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調査・報告 野菜情報 2022年11月号

沖縄県糸満市におけるゴーヤーの産地振興と新規就農者の取り組みについて

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那覇事務所 片倉 杉夫

【要約】

 沖縄本島南端に位置する糸満市は、県全体と比べても野菜の生産面積の割合が高く、多様な野菜生産が行われている。その中で、同市の主力産品であるゴーヤー(にがうり)は県内出荷が中心であり、地産地消を促進することで、産地の維持・強化を図っている。こうした取り組みが奏功して、新規就農者が着実に育成されており、就農2年目にもかかわらず平均単収の5倍近い高単収を実現した生産者も現れている。

1 糸満市の野菜生産の動向

 沖縄県は亜熱帯海洋性気候に属し、年間平均気温23.3度と1年を通じて温暖な地域であることを生かして、本州の端境期となる冬から春にかけて葉菜類などの野菜生産が行われている。
 しかしながら、沖縄県は海に囲まれている島しょ県であり、また、傾斜が急な産地・丘陵地が多いため、河川が短く、降った雨が土壌に浸透されずそのまま海へ流出しやすいこともあり、多量の水を必要とする野菜の生産は伸び悩んでいるのが現状である。このため作付面積に占める野菜の生産面積の割合はわずか4%と必ずしも多いとはいえない(図1)。

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 他方、糸満市は、防風・防潮林の整備に加え、農業用水を確保するため、地下ダムなどの農業基盤整備を進めてきたこともあり、県全体(4%)と比べても野菜の生産面積の割合(16%)が高く、多様な野菜生産が行われている(図2)。その中で、今回は沖縄県を代表する野菜ともいえるゴーヤー(にがうり)に焦点を当て、生産の概況や優良生産者の取り組みなどを紹介する。

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【コラム1】 地下ダムについて

 沖縄地方には、水を通しにくい地層(島尻(しまじり)層)の上に、空隙(穴)が多く水を通しやすい琉球石灰岩が広く分布している地域がある(コラム1-図1)。

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 地下ダムは、地下に止水壁(しすいへき)を造成することで、これまで海に流れ出ていた地下水の流れをせき止め、地下水を貯留する施設である(コラム1-図2)。

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 糸満市を含む沖縄本島南部の畑作地帯は、水系が未発達で河川らしい河川が無いため地表水を利用した畑地かんがいが困難であり、また、琉球石灰岩を母材とする保水力に乏しい土壌(島尻マージ)と相まって、これまで雨水に頼る農業を営む地域の農家はたびたび干ばつに苦しめられ、不安定な農業経営を余儀なくされてきた。しかし、平成12年に慶座(ぎーざ)地下ダム(八重瀬町)、15年に米須(こめす)地下ダム(糸満市)がそれぞれ完成し、安定した水源を確保することができるようになった(コラム1-図3)。

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 八重瀬町にはギーザバンタという崖があり(ギーザは地名「慶座」、バンタは沖縄の方言で「崖」を意味する)、地下ダムからあふれた水(慶座地下ダムは貯水容量が少ないため降雨などにより地下ダムから水があふれる)がこの崖に流れ出たことで、平成12年以降に滝が出現し、「ギーザの滝」と呼ばれ、(コラム1―写真)観光スポットとなっている。

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2 沖縄県および糸満市のゴーヤーの生産動向

(1) 沖縄県のゴーヤーの生産動向
 ゴーヤーはインド東部、インドネシア、ボルネオなど東南アジア原産のつる性のウリ科野菜で、「ツルレイシ」と呼ばれているが、スーパーマーケットなどではゴーヤーの呼び方が一般的となっている。沖縄県には1424年に中国から導入され、栽培が始まったとされている。
 沖縄県で生産されるゴーヤーは、地元消費のほか、他産地の端境期に県外へ出荷されている。沖縄県で生産されるゴーヤーは令和2年産では全国1位の6070トンになっており、全国の37%を占めている(表1)。ゴーヤーは県内の野菜生産における主要品目であり、沖縄県農業研究センターによる優良品種の育成、栽培施設の整備、消費拡大対策などにより生産振興が図られている。

