ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 国際果実野菜年2021特集コーナー~四季の野菜と健康~
武庫川女子大学 食物栄養科学部 鮫島 由香
武庫川女子大学 食物栄養科学部・栄養科学研究所 松井 徳光
1.だいこん ~消化酵素や酸化酵素を豊富に含む健康野菜~
だいこんは、根や地下茎を利用することから根菜類に分類されている。
だいこんの原産地は地中海沿岸、中央アジアなど諸説あるが、最古の野菜の一つといわれるほど歴史が古い。日本においても「すずしろ」の名で食されてきた。
だいこんの根は淡色野菜であるため、β-カロテンなどの栄養素は少ないが、多くの酵素を含んでいる。消化酵素のジアスターゼは、でんぷんを分解する酵素で、消化を助け、胸やけや胃もたれを予防する。また、酸化酵素のオキシダーゼは解毒作用、がん予防にも効果があるといわれている。焼き魚に大根おろしを添える習慣は、魚の焦げには発がん性物質が含まれているため、理にかなった食べ方である。
だいこんは、青首だいこんと白首だいこんの主に二つの品種群が中心となっている。青首だいこんには、宮重だいこんなどがある。一方、白首だいこんは、練馬だいこん、三浦だいこん、大蔵だいこん、御薗だいこん、とっくりだいこん、方領だいこんなど品種が多い。その他にも、辛味だいこんや庄だいこん、岩国赤だいこん、戸隠だいこんなどといった地域に根差したものなどさまざまな品種がある。
一般的に、だいこんは先端になるほど辛味があるが、加熱すると辛味は弱まる。大根おろしや大根サラダとして生で食べる場合は、先端が辛すぎる場合があるため、中間部や上部を使う方が良い。
だいこんの葉にはβ-カロテンやカルシウム、ビタミンC、鉄などの栄養素が豊富に含まれ、小松菜よりも多い。葉つきのだいこんを入手した場合は、葉を炒めたもの、みそ汁などの具にして、是非とも食べてほしい(表1)。
だいこんなどの辛味成分は、アリルイソチオシアネートなどのイソチオシアネート類である。細胞の破壊によってミロシナーゼと前駆体(シニグリン)が反応することで生成する。
切って天日干しにした切り干しだいこんは、栄養価の高い乾物である。生のだいこんから水分が除去された後の100グラム中に含まれる量であるが、カリウムが3500ミリグラム、カルシウムが500ミリグラム、ビタミンB1が0.35ミリグラム、B2が0.20ミリグラム、食物繊維が21.3グラムであり、生のだいこんよりもかなり多く含まれている。
だいこんは、消化酵素や酸化酵素を豊富に含む健康野菜である。
2.れんこん ~健康維持をサポートする機能性野菜~
れんこんは、薄切りして炒め物にすればサクサクとした食感、大きめに切ってじっくり煮込むとホクホクとした食感となる不思議な野菜である。
れんこんは、ハスの地下茎が肥大した部分を食用とする野菜で根菜類に分類されており、でんぷんなど炭水化物を多く含んでいる。
原産地は中国、東南アジア、エジプトなど諸説あるが、日本には仏教伝来と共に、百済から伝わったともいわれており、「古事記」や「日本書紀」にも記載されている。また、れんこんの穴から「先が見通せる」ということで、縁起の良い食べ物とされ、正月のおせち料理にも欠かせない食材である。
ハスは鑑賞用と同時に民間療法としても使用されてきた。根茎には止血作用があり、胃や十二指腸潰瘍の吐血や血便、鼻血止めにも効果が期待できる。
れんこんはビタミンCや不溶性食物繊維が豊富で、ビタミンB1、B2、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、カリウム、カルシウム、鉄なども含まれている(表2)。
ビタミンB1は糖質の代謝を助けエネルギーを作り、疲労回復効果が期待できる。ビタミンB2は細胞の新陳代謝を促進し皮膚や粘膜の機能維持や成長に、ナイアシンは皮膚や粘膜における健康維持のサポートや脳神経を正常に働かせる作用がある。パントテン酸は動脈硬化の予防やストレスの緩和に役立つ。葉酸は貧血を予防し細胞の生まれ変わりや新しい赤血球を作り出すために欠かせないビタミンである。
