(1) 沖縄県のゴーヤーの生産動向
ゴーヤーはインド東部、インドネシア、ボルネオなど東南アジア原産のつる性のウリ科野菜で、「ツルレイシ」と呼ばれているが、スーパーマーケットなどではゴーヤーの呼び方が一般的となっている。沖縄県には1424年に中国から導入され、栽培が始まったとされている。
沖縄県で生産されるゴーヤーは、地元消費のほか、他産地の端境期に県外へ出荷されている。沖縄県で生産されるゴーヤーは令和2年産では全国1位の6070トンになっており、全国の37%を占めている(表1)。ゴーヤーは県内の野菜生産における主要品目であり、沖縄県農業研究センターによる優良品種の育成、栽培施設の整備、消費拡大対策などにより生産振興が図られている。
東京都中央卸売市場におけるゴーヤーの月別入荷実績(令和元年)を見ると、12月から翌4月までの入荷量の約8割を沖縄県産が占めている(表2)。
ゴーヤーは高温性の野菜で生育の適温が17~28度であるため、沖縄県内の産地では、他産地の気温が低く出荷できない期間に多く出荷している(表2、図3)。
(2) 糸満市のゴーヤーの動向
沖縄県は、農林水産業を取り巻く環境の変化に対応した計画的な生産・出荷体制を構築するため、「沖縄県農林水産業振興ビジョン・アクションプログラム」を平成11年2月に策定した。以後の農林水産業振興施策では、生産基盤の整備などを通じた農林水産物の市場競争力の強化により、生産拡大および付加価値を高めることが期待できる品目(戦略品目)を選定し、当該産地の生産者や生産出荷団体、市町村らが主体的かつ連携して取り組める体制を整備しており、「おきなわブランド」確立に向けた拠点産地の形成に取り組んでいる。
糸満市は、表3の通り、さまざまな品目が拠点産地として認定を受けており、その中でゴーヤーは当該施策の初期段階と言える平成14年5月に認定されている。
糸満市のゴーヤーの出荷量は、県内では宮古島市、
今帰仁村に次いで、第3位の791トンを出荷しているものの(図4)、作付面積、出荷量がともに10年前と比べ4割減少している(図5)。生産減少の背景は、植え付け時期や収穫時期にたびたび襲来する台風の影響や、他作物への転換がある。
また、ゴーヤーは主に施設栽培のため、施設内の温度管理が重要であり、特に日中ハウス内の温度が急激に上昇すると病害虫や奇形果の発生を引き起こすため、温度管理や水分管理など手間のかかる作業が多い。加えて、県外出荷は輸送料の負担が大きいが、必ずしも価格に転嫁できていない現状がある。
このため、糸満市の産地では県内の消費地である那覇市を中心とする都市圏に近いという地理的利点を生かし、地産地消の推進を図ることにより、産地の維持・強化に努めている。
(3)主な品種と出荷
糸満市のゴーヤーは、植え付け時期によって品種が異なる。春から夏(1~7月)は多収で雌花数が多い「
群星」(写真1)や、単為結果、扁平果が少ない「
夏盛」(写真2)、秋から冬(8月~翌年6月)は冬でも収量が落ちにくい「
汐風」(写真3)や、果実突起が丸く、色が濃緑な「てぃだみどり」(写真4)などの栽培をしている。
(4)出荷と販路
収穫されたゴーヤーは、生産者がJAの支店集荷場へ搬入し、JAの担当者が選果場へ搬入し、そこで選別から箱詰め作業までを行い、出荷される。収穫物を集め、選果場で共同選別を行う共選と、生産者が個別に選別や箱詰め作業を行う個選との割合は、共選:個選=3:7である。
共選場は糸満市内にあり、沖縄県南部地域一帯のゴーヤーが搬入され、選果機に取り付けられたカメラによる画像診断により、ゴーヤーのサイズを自動判別し、サイズごとに選果が行われている。大きさや品質のばらつきが少なく、安定したゴーヤーを出荷する体制を整えている。選果場には約30人の職員、パート職員が働いており、選果機により選果されたゴーヤーの箱詰めや収穫量が少ない時期の手選果などの作業を行っている(写真5)。共選ピーク時の5~7月には日量約1~3トン、年間の平均日量は約300キログラムの出荷となり、また個選を含むピーク時の日量は約4~7トン、年間平均日量は約3トンのゴーヤーが出荷されている。
現在は主に生食用として地元の卸売会社に相対取引で販売しているが、販路拡大のため、冷凍食品製造業者や弁当製造業者などからの加工・業務用需要への対応強化を模索している。
(5)新規就農者に対する支援体制
糸満市は若い新規就農者が多く、同市を含む南部地域では61人の新規就農者が活躍している。若い新規就農者が多い要因は、若い農業者で組織される「糸満市農業青年クラブ」で、定例会や
圃場視察などの勉強会が行われており、青年農業者が抱える問題を情報交換できる場があることなどが挙げられる。そのほか、「糸満市農業戦略産地連絡協議会」で、病害虫の駆除の指導や被害の紹介を行い、どのような農薬を使用し栽培したら良いかについて定期巡回を行って生産者を支援していることなども要因として挙げられる。
さらに、沖縄県では国の事業を活用し、新規畑人資金支援事業により就農前の研修を後押しする資金(就農準備資金:最長2年、年間最大150万円)および就農開始直後の経営確立を支援する資金(経営開始資金:最長3年、年間最大150万円)の交付、新規就農者支援事業(経営発展支援事業)により就農後の経営発展のために必要な機械・施設の導入などの取り組みを支援(最大750万円、ただし経営開始資金を併用する場合は375万円)するなど、就農支援対策を行っていることも魅力に感じていると思われる。