(1)かねやまの概要と加工・業務用野菜の沿革
かねやまは、鹿児島県鹿児島市に所在する青果卸売業者である。昭和50年に設立され、創業40年目にして年間売上高はかねやま単体で25億円、関連企業を含むグループ全体では40億円に達する。
かねやまが最初に取り扱ったカット野菜は、カットサラダなどのカット野菜として代表的な商品ではなく、正月のおせち向け飾り細工といった職人が手作業でカットするアイテムだった。このような経緯もあり、かねやまではさまざまな形状のカットに対応しており、60~70アイテムという豊富な商品数が強みである。
カット野菜も含めた多種多様な青果物の取り扱い実績があることから、実需者はかねやま1社との取引でカット野菜も含めたさまざまな品目を仕入れることができる。こうした強みを活かし、鹿児島県と宮崎県におけるコンビニ各社への出荷を増やすなど、カット野菜の売上高はかねやま全体での売上高の5分の1ほどを占め、会社の成長に貢献している。現在は、コンビニの他にも、病院、学校給食などのバックヤード向け業務用野菜の取扱量が多い(写真1)。
カット野菜の取り扱いが多い品目は、たまねぎ、キャベツ、にんじん、レタスである。かねやまが所在する鹿児島県は、かんしょやだいこんなどの土物類の生産が多く、葉物類は比較的少ないため、夏場は野菜が少なくなる。かねやまでは、野菜の年間供給を行うために、全国の生産者と契約を結んでいる。今回取り上げるレタスの例では、11月~翌5月はゼロプラスから、6~10月は長野県の生産者からレタスを仕入れ、実需者への年間供給を実現している。
(2)ゼロプラスの概要
ゼロプラスは、鹿児島県いちき串木野市で主にレタスの生産を行う農業法人である。平成27年に設立され、前シーズンである令和2年冬レタスから令和3年春レタスの売上高は約5000万円、出荷実績は331トンとなっている。
ゼロプラスの代表である松田氏は、長野県でレタスを生産する農業法人に11年間勤務しており、そこで知り合った杉山氏(かねやまの現社長)との縁もあり、鹿児島に就農・移住した。独立に当たっては、作付け前に売り上げの見込みを立て、後述する年間計画を作成して生産に集中できることから、価格の高騰や下落の予想が立てづらい青果用ではなく、業務用野菜を選択したという(写真2)。
農地に選んだいちき串木野市は、レタスの生産実績はなかったが、出荷先となるかねやまの位置する鹿児島市まで車で40分と物流面で有利であり、冬季に桜島の降灰がない温暖な地域だった。
就農から2年間は松田氏が個人で生産を行っていたが、取引先との信頼関係の構築や、従業員を増やす上で福利厚生を整備することを目的に法人化を行い、ゼロプラスを設立した。
松田氏は、長野県の農業法人では生産部門の農場長を務めた経験を生かし、就農当初の2ヘクタールから規模拡大していき、現在では16ヘクタールもの農地でレタスを生産している。規模拡大に当たっては、いちき串木野市の遊休農地を借り受けており、地域の遊休農地解消に貢献している。
レタスの播種から収穫までの作業は9月から翌年5月まであり、この他に6月収穫のキャベツや、レタスの作業がない時期にゴーヤー、パッションフルーツを取り扱い、10人の通年雇用を行っている。現在、いちき串木野市にある農業高校の卒業生が2人働いており、来期にはさらに1人の雇用を予定している。この農業高校では、地元の農業法人への就職という進路はゼロプラスが初の事例であり、地域の雇用にも貢献し、地元とのつながりを深めている。