れんこんのビタミンCは主成分のでんぷんに守られているため、加熱しても壊れにくい。コラーゲンの生成を助けると共に、メラニン色素の沈着を抑える働きもあり、美肌作りのための栄養素でもある。
切った時に糸を引く粘りの成分は、粘膜の強化をはじめ、胃炎や胃潰瘍の予防、風邪予防などが期待できる。
れんこんを切ると黒くなるのは、ポリフェノールのタンニンが酸化し褐変するからである。調理前に下準備したれんこんを酢水に入れるが、これはポリフェノールオキシダーゼによる褐変を防止するためである。また、れんこんに含まれるフラボノイドが酸性で色が薄くなり、歯ごたえを良くする効果もある。
れんこんににんじんやかぼちゃなどを組み合わせるとβ-カロテンやビタミンEなどの栄養価がアップする。
れんこんは、健康維持をサポートする機能性野菜である。
野菜業務部・野菜振興部
1 出荷量全国1位を誇る秋冬だいこんの大産地~千葉県~
だいこんは、日本最古の書物である古事記に「オオネ(大きな根を意味する)」として、また、万葉集では「スズシロ」として登場するほど古くから日本人に親しまれてきた野菜である。生育適温は20度前後と冷涼な気候を好み、出荷時期により、春だいこん、夏だいこん、秋冬だいこんに区分される。夏は冷涼な気候の北海道や青森県で、秋から翌春にかけては千葉県や鹿児島県を中心に栽培され、四季とともに産地が移行する。
千葉県は、秋冬だいこんの出荷量全国1位を誇り(図1)、銚子市は県内有数のだいこんの大産地として知られている。
2 肉質が柔らかく、甘くてみずみずしい銚子の秋冬だいこん
銚子市は千葉県の最東端に位置し、北には利根川、東と南には太平洋を臨み、三方を水域に囲まれている(図2)。この地域は、漁業やしょうゆの町として全国的に有名であるが、真冬でも雪が降ることはほとんどなく、温暖で穏やかな海洋性の気候を生かし、だいこんやキャベツといった露地野菜を中心に、古くから農業が発展してきた。
初日の出の名所として知られる犬吠埼に高くそびえる白亜の灯台は、銚子の観光シンボルとして有名であるが(写真1)、灯台周辺には広大なだいこんの圃場が広がっている。この地域には1年を通して潮風が吹き寄せるため、風力発電用の風車が稼働しており(写真2)、また、畑に吹き寄せる潮風が豊富なミネラルを運び、甘くておいしいだいこんを育んでいる。
この地域では、ちばみどり農業協同組合(以下「JAちばみどり」という)の銚子野菜連合会(以下「連合会」という)に加入する約280人の生産者が、合計533ヘクタールの広大な圃場で「福誉」「冬自慢」という品種を中心に栽培している。これらの品種は、肉質が柔らかく、みずみずしいのが特徴で、銚子のシンボルである「灯台印」のついた段ボール箱に詰められ(写真3)、北は東北地方から南は近畿地方の市場を中心に出荷される。
3 採れたて新鮮のみずみずしいだいこんを食卓へ
JAちばみどり管内の秋冬だいこん栽培は、8月下旬に播種するものは(写真4)11月から順次収穫を迎え、10月以降に播種するものは、ビニール資材を被覆してトンネルを張り (写真5)、翌2月下旬以降に収穫する(写真6)。冬でも比較的温暖な銚子市では、厳寒期でも一重トンネル被覆で栽培が可能である。
収穫までの約60日間は、小まめに圃場に赴き、天候、病気予防、病害虫防除など多岐にわたり細心の注意を払う。連合会だいこん委員長の飯岡さんは、「だいこんは天候の影響を受けやすいため、近年の異常気象には特に苦労しています。今年は播種直後の天候が不安定でしたが、その後の天候が安定したことで生育は回復し、みずみずしい甘みのあるだいこんができました」と話す(写真7)。
