これらのきゅうりの生産に関わるさまざまなデータの収集、利用が部会員の経営にどのように生かされているのかを次に確認する。第1には、各農家が自らのハウス内環境をリアルタイムで確認することで、環境の異常な変化を早期に発見し、素早く対処することで安定した環境制御を可能としていることである。
第2には、共有したデータを部会の勉強会で活用し、部会総体の技術レベルを向上させることである。各部会員が自らのデータと他の部会員(特に技術水準の高い部会員)のデータを比較することで、自らの問題点、課題を発見でき、その改善が図られる。それを多数の部会員が参加している勉強会において集団で行うことの意義も大きい(写真3)。
第3には、光合成チャンバー、クロロフィル蛍光計測器などで得られた、これまで知ることができなかったデータを分析することで、栽培技術の改良、新たな技術導入が図られていることである。光合成チャンバーで計測した光合成速度や蒸散速度と日射量、温度、湿度との関係を分析することで、最適な環境条件を検討している。これらのデータを活用した具体的な技術改良の例としては、天窓制御の改良(換気による急激なハウス内環境の変化を生じさせないような制御)、透明保温カーテンの改良(外気象の温度だけでなく、日射や風の影響も考慮に入れた制御)、遮光カーテンの改良(日々の天気の変化に合わせた遮光設定値の自動調整)などがある。また養液土耕栽培での吸水量、吸肥量のデータから土耕栽培での適切な給水量、施肥量も割り出している。
第4には、収集したデータが有効に生かさせるように環境制御機器を拡充し、その有効利用を進めていることである。収集したデータを有効に生かすためには、データから得られた最適な環境条件を実現する環境制御のシステムの整備が必要である。部会員の中では環境や生育などに関するデータの収集、分析を進める中で、ハウス内環境制御機器の導入が急速に進んだ。CO
2発生機はこの10年間で倍増し、全ハウスに導入されている。ミスト装置も2013年にはわずか6台であったのが、2020年には31台に急増し、導入面積でみても過半に達している。
現在、統合環境制御盤(プロファームコントローラー)の導入が進められている。2017年にはわずか2台であったものが、2020年には15台に達し、導入面積も300アールを超えている。統合環境制御盤は、ハウス内環境をモニタリングし、最適な環境となるように環境制御機器を自動的に操作するものである。統合環境制御盤が威力を発揮するためには、装置に設定する環境条件が適切であることが重要である。部会では、収集したデータの分析で得られた成果から設定する環境条件の改善を進めている。
これまでの成果というより今後の課題となるが、第5には、農作業データを生かした作業管理の改善、労働生産性の向上につなげることである。部会員が入力した作業日誌から作業者ごとの作業時間、作業効率を求め、適切な作業員配置につなげることを目指している。その際には、植物の生育情報や後述する収量予測と連動させ、事前に作業量を予測することで、その効果をいっそう高めることも期待している。
第6には、植物の生育情報と天気予報と連動させて収量予測を行うことである。そのことで、効率的な作業員配置を行うとともに、出荷販売にも生かしていくことを目指している。これまでの実証事業では収量予測は、数パーセントの誤差という高い精度を達成している。
図6にJA西三河きゅうり部会が目指すデータ駆動型農業の全体像を示したが、生産資材(品種)から栽培、流通・消費までのバリューチェーン総体を対象とし、生産量の向上とともに生育、収量予測に基づく効果的な生産管理と出荷計画による高いレベルの農業経営の実現を目指している。