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調査・報告 野菜情報 2023年2月号

山形県鶴岡市温海(あつみ)地域の在来作物「焼畑あつみかぶ」の生産体制とブランド化戦略

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山形大学 農学部 教授 藤科 智海
岩手大学大学院 連合農学研究科 連宇

【要約】

 山形県鶴岡市温海地域の山間部では、古くから焼畑農法による赤かぶ栽培が行われている。この温海地域の在来作物である焼畑あつみかぶは、皮が赤紫色で、内部が白く、主に甘酢漬けなどの漬物に加工して食されている。焼畑という伝統的な栽培方法を守りながら生産されており、2022年時点で72戸の生産者が存在している。2012年に「焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会」が設立され、ブランド化の取り組みが進められてきたこともあり、販売単価も高位安定している。しかしながら、生産者の高齢化などに対応すべく、地域の関係者の連携による支援体制が重要となっている。

1 調査の概要

 山形県鶴岡市温海地域の山間部で実施されている焼畑農法の赤かぶ栽培は、江戸時代から継承されており、400年もの歴史がある。もともと林業と農業で暮らしてきた地域であり、杉の伐採跡地を焼き、その灰によるカリウムなどのミネラルの豊富な土地に、赤かぶを植えて収穫し、その後にまた杉を植林するという林業と農業をサイクルで回していくような持続的な農林業を行ってきた。時代に合わせてやり方を変えながらではあるが、現在も焼畑を行うという栽培方法は変わっていない。
 この栽培方法による赤かぶを「焼畑あつみかぶ」としてブランド化を図り、主に甘酢漬けにして販売する取り組みが続けられている。
 今回、焼畑あつみかぶの生産者、漬物加工を行う生産者・加工業者、生産振興やブランド化を支援している行政・農協の担当者にお話を伺い、その取り組みについて報告する。

2 焼畑あつみかぶの生産現場

(1)栽培概要
 焼畑あつみかぶは、温海地域の山間部の山の斜面を利用して栽培されている。杉の伐採跡地での赤かぶ栽培は、木材価格の低迷や事前準備の焼畑地整備に重労働を強いられるため、今ではあまり実施しておらず(1)、昭和50年代頃から牧草の採草地だった場所などに赤かぶを植えるようになったという。
 毎年7月中旬に、4~5年以上原野となっていた土地の草を刈り払い、草が乾燥した8月上旬にその草に火入れして焼き、その直後に赤かぶを播種する。焼畑を行うことで、土壌中の肥料成分であるアンモニウム態窒素や灰によるカリウムなどのミネラルが豊富になり、地表の雑草抑制や病害虫に対する殺菌作用などの効果がある。9月には間引きなどを行い、10月から11月に収穫を行う。

(2)温海川中小屋高原赤かぶ組合の取り組み
 温海川集落で焼畑あつみかぶの栽培をしている温海川中小屋高原赤かぶ組合の生産現場を訪問し、忠鉢直大組合長にお話を伺った。
 同組合は、11人で構成されており、1人当たり10アール、合計1.1ヘクタールの面積を栽培している。50年頃は20戸程の生産者がいたが、生産者の高齢化が進んでおり、最高齢の生産者は80代、忠鉢組合長も70代であるという。
 栽培場所は、鶴岡市から賃借した山の斜面で、毎年賃借する場所を変えながら4年かけて回しており、4年に1回栽培するまでは、自然の中で地力を蓄えさせている。構成員11人の栽培場所は、栽培場所の良し悪しでの不満が出ないように、毎年くじ引きで決めている。
 草の刈り払いや火入れは組合全体で実施するが、播種以降は自分の栽培場所で各自実施する。播種作業の良し悪しで、間引き作業の手間も変わってくるという(写真1~4)。
 今シーズンは、8月上旬の播種時に長雨で日照不足だったこともあり、初期成育が遅れた。例年であれば、10月上旬頃から収穫しているところであるが、10月中旬頃から収穫作業が本格化している。少なくとも11月末まで収穫作業は続き、雪が降るまで収穫が可能である。昨シーズンは豊作の年で、12月20日頃まで収穫を続けていたとのことである。

