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調査・報告 野菜情報 2022年2月号

地方卸売市場の卸売業者による市場移転と施設整備~株式会社石巻青果を事例に~ 

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日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 食品科学科 教授 木村 彰利

【要約】

 本稿では、宮城県東松島市に設置された石巻青果花き地方卸売市場の卸売業者である株式会社石巻青果を事例として、市場移転の経緯や新市場における施設整備、さらには集分荷の現状と市場機能の高度化などについて検討を行った。

 同社が入場する市場は1973年に石巻市が設置した公設市場であったが、施設の老朽化やコールドチェーンに対応するため移転再整備が検討されることになった。移転に当たっては、当初計画では引き続き公設市場が予定されていたが、石巻市と協議を重ねる中で民設へと運営方法を転換した上で、2010年1月から新市場での営業が開始されている。また、移転の1年後には東日本大震災が発生しているが、新市場は地震や津波による直接的な被害が少なかったこともあって地震直後から営業が行われ、地域における生鮮食品の供給拠点として機能していた。

 新たな市場施設では卸売場などを外気と遮断しながら空調管理を行うことにより、鮮度維持や品質管理が高度化されている。それと同時に、市場のターミナル化を図ることで場内物流の合理化などが実現されていた。また、市場の移転以前の段階から仲卸制度の導入や関連業者が設立されるなど、市場における各種機能の強化がもたらされていた。同社のこのような取り組みは、市場利用者であるJAやスーパーから高く評価されていた。

1 はじめに

 現在の卸売市場制度を規定する卸売市場法は1971年に交付され、その後、幾度かの改正を経て現在に至っている。生鮮食品流通の根幹を担う卸売市場、なかでも地方卸売市場は卸売市場法により制度化されたこともあって、同法施行後間もなく設置されたケースが中心的であり、現在では施設の老朽化などにより立て替えや移転が課題となっているものが多い。また、地方卸売市場のなかでも公設市場については市場会計で生じた赤字を開設者である地方自治体が一般会計で補填(ほてん)するケースも多く、第3セクターやPFI(注1)手法の導入、さらには民営化への転換なども検討されている。このように市場の運営形態の改革が求められる一方で、市場の機能に関しても食料品の小売段階におけるスーパーのシェア拡大を背景として、地方都市の卸売市場においてはスーパーへの対応力強化が求められており、鮮度保持や衛生対策と併せて重要な課題となっている。
 このため本稿においては、宮城県東松島市に設置された石巻青果花き地方卸売市場(以下「石巻市場」という)の卸売業者である株式会社石巻青果(以下「石巻青果」という)を中心に、同社やJA(2組合)およびスーパー(1社)に対するヒアリングに基づいて、石巻市場における公設市場からの民営化や移転の経緯、現在の市場施設の概要および市場の集分荷実態、さらには新施設の導入や卸売業者が関連企業を設立することでもたらされた市場機能の向上などについて検討したい。それと併せて市場を利用する出荷団体やスーパーからの評価を確認することにより、青果物流通における石巻青果の取り組みの意義について明らかにしたい(写真1、2)。

写真1 石巻青果花き地方卸売市場の全景

写真2  株式会社石巻青果 代表取締役社長 近江惠一 氏
 
(注1)民間の資金と経営能力・技術力を活用し、公共施設等の設計・建設・改修や維持管理・運営を行う公共事業の手法

2 市場の沿革と新市場への移転

(1)石巻青果の沿革と市場移転の経緯
 石巻青果は表1で示すように卸売市場法の交付から間もない1972年に3つの青果市場の合併により設立され、当時の所在地は石巻市門脇元浦屋敷であった。当時の市場開設者は石巻市となっていたように、公設市場の卸売業者として発足している。その後、同地において営業活動を継続してきたが、2010年1月に現在地へと移転している。移転に関する経緯は、以下の通りである。
 移転前の旧市場は施設の老朽化だけでなく、コールドチェーンにも対応できないなど商品の鮮度維持や衛生管理上の課題を抱えていたことから、石巻青果は石巻市に市場の移転整備を依頼し、市からも同意が得られていた。しかし、市の財政状況の厳しさもあって2005年の市長交代を機に市場の移転計画は撤回され、従来の市場施設の存置整備へと方針が転換されることになった。施設を全面更新するには敷地を一度更地に戻す必要があるため営業を続けながらの整備は難しく、石巻青果としては承服できるものではなかった。このような経緯もあって石巻青果は自己資金で移転整備を行うことになり、それに先立つ2005年2月には石巻市から同社へと開設権が委譲されることで民設民営市場に転換(注2)している。