だいこんの収穫は朝7時から始まる。早朝に収穫するのは、だいこんが夜間に水分を蓄えてみずみずしさが増すからである。朝の冷え込みが厳しく、まだ薄暗さが残る中、飯岡さんをはじめとする生産者は、太く大きく育っただいこんを一本一本手作業で素早く丁寧に収穫していく。飯岡さんは「だいこんは他の野菜に比べると重いため、収穫作業は大変です。特に冬の早朝の収穫作業は寒さもあり苦労していますが、鮮度の高いみずみずしいだいこんをお届けするため、今日も元気に収穫しています」と話す。
収穫されただいこんは、素早くトラックの荷台に積み込まれ、洗い場へと運ばれる(写真8)。洗い場では、だいこんを傷つけないように洗浄し、最後は品質確認を行なっている(写真9)。真っ白でつるつるになっただいこんは大きさ・品質ごとに箱詰めされ、各市場へ出荷される。飯岡さんは「銚子の生産者は土壌に合う品種を選定し、抜き打ち検査や査定会を通じて品質管理を徹底しながら、安定供給にも努めています。銚子のみずみずしくて甘みのあるだいこんを是非食べてみてください」と話す。
4 安全安心への取り組みと高品質なだいこん栽培を目指して
連合会は、食の安全安心に向けて、30年以上前からいち早く低農薬・低化学肥料栽培に取り組んできた。農薬と化学肥料の使用を通常の半分以下に減らした栽培技術を導入し、使用した農薬の名前や使用時期などの作業内容を記入する「生産履歴記帳運動」に取り組み、平成15年にはJAグループ千葉が提唱する「もっと安心農産物」への参加登録、さらには、千葉県独自の認証制度である「ちばエコ農産物」の認証を受けている(図3)。
また、高品質なだいこん栽培を目指した土づくりの一環として、夏の間にはマリーゴールドを育てている。マリーゴールドは根からセンチュウ(線虫)の嫌う成分を出すため、だいこんの品質を劣化させる原因となるセンチュウの密度を低減する効果が期待できる。きれいな花を咲かせることから景観作物としての役割もあり、夏の銚子を彩る風物詩となっている(写真10)。
JAちばみどりでは、高品質な銚子の秋冬だいこんの認知度向上に向けて、首都圏の量販店などを中心に販売促進活動を行っている。また、コロナ禍では、県内在住者を対象にマイカーやレンタカーでチェックポイントを回るドライブ企画として、だいこんの収穫体験と旬の農産物が豊富なJA直売所を巡るドライブラリーを実施している。
5 栄養豊富なだいこんをおいしく食べて、寒い冬を元気に過ごそう!
銚子の秋冬だいこんは、生でも加熱してもおいしくいただけるが、おでんや煮物が特におすすめである。だいこんにはビタミンCが豊富に含まれているので、免疫力を高める効果がある。また、消化酵素のジアスターゼが多く含まれており、食べ物の消化促進、胸やけや胃もたれを予防する効果があるため、食べ過ぎが心配な年末年始には頼もしい食材である。JAちばみどりでは、ホームページ上でおすすめレシピを公開している(図4)。甘くてみずみずしい銚子産のだいこんは、シンプルなふろふきだいこんにすることで素材の持つおいしさを最大限に引き出すことができる。銚子産のだいこんをおいしくいただいて冬の寒さに負けない健康な体づくりに取り組もう。
「西の徳島」徳島県産れんこん
~鳴門市大津町の工夫と苦労の詰まったれんこん作り~
1 関西の主流、徳島産れんこん
れんこんは、ハスの地下茎が肥大した根菜であり、一般的な旬は11月~翌3月の冬季であるが、市場には1年を通して流通している。農林水産省の作物統計調査によると、令和2年の全国の出荷量は茨城県に次いで徳島県が2位であり、京阪神の市場では徳島県産が流通の主流となっている(図1)。
れんこんは、東西で主な栽培品種が異なっており、関東では丸く短い形状の品種、関西では長い形状の品種が好まれる傾向がある。れんこんの品種は、明治初期に中国から導入された中国種と在来種に分けられ、徳島県で主に栽培されているのは中国種の「備中」「ロータス」などである。
2 工夫と苦労のれんこん作り
