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調査・報告 野菜情報 2022年8月号

農協生産部会によるスマート農業の推進 ~JA西三河きゅうり部会の取り組み~

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名古屋大学大学院 生命農学研究科 教授 徳田 博美

【要約】

 スマート農業は、今後の日本農業の維持・発展を支える切り札の一つとして期待されている。スマート農業の導入が想定されるのは、大規模な企業経営と農協生産者部会などの生産者組織である。JA西三河きゅうり部会は、生産者組織によるスマート農業の先進事例である。その特長は、(1)スマート農業の構成要素であるデータの収集、分析、利用を効果的に結びつけるハード、ソフト両面でのシステムを構築させている(2)スマート農業によって、部会員の能力向上と高い能力を高い生産性、収益性につなげることを目指している(3)部会としての総合的かつ地道な取り組みが主体で、個々の要素技術の開発者などの関係する機関、企業との協力連携によって進められている―の3点に整理できる。

1 はじめに

 農業者の高齢化、減少が深刻化し、荒廃農地が拡大している中で、今後の日本農業の維持・発展を支える切り札の一つとして期待されているのがスマート農業である。農林水産省でも、スマート農業実証プロジェクト事業などスマート農業の開発および普及を推進する施策を積極的に展開している。
 スマート農業とは「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業」(農林水産省HP)とされ、多様な先端技術の農業への応用を指している。従って、具体的な技術も、自動運転トラクター、リモートセンシングによる圃場(ほじょう)生育診断、施設内各種センサーによる遠隔環境監視と自動制御、AIなどの活用による熟練農業者技術の見える化など、多様な内容を含んでいる。そのため、その技術的な特性も一律には述べられないが、総じて言えば、機械、施設が高額で、規模の経済が働くものが多く、スマート農業の導入は大規模な企業経営が先行している。しかし、スマート農業がわが国の農業の維持発展に貢献していく上では、広範な農業者に導入されることも課題となる。また、スマート農業の重要な要素の一つがビッグデータの活用であるが、ビッグデータの収集には、より多くの農業者がスマート農業に取り組み、データを提供することが求められ、この点からも広範な農業者がスマート農業に取り組む意義は大きい。
 広範な農業者によるスマート農業の導入は、農協の生産者部会などによる集団的な取り組みが典型的な形態となる。スマート農業実証プロジェクト事業においても、企業経営によるものと農協の生産者部会によるものが目立つ。今回取り上げる西三河農業協同組合(以下「JA西三河」という)きゅうり部会は、スマート農業実証プロジェクト事業に採択された組織であるが、それ以前からスマート農業に取り組んできた先進事例である。本報告では、JA西三河きゅうり部会のスマート農業の展開とその内容を紹介し、その特長を整理しながら今後の可能性を考えてみたい。

2 調査対象の概要

 JA西三河は、愛知県中部三河湾に面した西尾市を管内とする農協である。西尾市は、2011年に旧西尾市と幡豆(はず)郡の3町が合併して発足したが、JA西三河も2000年に同地区の5農協が合併して発足している。
 西尾市の農業では、水稲、施設園芸、茶が主要部門であり、茶は「西尾の抹茶」としてブランド力を有している。施設園芸では、花き、野菜ともに盛んで、花きではカーネーショが全国トップクラスの産地となっている。野菜では、きゅうり、なす、トマトなどが栽培されており、その中でもきゅうりの生産が多い。
 JA西三河のきゅうり栽培は、施設での越冬長期採り栽培で、11月から翌6月にかけて出荷されている。きゅうり生産者はきゅうり専作の家族経営であり、きゅうりを栽培しているハウスは一般的な低軒高のハウス(写真1)で、栽培方法は土耕栽培である。すなわち、最先端の経営ではなく、一般的な施設きゅうり農家である。

