(1)北海道での新規就農までの経緯
中村氏は大学卒業後、最初に勤めたのが輸入食料品を扱う企業で、外国から入ってくる大量の食料に疑問を感じ、「日本の食と農業(食料自給率や食の安全・安心などの問題)」を自分のこととして考えるようになり、新規就農を決意した。大規模農業を行いたいと考え、統計資料などで確認したところ、北海道での農業が自分の理想と合致した。
こうした中、東京都内で開催された「北海道就農フェア」に参加し、そこに出展していた公益財団法人北海道農業公社(北海道農業担い手センター。以下「農業公社」という)に相談したところ、士別市ほか3地区を紹介された。中村氏はすでにご子息がいたことから、宿泊施設(子供も宿泊可)が整っており、すぐに研修が可能であった士別市朝日地区(旧 朝日町)での就農研修(畑作)を選択した(図4、表7)。当時、同地区は高齢化が進んでおり、新規就農はほとんど行われていなかった。
なお、酪農については投資費用が掛かると思われたことから、選択肢に入れなかったとのことである。
また、中村氏によると、奥様は当初、新規就農について渋々受け入れてくれたが、就農後は一生懸命に農作業などに従事(協力)してくれて、現在に至っており、奥様の協力なしにここまで来ることはできなかったとのことである。現在も奥様と二人で農作業を行っている。
(2)第三者継承
ア 継承方法
研修先農業者からの農地、施設、経営ノウハウなどの譲渡(継承)となるケースもあるが、中村氏は研修終了時に研修先以外の農業者から農用地等売渡事業
(注5)により有償で農地(8.6ヘクタール)を取得(継承)した。継承の際には、「あさひ新規就農支援チーム」(受入農家のほかに第三者〈士別市農業委員会、北ひびき農協、上川地区農業改良普及センター士別支所〉)が仲介・支援した。
経営のノウハウなどについては、研修先農業者から畑作と園芸(ビニールハウスでのトマト栽培)の経営ノウハウを継承することができたので、その後の経営に大変役立ったとのことである。朝日支所によると、中村氏の場合は、地域の農業者の理解・支援に支えられて、複数の農業者などで研修を行うことができた。
中村氏は2年間の研修後の継承については、一般的な期間と考えている。研修を行うに当たっては、当時の中山間地域の新規就農対策事業、士別市の新規就農者に対する家賃補助制度を利用したとのことである。
また、農地をすぐに取得(継承)することができたため、経営の独立性が得られた。地元のコントラクター(作業受託組織)の利用などにより機械への投資負担が少なかったことから、就農1年目で家族の生活費を賄うだけの収入を得られたことが良かった。昔から農作業の共同作業、農業機械の共同利用を行ってきた朝日地区で、農業者などからの支援により新規就農ができたのは、大きな利点であったとのことである。
中村氏が継承した農地は研修先の農家のものではなかったため、実際に継承する農家での研修期間が全くなかった。研修期間が長くなると、農地(資産)の継承などが密接に関係してくることから、研修先と研修者の人間関係の維持が難しいとされるが、そのような問題は生じなかった。一方で、すぐに独立という形になるのでリスクは自分に跳ね返ってくるという側面もあったものの、朝日地区での新規就農は大変助かったとのことである。
(注5) 農業公社が行っている農地保有合理化事業のメニューの一つ。農業公社が離農農家や規模縮小農家から農地を買い入れて、規模拡大による経営の安定を図ろうとする農業者に対して、農用地などを効率的に利用できるように再配分機能を活用した上で、一定期間貸付を行った後に売渡しを行う事業。
中村氏の第三者継承による新規就農に対する以上の聞き取り結果に対して、朝日支所の見解は、以下の通りである。
・北ひびき農協では、新規就農者の激励会をはじめ、農業改良普及センター所員などが講師になって、水稲・畑作・畜産など作物ごとの農業ゼミナールを年4~5回ほど開催し、栽培技術の底上げと仲間意識拡大に取り組んでいる。
・研修期間が長くなると、農業者と継承希望者の関係が悪くなり結果的に継承できない場合もあるので、研修期間は短ければ短いほど良いと思われる。
・研修期間は、本人の力量と地域全体からの理解と協力が得られなければ、長くなる場合もある。
・こうした中で、中村氏は奥様と共に、個人の努力やひたむきさ、また、農業者をはじめとする地域関係者との円滑なコミュニケーションにより、地域からの理解・協力が得られたことから、2年間で新規就農することが可能になったと思われる。
イ 第三者継承の成功のポイントと課題
また、中村氏と朝日支所に農業公社の資料などを参考に、第三者継承の成功のポイントと課題について聞いたところ、以下の通りであった(表8、9)。