鳴門市大津町(以下「大津町」という)は、徳島県内の主なれんこん産地の一つである。特に、栽培が盛んな大津町西部で栽培が始まったのは昭和30年代からであり、その収益性の高さが見込まれ稲作からの転換が進んだ結果、40年代頃から作付面積が大きく増加し、現在に至っている。7月には、開花期を迎えた蓮田が一面に広がり、見ごたえのある景観を形成している(写真1、2)。
作付体系は、露地栽培のほかトンネル栽培、ハウス栽培がある。また、れんこんを種れんこんとして植えつける「新植法」、れんこんの一部を収穫せず次期作の種れんこんとして蓮田に残す「残し掘り法」、収穫せず残しておき、次の世代として成長してきたれんこんを収穫する「2年掘り」と、さまざまな栽培方法があり、これらを組み合わせて周年出荷を行っている(図2)。
収穫は、水を張ったままの蓮田でポンプの水圧により掘り起こす方法と、水が干上がった状態で収穫する方法の2つがある。大津町では土壌の粘土質が強いため、後者の方法で収穫を行っている。掘り取り作業は非常に重労働であり、れんこん掘り取り機を使い表土を取り除いたあとは、熊手を使い一本一本手作業で掘り取っていく(写真3)。れんこんを傷付けずに、丁寧に掘り出すためには熟練した技術が必要であり、こうして掘り取られる大津町のれんこんは、つやがあり見た目も良いことから市場で高い評価を受けている。
大津松茂農業協同組合(以下「JA大津松茂」という)れんこん部部会長の齋藤崇顕さんは、「徳島のれんこんは質で勝負している。特に、大津町では粘土質の土壌で肌のきめが細かいれんこんを生産しており、苦労もあるが丁寧に手作業で収穫している。一度食べてもらえればファンになってもらえると思うので、ぜひ食べて欲しい」と話す(写真4)。
3 自然環境に配慮したれんこん作り
大津町では、過去の栽培経験に加え、堆肥の施用による土づくりや、土壌診断に基づく適正施肥により、化学肥料の低減に努めている。また、化学農薬の使用を低減する工夫として、産地全体でフェロモントラップ(害虫を呼び寄せる罠)を設置することにより、農業害虫であるハスモンヨトウの成虫頭数を抑制し、葉を食害する幼虫の発生密度を低下させている。大津町の蓮田にはコウノトリがエサを求めて飛来するが、これは自然環境への配慮と消費者に安心してれんこんを食べてもらうための取り組みの成果でもある(写真5)。
4 11月8日は徳島県れんこんの日
11月は徳島県産れんこんの出荷量が増え、品質が安定している時期であることと、「11・8→いい・はす→良い蓮」の語呂合わせから、徳島県蓮根消費拡大協議会は、11月8日を「徳島県れんこんの日」と定めている(図3)。令和3年同日、同協議会と全国農業協同組合連合会徳島県本部(以下「JA全農とくしま」という)の共催により、大阪市中央卸売市場・大果大阪青果株式会社の野菜売り場にて、恒例のセレモニーが開催された。当日は市場関係者や仲卸業者に対し、オリジナルマスクやれんこんチップス、エコバッグなどが無料で配布されたほか、れんこん生産者を紹介するYouTube動画の視聴などが行われ、年末の需要期に向けたれんこんの販売促進が行われた。
上記の動画のほかにも、JA全農とくしまではYouTubeを使ったれんこんのPRに力を入れている。3年11月8日~12日の間、徳島県庁の食堂で提供された徳島県産れんこん料理のレポート動画では、炊き込みご飯、鮭のチーズ西京焼き、アゴ出汁ちゃんこ鍋といったれんこん尽くしの定食が紹介されている(図4)。
また、料理研究家でYouTuberでもあるリュウジ氏とのコラボレーションも行っており、れんこんの「焼きカルパッチョ すだちソース」のレシピ動画が配信されている。生産者の方によれば、サラダや煮物、つみれ、特に天ぷらなど、慣れ親しんだ料理にもお薦めとのことである。
5 れんこんを食べて幸先の良い1年を!
れんこんはビタミンCや食物繊維などが豊富な野菜である。また、穴の空いたその形状から、日本では先の見通しがきく縁起物として正月料理や精進料理にも用いられ親しまれている。寒さが続くこの季節、栄養豊富で縁起の良いれんこんを食べて、幸先良く1年のスタートを切りましょう。