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 きゅうり部会はJA西三河が合併設立される前の1974年、旧5農協の連合部会として発足した歴史のある部会である。現在は、図1に示すように部会員は40人で、役員会の下に栽培、販売、選果の三つの委員会が置かれ、改革プロジェクトと青年部も設けられている。スマート農業の推進は、改革プロジェクトが中心となって取り組んでいる。JA西三河きゅうり部会の上に西三河冬春きゅうり部会が書かれているが、隣接するJAあいち中央のきゅうり部会と共同で広域部会を組織しており、2農協で共同出荷を行っている。出荷先は愛知県内を主体として岐阜県、石川県にも出荷している。西三河冬春きゅうり部会の年間きゅうり出荷量は約6000トンで、その半分をJA西三河きゅうり部会が占めている。名古屋市場の冬春期のきゅうりでは、2農協で60%以上のシェアを占めている。

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 図2には1993年以降の栽培面積と部会員数の変化を示した。1993年には栽培面積25.3ヘクタール、部会員数83人であったが、いずれも徐々に減少し、2016年には11.4ヘクタール、40人にまで減少した。その後は、栽培面積、部会数とも下げ止まり、横ばいで推移している。特に近年は、後継者の就農が目立っている。部会員(後継者を含む)の年齢構成をみると、30代以下の者の割合は、2010年には14%であったが、2020年には22%にまで拡大している。後継者の就農が増えている中で青年部の活動も活発で、SNSなどを利用した販売促進活動を行っている(図3)。なお、部会員1人当たり栽培面積は30アール弱で、この間ほとんど変化していない。

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 一方、単収は図4に2007年以降の10アール当たり収量の推移を示した。農林水産省「野菜生産出荷統計」から全国と愛知県の数値も合わせて示したが、愛知県は全国平均を大きく上回っており、さらにJA西三河の収量は愛知県の数値を上回っている。しかも、2007年以降、全国の数値はほぼ横ばいで、愛知県も微増であるのに対し、JA西三河では増加が目立っている。この2年はやや減少しているが、2007年から2018年にかけて10アール当たり20.3トンから同27.6トンと36%増加している。JA西三河の単収は全国の中でも高水準であり、しかも他産地を上回って増加していることが確認できる。そのため、栽培面積は減少しているが、出荷量はそれほど減少していない。2008年が3184トン、2020年が2975トンなので、この間の減少は1割未満に留まっている。その結果、販売金額も9億円程度で安定的に推移している。このような成果は、これから述べる施設内環境、生育および選果などの生産物情報を利用したスマート農業によるところが大きいと考えられる。

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3 スマート農業の展開

 JA西三河きゅうり部会におけるスマート農業は、2005年のトレー式箱詰め選果機への更新が契機となる。新たな選果機では等階級別数量などの選果データをコンピューター上で集積し、利用できるようになった。その後、2013年に選果データを蓄積するシステムを構築し、生産者ごとに選果データを管理し、閲覧できるようにした。各生産者は、自らの選果成績を部会平均と比較できるようになり、そこから得られた情報を収穫作業や栽培管理に生かし、単価向上につなげられるようになった。
 2012年には、データロガー(温湿度などの環境データを自動的に計測・記録する装置)などを用いたハウス内環境の計測を、当時県内武豊町にあった農研機構野菜茶業研究所と共同で開始した。さらに2015年には計測データをインターネット上で部会内に共有できるハウス内環境計測装置のあぐりログ(株式会社IT工房Z社製)を導入した。このことによって部会員同士でハウス内環境に関するデータを公開し、ハウス内環境や管理方法を部会内で相互に比較できるようになった。
 さらに全部会員が富士通株式会社の開発した営農支援ソフトAkisaiを用いて、施肥、防除などの栽培管理情報を入力するようにした。Akisaiに収量・選果成績データやあぐりログのハウス内環境データを取り込み、きゅうり生産に関するさまざまなデータをAkisaiに集積し、データベースを構築した。データベース内ではデータ間の紐付けが行われ、さまざまなデータを利用した高度な分析を可能とした。
 上記のようなさまざまなデータの集積と利用を可能とするシステムの下で、部会として年3回(季節の変わり目など)、Akisaiのデータを基にした勉強会を始めた。勉強会は、年齢、ハウスの形状、統合環境制御装置の導入状況などによるタイプ別に10人程度の小グループに分けて実施されている。また部会内に栽培委員会が設けられ、前述のグループとは別に、Aグループ(若手部会員)、Bグループ(プロファーム導入部会員)、Cグループ(ベテラン部会員、屋根型ハウス)の3グループでも活動している。
 このようにJA西三河きゅうり部会では、2010年代にかけて、全部会員が参加したハード、ソフト両面でのさまざまなデータの収集、分析、利活用の体制が整備され、その下で、データ駆動型の施設園芸に取り組んできた。この取り組みのさらなる発展を目指して2019年度には、農林水産省のスマート農業実証プロジェクト事業に応募し、採択された。同事業は、「スマート農業」を実証し、スマート農業の社会実装を加速させていく事業で、技術実証を行うとともに、技術の導入による経営への効果を明らかにすることを目的としている。JA西三河きゅうり部会の実証課題名は「ICTに基づく養液栽培から販売による施設キュウリのデータ駆動経営一貫体系の実証」で、導入するスマート農業技術は、(1)養液栽培ICT化(2)養液栽培データを用いた養液土耕栽培(3)生育・収量予測および生育診断(4)きゅうり栽培に適した統合環境制御装置―である。このプロジェクトは、それまでに構築してきたデータベースとそれを生かす組織体制によりデータ駆動型の技術体系の確立を目指したものといえる。図5に事業の推進体制を示したが、愛知県の普及機関(西三河農林水産事務所)を代表機関とし、生産者部会、実証農家を中核として、要素技術の開発に関わるさまざまな研究機関、企業が実証事業に参画している。

