ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 山形県鶴岡市温海(あつみ)地域の在来作物「焼畑あつみかぶ」の生産体制とブランド化戦略
山形県鶴岡市温海地域の山間部では、古くから焼畑農法による赤かぶ栽培が行われている。この温海地域の在来作物である焼畑あつみかぶは、皮が赤紫色で、内部が白く、主に甘酢漬けなどの漬物に加工して食されている。焼畑という伝統的な栽培方法を守りながら生産されており、2022年時点で72戸の生産者が存在している。2012年に「焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会」が設立され、ブランド化の取り組みが進められてきたこともあり、販売単価も高位安定している。しかしながら、生産者の高齢化などに対応すべく、地域の関係者の連携による支援体制が重要となっている。
焼畑あつみかぶの一般的な食べ方は、甘酢漬けである。外側が赤紫色、内部が白色のかぶが甘酢漬けにすることで、内部まで鮮やかなピンク色に染まる。
温海地域内で焼畑あつみかぶの漬物加工をしているのは、漬物加工業者2社、農家5戸である。今回、焼畑あつみかぶの種の原産地、一霞集落にある漬物加工業者の農事組合法人一霞あつみかぶ生産組合を訪問した(写真7)
焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会の会長およびJA庄内たがわ温海支所園芸振興部会長を兼務する60代の忠鉢孝喜氏は、温海川中小屋高原赤かぶ組合に所属し、同組合で借りている10アールの他に、自分の持山20アール、鶴岡市から借りている山20アールの合計50アールで焼畑あつみかぶを栽培している(写真10)。それ以外に、水稲8.5ヘクタール、転作作物として、そば1.5ヘクタール、みょうが1.0ヘクタール、さくらんぼ0.5ヘクタール、ワラビ0.4ヘクタールを耕作している。収入は、水稲で6割、焼畑あつみかぶで2割、サクランボで2割、その他は数%という構成であり、焼畑あつみかぶの占める割合は高い。温海地域でサクランボを栽培している農家は他にはいないので、非常に珍しい。40代の息子夫婦が同居しているが、鶴岡市内の企業に勤めているため、農作業は忠鉢孝喜氏と妻の百合子氏が担っている。4~11月に常時雇用として1名、それ以外の忙しい時期に臨時雇用として2人ほど雇っている。
焼畑あつみかぶは山間で栽培するため、最近はサルの食害が多く、電気柵などで防御しているが、それでも被害に遭うことが多いという(写真11)。今シーズンの焼畑あつみかぶの生産量は約7トンで、収量はあまり良くなかったというが、そのうち約2トンを漬物加工に回している。「百合ちゃん工房」の名前で販売しており(写真12)、加工作業は妻の百合子氏が中心になって取り組んでいる。漬物加工は、切ってから漬け込むこともできるため、単価の低いLサイズなどを多く利用している。赤かぶの収穫から2~3日後に加工の作業を開始し、約1週間で漬かるという。完成した赤かぶ漬けは、個人販売に約1割、残りは庄内観光物産館と道の駅「あつみ」しゃりんに約半分ずつ販売している。