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 東京都中央卸売市場におけるゴーヤーの月別入荷実績(令和元年)を見ると、12月から翌4月までの入荷量の約8割を沖縄県産が占めている(表2)。
 ゴーヤーは高温性の野菜で生育の適温が17~28度であるため、沖縄県内の産地では、他産地の気温が低く出荷できない期間に多く出荷している(表2、図3)。

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(2) 糸満市のゴーヤーの動向
 沖縄県は、農林水産業を取り巻く環境の変化に対応した計画的な生産・出荷体制を構築するため、「沖縄県農林水産業振興ビジョン・アクションプログラム」を平成11年2月に策定した。以後の農林水産業振興施策では、生産基盤の整備などを通じた農林水産物の市場競争力の強化により、生産拡大および付加価値を高めることが期待できる品目(戦略品目)を選定し、当該産地の生産者や生産出荷団体、市町村らが主体的かつ連携して取り組める体制を整備しており、「おきなわブランド」確立に向けた拠点産地の形成に取り組んでいる。
 糸満市は、表3の通り、さまざまな品目が拠点産地として認定を受けており、その中でゴーヤーは当該施策の初期段階と言える平成14年5月に認定されている。

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 糸満市のゴーヤーの出荷量は、県内では宮古島市、今帰仁(なきじん)村に次いで、第3位の791トンを出荷しているものの(図4)、作付面積、出荷量がともに10年前と比べ4割減少している(図5)。生産減少の背景は、植え付け時期や収穫時期にたびたび襲来する台風の影響や、他作物への転換がある。
 また、ゴーヤーは主に施設栽培のため、施設内の温度管理が重要であり、特に日中ハウス内の温度が急激に上昇すると病害虫や奇形果の発生を引き起こすため、温度管理や水分管理など手間のかかる作業が多い。加えて、県外出荷は輸送料の負担が大きいが、必ずしも価格に転嫁できていない現状がある。
 このため、糸満市の産地では県内の消費地である那覇市を中心とする都市圏に近いという地理的利点を生かし、地産地消の推進を図ることにより、産地の維持・強化に努めている。

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(3)主な品種と出荷
 糸満市のゴーヤーは、植え付け時期によって品種が異なる。春から夏(1~7月)は多収で雌花数が多い「群星(むるぶし)」(写真1)や、単為結果、扁平果が少ない「夏盛(なつさかり)」(写真2)、秋から冬(8月~翌年6月)は冬でも収量が落ちにくい「汐風(しおかぜ)」(写真3)や、果実突起が丸く、色が濃緑な「てぃだみどり」(写真4)などの栽培をしている。

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(4)出荷と販路
 収穫されたゴーヤーは、生産者がJAの支店集荷場へ搬入し、JAの担当者が選果場へ搬入し、そこで選別から箱詰め作業までを行い、出荷される。収穫物を集め、選果場で共同選別を行う共選と、生産者が個別に選別や箱詰め作業を行う個選との割合は、共選:個選=3:7である。
 共選場は糸満市内にあり、沖縄県南部地域一帯のゴーヤーが搬入され、選果機に取り付けられたカメラによる画像診断により、ゴーヤーのサイズを自動判別し、サイズごとに選果が行われている。大きさや品質のばらつきが少なく、安定したゴーヤーを出荷する体制を整えている。選果場には約30人の職員、パート職員が働いており、選果機により選果されたゴーヤーの箱詰めや収穫量が少ない時期の手選果などの作業を行っている(写真5)。共選ピーク時の5~7月には日量約1~3トン、年間の平均日量は約300キログラムの出荷となり、また個選を含むピーク時の日量は約4~7トン、年間平均日量は約3トンのゴーヤーが出荷されている。
 現在は主に生食用として地元の卸売会社に相対取引で販売しているが、販路拡大のため、冷凍食品製造業者や弁当製造業者などからの加工・業務用需要への対応強化を模索している。

