図3と図4に太陽光型、人工光型の植物工場におけるコストの比率を示す。いずれの形態においても人件費が3分の1程度を占め、次いで水道光熱費(電気代)が多い。大量に電力を消費する人工光型植物工場の経営では、電力料金値上げの影響を大きく受けており、今後も電気代のコスト比率が増し利益の圧迫要因となることが予想される。





 表7に高知県で施設なすの越冬長期栽培を約59アールで行う生産者の聞き取りによる主要生産コストの推移を示す。2020年作に比べ2021年作では、重油代、灯油代、電気代といった動力光熱費が大きく上昇し、さらに肥料費は2倍以上に上昇している。2020年作では土壌病害の発生により収量低下(約19トン/10アール)があり、2021年作では土壌還元消毒を行い、農薬費が2倍以上に上昇したが、収量は約20.7トン/10アールと上昇している。また販売単価確保のために2021年作では契約出荷の比率を高め、荷造り運賃も2倍以上に上昇している。一方で2021年の人件費は、収量が増え手間のかかる契約出荷が増える中でも2020年に比べ微増で推移している。



 以上のように、実際の施設野菜経営例においても、動力光熱費や肥料費などが大きく上昇しており、これらは経営の圧迫要因になっているものとみられる。またそうした中でも、収量を上げ、販路の工夫も併せて売上を延ばす努力を重ねていることも読み取れる。これは一例であるが、今後も生産コストの上昇に対しては、収量や販売単価の向上、労働生産性向上や効率化など、生産技術や経営の地道な改善による利益確保が求められるものと思われる。

7 おわりに

 本稿では、近年の施設園芸・植物工場分野における大規模化、次世代施設園芸の取り組み、スマート農業の取り組みとデータ活用などによる生産性向上の動向について紹介した。今後は生産コスト上昇の中での利益確保が、どの経営体においても課題になると考えられる。また農林水産省の基本政策である「みどりの食料システム戦略(10)」が示すように、食料の安定供給と環境負荷の低減による持続性の両立が、将来にわたり本分野でも求められよう。そのためにも、より緻密で無駄の無い資源(エネルギー資源、鉱物資源、人的資源等)の利活用や、さらにはサプライチェーンとの緻密な連携によるフードロスや生産ロスの削減、農産物の付加価値向上などの取り組みが必要なものと考える。

土屋 和(つちや かずお)


【略歴】
一般社団法人日本施設園芸協会 技術部長
技術士(農業・経営工学・総合技術監理部門)
2005年 太洋興業株式会社 農業開発部 課長
2008年  MKVドリーム株式会社 開発センター守谷 チームリーダー
2012年から現職

【引用文献】
(1)土屋 和「植物工場をめぐる現状と課題」農畜産業振興機構 野菜情報 2016.8 
www.alic.go.jp/content/000127162.pdf
(2)「国内最大規模の完全人工光型植物工場の竣工について」三菱ガス化学株式会社、2019年 https://www.mgc.co.jp/corporate/news/2019/post-185.html〈2023/1/23アクセス〉
(3)「安全・安心・新鮮を追及した都市型野菜工場」プライムデリカ https://primedelica.com/svp/〈2023/1/23アクセス〉
(4)「大規模施設園芸における組織づくりと人的資源管理 」農研機構 2020年 https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/Large-scale_facility_gardening_manual_organization.pdf〈2023/1/23アクセス〉
(5)土屋 和「スマート農業が拓く次世代の施設園芸」日刊工業新聞社、2022年
(6)「日本最大級のウリ科専用閉鎖型育苗施設の本格稼働を開始」ベルグアース株式会社プレスリリース 2021年8月31日 https://bergearth.co.jp/wp-content/uploads/2021/08/d8177a1643f0391f3571ebd1c60940c4.pdf〈2023/1/23アクセス〉
(7)「スマート農業」農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/〈2023/1/23アクセス〉
(8)「トマト葉面積指数(LAI)の簡易推定法」宮城県、2020年 https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/res_center/fukyugi96no2.html〈2023/1/23アクセス〉
(9)「施設園芸作物の生育・収量予測ツール」農研機構 https://www.naro.go.jp/project/results/juten_fukyu/2018/juten06.html〈2023/1/23アクセス〉
(10)「みどりの食料システム戦略」農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/〈2023/1/23アクセス〉

【参考文献】
 「大規模施設園芸・植物工場 導入・改善の手引き」日本施設園芸協会、2020年 https://jgha.com/wp-content/uploads/2020/04/31bessatsu2.pdf〈2023/1/23アクセス〉
 「スマートグリーンハウス転換の手引き ~データ活用と実践の事例~」日本施設園芸協会、2022年 https://jgha.com/wp-content/uploads/2022/03/TM06-03-bessatsu2.pdf
 〈2023/1/23アクセス〉