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調査・報告 野菜情報 2022年1月号 

人手確保のための就労支援の取り組み~JA鹿児島いずみを事例として~

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鹿児島事務所 関 英美

【要約】

 鹿児島いずみ農業協同組合(以下「JA鹿児島いずみ」という)管内の長島町では、ばれいしょの生産が盛んに行われているが、生産者の高齢化による労働力不足から産地の縮小が懸念されている。そこで、人手確保のためにJA鹿児島いずみが独自に行う就労支援の取り組みについて紹介する。

1 長島町におけるばれいしょ生産

(1)長島町の概要
 長島町は、鹿児島県の最北に位置する島であり(図1)、黒之瀬戸大橋により薩摩半島と結ばれている。長島、諸浦島、伊唐島、獅子島など大小27の島からなり、広さは116.2平方キロメートル、平成18年に東町との合併により、現在の長島町となった。

図1 長島町の位置

 温暖な気候で、ミネラルを多く含んだ赤土を有しており、農業・水産業が盛んな地域である。令和元年度の長島町における農業産出額の内訳は、ブロイラー74億1000万円に次いで、いも類25億6000万円が多く、肉用牛23億5000万円、果実5億3000万円などが続く(図2)。耕地面積は1690ヘクタールで、作付面積はばれいしょが最も多く、半数以上を占めており、この他にかんしょや水稲、柑橘類などが生産されている。

図2  長島町の農業産出額内訳(令和元年度)
 
(2)ばれいしょ生産の概況
 長島町では、そら豆、実えんどう、きぬさやなど豆類の栽培が行われていたが、昭和50年代にばれいしょの栽培技術を長崎県から取り入れ、60年代から本格的に栽培されるようになった。平成初期には、旧長島町、旧東町にそれぞればれいしょ部会が発足した。ばれいしょの単価は豆類より低いが、一方で労働生産性が高く、生育時期が台風シーズンと被らず比較的安定して生産ができることから、長島町での栽培が広まった。
 また、長島町の特徴である赤土で作られるばれいしょは、ミネラルや鉄分、ビタミンCなどが多く含まれ、出荷後に長期間保管されることなくすぐに出荷されることから鮮度も高く、市場や消費者から品質を高く評価されている。生産量や品質が一定の基準を満たした農産物として、鹿児島県の「かごしまブランド」にも認定されている(写真1)

写真1 長島町の赤土ばれいしょ

 令和元年度における市町村別のばれいしょ収穫量では、長島町は2万6600トンで全国22位、出荷時期が異なる北海道の市町村を除くと長崎県雲仙市に次いで2位であり、全国有数の産地となっている。
 
(3)産地の課題
 近年、生産者の高齢化による離農などの労働力不足により、産地の縮小が懸念されている。収穫が遅れて後続産地と出荷のタイミングが重なると、価格が低落してしまうことから、労働が集中する収穫期の労働力確保が重要な課題となっている。
 また、ばれいしょの市場価格について、国産ばれいしょ生産量の大部分を占める北海道が豊作のときは価格が下がり、不作のときは価格が上がる傾向にあり、価格が年によって不安定な状況である。

2 JA鹿児島いずみにおける就労支援の取り組み

(1)JA鹿児島いずみの概要
 JA鹿児島いずみは、鹿児島県の北西部に位置し、平成4年に10農協が合併して発足した、出水市・阿久根市・長島町の2市1町を区域とした広域合併農協である。管内では、和牛や野菜、果樹の生産が盛んに行われており、野菜ではばれいしょ、そらまめ、実えんどうが「かごしまブランド」に認定されている。令和2年度の組合員数は1万6772人(うち正組合員6097人、准組合員1万675人)、販売品販売高は148億9351万円で、このうち最も多い畜産物87億9529万円に次いで、ばれいしょが25億4237万円となっている。ばれいしょは鹿児島県内よりも主に東京や中京地方に市場出荷されており、春の「新じゃが」の重要な産地の一つとなっている。
 また、鹿児島県下では、南北に広がる地理を活かしてリレー出荷に取り組んでおり、南西諸島から県本土間で、12月頃から5月頃まで継続的な出荷が行われている。県最北に位置する長島町が区域にあるJA鹿児島いずみは、出荷の最盛期が4~5月となっており、産地リレーにおいて県内最後の産地を担っている(図3)。