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(3)忠鉢直大組合長の経営概要
 忠鉢組合長(写真5)は、水稲4ヘクタールおよび赤かぶ30アールを栽培している。同組合で借りている場所以外に、20アールの赤かぶ()(じょう)を所有している。水稲の収穫後に赤かぶの収穫作業が本格化するため、水稲の作業とほぼ重なることなく実施できている。基本的に灰の肥料分だけで無肥料・無農薬で栽培しているため、草取りの作業は重要で、どれだけ草取りをしたかで収量が決まるという。
 忠鉢組合長の赤かぶ収量は10アール当たり約2トンで、収入は10アール当たり40万円程になる。水稲にプラスして、貴重な収入源となっている。

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3 焼畑あつみかぶのブランド化戦略

(1)焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会の設立
 焼畑あつみかぶは、鶴岡市温海地域の在来作物であり、食文化でユネスコ創造都市ネットワークに登録されている鶴岡市の取り組みの中でもたびたび紹介されている。
 「在来作物」とは、山形在来作物研究会によると、「ある地域で、世代を越えて、栽培者によって種苗の保存が続けられ、特定の用途に供されてきた作物」と定義されている(2)。このような焼畑あつみかぶに関する関係者を巻き込んだ取り組みとして、「温海地域のトップブランド農産物に相応しい高品質で安定した焼畑あつみかぶの生産体制の構築とブランド力の向上」を目的とし、2012年7月に「焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会(会長:忠鉢孝喜氏)」が設立された(3)

(2)同協議会の概要
 同協議会は、(ⅰ)生産者団体としてJA庄内たがわ園芸振興部会、(ⅱ)集出荷業者としてJA庄内たがわ温海支所、(ⅲ)加工業者として農事組合法人一霞(ひとかすみ)あつみかぶ生産組合、(ⅳ)産直組織として「あつみ旬菜会」および株式会社クアポリス温海(道の駅「あつみ」の物産館しゃりん)、(ⅴ)支援組織として温海町森林組合および鶴岡市温海庁舎、(ⅵ)オブザーバーとして山形大学農学部および山形県庄内総合支庁農業技術普及課により構成されている。焼畑あつみかぶに関しては、これまでも、地域で取り組みを推進するさまざまな活動が行われてきたが、それらの関係者が集って同協議会は設立された。

(3)同協議会の活動内容
ア 優良種子採取事業
 最初に取り組んだのが、優良種子採取事業である(表1)。焼畑あつみかぶの原産地、一霞集落で収穫されたかぶの中から優良種を選抜し、毎年900株の種かぶを定植して、翌年に種子を採取し、それらを生産農家に販売斡旋(あっせん)するサイクルにより品質確保に努めている。

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イ 差別化事業
 同時に、差別化事業にも取り組んだ。2014年に栽培基準を表2の通り制定した。栽培地域を鶴岡市の中でも、もともと焼畑で赤かぶを生産していた温海地域に限定した上で、原産地である一霞集落で生産された種子を使用し、4~5年かけて原野化した圃場で焼畑を実施するという内容である。この栽培基準に則って栽培された温海かぶのみ、商標登録したロゴ・マークを付けて販売することができるようにすることで、商品の差別化を図っている(図1)。その後、地理的表示(GI)保護制度登録に向けた取り組みも進めている。

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 図2は、1989年以降のJA庄内たがわ温海支所の焼畑あつみかぶの集荷量および販売単価の推移を示したものである。焼畑あつみかぶは、自然に任せた栽培でもあるため、天候の影響を受けやすく、集荷量の推移を見ても、年による差が激しい。その集荷量に連動して、集荷量が多い時は販売単価が下がり、集荷量が少ない時には販売単価が上がるという状況にあった。
 栽培基準を定めて、ロゴ・マーク入りで販売するようになった2014年以降は、天候の影響で集荷量が変動しても販売単価は乱高下しなくなり、1キログラム当たり平均200円以上の価格が付くようになった。焼畑ではない通常の赤かぶの販売単価は同約130円であり、JA庄内たがわが集荷する赤かぶのうち、焼畑あつみかぶ(全体の31.6%、2021年)が差別化されて販売されていることが分かる。