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(5)新規就農者に対する支援体制
 糸満市は若い新規就農者が多く、同市を含む南部地域では61人の新規就農者が活躍している。若い新規就農者が多い要因は、若い農業者で組織される「糸満市農業青年クラブ」で、定例会や圃場(ほじょう)視察などの勉強会が行われており、青年農業者が抱える問題を情報交換できる場があることなどが挙げられる。そのほか、「糸満市農業戦略産地連絡協議会」で、病害虫の駆除の指導や被害の紹介を行い、どのような農薬を使用し栽培したら良いかについて定期巡回を行って生産者を支援していることなども要因として挙げられる。
 さらに、沖縄県では国の事業を活用し、新規畑人資金支援事業により就農前の研修を後押しする資金(就農準備資金:最長2年、年間最大150万円)および就農開始直後の経営確立を支援する資金(経営開始資金:最長3年、年間最大150万円)の交付、新規就農者支援事業(経営発展支援事業)により就農後の経営発展のために必要な機械・施設の導入などの取り組みを支援(最大750万円、ただし経営開始資金を併用する場合は375万円)するなど、就農支援対策を行っていることも魅力に感じていると思われる。

【コラム2】 糸満市における地産地消推進の取り組み

 日本一のゴーヤーの産地である沖縄県では、平成9年に沖縄県が5月8日を「ゴー(5)ヤ―(8)」の語呂合わせから「ゴーヤーの日」と制定したことをきっかけに、日付が逆の8月5日は「裏ゴーヤーの日」と呼ばれるようになった。
 糸満市では、5月から6月ごろが出荷の最盛期になることもあり(コラム2-表)、ゴーヤーの日から裏ゴーヤーの日までの期間を地域内での流通と消費の拡大を図る重要な機会と捉え、行政、生産者、JAなどが連携して市内の小学校における食育学習への参画や、小中学校給食へのゴーヤーの無償提供、保育所における苗の定植体験(コラム2-写真)、JAの直売所での試食会などの取り組みを通じて地産地消に対する意識の啓発を図っている。

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3 新規就農者の取り組み事例

(1)玉城力氏の生産概況
 糸満市の玉城氏は33歳で新規就農し、今年就農2年目を迎えている。現在は10アールのハウスでゴーヤーを1人で栽培しており、ゴーヤーを栽培しない時期にはきゅうりを栽培している。収益性の向上のため、今後は作付面積を7アールほど増やす予定である。作付けしているゴーヤーの品種は冬でも収量が落ちにくい「汐風」を栽培している(写真6~8)。 

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(2)作型
 ゴーヤーの栽培はハウスによる施設栽培が中心で、糸満市の主な作型として、促成栽培と半促成栽培がある。播種(はしゅ)は、促成栽培は9月から11月にかけて、半促成栽培はさやいんげんの後作にゴーヤーを植え付けることがあるため1月から3月にかけて行い、どちらも60日前後で収穫が開始となる。
 いずれの作型も二期作が一般的で、一期作の生育期間は平均2カ月、単収は10アール当たり1.1トンであるが、玉城氏の作型は、10月頃に苗を植え、6月頃に収穫する単作で、生育期間は8カ月と長く、単収は10アール当たり5.4トンである(図6)。玉城氏の単収が糸満市平均の5倍近くある理由は、(1))定期的に収穫量に合わせて追肥する (2))良いゴーヤーの雌花だけに花粉をつけるようにして無駄な果実を作らず、正品率を高くするよう努力する 3)ゴーヤーが大きくなるよう一期作の長期生育を行っている 4)ゴーヤーを栽培しない時期にきゅうりを育て、連作障害を防止している-ことなどが挙げられる。
 また、玉城氏はゴーヤーの病害虫であるアザミウマやコナジラミの天敵(スワルスキーカブリダニ(注))を利用した生物的防除法による減農薬栽培を行っている。
 スワルスキーカブリダニを使用することにより労力が削減された結果、農薬散布が14回から4回に削減され、農薬散布にかかる年間の作業時間は3分の1以下に短縮できた。天敵利用の減農薬で病害虫は増えておらず、収穫量は変わっていない。