表1 石巻青果花き地方卸売市場の沿革
 
(注2)石巻青果が移転した2005年当時は公設市場が民営化した事例は少なく、青果市場では地方卸売長岡青果市場(2002年)や伊勢崎地方卸売市場(2004年)の2市場が存在するのみであった。石巻青果は民営化に当たってこれら2市場を視察し、民営化後の運営手法などについて検討を行っている。
 
(2)新市場への移転
 新市場の移転先を決めるに際して当初の段階では石巻市内を検討していたが、市内に条件の良い用地が確保できなかったため、市外となるが旧市場から北北東に1.5キロメートルほど離れた東松島市赤井南三の現在地が候補地に定められた。市場用地の選定に当たっては市場利用者の意向に加えて、三陸自動車道石巻港インターに近いという利便性の高さを理由に決められた。移転候補地は基盤整備がなされた水田であり、農業振興地域に指定されていたが、卸売市場は農業関連施設であるとともに食品流通の担い手という公共性の高さから転用が認められている。移転に当たっては総額23億円の経費(注3)を要したが、石巻青果は基本的に自己資金(注4)により負担している。このような経緯を経て2009年12月に市場施設が完成し、翌2010年1月の初市から卸売業務を開始した。
 移転から約1年後の2011年3月11日には東日本大震災が発生し、市場周辺地域も甚大な被害が生じたが、幸いにも石巻市場の施設に大きな被害はなかった。このため震災後も市場の物流機能が維持されたこともあって、地域住民に対する青果物供給は途切れることなく行われた。なお、旧市場の跡地では津波により1メートル程度の浸水被害があり、もし移転せずに旧用地で存置整備する方法を採択していた場合、津波などの被害により長期間にわたって休業を余儀なくされた可能性が高いとのことであった。
 
(注3)市場の移転は東日本大震災の前年に行われているが、地震後は復興需要のため建設関係の経費が高騰したことから、もし移転が震災後に行われていたならば、移転に要した経費はさらに高額なものになったと考えられる。
(注4)市場施設の移転に際して自己資金以外では東松島市から企業立地促進奨励金の補助を受けている。また、同市からは市場までの上下水道を整備するなどの支援が行われている。

3 石巻市場の施設等の概要

(1)市場施設の概要
 現在の市場施設の概要は表2の通りである。場内の施設配置については図1を参照されたい。石巻市場の総敷地面積は7万3100平方メートルであり、敷地内には青果部関連施設以外に駐車場や花き部卸売場、後述するスーパーの集配センターなども設置されている。このうち青果物を扱う主要施設としては、青果部卸売棟と同物流棟が該当している。

表2 石巻市場の施設概要

図1 石巻市場の場内配置図

 このうち青果部卸売棟には石巻青果の事務所や常温青果売場、市場周辺で生産された個人出荷野菜を扱う近在個選売場、仲卸業者店舗、さらには小売業者の組合や運送業者の事務所などが入っている。青果部物流棟内の施設の大部分が低温青果売場(仲卸分荷場を含む)として使用されており、それ以外に2基の冷蔵庫やバナナ熟成室、後述の株式会社アイエス食品(以下「アイエス食品」という)がパッキング業務で使用する加工施設などが設置されている。低温青果売場はトラックへの積載を行う物流ターミナルに直結しており、そのプラットフォームの長さは80メートルとなっている。卸売棟と物流棟の特徴としては、後述する3温度帯管理に加えて、衛生面などに対する配慮からシャッターにより外部と施設内とを遮断できるクローズド型の施設が採用されている点が挙げられ、これにより強風などによるちりや埃などの侵入を防いでいる。ちなみに石巻青果は市場の清掃活動を重要視しており、その一例として業務終了後は毎日、職員全員で一斉清掃を行っている。
 なお、表中には記さなかったが2018年に設置された花き部卸売場、買参人組合の事務所なども設けられている。
 
