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調査報告(1) 野菜情報 2022年12月号

産地振興計画に基づく持続的に発展できるいちご産地づくり

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長崎県 県北振興局 農林部 北部地域普及課 松本 尚之

【要約】

 平成29年時点の予測で、JAながさき西海いちご部会の令和4年の年齢構成は40代以下が11%とされ、産地の維持が危惧されていた。そこで新規就農者獲得に向け、まず産地の半数(34戸)を占める担い手の所得向上を図るため、同年に環境制御技術勉強会を組織した。その結果、担い手の所得は28年の510万円/戸から令和2年の630万円/戸へ増加。いちご経営が魅力的なものとなったことで、4年の年齢構成予測は40代以下が32%と担い手が増加している。

1 産地の課題と産地振興計画普及活動の目標

 JAながさき西海いちご部会は、佐世保市、平戸市、松浦市、佐々町の3市1町からなる部会員数69戸、いちご作付面積11.5ヘクタール、県全体のいちごの作付面積の6%を占める産地である(図1)。一方で、当地の日照時間は、県いちご生産の大部分を占める県南地区と比べて短く(図2)、部会の平均単収は県平均を下回っていた(図3)。また、当地の作付面積と戸数は縮小し続けており、平成29年時点で令和4年の部会の年齢構成は40代以下が11%と予測され、産地の維持が危惧されていた(図4)。

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 関係機関(JA、市町、県振興局)は、(1)これまで実施してきた技術対策と担い手対策が一体的にできていない(2)平成28年に策定した部会の長期計画(表1、図5)に対する具体的な取り組み支援ができていない(3)産地育成経験の少ない若い職員が多い―といった課題があった。
 このような中、産地規模を維持して有利販売するためには農家の単収向上と新規栽培者の確保が必要であった。また、出荷労力の軽減を目的にパッケージセンターが開設されているが、取扱量は部会出荷量の6%程度と伸び悩んでおり、同センターの活用を拡大するための取り組みが必要であった。

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2 普及活動の内容

(1)産地振興計画の策定
 部会の長期計画の達成に向けて、「産地振興計画」の策定および実現に向けた取り組みを進めることを振興局からJA、市町へ提案し、合意を得た。そこで、平成30年に全部会員との個別経営面談による課題抽出を行い、現状分析と各農家の将来意向の把握を行った。KJ法(ブレインストーミングなどで得た情報をカードに書き、同じ系統のカードをグループ化して、データを整理、分析し、まとめる方法)で問題解決の糸口を探り、これらの結果をもとに、農家と関係機関が共通認識を持ちながら、いつ・誰が・どのように取り組むかを記した「産地振興方針」およびそれをより具体化した「産地振興計画」のたたき台をJAと作成した。その後、いちご部会総会の場で農家と合意形成を図り、(1)世代別営農モデルの実現(2)生産・出荷体制の強化(3)新規栽培者の確保・育成―の3つの柱で構成する「産地振興計画」を策定した(図6、7)。

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(2)関係機関との連携
 「産地振興計画」達成のため、JA、市町、県振興局で組織する「いちご担当者会」を定期的に開催し、持続的に発展できるいちご産地づくり実現に向け、進捗状況確認や情報共有を行った(表2)。

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(3)世代別営農モデルの実現
 世代別に目指すべき営農モデルを設定し、農家を3区分(モデルⅠ、Ⅱ、Ⅲ)に分類した。営農モデルⅠ(対象者34戸)の所得目標は、地元のサラリーマン世帯と同等の所得540万円/戸と設定した(表3)。子育て世代である営農モデルⅠは早急な所得向上が必要なことから、指導の重点化と環境制御技術の推進を行った。

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ア 重点指導対象者支援
 平成30年に重点指導対象者8人を選定し、本人の同意を得て、個別経営面談を通じて重点対象者の課題を明確化し、自ら経営目標を設定した。その解決に向けた支援を3年間実施し、この取り組みで得られた成果を横展開させることとした。

イ 環境制御技術の推進
 環境制御技術の推進にあたり、平成29年に県内初となる環境制御技術勉強会組織「きゃもん会」をモデル農家5人で設立した。モデル農家選定にあたっては、振興局内部から「もっと大人数で実施してはどうか」という声があったものの、今後の技術普及を踏まえて確実に成果を上げる必要があったため、地域の模範となる農家および技術に関心があり勉強会の趣旨に理解のある農家から選抜し、少数精鋭とした。同年は関係機関にとっても初めての勉強会支援だったため、営農指導員と普及指導員に加えて、専門技術員および農林技術開発センター野菜研究室と連携した支援を実施した。特に、農家自らが定期的な生育調査を行い(写真)、その結果をもとに栽培管理を改善することの重要性を実感できるよう、個人の理解度に応じた支援を行った。
 30年、環境制御技術未導入者へ推進するにあたり、先行導入しているハウス(飽差管理(注)のため日中湿度を高く管理している)で現地検討会を開催し、その温湿度を体感させたところ、未導入者らはこれまでの管理との違いに気付き、温湿度やCO2を意識した管理を行うようになり、燃油1リットル当たりいちご生産量が40%改善する事例もあった(図8)。また、生育調査に躊躇ちゅうちょする新規会員に対して、29年からの会員が「自らがするものだ」と説明する 環境測定機器については、メーカー協力の下、デモ機を設置し、機能および価格面での優位性を確認し、産地への導入を進めた。また、メーカーには、環境測定データの表示のみならず、出荷実績との連動や生育調査の入力機能の追加など、産地にとって使いやすく改良してもらい、技術の推進に協力してもらった。
 技術の推進に必要不可欠な環境測定機器については、メーカー協力の下、デモ機を設置し、機能および価格面での優位性を確認し、産地への導入を進めた。また、メーカーには、環境測定データの表示のみならず、出荷実績との連動や生育調査の入力機能の追加など、産地にとって使いやすく改良してもらい、技術の推進に協力してもらった。

