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調査・報告 野菜情報 2023年2月号

いちき串木野市における農商連携による新たなレタス産地の取り組み

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鹿児島事務所 関 英美

【要約】

 レタスの生産実績のなかった鹿児島県いちき串木野市において、加工・業務用野菜を取り扱う青果卸売業者(有限会社かねやま)と、他県の農業法人勤務から独立・移住により新たに設立された農業法人(株式会社ゼロプラス)が、新たに農商連携よる加工・業務用レタス生産を行い、規模拡大に取り組んでおり、同市におけるレタス生産は成長を続けている。

1 はじめに

 近年、わが国の野菜生産においては、高齢化による生産者の減少が進み、作付面積が減少傾向にある産地が多いという課題がある。一方で、遊休農地を活用して規模拡大を行う農業法人などの大規模生産者も現れている。
 また、主要野菜の加工・業務用需要割合の動向を見ると、食の外部化などを背景に、加工・業務用需要は増加傾向にあり、近年では全体の約6割を占めている(図1)。
 

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 定時・定量での需要が高い加工・業務用野菜は、家計消費用と比較すると輸入の割合が高い傾向にあるものの、農林水産省による実需者への意向調査では「国産の加工・業務用野菜の利用を増やしたい」という回答が3割以上見受けられた(図2)。

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 しかし、卸売市場における野菜の入荷量・単価は、天候不順などによる作柄変動のため、恒常的に不安定なものとなっている。東京都中央市場におけるレタスの例を見ると、入荷量の増減により、価格は下落と高騰を繰り返していることが分かる(図3)。

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 このため、周年安定供給および安定価格を求められる加工・業務用野菜においては、作柄や価格の変動リスクへの対策が重要となってくる。
 こうした中、鹿児島県いちき串木野市において、農商連携により加工・業務用レタスの生産・販売に取り組んでいる有限会社かねやま(以下「かねやま」という)および株式会社ゼロプラス(以下「ゼロプラス」という)の事例を紹介する。

2 かねやまおよびゼロプラスの概要

(1)かねやまの概要と加工・業務用野菜の沿革
 かねやまは、鹿児島県鹿児島市に所在する青果卸売業者である。昭和50年に設立され、創業40年目にして年間売上高はかねやま単体で25億円、関連企業を含むグループ全体では40億円に達する。
 かねやまが最初に取り扱ったカット野菜は、カットサラダなどのカット野菜として代表的な商品ではなく、正月のおせち向け飾り細工といった職人が手作業でカットするアイテムだった。このような経緯もあり、かねやまではさまざまな形状のカットに対応しており、60~70アイテムという豊富な商品数が強みである。
 カット野菜も含めた多種多様な青果物の取り扱い実績があることから、実需者はかねやま1社との取引でカット野菜も含めたさまざまな品目を仕入れることができる。こうした強みを活かし、鹿児島県と宮崎県におけるコンビニ各社への出荷を増やすなど、カット野菜の売上高はかねやま全体での売上高の5分の1ほどを占め、会社の成長に貢献している。現在は、コンビニの他にも、病院、学校給食などのバックヤード向け業務用野菜の取扱量が多い(写真1)。

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 カット野菜の取り扱いが多い品目は、たまねぎ、キャベツ、にんじん、レタスである。かねやまが所在する鹿児島県は、かんしょやだいこんなどの土物類の生産が多く、葉物類は比較的少ないため、夏場は野菜が少なくなる。かねやまでは、野菜の年間供給を行うために、全国の生産者と契約を結んでいる。今回取り上げるレタスの例では、11月~翌5月はゼロプラスから、6~10月は長野県の生産者からレタスを仕入れ、実需者への年間供給を実現している。