注:スワルスキーカブリダニはコナジラミ類の卵・幼虫やアザミウマの幼虫を捕食する天敵であり、生物農薬として利用されている。高温多湿を好み、活動適温は28度である。

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4 おわりに

 国、沖縄県、糸満市、JAなどの関係機関の手厚い支援が産地を盛り立て、これをけん引する新しい芽も育ち始めている。今回紹介した玉城氏は現在1人で作業を行っているが、将来的には従業員を雇用して規模拡大しようと考えており、これまでの産地維持・強化の取り組みが着実に実を結びつつある。関係機関が産地振興や若い新規就農者の増加に取り組んでいることにより、今後の発展に期待できる。
 最後に今回取材にご協力いただいた公益社団法人沖縄県園芸農業振興基金協会の赤嶺氏、JAおきなわ南部営農振興センターの喜納氏、久場川氏、沖縄県農林水産部営農支援課の又吉氏、糸満市経済部農政課の砂川氏、生産農家の玉城力氏に深く感謝を申し上げます。

参考文献
・農林水産省 「地域特産野菜状況調査 令和2年産」
 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500501&tstat=000001018175&cycle=7&year=20200&month=0&tclass1=000001033588&tclass2=000001167008
 (2022/7/25アクセス〉
・農林水産省「わがマチ・わがムラ」
 http://www.machimura.maff.go.jp/machi/
 (2022/7/25アクセス)
・農林水産省「農山漁村ナビ」
 https://www.nou-navi.maff.go.jp/case/detail/940/
 (2022/8/19アクセス)
・沖縄県「沖縄県の園芸・流通(令和4年1月)」
 https://www.pref.okinawa.jp/site/norin/engei/r4engei/r4engei.html
 (2022/8/4アクセス)
・高知県農業技術センター 「購入できるカブリダニ類の生態と特徴」
 https://www.nogyo.tosa.pref.kochi.lg.jp/info/dtl.php?ID=8390 (2022/6/1アクセス)
・東京都中央卸売市場「価格はどのように決まるのですか?」
 https://www.shijou.metro.tokyo.lg.jp/faq/shikumi/1-4/(2022/05/30アクセス)
・沖縄総合事務局 「地下ダムとは」
 http://www.ogb.go.jp/nousui/nns/c2/tikadamu(2022/08/09アクセス)
・沖縄総合事務局 「慶座(ギーザ)地下ダム」
 https://www.okinawan-pearls.go.jp/?act=detail&si=514(2022/08/09アクセス)
・沖縄総合事務局 「慶座(ギーザ)の滝」
 https://www.okinawan-pearls.go.jp/?act=detail&si=515(2022/08/09アクセス)
・沖縄総合事務局 「沖縄における水源開発の必要性」
 http://www.ogb.go.jp/-/media/Files/OGB/nousui/nns/c3
 /kouhoupaneru/suigenkaihatu.pdf?la=ja-JP&hash=3A22C88D5C8A1D9BFE042229567F553A89CB2963

 (2022/09/14 アクセス)
・沖縄本島南部土地改良区 「地下ダムとは」
 http://nanbu-chika-dam.jp/dam/dam.html
 (2022/09/14 アクセス)
・気象庁 「過去の気象データ検索」
 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php(2022/08/16アクセス)
・新垣 かおる (2020)「産地紹介:沖縄県 JAおきなわ南部地区~沖縄の太陽を浴びた夏野菜ゴーヤーの生産」『野菜情報』(2020年8月号)pp32-35 
・糸満市 「5月8日「ゴーヤーの日」の取組資料」
・糸満市 「令和3年度拠点産地活動実績報告について」
・沖縄県農林水産部南部農業改良普及センター(2022) 『令和3年度普及指導活動実績「普及のあゆみ」』pp3-4、P9
・根本 久(2013) 『野菜を病気と害虫から守る本』NHK出版 pp26-27 
・沖縄県農業研究センター 「沖縄県育成品種」
・JAおきなわ 「南部地区ゴーヤー作成栽培防除暦」
・沖縄県農林水産部(2014)『沖縄県野菜栽培要領』(平成26年3月)pp84-85