(1)埼玉県の生産者のA氏は、生分解性マルチを20年前からさといもに、15年前からスイートコーンに使用しており、3ヘクタールの圃場に年間30品目の野菜を作付けし、地元スーパーの店内店舗向けを中心に、家族3人とパート15人で従事している。
さといもは、6~7月の暑い時期に土寄せをするためポリマルチを剥がしていたが、「高温多湿の時期で扱いにくく、この労力を省けたら楽になる」と考え、生分解性マルチの使用を始めたところ、ポリマルチと差がなく栽培できることが分かり、以降継続して使用している。栽培期間は3月末から9月中旬までと長期であるが、生分解性マルチは土寄せで埋めてしまうまでマルチフィルムとして機能すれば十分であるため、収穫後、芋茎の乾燥後に一緒にロータリーですき込む。後作のほうれんそう栽培にも影響はないという。
スイートコーンは、「マルチを剥がす前に残茎を1本1本抜き取る作業が非常に負担になっていた」が、直売仲間と残茎を粉砕するハンマーナイフモア(大型草刈り機)を共同購入した時に「生分解性マルチを組合せたら便利になるのでは」と考えて試した結果、残渣処理とマルチのすき込みが上手くいき、それ以来、生分解性マルチを使用している。残茎処理が省力化した分、作付け本数を、ポリマルチ時代の2000本から今年(2022年)は3万本まで増やすことができた。収穫したその日に残茎を機械で粉砕し、2~3日後に1度耕耘し、1週間後に2回目の耕耘をしてポリマルチを敷き、次作のえだまめを定植している。
A氏は生分解性マルチとポリマルチの使い分けについて、資材費と、パート賃金+廃棄物処理費との比較で考えている。剥ぎ取って廃棄物回収に出せるようにするまでに3~4日掛かる作物なら生分解性マルチを使うメリットがあり、簡単に剥ぎ取り作業ができる作物ならばポリマルチを選んでいるという。
「現在ポリマルチを使用しているブロッコリーは、収穫後に残る大きな株を1つずつ引き抜いているが、このやり方と、生分解性マルチを使って機械で片付ける方法にほとんどコスト差がないため、生分解性マルチのコストがもう少し安くなれば切り替えたい」とA氏は話す。また「現状は資材費が高騰しても販売価格に転嫁できていないが、生分解性マルチの導入を検討している作物の販売価格が上がる見通しがあれば、生分解性マルチに切り替えて省力化する分、作付面積を増やしたい」と考えている(写真2~4)。
(2)京都市の生産者のB氏は、1.2ヘクタールの圃場で夏はなす、トマト、きゅうり、冬はほうれんそう、ブロッコリーを栽培している。露地栽培のなす(4月下旬定植、6~12月上旬収穫)を作付けする2.5アールの圃場に、昨年から生分解性マルチを導入した。
当地のなす栽培には、除草管理や水持ち、施肥効果を維持させるため、マルチが必要不可欠であるが、ポリマルチを剥がす際に非常に労力が要る。約1500本作付けているなすの枝をネットから外して、樹を圃場から持ち出し、マルチを剥がすまでに1週間掛かり切りとなる。生分解性マルチの場合は、支柱アーチだけ外せば樹を残したままトラクターですき込めるため、作業時間はポリマルチの10分の1程度で済む。12月中に片付けが終わり、1月初めに次作のほうれんそうを
播けるまでになった。
B氏は「なすは6カ月間収穫するため、後処理の手間賃と時間、廃棄料、冬の早い時期に次作のほうれんそうが1作できることを考えると、ポリマルチとの価格差が5倍程度ならば、生分解性マルチを使う価値とメリットはある。ただし単収が高い作物でないとメリットはない」と話す(写真5~8)。