(2)3温度帯による品質管理
 石巻市場においては青果物の鮮度保持や衛生対策を目的に、常温、18度、5度という三つの温度帯による管理が行われている。具体的には、常温により管理されているのは青果部卸売などの常温青果売場であり、同売場においては常温管理で問題が生じない品目が扱われている(写真3、4)。常温青果売場の一角はパーテーションにより2区画に区分けすることが可能であり、同区画は季節により空調機器を使用することで18度による低温管理が行われている。同区画は主として近在個選売場として使用され、鮮度要求が高い葉物野菜などの品質維持に役立っている(写真5)。

写真3 青果部卸売棟 常温青果売場

写真4  常温青果売場における一斉 清掃の様子

写真5  青果部卸売棟 近在個選売場 (室温18度)

 一方、青果部物流棟の低温青果売場は常時外気を遮断するとともに、空調管理により室温は常時18度に維持されている(写真6)。同売場においては石巻青果からスーパーなどに販売される青果物が仕分け(注5)られるだけでなく、売場の一部は仲卸業者の分荷場としても利用されているため、室温が管理された環境下で分荷に係る各種作業を行うことができる。特に、近年は地球温暖化の影響もあって、石巻市周辺においても盛夏を中心に気温30度を超える日が続く傾向にあることから、市場における品温管理の重要性はより高まりつつある。

写真6  青果部物流棟 低温青果売場 (室温18度)

 3温度帯の最後として5度による管理が挙げられるが、これについては青果部物流棟内に設置された2基の冷蔵庫が該当している(写真7)。同冷蔵庫は野菜と果実にそれぞれ1基ずつ供用されており、特に低温管理が求められる青果物が保管されている。このように石巻青果においては、卸売場を区分することで品目特性に適した温度帯による管理を徹底し、市場全体として鮮度保持機能の高度化を実現している。

写真7 青果部物流棟 冷蔵庫(5度)

 
(注5)後述するように、石巻青果がスーパーなどに直接販売する青果物の仕分作業は主として株式会社宮城物流サービスの職員が担当している。
 
(3)市場の物流ターミナル機能
 卸売場の温度管理に加え、石巻市場の施設面での特徴は市場に物流ターミナルとしての機能を持たせた点が挙げられる。具体的には、青果部物流棟の低温青果売場に接続する形でトラックの荷台と同じ高さのプラットフォームが設置されているため、低温青果売場でスーパーなどの店舗単位に仕分けた青果物を店舗ごとに行き先の異なるカーゴに入れた状態で搬出し、そのままトラックに積載することが可能である。プラットフォームはトラックを同時に8台まで横付けできる設計となっているため、積載作業に要する労力負担を軽減し、作業時間を短縮することができる(写真8)。

写真8 物流ターミナルの搬出口

 
(4)仲卸制度の導入
 ここで市場機能の高度化と関連して仲卸制度の導入についてみておきたい。同市場には現在6社の仲卸業者が入場しているが、これらは1972年の旧市場設立当時は存在していなかった。しかし、経年的に松島市やその周辺地域にスーパーの店舗が増えていくなかにおいて、市場としてこれらに対する仕入代行機能や各種機能の強化を図るには仲卸業者が必要との判断から、1996年に仲卸制度が導入された。その際には売買参加者や場外の青果物流通業者を対象に入場業者を公募したことから、現在の仲卸業者の前身は青果物一般小売店や青果問屋などとなっている。これら仲卸業者は市場の移転後も引き続き新市場に移転し、現在に至っている(写真9)。

写真9 仲卸業者店舗(にぎわいゾーン)