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ウ 焼畑あつみかぶ栽培チャレンジ支援事業
 図3は、焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会が設立された2012年以降のJA庄内たがわの集荷者数とその栽培面積の推移を示したものである。
 集荷者数は、2012年の86戸から2016年には98戸まで増加したが、その後減少し、2022年時点で72戸となっている。栽培面積も2012年の1735アールから2022年の1110アールと減少傾向にある。これは、生産者の高齢化によるものであり、その対策として2020年から次世代農家の「焼畑あつみかぶ栽培チャレンジ支援事業」を開始した。この事業は、焼畑あつみかぶ栽培を始めたいという生産者に対して、ベテラン生産者が指導を行うことで、栽培から販売までのノウハウを習得させ、後継者育成による生産量の維持と焼畑文化の継承を図るというものである。これまでに5団体が取り組んでいる。
 鶴岡赤かぶIoT研究会の取り組みも、収穫作業の機械化やセンシング技術による生産量増大に向けて実施しているものである。

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エ スギ葉の活用支援事業
 本来の焼畑栽培の姿である「スギ葉の活用支援事業」は、森林整備により生じる残材である杉の葉を焼畑作業時の有効な燃焼物として利活用するために、杉の残材を温海町森林組合から生産農家へ譲渡する取り組みである。初年度の2021年には8戸が活用した。
 もともと温海地域は、山間の集落が多く、林業が盛んな地域であり、自ら持山で林業を行いながら、里では農業を行う生活が営まれてきた。その農業の一端として、森林伐採地での焼畑あつみかぶ栽培が継承されてきた。しかし、現在、持山があっても、森林の管理は森林組合に任せ、農業のみを実施している生産者が多い。そのため、林業と農業との循環サイクルを再び取り戻そうと、温海町森林組合が2016年から森林の伐採→焼畑あつみかぶ栽培(1年間)→再造林のサイクル確立による森づくりを目指している。焼畑あつみかぶの栽培を1年間実施して得た販売収入を元手に、再造林を進めている。

4 焼畑あつみかぶの集荷・販売体制

 JA庄内たがわの温海支所園芸振興部会(部会長:忠鉢孝喜氏)に設置されている温海かぶ専門部は、毎年、7月下旬に栽培講習会の開催、9月上旬に出荷登録取りまとめ、管内現地巡回、10月上旬に出荷目揃会、翌年1月下旬に販売総括検討会の開催などの取り組みを実施している。
 出荷規格は、Lサイズが直径8.0~9.9センチメートル、Mサイズが同6.0~7.9センチメートル、Sサイズが同5.0~5.9センチメートルであり、1キログラム当たりの仮渡単価は、Lサイズが70円、Mサイズが150円、Sサイズが70円である。
 2021年の9~11月分の精算金額は、Lサイズが89円、Mサイズが238円、Sサイズが78円であった。仮渡単価を見ても、漬物加工に使いやすいMサイズへの誘導を図っており、約85%がMサイズで出荷されている。
 10月から12月の出荷シーズンのJA庄内たがわの集荷日は月・水・金曜日であり、生産者が葉を落としてL・M・Sサイズに自己選別したかぶを、JA庄内たがわの担当者が朝方に各集落を回り、集荷している。温海地域は集落が山間部に点在しており、町の中心部にある温海支所に生産者が搬入するのは負担が大きいため、JA庄内たがわが集荷作業を担っているという。
 生産者の出荷作業軽減化はこれ以外にもあり、2012年頃から通いコンテナ集荷に変更している。それまでは、20キログラムの専用袋に十字に紐結びをした状態で集荷していた。JA庄内たがわ温海支所営農課および鶴岡市温海庁舎産業建設課の担当者(写真6)によると、焼畑あつみかぶの生産者の年齢は、60代および70代が中心で、年金収入を得ながら、焼畑あつみかぶの栽培を行っている場合が多く、従来の集荷方法は生産者にとって重労働であるため、変更したとのことである。

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 焼畑あつみかぶの栽培面積は、温海川中小屋高原赤かぶ組合の例で示したように、1戸当たり10アール程度の生産者が多く、焼畑あつみかぶのみで生計を立てている農家はいないという。10アール当たり収量が1.5トンで、1キログラム当たり200円で販売できるとしたら、収入としては10アール当たり30万円になる。
 表3に、焼畑あつみかぶの販売先別出荷実績を示した。2021年で見ると、温海地域内の漬物業者向けが21.1%、庄内の漬物業者および青果業者向けが66.1%と、温海地域内を含む庄内向けの販売が多く、庄内地域の伝統的な漬物である赤かぶ甘酢漬けとして利用されていることが分かる。

