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調査報告(2) 野菜情報 2022年12月号

施肥量削減につながる機械技術

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国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
農業機械研究部門 無人化農作業研究領域
主任研究員 千葉 大基
主任研究員 西川 純

【要約】

 昨今の世界情勢により、令和4年の秋肥価格は前期(同年春期)比プラス25~94%の大幅な値上げとなり、農家の経営を直撃している。施肥量を削減しつつ高品質な作物を栽培するには、作物が必要とする場所に必要な量の肥料を施用することが求められる。
 本稿では施肥量の削減につながる4通りの施用方法と、これらを実現する機械技術である(1)重量計付きブロードキャスタ(2)畝内施用法対応の畝立て施肥機(3)畝立て同時二段局所施肥機(4)畝内部分施用機―の概要を紹介する。

1 はじめに

 コロナ禍による物流の混乱が尾を引く中、ロシアのウクライナ侵攻や中国からの肥料の輸出制限などが加わり、令和4年5月31日に全農が公表した秋肥の価格は同年の春肥からプラス25~94%と大幅な値上げとなった。農林水産省の営農類型別経営統計によると、令和2年度の露地野菜作の農業経営費に占める肥料費の割合は8%を占めており、この割合が単純計算で10~16%へと増加すると考えると、農業経営へ与える影響は甚大である。平成20年の肥料高騰は1年程で落ち着きを見せたが(図1)、今回の高騰は世界的な資源の需要増や為替の影響など、複合的な要因によるものであり、短期間で元に戻る見通しが立たない。今後も肥料価格水準が高いまま推移するならば、農家は品質を維持しながらも施肥量を削減するための技術を駆使し、この困難を乗り越えることが求められる。
 そこで、本報告では、肥料の効率的な利用を目的として開発された機械施肥技術について報告する。

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2 機械を利用した施用法

 肥料の効率的な利用を機械技術によって得る方法としては、肥料を作物が必要とする量以上に散布することを抑制し、作物が必要な場所に適切な量を施すことが主体となる。図2に機械を利用した主要な肥料の施用法を示す。
 (1)の全面全層施用法は、機械による肥料散布が行われて以来、作業性が良いという特徴から広く行われてきた。事前に圃場ほじょう全面に肥料を散布してから、あるいはトラクタの前面にライムソワ(横一直線に資材の吐出口を複数並べて、帯状に圃場へ資材を落としていく施肥機)などの肥料散布機を装着し、肥料散布と同時に耕うん、畝立てを行う。作物の位置を問わず肥料を散布するため、作物が並ぶ畝内だけでなく、通路となり作物が肥料を利用しづらい畝間部分にも施肥され、肥料の利用効率の点では他の施用法と比較して劣る。他方、肥料が土壌全体に広がるため、特に開墾して間もない圃場など、物理性が劣る圃場において根張りの確保を目的として利用する農家もある。近年では、GNSS技術(測位衛星からの情報を用いて位置情報を取得する技術)の利用により、肥料が多く必要な場所又は少なくてもよい場所を機械的に撒き分ける可変施肥技術が開発され、肥料の利用効率の改善が図られている。
 (2)の畝内施用法は、全面全層施用では活用されにくい畝間部分の施肥を行わず、特に畝として山型に形成される部分にのみ施肥することで、肥料の利用効率を高めたものである。畝間に肥料を入れないことで、畝間に生える雑草の勢いを抑える効果も期待される。
 (3)の畝内局所施用法は、肥料を畝内に分散させず、畝内のいくつかの場所に筋状に集中して落としていく方法である。窒素肥料については、土壌中の濃度が高いほど硝酸化成が抑制されることが知られている。筋状に集中して肥料を落とすことにより窒素濃度を高めておくことで硝化が抑制され、長期間植物が利用できる範囲に窒素成分を留めておくことができる。一方で、図のように畝の下層に一筋で施用した場合、定植した作物の根が肥料に到達するまでに時間を要するため、初期生育不良が発生したり、肥料の濃度が局所的に高まることによる濃度障害が発生したりする恐れがある。簡易に畝内局所施用を実現する方法としては、圃場に事前に肥料を筋きし、歩行型トラクタに培土器のアタッチメントを装着することで、土を肥料の上に寄せ上げながら畝を成型していく方法が提案されている。
 (4)の畝内部分施用法は、(2)の畝内施用法で肥料を混ぜる範囲を明確に区切り、肥料の拡散を抑制したものである。基本的な考え方は畝内施用法と同じであるが、肥料の混和範囲を狭く区切ることで、より効果的に作物に肥料成分を吸収させながら施肥量を削減することができる。