 なお、現在では6社の仲卸業者に大きな経営規模の格差が生じている。比較的規模の大きな2社は全国規模のスーパーなどを主要販売先としているが、他の4社については地元の地域スーパーなどへの販売が中心となっていることもあって、経年的に格差が拡大し、市場の課題となっている。仲卸業者のうち1社についてはスーパーに青果物を販売するだけでなく、後述するようにスーパーが石巻青果から購入した青果物に対するパッキング業務や仕分作業を受託(注6)していることから、同業者は単に仲卸業者としてだけでなく加工業者的な機能も果たしている。
 
(注6)この場合、仲卸業者はスーパーに青果物を販売するのではなく、スーパーが他業者から購入してきた青果物に対してパッキング作業を行うことにより手数料を徴収している。

4 石巻青果の現状と集分荷概要

(1)石巻青果の現状
 石巻青果の沿革を踏まえて現状をみると、表3の通りである。同社の2020年度における取扱額は182億8100万円であり、その内訳は野菜が63.4%、果実が36.6%を占めている。青果物以外にも加工食品と鶏卵を取り扱っているが、その構成比はわずかであり、販売先に対する品揃えとして行う性格のものである。役職員数は合計で84人となっている。

表3 石巻青果の現状

 同社取扱額の経年動向は、図2の通りである。野菜については2011年度の100億8382万円から2016年度には117億8722万円と最高値を記録した後、2020年度の115億9746万円へと至っている。これを対前年度比でみた場合、2012、2017、2018の3カ年以外は全て100以上となっているように、この間、増加基調で推移している。同じく果実に関しても2011年度の56億8221万円から2020年度には66億8301万円へと拡大しており、この間の対前年度比も2011、2017、2019の3カ年以外は100を上回り、経年的に増加基調にあることが確認できる。

図2 石巻青果の取扱額等の推移
 
(2)石巻青果の集分荷概要
ア 集荷概要
 本節では石巻青果の集分荷と取引の概要について確認する。まず、青果物の集荷に関しては概数で50%がJA系統からの集荷であり、それ以外は他市場からの転送が16%、その他が34%という構成である。このうち転送については東京都中央卸売市場や仙台市中央卸売市場、さらには東北各地の市場などから集荷されている。
 その他には市場周辺の野菜生産者(約100人)や東日本大震災以降に設立された農業法人などが含まれており、これらからの集荷品は後述のせり取引の対象品目や今朝採り野菜として取り扱われている。
 
イ 取引概要
 石巻青果においては個人出荷品を除けば基本的に相対取引で販売されており、金額割合では全体の97.3%を占めている。これを品目別にみても野菜の96.8%、果実の98.3%が相対取引というように、いずれも高い割合となっている。相対取引に関しては販売先からの事前発注に基づいて、石巻青果が荷受けしたものから順次、翌朝までの間に販売・荷渡しが行われている。
 一方、個人出荷品に関しては選別基準が出荷者ごとに異なっていることもあって、基本的にせりによって取引されている(写真10)。せり取引は毎朝6時30分より青果部卸売棟の近在個選売場などにおいて行われている。その方法は、対象となる青果物を前にせり人および売買参加者が移動しながら行う移動せりであり、入荷量の多い時期には3本のせりを同時に進行させながら、最長40分程度をかけて実施している。石巻青果の売買参加者は登録数で105人となっているが、実際の購入者は宮城県北部地域の一般小売店を中心とする50~60人であり、これらには石巻市場の仲卸業者や仙台市場仲卸業者、スーパーなども含まれている。

写真10  近在個選売場におけるせり取引 の状況
 
ウ 分荷概要
 石巻青果における販売先別の販売金額割合については図3の通りである。最も構成比の高い業態は売買参加者の37%であり、その内訳をみると一般小売店・スーパーなどが16%、仙台市場仲卸業者(7社)が9%(注7)、地元スーパー(1社)が8%、株式会社あいのや(以下「あいのや」という)が4%という構成である。売買参加者以外では、石巻市場仲卸業者(6社)が29%、第3者販売が17%、他市場への転送が17%となっている。上記のうち第3者販売については転送業者の割合が高いが、一部には加工業者に対する契約販売も含まれている。他市場に関しては宮城県内や岩手県南部、山形県東部、福島県浜通りなどの卸売市場である。

図3 石巻青果の販売先構成(金額)

