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調査報告 野菜情報 2022年9月号

食品スーパーのインショップと連携した住民組織による野菜販売の取り組み ~徳島県阿南市の加茂谷元気なまちづくり会と株式会社キョーエイすきとく市の事例~

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徳島大学大学院 社会産業理工学研究部 講師 橋本 直史 

【要約】

 徳島県における住民組織「加茂谷元気なまちづくり会」における県内食品スーパーチェーン株式会社キョーエイが展開するインショップ(※)「すきとく市」向けの野菜販売の取り組みについて紹介する。当該地域は中山間地域であり、衰退に歯止めがかからない地域・農業の状況改善・打破に向け、住民が主体的に諸種の取り組みを進めている。関西圏にまで展開・拡大するすきとく市に向けた野菜販売は、まちづくり会に総じてプラスの効果をもたらしているのである。
(※)大規模小売店舗の売り場コーナーに設置された独立店舗(別の組織が運営)を示す。

1 はじめに

 今日の野菜の流通環境の太宗を踏まえれば、小規模な出荷主体の野菜生産・有利販売は困難である点は否定できない。長年、野菜類は国内農業における有望作目に位置付いてきた一方、近年は産地において経営の大規模化、資本装備の高度化・省力化ならびに安定供給体制の形成が図られているものの、全体的には農業従事者の高齢化、労働力不足による産地の脆弱化に拍車がかかっている。この背景には、生鮮野菜需要が減少傾向にあることや小売段階で常態化した低価格販売による販売不振がある。他方、追い風的なトレンドとして挙げられるのは、消費者の食の安全・安心や鮮度志向を背景に10数年来、農産物直売所やスーパーのインショップにおける国産・地元産野菜の売上が増加・定着していることであり、これには比較的零細な産地や個別農家でも取り組みが可能である。
 そこで今回は、徳島県阿南市の地域住民が主体となって地域維持・農業振興に取り組むNPO法人「加茂谷元気なまちづくり会(以下「まちづくり会」という)」によるインショップ向け野菜販売について報告する。具体的には、県内食品スーパーである株式会社キョーエイ(以下「キョーエイ」という)が展開するインショップ「すきとく市」での野菜販売の取り組みである。徳島県は、関西圏向け出荷を軸とした野菜産地であるが、直売を通じた県内向け販売の取り組みも伸ばしてきた。地形的に山林の占める割合が高く、中山間地域において零細な野菜などの営農が至る所で取り組まれていることも特徴である。

2 徳島県阿南市加茂谷地区の概要と住民主体の地域・農業振興

(1)加茂谷地区の概要
 加茂谷地区は徳島県阿南市に所在し、那賀川沿いの10集落で構成される。装飾用の「葉っぱビジネス」で全国的に名を馳せる上勝町や、那賀川上流域の全国屈指のゆず栽培地域である那賀町に隣接し、典型的な中山間地域である(図1)。徳島市中心部までは25キロメートル程度の距離に位置するものの、地区の居住人口はピーク時であった1980年初頭の4500人、800戸台の水準から、2021年8月には1863人、775戸までに減少し、65歳以上の高齢者が40~50%程度を占め、かつ単身世帯化が進んでいる。この背景には、地域の主要産業であった農林業の衰退が関係している。1960年代は地区内の「山の斜面が収穫期にはオレンジ色に染まるほど」にみかん栽培が盛んであったが、輸入自由化ならびに温州みかんの過剰生産を背景に壊滅的な影響を被り、さらに木材の輸入自由化を受けた林業の衰退もあいまって、1980年代には地域の衰退・人口減少が本格化したのである。

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 域内の農業の概況は次の通りである。700世帯のうち専業農家は50~60戸であり、大半が零細・趣味的な営農体系である。主要品目として、まちづくり会のホームページに施設栽培(スダチ、ミカン、いちご、ちんげんさい、チマサンチュ、アイスプラント、ラディッシュ)および露地栽培(水稲、にんじん、菜の花、オクラ、ほうれんそう、スダチ、ミカン)が掲げられている。施設栽培については現在50戸程度と減少傾向にある。品目の内実・詳細は把握できないものの、家庭菜園の位置付けで上記以外の野菜やその他品目が幾多も取り組まれているようである。農協出荷も地域の衰退と並行するように、ハウスみかんの全盛期の計186品目、12億円の水準から、現在では2億~3億円にまで減少している。

