ここからは、前項で述べた施用法を実現し、肥効率の向上を目的として開発、利用されている機械の概要を述べる。
(1)重量計付きブロードキャスタ
ブロードキャスタは、図2の(1)で示した全面全層施用を効率的に行うための機械であり、砂状や粒状の資材を遠心力により遠方に投てきするトラクタ装着式の散布機である。図3に簡略的な構造を示す。主にホッパ、シャッタ、投てき機構から構成され、ホッパに投入した資材がシャッタを経て、投てき機構により遠方へ投げ出される。構造は単純であるが、散布幅が5~10メートルと広く、効率的な作業が可能である。シャッタの開き具合で散布量を調節する仕組みのため、作業速度や資材性状の違いによる散布誤差が発生しやすい。その対策として、作業速度にかかわらず設定どおりの散布を可能とする技術(車速連動技術)や、資材の流動特性(流れやすさ)を事前に測定し、資材に合ったシャッタの開き具合に調整する技術(流動特性補正技術)が開発された。一方で、品質の安定化や減肥を目的に行われる可変施肥技術においては、過年度の生育量や収穫量、土壌分析値などさまざまな指数値に基づくマップベースの施肥設計方法
(注)に進展すると見られることから、これまで以上に散布の高精度化が求められる。そこで農研機構では、株式会社IHIアグリテックと共同で、車速連動、流動特性補正、経路誘導などの機能を持つ製品をベースに、資材残量を自動計測し、資材重量の変化から現在の実流量を自動計算することで、リアルタイムに散布量を補正可能な重量計付きブロードキャスタを開発した(写真1)。従来機能に加えてこの新たな補正機能により、各種誤差要因の影響を最小限に抑えることで、設定値どおりの正確な可変施肥が可能となるため、肥料の節約に寄与できる。
注:圃場内における地点毎に施肥量を指定した施肥設計地図(施肥マップ)上の位置をGPSで認識し、地図に示された量の肥料を自動的に散布する方法。
(2)畝内施用技術
図2の(2)で示した畝内施用技術については、専ら畝立て施肥作業を目的として開発された機械ではなく、肥料散布機を含む機械の組み合わせにより実現している手法である。写真2は筆者が実証試験で訪れた農家が利用している機械である。後部カバーの下に畝成型板を装着することで畝成型をできるようにしたロータリに、肥料散布機を組み合わせたものである。肥料散布機のホースの吐出口をロータリの前部に誘導し、ロータリの畝成形部と進行方向上で重なるように配置することで、畝が成型される部分に集中的に肥料を散布する畝内施用を実現している。
(3)畝立て同時二段局所施肥機
畝立て同時二段局所施肥機は、図2の(3)で示した畝内局所施用法を改良したもので、畝の深い部分と苗の根に近い畝の上部の上下二段に局所施肥を行う3条(列)用の機械であり、条間が45センチメートルと60センチメートルの仕様がある。主要な構造は写真3に示すとおり肥料繰出部と畝成形部から構成される。肥料繰出部は、畝の下層に施肥を行うためのホッパ(55リットル)を3台、畝の上層に施肥を行うためのホッパ(55リットル)を1台備えている。GNSSセンサなどでトラクタの作業速度を計測しながら、速度に合わせて精度良く設定した量の肥料を繰り出すことができる。畝成形部は、(1)溝を作る(2)溝底へ下層用の施肥を行う(畝表面から深さ約15センチメートル(3)土を寄せ上げながら上層の施肥を行う(同約3~8センチメートル)(4)鎮圧ローラで畝を成型―の流れで畝立て施肥を行う。
畝内二段施肥は、慣行の局所施肥栽培に初期生育確保を目的として行われていた畝天面への施肥について、畝天面への肥料を畝内上部に移すことで肥料の流出防止および利用効率の向上を狙ったものである。上層施肥位置を畝中央部深さ3センチメートルとして群馬県および鹿児島県で、セル成型苗を用いたキャベツの減肥栽培試験を行ったところ、基準とした慣行施肥量から3割減としても同等以上の結球重が得られ、畝内二段施肥による省肥料効果を確認することができた。また、同じアブラナ科野菜であるはくさい、ブロッコリーを対象に、鹿児島県において減肥栽培を行ったところ、同様に3割減肥としても慣行と同等またはそれ以上の収量が確保できる結果であった。
本機は、共同で開発を行った上田農機株式会社、株式会社タイショーよりそれぞれ「ボビンローラー三兼3連ソワー」「畝立同時施肥機GRANVISTA KUTシリーズ」として令和3年度に販売が開始された。
(4)畝内部分施用機
畝内部分施用機は、図2の(4)で示した畝内部分施用法を行うための機械である。基本構造は従来からある内盛整形式の畝立て機とロータリを組み合わせ、横溝ロール式肥料散布機を装着したものである(写真4)。本機の特徴は、ロータリ軸に一畝当たり2枚のディスクが畝の中心を境に同距離の位置に取り付けられていることである。ホッパから繰り出された資材はロータリの前方に誘導され、2枚のディスクに挟まれた位置に吐出される。その後、2枚のディスクにより横方向への拡散を抑制しつつ肥料と土壌とを撹拌・混和し、後部の畝成型機により成型を行う仕組みである。これにより、資材は畝の中央部の設定範囲内において、断面形状が長方形となるように混合される。この施用法により、定植直後の作物苗の根域に肥料が存在することで初期生育が良好となるとともに、慣行の施肥量を削減しても、全面全層施用による栽培と同等以上の収量が得られることが、キャベツを対象とした栽培試験で確認されている。
このほか、機械の普及に向けては全国22道県40カ所以上の農家圃場で実証試験を実施しており、本技術の適用により葉菜類(キャベツ、はくさい、レタス、ブロッコリー、カリフラワー)、根菜類(だいこん、にんじん)、豆類(大豆、えだまめ)、果菜類(加工用トマト、なす)、花卉類(小ギク)において、3~5割の施肥量削減効果が確認されている。
本機は平成20年度に「3条用うね内部分施用機」、21年度に「2条用うね内部分施用機」「平高うね用うね内部分施用機」が、共同開発企業である株式会社井関農機より「エコうねまぜ君」として発売され、全国の露地野菜作を行う幅広い経営規模・栽培品目の農業者に利用されている。