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 このプロジェクトは2021年度に再度、スマート農業実証プロジェクトに採択された。2021年度の実証課題名は「JA西三河における生産から流通・販売のデータ駆動一貫体系の実証」であり、実証する技術体系は(1)環境データの収集(2)袋詰め機の高度化(3)出荷予想モデルの構築―である。2019年度のプロジェクトでは、主に栽培段階での技術開発に取り組んだが、2021年度のプロジェクトでは、その成果を出荷調製、物流、販売にまで広げ、生産段階で得られた情報を物流、販売につなげ、効率的な物流・販売システムを構築し、流通コストの削減、有利販売の実現を目指している。

4 スマート農業の内容(1) ― データの収集と管理 ―

 JA西三河きゅうり部会のスマート農業は、データ駆動型のシステムであり、データの収集、分析、栽培や出荷販売の改善という流れで進められる。また生産者組織としての取り組みであり、部会員全員で取り組み、経営発展につながっていくことが重要なポイントとなる。
 まずデータの収集であるが、大きくハウス内外環境情報、作物生育情報、肥培管理情報、生産物情報、農作業情報に分けられる(表1)。

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 ハウス内環境情報については、部会員のすべてのハウスであぐりログ(写真2)が装備されており、温度、湿度、CO2濃度が24時間計測されている。一部のハウスでは、土壌温度、土壌水分量などの地下部環境も計測している。さらに部会共有のデータとして選果場外で戸外の温度、湿度、日射量などの環境データもあぐりログによって計測している。
 作物生育情報としては、光合成速度、蒸散速度、気孔コンダクタンスが計測できる光合成チャンバーと植物の伸長量、葉面積、花数、実数などを毎晩計測できるクロロフィル蛍光計測機を2台導入(今年度新たに2台追加導入)している。またLAI(葉面積指数)計測センサーが一部のハウスで導入されている。現在、部会員の栽培方法は土耕栽培であるが、栽培技術の開発・改善を目的として、一部のハウス内に養液土耕栽培施設を設置しており、そこで給液量、廃液量を計測している。
 生産物情報はJAの選果機による収量、等階級別数量が取得される。かん水、施肥などの肥培管理情報は、個々にAkisaiから入力している。農作業情報も個々の農家が作業日誌として入力する。作業日誌の記帳、集計は手間のかかる作業であるが、農家の負担軽減のため、タブレットから直接入力し、自動集計できるシステムの導入を進めている。
 これらのデータの利用は、大きく3つの形態に分けられる。表2に示すように収集したデータは、計測機器などによって開発機関などのサーバーで管理されており、サーバーごとにアクセス権が管理されている。データ利用の第1の形態は、すべての部会員がアクセスすることができ、全体のデータと自らのデータを比較し、技術向上に利用するものである。あぐりログで収集したハウス内外の環境データは、すべてのハウスのデータを部会員なら誰でも見ることができる。部会内の勉強会では、個々の部会員のデータを見ながら、課題の検討を行っている。生産物情報についても、個々の部会員のデータは公開していないが、部会全体の平均値や成績トップ10の部会員で匿名化されたデータなどはすべての部会員が見ることができ、自らの成績との比較ができる。