(2)NPO法人加茂谷元気なまちづくり会による地域・農業振興
(ア)まちづくり会の概要

 「加茂谷元気なまちづくり会」は2012年12月に発足した。同年に徳島県立農林水産総合支援技術支援センター主催のワークショップに参加し、加茂谷の各地域の代表者が当地域の抱える課題解決および地域活性化を模索したことがきっかけであった。当会の掲げる活動・取り組みを大別すれば、1)当地区の情報発信 2)農業振興 3)移住就農促進 4)地域の諸資源の利活用(遊休施設、自然環境、文化・歴史の遺産(遍路など))5)外部の諸機関との連携・交流(行政機関や大学、地域おこし協力隊など)ーであり、2019年にNPOとして法人登記を行った。もともと、当会の主要メンバー間で、地域の30年来の催事である「加茂谷鯉まつり実行委員会」や「加茂谷連合総代会」を通じた交流・活動の基盤があった。また、2016年の「徳島県優良農村集団知事賞」、翌17年には「豊かなむらづくり表彰農林水産大臣賞」、翌18年は「第5回 ディスカバー農山漁村の宝」を受賞するに至り、精力的な活動が全国レベルで認められてきた。2022年時点の会員数は121人を数える。

(イ)農業振興に関する取り組み
 当会の活動にあたっては、1)まちづくり全般、農業・農村の維持発展、移住・就農誘致に取り組む「農業部会」  2)農産物直売に関係する「すきとく市部会」 3)地域の女性の活躍促進や食育活動を中心とする「女性部会」ーの3部会が設けられ、各々が密接に関連している。
 1)の農業部会においては、移住・就農希望者に対する直接の説明(東京・大阪における「新・農業人フェア」に当会会長の山下氏や事務局が自ら参加)、就農・移住希望者に対する短期農業体験研修(2泊3日の「加茂谷体験ツアー」)の実施、地域内の空き家・遊休農地の案内ならびに地元農家への施設(ハウス)賃借の交渉を行っている。現時点では、累計20家族80人(うち7組が就農)の移住が実現している。さらにはサテライトオフィスの誘致、大学生の農村体験インターンシップ(武蔵野大学:例年80~100名程度)を受け入れている(写真1)。
 2)のすきとく市部会は2014年9月に発足し、2022年1月時点の加入者は71人であり、うち専業農家は3戸である。メンバーは定年後の農業者や農家女性の参加が大半を占め、3)の女性部会員がすきとく市の運営などに主体的に関わっている。すきとく市出荷に際しては部会において講習会を開催し、農薬の使用や品質管理の確認を図っている。

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3 すきとく市における売上動向

(1)キョーエイの概要とすきとく市の展開
 キョーエイは、1958年創業の徳島県に所在するローカルチェーンの食品スーパーであり(写真2)、2021年時点で43店舗、従業員1834人、グループでの売上389億円となっている(注1)。同社はこれまで、1960年代の流通革命の時代には全国に先駆けて情報機器を駆使したトラックの配送システム導入や、現代の社会問題の一つである買い物弱者・買い物難民の対策として日本各地を駆け回る移動型スーパー「とくし丸」のシステム化に貢献するなど、精力的で独創的な事業を手掛けてきた。経営の理念には「三方良し」が置かれ、地域密着を志向している。

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 同社がインショップであるすきとく市(写真3)に取り組み始めたのは、県外資本の大手スーパーの進出ならびに店頭価格の低価格販売が常態化し、熾烈(しれつ)な競争環境に置かれた2007年であった。2012年には関西圏のスーパーとの提携・出荷が始まり、2021年時点では県内30店舗(香川県1店舗含む)に加え、関西圏の2府3県のスーパー7社、122店舗にまで及び、同年の売上は約28億円(関西圏が6割)にまで拡大している(注2)。出品者側の参加農家も、2015年の約1900人から2018年には2600人、2020年には2800人にまで増加した。徳島県の野菜産地が長年依拠してきた関西圏の卸売市場における価格低迷が続き、また、家庭用需要が減少する中で、農家側が出荷する品目・店舗・価格を決定でき、かつ販売金額の7割程度が手取りとなることも、出品者が増加傾向で推移してきた理由である。筆者が参加農家の会合である「すきとく市中央会」に参加した際、農家の熱量に圧倒されたことは忘れられない。