 石巻青果が直接的に販売するスーパーで比較的規模が大きいのは2社となっているが、このうちあいのや以外の1社は単一ブランドとして地域最大のスーパーであり、宮城県内に30店舗を展開する業者である。この場合に特徴的なのは、同社は石巻青果から直接購入した青果物を対象に、それへのパッキングと仕分作業を場内仲卸業者に委託している点が挙げられる。
 
(注7)石巻青果の販売先に占める仙台市場仲卸業者の構成比の高さを踏まえると、石巻市場は仙台市場の集荷を補完する機能を果たしていると考えられる。

5 関連企業の設立による業務の合理化

(1)アイエス食品によるパッキング対応
 石巻青果は業務の効率化を目的として、前述のアイエス食品と株式会社宮城物流サポート(以下「宮城物流サポート」という)という2社の関連会社を設立している。本節においてはこれら2社についてみておきたい。
  アイエス食品は、石巻青果が自社で行っていたパッキング部門を2003年7月に分離独立する形で設立されている。2020年度における同社の取扱額は約10億円、パートを含む役職員数は37人である。アイエス食品の主要な業務内容は、スーパーなどに販売する青果物に対してパッキングを行うことにある。同社が設立された背景には、卸売業者がスーパーなどに対して直接的に販売する場合であっても、市場にはパッケージ機能が不可欠との判断が存在していたと考えられる。また、同社を関連企業として石巻青果から分離した理由については、卸売業者のパッケージ部門として存続させるよりも専門性を高め、作業を効率化するには外部化した方が望ましいとの判断があったと思われる。このようにアイエス食品を別会社化することによって、同社は石巻青果だけでなく場内仲卸業者や市場外からの業務受託も可能となっている。
 アイエス食品は市場内に事務所があり、パッキングなどの作業は低温青果売場に隣接した加工場内で行っている(写真11)。作業時間は時期により異なるが、市場における荷動きが比較的少ない午前8時から午後3時までの時間帯が多い。ただし、年末や盆前などの繁忙期は同社だけでは委託された全ての業務を処理することが難しくなるため、市場外で営業を行う4社の協力工場に作業を再委託している。

写真11  青果部物流棟の加工施設(アイ エス食品が使用)

 石巻青果が同社を関連会社として設立したことは、間接的ではあっても卸売業者のパッキング機能が強化されたことを意味している。このことは、石巻青果が販売先のスーパーと商談を行う際の提案力強化につながるだけでなく、同社職員がパッキング作業などから解放されることにより、卸売業者の本来的業務である青果物の集荷および販売に専心することを可能にしている。
 
(2)宮城物流サポートによる物流などの合理化
 宮城物流サポートは石巻青果から受託(注8)した市場内における物流業務と荷受業務を担うことを目的に、2012年3月に設立された。現在、同社のパートを含む役職員数(令和3年8月現在)は16人である。
 同社は、市場に荷が着荷した時点で販売原票を作成するという荷受業務に加えて、場内における商品の移動や保管、仕分けといった場内物流業務などを担当している。このような作業は時間帯による作業量の違いはあるものの24時間体制での人員配置が求められることから、同社は3交代制のシフトを組むことで対応している。入荷量の多い時期は、同社に加えて5社の場外協力運送業者に場内物流を再委託することで業務をこなしている(写真12)。

写真12 青果部物流棟など(低温青果売場)における仕分作業

 市場内における物流業務が卸売業者から分離された理由は、場内物流などは別会社が集中的に担った方がより合理化・省力化できる点が指摘されている。一方、石巻青果は主に産地からの集荷や販売先との商談、宮城物流サポートへの分荷指示などを担当しているが、このような関連会社の設立により現場作業の多くが相互の機能分担のもとで外部化されることから、石巻青果の職員は卸売業者としての専門性が高く求められる業務に専念することが可能となっている。
 