注:植物が正常に生育するための適正な温度・湿度管理

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(4)生産・出荷体制の強化
 平成27年からパッケージセンターは稼働していたものの、出荷量に占めるパッケージセンターの利用割合が6%程度と伸び悩んでいたため、他産地の状況を調査し、目標とする取扱量や選果速度を設定した。また新たな取り組みとして、若手農家2戸の全量共選を支援するため、農家と関係機関で運営協議を実施し、選果員の増員や選果ラインの見直しなどの改善を支援した。

(5)新規栽培者の確保・育成
 従来から実施していた(1)部会の篤農家をインストラクターとした研修生の育成支援(2)部会の若手農家の栽培技術・経営能力向上・相互研さんを目的とした「県北若手いちご塾」の開催に加えて(3)新規栽培者の経済的負担を軽減できるJAリースハウス事業実現に向けた先進事例調査―を実施した。

3 普及活動の成果

(1)世代別営農モデルの実現
 環境制御技術の推進により、環境制御勉強会組織「きゃもん会」の会員数は平成29年の5人から令和2年は23人へ増加し、勉強会開始前の平成28年と比べて部会の令和2年の炭酸ガス発生機導入割合は41%(18ポイント増加)となり(図9)、平成30年には会員から県内最高単収者(9.7t /10a)を輩出した(図10)。燃油1リットル当たりいちご生産量が0.621kg/Lから0.987kg/Lへ改善する事例もあるなど、燃費改善効果も確認できた(図11)。部会の平均単収は4.6トン/10a(28%増加)、単価の高い2月までの出荷割合は50%(9ポイント増加)、1戸当たり販売額は938万円/戸(32%増加)となり、県平均単収を上回る産地となった(図9、12)。また、勉強会加入率が最も高い平戸地区の平均単収が、県下18部会中1位となるなど、飛躍的に増加した(図13)。
 営農モデルⅠ対象者34戸のうち、その目標である所得540万円/戸達成者は、平成28年12戸から令和2年20戸へ増加。また、営農モデルⅠの環境制御技術の知見が部会全体に波及したことで、営農モデルⅡおよびⅢの単収も増加した(図14)。

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(2)生産・出荷体制の強化
 パッケージセンターの運営改善協議の結果、選果員の増員や選果ラインの改善に取り組み、新たに若手農家2戸が全量共選に取り組んだ。このことにより、これまで農家自身で行っていたパック詰め作業が不要となった若手農家2戸は、その時間を管理作業に充てることができ、作付面積は24a/戸から35a/戸へ増加した。また、パッケージセンターの取扱量が前年比188%に増加したことで、1パック当り選果経費(人件費、資材費、施設償還金など)は前年比▲9円に下がり、取扱量は部会出荷量の10%(前年比4ポイント増加)を占めた。

(3)新規栽培者の確保・育成
 研修生の就農定着に加え、産地の単収が向上したことで新規就農者が経営品目としていちごを選ぶようになり、新規栽培者が増加したことで、令和4年の部会の年齢構成は40代以下が32%(当初予測値より21ポイント増加)と予測され、産地が若返っている(図15)。

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(4)部会の長期計画の達成状況
 高齢化によるやむを得ない離農などにより、戸数および面積は目標達成とならなかったものの、単収増加により産地規模(出荷量、販売額)は維持されている(表5)。

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(5)関係機関の課題の達成状況
 農家と関係機関の若い職員が共通認識を持ち、産地育成に取り組めるように、いつ・誰が・どのように取り組むかを記した「産地振興方針」およびそれをより具体化した「産地振興計画」を策定したことにより(1)技術対策と担い手対策が一体的に実施できたことで新規栽培者が増加した(2)部会の長期計画に対する具体的な取り組み支援により、産地規模が維持できた(3)産地育成経験の少ない若い職員が多い組織でも産地づくりができた(4)人事異動の際、スムーズに引き継ぐことができた―といった成果が得られた。

4 今後の普及活動に向けて

(1)世代別営農モデルの実現
 単収が増加した若手農家から「就農して初めていちご栽培が楽しいと感じた。さらなる増収を図りたい」との声が上がるなど、経営が改善し、設備投資・規模拡大意欲が増している。そのため、夫婦で参加するライフプラン研修会を実施し、家族の長期計画や適切な投資時期および経営規模などの経営計画策定を支援し、大規模農家育成を図る。

(2)生産・出荷体制の強化
 いちごのパック詰め作業は熟練が必要である一方で、選果員は11月~翌6月の期間雇用で作業員の確保が難しいため、熟練度の高い選果員を毎年確保することを目的に、夏場の雇用維持(他品目の選果、いちごの管理作業の斡旋)を図る。

(3)新規栽培者の確保・育成
 新規栽培者の施設確保、経済的負担軽減を図るために、JAリースハウス事業などの体制整備を進める。

(4)他品目への展開
 いちごでの普及経験を活かして、県北地域の基幹品目であるアスパラガスおよびブロッコリーにおいても、現在「産地振興方針」「産地振興計画」を策定・実践している。

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松本 尚之(まつもと なおゆき)
【略歴】
平成元年生まれ。長崎県出身。平成24年長崎県庁に入庁し、3年間島原振興局で野菜を担当し、平成27年から5年間農林技術開発センター野菜研究室でいちごの環境制御技術担当を経て、令和2年から県北振興局で野菜を担当。