(2)ゼロプラスの概要
 ゼロプラスは、鹿児島県いちき串木野市で主にレタスの生産を行う農業法人である。平成27年に設立され、前シーズンである令和2年冬レタスから令和3年春レタスの売上高は約5000万円、出荷実績は331トンとなっている。
 ゼロプラスの代表である松田氏は、長野県でレタスを生産する農業法人に11年間勤務しており、そこで知り合った杉山氏(かねやまの現社長)との縁もあり、鹿児島に就農・移住した。独立に当たっては、作付け前に売り上げの見込みを立て、後述する年間計画を作成して生産に集中できることから、価格の高騰や下落の予想が立てづらい青果用ではなく、業務用野菜を選択したという(写真2)。

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 農地に選んだいちき串木野市は、レタスの生産実績はなかったが、出荷先となるかねやまの位置する鹿児島市まで車で40分と物流面で有利であり、冬季に桜島の降灰がない温暖な地域だった。
 就農から2年間は松田氏が個人で生産を行っていたが、取引先との信頼関係の構築や、従業員を増やす上で福利厚生を整備することを目的に法人化を行い、ゼロプラスを設立した。
 松田氏は、長野県の農業法人では生産部門の農場長を務めた経験を生かし、就農当初の2ヘクタールから規模拡大していき、現在では16ヘクタールもの農地でレタスを生産している。規模拡大に当たっては、いちき串木野市の遊休農地を借り受けており、地域の遊休農地解消に貢献している。
 レタスの播種から収穫までの作業は9月から翌年5月まであり、この他に6月収穫のキャベツや、レタスの作業がない時期にゴーヤー、パッションフルーツを取り扱い、10人の通年雇用を行っている。現在、いちき串木野市にある農業高校の卒業生が2人働いており、来期にはさらに1人の雇用を予定している。この農業高校では、地元の農業法人への就職という進路はゼロプラスが初の事例であり、地域の雇用にも貢献し、地元とのつながりを深めている。

3 かねやまとゼロプラスによる農商連携の取り組み

(1)かねやまとゼロプラスによる連携の概要
 かねやまとゼロプラスの両社は、ゼロプラスがレタスを生産し、かねやまがそのレタスを販売する、という分業に基づいた連携を行っている。こうした役割分担により、ゼロプラスは生産に集中でき、かねやまは実需者のニーズに合ったレタスをゼロプラスから仕入れることができる。ここでは、両社の連携による取り組みについて整理する。

(2)年間生産スケジュールの作成による効率化
 ゼロプラスでは、毎年8月にかねやまと相談しながら年間の出荷計画を策定している。10日単位で契約数量を設定し、その計画に基づいて出荷するために、圃場ごとに細かく品種、播種時期、収穫予定時期などを計画するエクセルファイルを作成する。
 年間の生産スケジュールを立てることで、1年を通じて必要な肥料やマルチなど資材の総数量を把握でき、まとめて購入することで単価が安くなったり、送料が1回分で済むなど、効率的に購入できる。さらに肥料については、圃場ごとに土壌診断を行い、必要な肥料のみを使用することで肥料コストの低減を図っている。
 また、11月~翌5月と長期間の出荷を行うためには品種の構成が重要で、現在は冬レタスではツララ、春レタスではサマーヘッドグラスなどの約10品種を組み合わせてレタスを生産している(図4)。松田氏は品種構成の最初の調整に3~5年をかけており、今でもより良い品種構成のために試行錯誤を重ね、調整を続けている(写真3)。

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 このように細かく行われる圃場の管理には、アグリノートという管理ツールのアプリを活用している(図5)。アグリノートでは、従業員が行った作業をスマートフォンから入力し、インターネット上に保存された情報をゼロプラス内で即座に共有することが可能である。

