秋田県
男鹿市北東部沿岸に位置する
五里合地区は、丘陵に囲まれた盆地であり、古くからの水稲作地帯であった。五里合地区は、関係農家258戸の約7割が兼業農家で、その多くが1ヘクタール未満の経営面積であり、近年、急激に進む地区の人口減少と高齢化により、このままでは地域農業の維持が困難になることが懸念されていた。
そこで、地域農業の持続的発展に向けた営農環境の整備を図るため、五里合地区では「基盤整備事業による面的整備」「農地中間管理事業による農地集積」「園芸メガ団地育成事業による高収益作物の産地づくり」を三位一体で推進し、コメ依存から脱却した収益性の高い複合型農業経営を実現させる「あきた型圃場整備」(図3)に取り組むこととなった。
しかし、五里合地区には地域の担い手の中核になる組織経営体はなく、基盤整備事業の計画を契機に地域農業者が協議を重ね、2015年7月に構成戸数246戸、経営面積179.8ヘクタールの農事組合法人いりあいファーム滝の頭(以下「いりあいファーム」という)が設立された
(注1)(写真1)。
そして、地区の約5割の水田が1ヘクタールの大区画に整備されるとともに、
暗渠排水の施工と地下かんがいシステムの導入により水田の汎用化が図られた。基盤整備事業と並行し、汎用化された水田の高度利用を図るために、園芸メガ団地事業による大規模長ねぎ栽培の導入が計画された。長ねぎの選定理由は、大区画圃場のスケールメリットを活かした大規模栽培が可能である土地利用型作物であるため秋田県の重点推進品目となっており、また他地区の園芸メガ団地での導入事例
(注2)もあったからである。
一方で、男鹿市に隣接する大潟村において露地野菜を中心とした経営を行っている有限会社正八では、圃場が広域に分散していたり、収穫後の調整作業を行う作業舎と圃場が遠く離れていたりという生産基盤の非効率性を解消するために、五里合地区において計画されたメガ団地育成事業によって整備される大規模長ねぎ生産団地に参入することとした。そのため、自社の長ねぎ生産部門を独立させて、長ねぎ生産に特化した株式会社おがフロンティアファーム(以下「おがフロンティアファーム」という)を設立した(写真2)。
大規模ねぎ生産団地の整備に際し、秋田県、男鹿市、地元JAであるJA秋田なまはげに、2法人を加えた大規模園芸生産拠点推進協議会(以下「協議会」という)が設立され、事業推進における課題共有や対応策の検討を行った。そして協議を重ねた結果、営農主体である2法人が事業実施主体となり、園芸メガ団地育成事業に国庫補助事業の産地パワーアップ事業を併せて活用し、育苗パイプハウス15棟、作業舎2棟、格納庫2棟、全自動移植機4台、全自動収穫機4台などを整備し、2017年からねぎ生産を本格的に開始している。
2021年度の経営面積は、いりあいファームでは水稲が170ヘクタール、大豆が3.8ヘクタール、発酵粗飼料用稲0.4ヘクタール、長ねぎ6ヘクタールなどとなっている。おがフロンティアファームでは長ねぎのみで14ヘクタールとなっている。2法人とも7月下旬から収穫を開始する夏どりねぎと10月から12月いっぱいまで収穫を行う秋冬どりねぎの作型を組み合わせた長期出荷体系となっている(写真3)。
おがフロンティアファームは、大規模ねぎ生産団地に参入する時点で有限会社正八のねぎ部門として長ねぎ栽培の経験がすでに5年間あり、栽培から収穫調整までの基本的なスキルを有していた。一方で、いりあいファームはねぎ栽培未経験の新規作付者であった。そのため、まずは早期にいりあいファームの技術習得を進めた上で、両法人の栽培技術の高位平準化を進めることとした。
そこで協議会では、各関係機関の実務担当者で構成される作業部会を下部組織として設置し、県普及指導員が中心となり両法人に対する支援を行っている。具体的には、作付け前の土壌診断と診断結果に基づいた土づくりの指導、収穫期ピークを平準化させる
播種計画の作成支援である。
これに加えて、両法人の技術交流の場づくりを積極的に行っている。園芸メガ団地では、園芸栽培経験の浅い農業者が団地内の技術力の高い熟練農業者からさまざまな助言を受けたり、その栽培方法を観察したりすることで知識・技術を習得し、団地全体のレベルアップにつながっている事例がみられている。本事例ではねぎ栽培圃場や作業舎が隣り合わせになっていることから両法人の技術交流の場づくりを容易にしており、その効果として、おがフロンティアファームが加工・業務用出荷規格に対応した選別・調整ラインの組み方を助言し、経験の浅いいりあいファームはその手法を真似しながら実践できるようになっている(写真4)。
また、作業部会では栽培技術指導に加えて、経営指導や労働力確保に関する支援を行うとともに、必要に応じて生産技術コンサルタントや農機メーカーなどの専門家の派遣を行っている。
(注1) さらに同年には、水稲と大豆の生産が中心の農業法人が同地区内にもう一つ設立されている。
(注2) 清野誠喜(2020)「園芸メガ団地で「白神ねぎ」ブランドの強化~あきた白神農業協同組合~」『野菜情報』193:53-60.