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 第2の形態は、各部会員が自らのデータのみアクセスできるものである。個々の部会員の生産物情報、LAI計測センサーによる葉面積指数、個別に入力している肥培管理情報、農作業情報が該当する。これらは各部会員が自らの栽培および経営の分析や管理に利用される。
 第3の形態は、部会でスマート農業を担う中核メンバーのみで共有されるものである。これまでの二つの形態は、個々の部会員の技術レベルの向上を目的としたデータに対応したものであるが、この形態はデータの分析による技術の改良、新たな技術導入につなげることを目的としたデータである。光合成チャンバー、クロロフィル蛍光計測器で計測された光合成速度、蒸散速度、気孔コンダクタンス、植物の伸長量などがこれに当たる。養液土耕施設での給水、給肥量データも該当する。これらのデータを基に研究機関、農業改良普及センターおよび企業が協力しながら、技術の改良、新技術の導入を図っており、その成果は部会員全体に還元されている。

5 スマート農業の内容(2) ― データの活用 ―

 これらのきゅうりの生産に関わるさまざまなデータの収集、利用が部会員の経営にどのように生かされているのかを次に確認する。第1には、各農家が自らのハウス内環境をリアルタイムで確認することで、環境の異常な変化を早期に発見し、素早く対処することで安定した環境制御を可能としていることである。
 第2には、共有したデータを部会の勉強会で活用し、部会総体の技術レベルを向上させることである。各部会員が自らのデータと他の部会員(特に技術水準の高い部会員)のデータを比較することで、自らの問題点、課題を発見でき、その改善が図られる。それを多数の部会員が参加している勉強会において集団で行うことの意義も大きい(写真3)。

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 第3には、光合成チャンバー、クロロフィル蛍光計測器などで得られた、これまで知ることができなかったデータを分析することで、栽培技術の改良、新たな技術導入が図られていることである。光合成チャンバーで計測した光合成速度や蒸散速度と日射量、温度、湿度との関係を分析することで、最適な環境条件を検討している。これらのデータを活用した具体的な技術改良の例としては、天窓制御の改良(換気による急激なハウス内環境の変化を生じさせないような制御)、透明保温カーテンの改良(外気象の温度だけでなく、日射や風の影響も考慮に入れた制御)、遮光カーテンの改良(日々の天気の変化に合わせた遮光設定値の自動調整)などがある。また養液土耕栽培での吸水量、吸肥量のデータから土耕栽培での適切な給水量、施肥量も割り出している。
 第4には、収集したデータが有効に生かさせるように環境制御機器を拡充し、その有効利用を進めていることである。収集したデータを有効に生かすためには、データから得られた最適な環境条件を実現する環境制御のシステムの整備が必要である。部会員の中では環境や生育などに関するデータの収集、分析を進める中で、ハウス内環境制御機器の導入が急速に進んだ。CO2発生機はこの10年間で倍増し、全ハウスに導入されている。ミスト装置も2013年にはわずか6台であったのが、2020年には31台に急増し、導入面積でみても過半に達している。
 現在、統合環境制御盤(プロファームコントローラー)の導入が進められている。2017年にはわずか2台であったものが、2020年には15台に達し、導入面積も300アールを超えている。統合環境制御盤は、ハウス内環境をモニタリングし、最適な環境となるように環境制御機器を自動的に操作するものである。統合環境制御盤が威力を発揮するためには、装置に設定する環境条件が適切であることが重要である。部会では、収集したデータの分析で得られた成果から設定する環境条件の改善を進めている。
 これまでの成果というより今後の課題となるが、第5には、農作業データを生かした作業管理の改善、労働生産性の向上につなげることである。部会員が入力した作業日誌から作業者ごとの作業時間、作業効率を求め、適切な作業員配置につなげることを目指している。その際には、植物の生育情報や後述する収量予測と連動させ、事前に作業量を予測することで、その効果をいっそう高めることも期待している。
 第6には、植物の生育情報と天気予報と連動させて収量予測を行うことである。そのことで、効率的な作業員配置を行うとともに、出荷販売にも生かしていくことを目指している。これまでの実証事業では収量予測は、数パーセントの誤差という高い精度を達成している。
 図6にJA西三河きゅうり部会が目指すデータ駆動型農業の全体像を示したが、生産資材(品種)から栽培、流通・消費までのバリューチェーン総体を対象とし、生産量の向上とともに生育、収量予測に基づく効果的な生産管理と出荷計画による高いレベルの農業経営の実現を目指している。