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3 施肥量削減に資する機械

 ここからは、前項で述べた施用法を実現し、肥効率の向上を目的として開発、利用されている機械の概要を述べる。

(1)重量計付きブロードキャスタ
 ブロードキャスタは、図2の(1)で示した全面全層施用を効率的に行うための機械であり、砂状や粒状の資材を遠心力により遠方に投てきするトラクタ装着式の散布機である。図3に簡略的な構造を示す。主にホッパ、シャッタ、投てき機構から構成され、ホッパに投入した資材がシャッタを経て、投てき機構により遠方へ投げ出される。構造は単純であるが、散布幅が5~10メートルと広く、効率的な作業が可能である。シャッタの開き具合で散布量を調節する仕組みのため、作業速度や資材性状の違いによる散布誤差が発生しやすい。その対策として、作業速度にかかわらず設定どおりの散布を可能とする技術(車速連動技術)や、資材の流動特性(流れやすさ)を事前に測定し、資材に合ったシャッタの開き具合に調整する技術(流動特性補正技術)が開発された。一方で、品質の安定化や減肥を目的に行われる可変施肥技術においては、過年度の生育量や収穫量、土壌分析値などさまざまな指数値に基づくマップベースの施肥設計方法(注)に進展すると見られることから、これまで以上に散布の高精度化が求められる。そこで農研機構では、株式会社IHIアグリテックと共同で、車速連動、流動特性補正、経路誘導などの機能を持つ製品をベースに、資材残量を自動計測し、資材重量の変化から現在の実流量を自動計算することで、リアルタイムに散布量を補正可能な重量計付きブロードキャスタを開発した(写真1)。従来機能に加えてこの新たな補正機能により、各種誤差要因の影響を最小限に抑えることで、設定値どおりの正確な可変施肥が可能となるため、肥料の節約に寄与できる。

注:圃場内における地点毎に施肥量を指定した施肥設計地図(施肥マップ)上の位置をGPSで認識し、地図に示された量の肥料を自動的に散布する方法。

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(2)畝内施用技術
 図2の(2)で示した畝内施用技術については、専ら畝立て施肥作業を目的として開発された機械ではなく、肥料散布機を含む機械の組み合わせにより実現している手法である。写真2は筆者が実証試験で訪れた農家が利用している機械である。後部カバーの下に畝成型板を装着することで畝成型をできるようにしたロータリに、肥料散布機を組み合わせたものである。肥料散布機のホースの吐出口をロータリの前部に誘導し、ロータリの畝成形部と進行方向上で重なるように配置することで、畝が成型される部分に集中的に肥料を散布する畝内施用を実現している。

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(3)畝立て同時二段局所施肥機
 畝立て同時二段局所施肥機は、図2の(3)で示した畝内局所施用法を改良したもので、畝の深い部分と苗の根に近い畝の上部の上下二段に局所施肥を行う3条(列)用の機械であり、条間が45センチメートルと60センチメートルの仕様がある。主要な構造は写真3に示すとおり肥料繰出部と畝成形部から構成される。肥料繰出部は、畝の下層に施肥を行うためのホッパ(55リットル)を3台、畝の上層に施肥を行うためのホッパ(55リットル)を1台備えている。GNSSセンサなどでトラクタの作業速度を計測しながら、速度に合わせて精度良く設定した量の肥料を繰り出すことができる。畝成形部は、(1)溝を作る(2)溝底へ下層用の施肥を行う(畝表面から深さ約15センチメートル(3)土を寄せ上げながら上層の施肥を行う(同約3~8センチメートル)(4)鎮圧ローラで畝を成型―の流れで畝立て施肥を行う。

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 畝内二段施肥は、慣行の局所施肥栽培に初期生育確保を目的として行われていた畝天面への施肥について、畝天面への肥料を畝内上部に移すことで肥料の流出防止および利用効率の向上を狙ったものである。上層施肥位置を畝中央部深さ3センチメートルとして群馬県および鹿児島県で、セル成型苗を用いたキャベツの減肥栽培試験を行ったところ、基準とした慣行施肥量から3割減としても同等以上の結球重が得られ、畝内二段施肥による省肥料効果を確認することができた。また、同じアブラナ科野菜であるはくさい、ブロッコリーを対象に、鹿児島県において減肥栽培を行ったところ、同様に3割減肥としても慣行と同等またはそれ以上の収量が確保できる結果であった。
 本機は、共同で開発を行った上田農機株式会社、株式会社タイショーよりそれぞれ「ボビンローラー三兼3連ソワー」「畝立同時施肥機GRANVISTA KUTシリーズ」として令和3年度に販売が開始された。