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(3)野菜の契約取引に伴うリスクの負担
 ゼロプラスでは、契約数量を遵守するために、不作時に備えて契約数量よりも余剰に生産計画を設定する。就農当初は契約数量の1.5倍で生産計画を立てていたが、生産面での技術向上により、現在では1.2倍に抑えられており、直近ではゼロプラスが年間を通じて欠品したのはわずか3~5日程度だった。一方、余剰作付け分も含め、ゼロプラスが生産したレタスは全量がかねやまに出荷されるため、豊作時のリスクはかねやまが負担しているといえる。
 かねやまでは、ゼロプラスのような生産者からの直接仕入れの他に、市場からの仕入れも行っており、豊作時に生産者から契約数量以上に仕入れた場合の調整弁になっている(図6)。
 なお、ゼロプラスにおいて余剰作付け分を合わせても契約数量に足りなかった場合、不足分の調達はかねやまが行う。不足時の調達リスクについてもかねやまが負担している形だが、これは相場にとらわれない出荷先として生産者に選んでもらうために、数ある中間事業者の一社としてかねやまが努力していく点であると杉山氏は認識している。

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(4)かねやまによる生産者支援の取り組み
出荷時の輸送トラックは、かねやまが手配している。かねやまではこの他にも、収穫後のレタスの一時保管庫、コンテナ、段ボールの貸し出しを行っている。これらの取り組みから、かねやまは生産者と連携して青果物供給に取り組んでいる、という認識が実需者との間で持たれることは、販路拡大の一因になっていると考えられる。

4 いちき串木野市におけるレタス生産の規模拡大に向けて

 ゼロプラスでは更なる規模拡大の一手として、米の裏作でのレタス生産に取り組んでいる。冬レタスの大産地である静岡県を始めとして、多くの産地で水田を活用したレタス生産が行われており、鹿児島県においても研究の余地が十分にある。県の補助事業を活用して裏作レタス用の定植機の導入も行い、現在は3ヘクタールの水田で品種の選定などを試しながらレタスを生産している。
 また、松田氏は自身が長野県の農業法人から独立を果たしたように、ゼロプラスの従業員に生産技術や農業経営などの知識を共有し、独立を支援している。既に1人の元従業員が独立し、いちき串木野市で6ヘクタールのレタスを生産する。元従業員が生産したレタスは、全量をゼロプラスが買い取り、かねやまに出荷される。

5 おわりに

 ゼロプラスの松田氏は、農家が作りたいものを作り、できたものを売るのではなく、定量出荷や安全・安心といった実需者の要望をくみ取り、求められているものを作って売ることができる産地を作っていきたい、と話していた。かねやまを通じて実需者のニーズをしっかりと把握しながら、ゼロプラスでは求められるレタスを作るために生産に注力している。
 ゼロプラスがレタス生産の規模拡大に尽力できるのは、販売面を任せられるかねやまの存在があるからこそである。かねやまにとっても、加工・業務用野菜のニーズに応えたレタスの生産を行うゼロプラスの存在は、販売先の維持・拡大の一助となっていると考えられる。
 それぞれの役割を分業し、連携することで、実需者のニーズに沿った加工・業務用レタスの生産・販売を行う両社の取り組みにより、いちき串木野市におけるレタス生産は成長を続けている。

 最後に、お忙しい中、調査にご協力いただいた有限会社かねやまの杉山社長、株式会社ゼロプラスの松田社長に心より感謝申し上げます。

参考資料
・農林水産省「加工・業務用野菜をめぐる情勢(令和4年5月)」
 https://www.maff.go.jp/j/seisan/kakou/yasai_kazitu/attach/pdf/index-25.pdf(2022/11/7 アクセス)
・農林水産省大臣官房統計部「令和3年度 食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査 加工・業務用野菜の実需者ニーズに関する意識・意向調査結果」
 https://www.maff.go.jp/j/finding/mind/attach/pdf/index-71.pdf(2022/11/7アクセス)
・農林水産省農林水産政策研究所 小林茂典「主要野菜の加工・業務用需要の動向と国内の対応方向」
 https://www.maff.go.jp/primaff/koho/seminar/2017/attach/pdf/171003_01.pdf(2022/11/7アクセス)