(注1) 同社の概要については、キョーエイホームページや徳島新聞の複数の記事を参照した。
(注2) この点に関しては、宮井浩志・小野雅之(2017)「チェーン本部主導型インショップの展開と運営システムの特徴 : 徳島県のローカルスーパーK社を事例として」『農業市場研究』25(4) pp.41-47.に詳しい。


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(2)まちづくり会のすきとく市出荷の動向と評価
 同会のすきとく市への本格的参加の経緯は、同会の事務局を担う山下氏が定年後に取り組み始めたアイスプラントの生産・販売の模索の中で、すきとく市の存在を知ったことに端を発する。2014年の会合において山下氏が本格的参加・部会発足を提案したことで、直後より加入者数は急増し、現在の水準近くにまで達した。これにはキョーエイ側のすきとく市運営の中心人物である小久見氏が当地区出身であり、信頼を得ていた点も大いに関係していると思われる。
出荷農家は夕方に域内の2カ所の集荷場(加茂・大井)に野菜を持ち込み、翌日には店頭に並べられる(写真4)。農家のメリットとしては、店頭価格と販売店舗の決定、小ロットの出荷(大だいこん1本でも可)、段ボール箱などのコストが不要、情報機器(スマートフォン、PC)を使っての販売状況の確認、過去のデータに基づく価格設定が可能な点が挙げられる。なお、売上の3%がまちづくり会の運営費に充てられる。

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 売上額および商品個数は、徳島県外への出荷によって右肩上がりで推移し、2020年には45万点、7000万円超の水準に達している(図2)。キョーエイ担当者によれば、まちづくり会の売り上げは、すきとく市へ出荷する生産者団体のトップ10近くに位置し、かつ誠実な取り組みを評価していた。

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 すきとく市への関心・参加が高まった背景には何があったのか。同会のメンバーは農協の存在は依然として重要と認識しているものの、管内農協においては重点品目への傾斜、支所・選果場の統廃合による関係の希薄化が進んできた。対して、小規模かつ高齢農家に適合しており、農家側が自らの意向で品目・数量を決めて出荷することができ、売上結果も直に実感できるすきとく市への出荷が増加したのは当然といえる。山下氏によれば、すきとく市の取り組みによる充実感のおかげで営農の意欲が増し、今日までの継続が可能となったとのことであり、参加農家の大半も同様に感じているようである。
 他方で、出荷が増加している徳島県外の店舗における販売状況をリアルタイムで把握できる手段を望む声もあった。特に葉物野菜においては対応が1日遅れたらロスが増加する。専業農家でもある同会会長の山下氏によれば、葉物野菜で発生している2割程度のロスを低減するには、迅速な販売状況の情報把握が必要とのことである。
 総じて、すきとく市の存在は、当地域の農業にプラスの効果をもたらしたと言える。さらに見逃せないのは、すきとく市への出荷に係る取り組みによって、参加者が日常的に交流し、ひいてはまちづくり会全体の活動にも好影響を与えている点である。

4 おわりに

 以上、住民主体で運営されているインショップであるすきとく市向けの野菜販売の取り組みを紹介した。すきとく市の関西圏を中心とした右肩上がりの伸長を背景にまちづくり会の野菜販売は堅調に推移しただけでなく、地域住民の営農意欲向上や住民間の交流の促進などのプラスの効果をもたらしたといえる。両者の関係が既知の人間関係を基に展開したように、まちづくり会とキョーエイの関係が今後も人間関係を礎に続いていくことが望まれる。
 他方、まちづくり会の精力的な活動は一定の成果がみられるものの、地域・農業の衰退傾向に歯止めがかかっていない厳しい現実もある。まだ明確な動向は見られないが、移住者・新規就農者が地域に定着し、すきとく市向け野菜販売へ関わることを契機に地域の振興に主体的に関わることで、さらに「人が人を呼ぶ」ような魅力のある地域づくり、新たな取り組みなどの好循環につながっていくことが期待される。

謝辞:快く調査にご協力頂いた加茂谷元気なまちづくり会の山下和久会長、柳沢久美事務局長、森岡和美理事、地域おこし協力隊の岡崎裕樹氏、株式会社キョーエイの小久見正人氏、小島満氏に厚く御礼申し上げます。