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6 まとめ ― JA西三河きゅうり部会のスマート農業の特長―

 JA西三河きゅうり部会のスマート農業は、施設野菜での集団的なスマート農業の先進的な取り組みとして評価できる。最後に、その特長を3点指摘して、まとめとしたい。
 第1に、データの収集からデータの分析に基づく生産、出荷管理まで体系的なシステムの構築を進めていることである。スマート農業の主要な構成要素は、匠の眼(ビッグデータ、リアルタイムのセンシングなど)、匠の頭(AIなど)、匠の手(自動運転トラクターなど)の三つが挙げられている。この三つの要素が効果的に組み合わされることで、スマート農業はより大きな能力を発揮できる。しかし、これまでのスマート農業の実践事例では、必ずしも三つの要素すべてが取り込まれているとは限らない。特に施設栽培においては、センシング機器の発達で匠の眼の部分に注目が集まりがちである。しかし、JA西三河きゅうり部会では、最先端のセンシング機器を導入するとともに、そこで得られたデータの分析から技術レベルの向上、新たな技術の改良につなげる仕組みづくり、その成果を実際の栽培管理に生かすための環境制御機器の導入が進められており、まさに三つの要素を有効に組み合わせたシステムづくりが進められている。
 第2には、スマート農業の推進によって、部会員の能力向上と高い能力が高い生産性、収益性につながることを目指していることである。スマート農業というと、自動化、マニュアル化によって求められる技能水準を引き下げるものと理解されがちである。実際、スマート農業の機能として、篤農家の技能、いわゆる暗黙知を見える化し、引き継がれることが期待されている。しかし、JA西三河きゅうり部会のスマート農業では、高い技能が重要なキーワードとなっているようにみえる。取り組みの当初から部会の勉強会が始められ、そこでの収集したデータの検討が重要な取り組みとなっている。さまざまなデータを収集しているが、それを理解し、環境制御機器を使いこなすには高い知識と能力が求められる。JA西三河きゅうり部会のスマート農業は、最先端のセンシングおよび環境制御の機器とともに、それを生かすことのできる部会員の高い技能によって支えられている。
 第3には、第2の特長とも関連するが、部会としての地道な取り組みと関係する機関、企業との協力連携によって進められていることである。スマート農業は、自動運転トラクターなどによって注目が集まり、国としてもさまざまな事業をつくり、積極的に推進している。スマート農業の取り組み事例の中には国の事業を契機として取り組まれているものもあるが、JA西三河きゅうり部会の取り組みは、スマート農業が注目を集める前から取り組まれており、その発展プロセスの一環として国の事業も利用しながら、先端機器を導入してレベルアップを図っている。スマート農業は先端研究と先進機器が基礎となっているため、多くの場合、研究機関と関連企業が中核的な役割を担うことになる。しかし、JA西三河きゅうり部会でもさまざまな研究機関、企業と連携しながらスマート農業を進めているが、注目すべきことは、その中心には部会、特に栽培委員会を拠点とする中核的なメンバーがいることである。個々の要素技術は開発に関わった研究機関、企業と連携して導入しているが、スマート農業全体を設計し、コントロールしているのは部会である。部会がスマート農業推進の主体となっているからこそ、部会員の能力向上にもつながっていると考えられる。