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5 焼畑あつみかぶの地域内における漬物加工の取り組み

 焼畑あつみかぶの一般的な食べ方は、甘酢漬けである。外側が赤紫色、内部が白色のかぶが甘酢漬けにすることで、内部まで鮮やかなピンク色に染まる。
 温海地域内で焼畑あつみかぶの漬物加工をしているのは、漬物加工業者2社、農家5戸である。今回、焼畑あつみかぶの種の原産地、一霞集落にある漬物加工業者の農事組合法人一霞あつみかぶ生産組合を訪問した(写真7)
 

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 同生産組合の五十嵐勇一理事(写真8)によると、1984年に漬物加工所を立ち上げた当時は、6次産業化で付加価値を付けるというよりも、赤かぶを使ってくれるところを生産者である自分たちで作りたいとの思いからであったという。

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 現在、集落内に24戸の焼畑あつみかぶ生産者がおり、個別に漬物加工している生産者もいるため、18戸から生産した赤かぶを集めて漬物加工している。2021年は18トンの赤かぶを集めて製造しており、集落内の赤かぶ生産量では不足するため、JA庄内たがわ温海支所を通して、別の集落の赤かぶも集めて漬物加工しているという。
 赤かぶは切らずに丸ごと漬け込むので、利用しやすいMサイズを中心に仕入れており、佐々木茂組合長、五十嵐理事を含めて、7人が10月中旬から翌2月頃まで加工作業をしている。農村地域において、農閑期の冬場の労働場所にもなっているという。
 販売先としては、高速道路の鶴岡インターチェンジ付近にある庄内観光物産館が約2.5割、温海地域の国道沿いの道の駅「あつみ」しゃりん(写真9)が1割弱、温海温泉旅館が1割弱、県外も含めたスーパーなどの業者が1割弱、残りの半分近くが個人客である。個人客名簿の登録者数は約1000件で、全国から注文がある。200グラム、400グラムの袋入り、1キログラム、2キログラム、3キログラムのたる入りで販売しており、お歳暮時期の製造となるため、贈答用の利用も多いという。毎年注文が多く、計画では20トンの赤かぶを漬け込みたいところであるが、生産量が少し足りず、2021年は18トンであった。2022年は不作で、赤かぶを集めるのが難しく、注文に応える製造量を確保できるかどうか厳しい状況にあるという。
 赤かぶ漬けの個人客への販売価格は200グラム当たり320円、400グラム当たり640円である。生かぶの販売価格が1キログラム当たり200円であることを考えると、生かぶ1キログラムが、製品段階で600グラム程度に減量されるとしても、漬物加工することで付加価値が付いている。

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6 焼畑あつみかぶの漬物加工も実施している生産者

 焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会の会長およびJA庄内たがわ温海支所園芸振興部会長を兼務する60代の忠鉢孝喜氏は、温海川中小屋高原赤かぶ組合に所属し、同組合で借りている10アールの他に、自分の持山20アール、鶴岡市から借りている山20アールの合計50アールで焼畑あつみかぶを栽培している(写真10)。それ以外に、水稲8.5ヘクタール、転作作物として、そば1.5ヘクタール、みょうが1.0ヘクタール、さくらんぼ0.5ヘクタール、ワラビ0.4ヘクタールを耕作している。収入は、水稲で6割、焼畑あつみかぶで2割、サクランボで2割、その他は数%という構成であり、焼畑あつみかぶの占める割合は高い。温海地域でサクランボを栽培している農家は他にはいないので、非常に珍しい。40代の息子夫婦が同居しているが、鶴岡市内の企業に勤めているため、農作業は忠鉢孝喜氏と妻の百合子氏が担っている。4~11月に常時雇用として1名、それ以外の忙しい時期に臨時雇用として2人ほど雇っている。