(4)畝内部分施用機
 畝内部分施用機は、図2の(4)で示した畝内部分施用法を行うための機械である。基本構造は従来からある内盛整形式の畝立て機とロータリを組み合わせ、横溝ロール式肥料散布機を装着したものである(写真4)。本機の特徴は、ロータリ軸に一畝当たり2枚のディスクが畝の中心を境に同距離の位置に取り付けられていることである。ホッパから繰り出された資材はロータリの前方に誘導され、2枚のディスクに挟まれた位置に吐出される。その後、2枚のディスクにより横方向への拡散を抑制しつつ肥料と土壌とを撹拌・混和し、後部の畝成型機により成型を行う仕組みである。これにより、資材は畝の中央部の設定範囲内において、断面形状が長方形となるように混合される。この施用法により、定植直後の作物苗の根域に肥料が存在することで初期生育が良好となるとともに、慣行の施肥量を削減しても、全面全層施用による栽培と同等以上の収量が得られることが、キャベツを対象とした栽培試験で確認されている。
 このほか、機械の普及に向けては全国22道県40カ所以上の農家圃場で実証試験を実施しており、本技術の適用により葉菜類(キャベツ、はくさい、レタス、ブロッコリー、カリフラワー)、根菜類(だいこん、にんじん)、豆類(大豆、えだまめ)、果菜類(加工用トマト、なす)、花卉類(小ギク)において、3~5割の施肥量削減効果が確認されている。
 本機は平成20年度に「3条用うね内部分施用機」、21年度に「2条用うね内部分施用機」「平高うね用うね内部分施用機」が、共同開発企業である株式会社井関農機より「エコうねまぜ君」として発売され、全国の露地野菜作を行う幅広い経営規模・栽培品目の農業者に利用されている。

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4 最後に

 ここでは、肥料の削減に資する4種類の施肥方法と、これを実現する機械技術を紹介した。これらの機械は主要な品目への対応を想定して開発され、適切に使用することで施肥量の削減が期待できるが、露地野菜の多岐にわたる品目に全て対応できるものではない。また、施肥量の削減は一つの技術を導入して完結するものではなく、作物の生育ステージに合わせた総合的な視点から行うことが望ましい。これまでの断続的な肥料価格の値上がりを経て、各県の農業試験場においても地域の作物に合わせた肥料削減方法の検討を行っている。このため、まず地元の普及センターや農業試験場に問い合わせを行うことから始めてもらいたい。

参考文献
・株式会社IHIアグリテック,2021.「GPSナビキャスタ(重量計付きブロードキャスタ)MGL604P・1204 Pの市販化について」〈https://www.ihi.co.jp/iat/news/2021/i/pr210915.pdf〉(2022/09/13アクセス)
・財務省貿易統計 「統計品別推移表」〈https://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl.htm
・千葉大基,2019「野菜用の高速局所施肥機の開発.農研機構技報No.2,14-17」
・農研機構中央農業総合研究センター,2014「キャベツハクサイなど露地野菜作において生産コストと環境負荷を大幅に低減できるうね内部分施用技術」〈https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/055669.html〉 (2022/09/13アクセス)
・林和信,2012「GPSガイダンス機能と統合された肥料の流動性に基づく施肥量制御機能を備えたブロードキャスタ」農業機械学会誌,74(1),26-28.


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千葉 大基(ちば まさもと)
【略歴】
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 農業機械研究部門 無人化農作業研究領域 主任研究員
2006 農研機構 生物系特定産業技術研究支援センター 研究員
2017 農研機構 農業技術革新工学研究センター 主任研究員を経て
2021年から現職


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西川 純(にしかわ じゅん)
【略歴】
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 農業機械研究部門 無人化農作業研究領域 主任研究員
2010 農研機構 生物系特定産業技術研究支援センター 研究員
2019 農研機構 農業技術革新工学研究センター 主任研究員を経て
2021年から現職