(1)キョーエイの概要とすきとく市の展開
キョーエイは、1958年創業の徳島県に所在するローカルチェーンの食品スーパーであり(写真2)、2021年時点で43店舗、従業員1834人、グループでの売上389億円となっている
(注1)。同社はこれまで、1960年代の流通革命の時代には全国に先駆けて情報機器を駆使したトラックの配送システム導入や、現代の社会問題の一つである買い物弱者・買い物難民の対策として日本各地を駆け回る移動型スーパー「とくし丸」のシステム化に貢献するなど、精力的で独創的な事業を手掛けてきた。経営の理念には「三方良し」が置かれ、地域密着を志向している。
同社がインショップであるすきとく市(写真3)に取り組み始めたのは、県外資本の大手スーパーの進出ならびに店頭価格の低価格販売が常態化し、
熾烈な競争環境に置かれた2007年であった。2012年には関西圏のスーパーとの提携・出荷が始まり、2021年時点では県内30店舗(香川県1店舗含む)に加え、関西圏の2府3県のスーパー7社、122店舗にまで及び、同年の売上は約28億円(関西圏が6割)にまで拡大している
(注2)。出品者側の参加農家も、2015年の約1900人から2018年には2600人、2020年には2800人にまで増加した。徳島県の野菜産地が長年依拠してきた関西圏の卸売市場における価格低迷が続き、また、家庭用需要が減少する中で、農家側が出荷する品目・店舗・価格を決定でき、かつ販売金額の7割程度が手取りとなることも、出品者が増加傾向で推移してきた理由である。筆者が参加農家の会合である「すきとく市中央会」に参加した際、農家の熱量に圧倒されたことは忘れられない。
(注1) 同社の概要については、キョーエイホームページや徳島新聞の複数の記事を参照した。
(注2) この点に関しては、宮井浩志・小野雅之(2017)「チェーン本部主導型インショップの展開と運営システムの特徴 : 徳島県のローカルスーパーK社を事例として」『農業市場研究』25(4) pp.41-47.に詳しい。
(2)まちづくり会のすきとく市出荷の動向と評価
同会のすきとく市への本格的参加の経緯は、同会の事務局を担う山下氏が定年後に取り組み始めたアイスプラントの生産・販売の模索の中で、すきとく市の存在を知ったことに端を発する。2014年の会合において山下氏が本格的参加・部会発足を提案したことで、直後より加入者数は急増し、現在の水準近くにまで達した。これにはキョーエイ側のすきとく市運営の中心人物である小久見氏が当地区出身であり、信頼を得ていた点も大いに関係していると思われる。
出荷農家は夕方に域内の2カ所の集荷場(加茂・大井)に野菜を持ち込み、翌日には店頭に並べられる(写真4)。農家のメリットとしては、店頭価格と販売店舗の決定、小ロットの出荷(大だいこん1本でも可)、段ボール箱などのコストが不要、情報機器(スマートフォン、PC)を使っての販売状況の確認、過去のデータに基づく価格設定が可能な点が挙げられる。なお、売上の3%がまちづくり会の運営費に充てられる。
売上額および商品個数は、徳島県外への出荷によって右肩上がりで推移し、2020年には45万点、7000万円超の水準に達している(図2)。キョーエイ担当者によれば、まちづくり会の売り上げは、すきとく市へ出荷する生産者団体のトップ10近くに位置し、かつ誠実な取り組みを評価していた。
すきとく市への関心・参加が高まった背景には何があったのか。同会のメンバーは農協の存在は依然として重要と認識しているものの、管内農協においては重点品目への傾斜、支所・選果場の統廃合による関係の希薄化が進んできた。対して、小規模かつ高齢農家に適合しており、農家側が自らの意向で品目・数量を決めて出荷することができ、売上結果も直に実感できるすきとく市への出荷が増加したのは当然といえる。山下氏によれば、すきとく市の取り組みによる充実感のおかげで営農の意欲が増し、今日までの継続が可能となったとのことであり、参加農家の大半も同様に感じているようである。
他方で、出荷が増加している徳島県外の店舗における販売状況をリアルタイムで把握できる手段を望む声もあった。特に葉物野菜においては対応が1日遅れたらロスが増加する。専業農家でもある同会会長の山下氏によれば、葉物野菜で発生している2割程度のロスを低減するには、迅速な販売状況の情報把握が必要とのことである。
総じて、すきとく市の存在は、当地域の農業にプラスの効果をもたらしたと言える。さらに見逃せないのは、すきとく市への出荷に係る取り組みによって、参加者が日常的に交流し、ひいてはまちづくり会全体の活動にも好影響を与えている点である。