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 焼畑あつみかぶは山間で栽培するため、最近はサルの食害が多く、電気柵などで防御しているが、それでも被害に遭うことが多いという(写真11)。今シーズンの焼畑あつみかぶの生産量は約7トンで、収量はあまり良くなかったというが、そのうち約2トンを漬物加工に回している。「百合ちゃん工房」の名前で販売しており(写真12)、加工作業は妻の百合子氏が中心になって取り組んでいる。漬物加工は、切ってから漬け込むこともできるため、単価の低いLサイズなどを多く利用している。赤かぶの収穫から2~3日後に加工の作業を開始し、約1週間で漬かるという。完成した赤かぶ漬けは、個人販売に約1割、残りは庄内観光物産館と道の駅「あつみ」しゃりんに約半分ずつ販売している。

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7 道の駅などでの販売

 焼畑あつみかぶは、シーズン時には生かぶと漬物の両方が温海地域内の国道沿いの道の駅「あつみ」しゃりんで販売されている(図4、5)。漬物の出荷者数は7人で、温海地域で漬物加工をしている事業者は全員販売を行っている。

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 近年、全国における漬物の販売金額が落ちているが、出荷さえすれば売れるそうである。生かぶは、SやLサイズなどの農協へ出荷すると単価が低くなる階級でもよく売れるそうで、販売金額は下がっていないという。1人当たり販売金額でみると、2021年で漬物は59万円、生かぶは8万円と、安定した収入源として一定水準を満たす金額となっている。
 鶴岡市温海庁舎産業建設課の中村氏は、温海地域で焼畑あつみかぶを直接買える場所はあまりないため、特に生かぶのSやLサイズの道の駅での販売量をもう少し増やしても良いのではないかと提案している。

8 焼畑あつみかぶの今後の展望

 焼畑あつみかぶは、関係者の取り組みもあって、ブランド化が図られ、販売単価も安定している。しかし、生産者の高齢化が進む中、焼畑作業などの負担は大きく、生産者数の減少などにより不足する分は、温海地域以外の庄内地域の普通の畑で通常栽培する赤かぶがシェアをとっている状況にある。
 年金収入を得ながら焼畑あつみかぶを生産している高齢生産者の他に、水稲および焼畑あつみかぶに加工品や他品目を加えて生計を立てている生産者もいる。また、他の生産者グループも少しずつではあるが、出てきている状況である。
 漬物加工業者からの引き合いは強く、生産量の増加を求められている中、生産量を増やすべく、次世代農家の育成や、焼畑で得られる土壌養分を栽培圃場へ還元する取り組みも行われている。
 鶴岡市においても、食文化創造都市推進を図っており、焼畑あつみかぶの生産者にとって追い風が吹いている状況にある。
 赤かぶのトップブランドでもある焼畑あつみかぶの存在は、地域全体の知名度向上にも貢献しており、地域関係者の連携による支援体制の強化により伝統的な栽培方法による焼畑あつみかぶの存続が求められる。

 最後に、お忙しい折に、本調査にご協力いただいた温海川中小屋高原赤かぶ組合の組合長の忠鉢直大氏、焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会の会長の忠鉢孝喜氏および百合子氏、農事組合法人一霞あつみかぶ生産組合理事の五十嵐勇一氏、JA庄内たがわ温海支所営農課営農課長の伊藤久信氏、長澤理亮氏、鶴岡市温海庁舎産業建設課の中村純氏、写真提供いただいたJA庄内たがわ総務部総務課広報情報係長の齋藤真氏他、関係者の皆様に感謝申し上げます。

参考文献
(1) 鈴木伸之助「焼畑を活用した資源の循環利用で持続可能な森づくり-山形県鶴岡市温海地域」、鈴木玲治・大石高典・増田和也・辻本侑生「焼畑が地域を豊かにする-火入れからはじめる地域づくり-」実生社、82~89頁、2022年。
(2) 山形在来作物研究会編「どこかの畑の片すみで-在来作物はやまがたの文化財-」山形大学出版会、2007年。
(3) 中村純「『焼畑あつみかぶ』ブランド化の軌跡-山形県鶴岡市温海地域」、鈴木玲治・大石高典・増田和也・辻本侑生「焼畑が地域を豊かにする-火入れからはじめる地域づくり-」実生社、72~81頁、2022年。