(注8)宮城物流サポートの石巻青果からの受託額は2021年で7200万円である。

6 市場ブランド「今朝採り野菜」の取り組み

 石巻青果はすでにみたような各種の取り組みを展開する一方で、30年近く前から個人出荷者などと連携することにより「今朝採り野菜」のブランド化を図っている。この取引では、生産者は出荷当日の早朝に収穫した野菜を午前7時30分までに市場へ搬入するとともに、石巻青果は8時30分から同野菜を事前に契約したスーパーや生協に向けて配送し、店舗の開店時間に合わせて納品している(写真13)。野菜の品目や規格、数量、価格などについては石巻青果と出荷者およびスーパーなどとの間で事前に取り決められている。

写真13 今朝採り野菜の入荷作業

 今朝採り野菜は石巻市や東松島市で野菜の収穫が行われる4月下旬から11月上旬までが取引期間となっており、その時々における旬の野菜が取り扱われているが、なかでも鮮度要求が高いほうれんそうなどの葉物野菜、収穫からの時間経過にしたがって糖度が低下するとうもろこしなどは、販売先や消費者から高く評価されている。市場の今朝採り野菜コーナーには生産者の氏名や顔写真、主要生産品目などの情報が掲示され、販売先に対して顔のみえる関係となるよう工夫されている(写真14)。販売先の店頭においては今朝採り野菜のコーナーが設けられているケースも多く、顧客への訴求力の高い差別化商品として位置付けられている。石巻青果における今朝採り野菜の取扱額は年間1億円程度であり、卸売業者における自社ブランド確立の取り組みとして注目されるところである。

写真14 今朝採り野菜の出荷者の写真

7 出荷団体による石巻青果への出荷と評価

(1)JAいしのまきによる石巻青果への出荷と評価
 本節では石巻青果に青果物を出荷する宮城県内のJAについて、同社への出荷概要や出荷先としての評価について確認したい。いしのまき農業協同組合(以下「JAいしのまき」という)は石巻市中里に本店のある総合農協であり、表4で示すように石巻市と東松島市、女川町の2市1町を管轄している。正組合員数は9589人であるが、このうちJA共販の出荷者は約800人であり、きゅうりやトマトなど主力品目に限れば600人弱となっている。ちなみに宮城県はいわゆる米所であることから、県内各JAの中心的な販売品目はいずれも米である。しかし、仙台市周辺や石巻市、東松島市などに限っては仙台市を取り巻く近郊園芸生産地域として野菜産地が形成されているため、JAいしのまきにおいても農産物等販売額116億3600万円(100.0%)のうち園芸は26億8300万円(23.1%)を占めており、共販が行われる野菜に限っても17億6300万円(15.2%)と比較的高い金額となっている。

表4 JAいしのまきの概要

 JAいしのまきは園芸販売額のうち石巻青果に13億円を出荷していることから明らかなように、同社は中心的な販売先として位置付けられている。JAいしのまきが石巻青果に出荷する理由としては、距離的に近いため輸送経費が抑えられることに加えて、輸送時間が短いことから鮮度感が求められる野菜の出荷先として有利な点が挙げられる。また、市場との距離の近さによって担当者間でコミュニケーションが取りやすい点も出荷先として重視される理由である。市場移転に伴う施設更新との関連では、新市場では低温青果売場の設置により温度管理が厳密に行われるようになったことから、出荷先としての魅力が増したと評価されている。
 JAいしのまきによれば、2011年の東日本大震災以降は行政による支援もあって、管内に多数の農業法人が設立されたという。これら法人の多くは果菜類を生産する傾向にあるが、一部ではねぎやほうれんそうなどの葉物野菜、さらには果樹など生産品目も拡大しつつある。JAいしのまき管内の生産者は高齢化が進行していることもあって、震災後における農業法人の設立・拡大は、地域における農業生産のあり方に対して大きな変化・影響を与えているとのことである。
 
(2)JA新みやぎによる石巻青果への出荷と評価
 続いて、新みやぎ農業協同組合(以下「JA新みやぎ」という)を例に確認したい。同JAは2019年7月に宮城県北部に存在していた5JAの広域合併により設立された。合併からいまだ間がないこともあって訪問時においては旧JA単位で出荷が行われていたことから、以下では旧「みどりの農業協同組合」に該当するJA新みやぎの「みどりの営業部」を中心に確認したい。
 JA新みやぎは表5にあるように栗原市、気仙沼市、富谷市の3市と5町1村(大和町、大郷町、大衡村、美里町、涌谷町)に加えて、登米市(1地区)と大崎市(5地区)の一部についても管内としている。このように管轄地域が広いこともあって、正組合員も3万5138人と比較的多数となっている。同JAの農産物などの販売額は279億7000万円(100.0%)であるが、このうち園芸は42億8100万円(15.3%)、野菜に限れば17億9600万円(6.4%)に過ぎない。これをみどりの営業部でみると、2020年度の農産物など販売額10億3880万円(100.0%)のうち野菜は9億2300万円(88.9%)、果実(いちご(注9))は1335万円(1.3%)であった。みどりの営業部における園芸共販出荷者は550人であり、品目では小ねぎ、ほうれんそう、みずな、しゅんぎくなどの葉物野菜が中心であるが、一部ではトマト、なす、きゅうりなどの施設栽培品も扱われている。

表5 JA新みやぎの概要

 続いて2020年度におけるJA新みやぎの青果物出荷先をみると、仙台市中央卸売市場(2社)が39%、京浜地方の卸売市場(10社)(注10)が10%強であるのに対し、石巻青果は1%未満とわずかであった。同社への出荷はしいたけ(注11)や促成野菜など年間を通じて安定的に生産される品目が対象となっている。しかし、2021年度からはみどりの営業部と石巻青果との提携により6人の生産者を組織化するとともに、契約栽培で生産された加工原料ねぎの出荷が開始されており、その販売額は1億2000万円が見込まれている。それと同時に、みどりの営業部から石巻青果に対してピーマンの出荷も新規に開始されていることから、2021年度以降、JA新みやぎの園芸販売に占める石巻青果の構成比は大きく拡大する可能性が高い。
 みどりの営業部による石巻青果の評価としては、同社を地場産野菜を大切にする地域密着型の市場として捉えている。3温度帯管理については青果物の品質や鮮度の保持という実利に加えて、生産者やJAが出荷した青果物を大切に扱うという姿勢に対しても評価している。
 
(注9)いちごは果実的野菜であるが、流通段階以降では一般的に果実として取り扱われていることから本稿では果実に含めて述べている。
(注10)JA新みやぎによる京浜地方卸売市場への出荷については、全農宮城県本部の分荷指示によるものである。
(注11)しいたけは林産物の扱いとなるが、流通段階以降では一般的に野菜として取り扱われていることから本稿では野菜に含めて述べている。

8 地元スーパーによる石巻青果からの仕入と評価

 あいのやは石巻市場内に本部兼集配センターを設置する食品スーパーである。同社は表6で示すように宮城県内に5店舗を展開しているが、そのうち4店舗は石巻市内に設置されており、石巻市に基盤をおいた経営を行っている(写真15)。年間取扱額は2020年度実績で57億9000万円、パートを含む従業員数は372人となっている。

表6 株式会社あいのやの概要

写真15 あいのや石巻のぞみ野店の店頭風景

 同社は1948年に現社長の先代が移動販売を行う卸売業者として創業している。その後、1965年に株式会社化、1972年に小売部門を設置、1992年には現在の社名および店舗名へと変更している。2011年の東日本大震災発生時の店舗数は8店舗であったが、このうち被害が少なかった3店舗は震災直後から営業し、被災地に対する食料供給の拠点として機能していた。それ以外の5店舗のうち、津波や火災により甚大な被害を受けた2店舗は閉店されたが、残りの3店舗については一時的に休業しながらも同年6、8、10月に順次営業を再開している。2021年1月には石巻青果からの誘いもあって石巻市場の敷地内に本部と集配センターを移転(注12)し、現在へと至っている。
 あいのやの青果仕入の担当者は1人に過ぎず、このため仕入先を分散化することが難しいという理由もあって、取り扱う青果物の約90%、金額では約8億円を石巻青果から直接的に購入している。石巻青果を補完する仕入先としては、仙台市中央卸売市場の仲卸業者から10%程度を仕入れている。同社は石巻市場の仲卸業者を介さずに仕入れていることから、パッキングなどの作業が必要となる場合は集配センターにおいて自社で行うか、アイエス食品に作業委託することで対応している。集配センターから個店までの配送についても自社で行っている(写真16)。

写真16 あいのやの集配センター外観

 あいのやが石巻青果から購入する場合は基本的に相対取引であり、その流れは以下の通りである。同社による石巻青果への発注は毎日午後2時に行われ、翌午前3時30分より石巻青果から同社に対して順次荷渡しが行われ、同社の集配センターで店舗単位に仕分けられた後、午前6時にはセンターから個店に向けて搬出(第1便)される。また、同社は青果物を主として相対取引で仕入れながらも、一部についてはせりを通じて購入している。その理由は、個人出荷品にはJA共販などでは扱っていない品目・品種の青果物が出荷されているからである。例えば漬物原料としてのなすはせりでしか購入できない。また、価格的な理由では、みょうがやえだまめのように、せりで個人出荷品を購入する方が安価に仕入れができる野菜があることが挙げられる。なお、せりの取引時間はすでに第1便が出発した後であるため、せりで購入した青果物については第2便として午前9時に集配センターから配送されている(注13)
 あいのやが石巻市場内に集配センターを移転させた効果については、同社の青果仕入れ担当者は卸売業者と同じ敷地内に常駐していることもあって、担当者間のコンタクトを容易に行えるようになった点が挙げられている。同社からの要望に対し、石巻青果の担当者は迅速に対応できるようになり、その一例として追加発注への対応の早さが挙げられる。また、日常的に担当者同士が接触していることから、両社間では特に商談日を設ける必要もなく、実質的に毎日が商談日となっている。以上から、同社にとって集配センターを石巻市場内へ移転したことは、物流面での合理化以外にもメリットが生じている。同社は移転後の石巻市場について、場内が清潔に維持されて、衛生的であることも評価している。
 
(注12)あいのやの集配センターは、2020年12月まで旧石巻市場の隣接地である松島市赤井鷲塚に設置されていた。
(注13)石巻市場からあいのやの各店舗に向けた搬出は、本文で述べた第1便・第2便以外にも追加発注に対応するための第3便となる午後便があり、この場合、正午に集配センターを出発している。

9 おわりに

 本稿においては、宮城県石巻市にある民設地方卸売市場の卸売業者である石巻青果を事例として、公設地方卸売市場から民設市場への転換やそれに続く市場の移転再整備の経緯、新たに設置された市場施設の概要および特徴、現在における市場の集分荷の実態について検討を行ってきた。また、上記と併せて市場利用者であるJAやスーパーの視点からも市場の利用実態や評価について確認した。
 その結果、1973年以降、石巻市内で公設市場卸売業者として業務を担ってきた石巻青果は、市場施設の老朽化やコールドチェーンに対応するためあえて民営化を選択するとともに、自己資金による移転再整備を行っていることが分かった。新たな市場施設においては常温青果売場に加えて低温青果売場、冷蔵庫を設置することにより3温度帯による管理が行われることで、コールドチェーンの実現や鮮度および衛生管理の向上につながっている。場内物流においても卸売場に物流ターミナルが直結されることで合理化され、効率的な物流が実現されていた。また、市場機能の強化・効率化を図るため石巻青果は2社の関連業者を設立し、パッキングや場内物流、さらには荷受業務などの諸作業を外部化することにより業務を効率化していた。このような対応は市場の移転に先立って行われた仲卸制度の導入と同様に、スーパーなど市場利用者に対する利便性向上に帰結するものであることから、JAやスーパーなど市場利用者からも高く評価されていた。
 以上、本稿で検討してきた石巻青果による各種の取り組みは、市場施設の老朽化や市場機能の向上を課題とする卸売市場にとって参考とするに値する事例であるといえよう。
 
謝辞:本稿に係る調査は新型コロナウイルス感染症の第4回緊急事態宣言中の実施となりましたが、このような状況下にも関わらず石巻青果の近江社長をはじめとする方々から高配を賜りました。また、あいのやおよびJAいしのまき、JA新みやぎのご担当者にもご協力頂きました。ここにおいて深く感謝申しあげます。