図3 長島町産春ばれいしょの栽培スケジュール
 
(2)JA鹿児島いずみ管内のばれいしょ生産
 JA鹿児島いずみの赤土ばれいしょ部会の構成員数は、令和2年2月時点で704人となっている。過去15年間における赤土ばれいしょ部会の作付面積、販売数量、販売金額の推移を示したものが図4である。

図4 JA鹿児島いずみ赤土ばれいしょ部会の作付面積・販売数量・販売金額の推移

 作付面積は生産者の減少に伴い減少傾向にあるが、販売数量は1万~1万5000トンの間で、増減を繰り返しながら推移している。販売金額は、他産地の作柄に影響を受けるため大きく増減しているが、3年は北海道の不作が影響し、前年比160%増加している。
 また、同部会の年度別年代構成は図5の通りである。

図5 JA鹿児島いずみ赤土ばれいしょ部会の年度別年代構成(人)

 40代、50代の部会員数が減少傾向にある一方、60代以上の部会員数は横ばいから増加傾向にあり、赤土ばれいしょ部会においても高齢化が進んでいることが分かる。
 島の地形上、小規模なほ場が多く、部会員の平均作付面積は約50アールとなっており、ばれいしょの掘り取りから収穫まで一貫して行うことが可能な大型機械の導入による効率化は難しい。現状、収穫時には1人の作業員がばれいしょ掘取機の運転を行い、最低でも3人以上の作業員が掘り起こされたばれいしょを拾っていく方法が取られている(写真2)。そのため、現行の収穫方法で生産量を維持するためには労働力の確保が重要となっており、前述のとおり、他産地の作柄により販売単価が変動することから、販売数量と販売金額は比例せず、農家が収入確保のために価格が高くなる時期に労働を集中させる背景となっている。

写真2 ばれいしょの収穫風景

(3)就労支援の取り組み
 JA鹿児島いずみでは、組合員からの相談を受け、ばれいしょの収穫期における人員確保の取り組みの一環として、平成23年4月に有料職業紹介事業の許可を取得し、鹿児島いずみ農協有料職業紹介所を設立した。
 職業紹介所では、JAの広報紙や新聞の折り込みチラシにより求職者を募集し、農産物の植付・管理・収穫といった農作業の従事者の紹介を依頼した農家とのマッチングを実施している。JA鹿児島いずみの役割は雇用仲介に限定されており、作業中に用いる農業機械などは基本的に依頼農家の所有物である(図6)。

図6 職業紹介の流れ

 現在では、設立の目的であったばれいしょの収穫作業を最優先として、ばれいしょ以外にもブロッコリーやかんしょ、果樹、いちご、オクラ、水稲などのさまざまな農産物の管理・収穫作業の紹介を行っている。
 求職者は、重作業と軽作業で時給を分けて募集されており、重作業の時給は軽作業よりも100円高く設定され、令和3年5月末時点で男性8人が登録されている。一方、軽作業は女性を中心に30人の登録がある。求職者の主な在住地は、管内近辺の出水地域、阿久根地域で、平均年齢は60代後半となっている。JAの紹介手数料は、重作業、軽作業ともに依頼農家が求職者に支払う給与の5%としている。
 職業紹介所のメインであるばれいしょ収穫作業については、先述のとおり、単価が高くなる後続産地との産地切り替え前の時期に出荷をするために、同時期に必要な労働力が長島町全体で集中する。作業紹介においては、軽作業に登録されている求職者に重作業の紹介は難しいといった事情や、求職者ごとの作業可能日が直前まで判明しない場合など、両者を結びつける上で配慮すべき条件も多い。このため、求職者ごとに紹介できる農家が異なり、きめ細やかなマッチング作業が必要となることから、ばれいしょの収穫時期にはJA鹿児島いずみ営農支援部の担当者1人が終日専属で作業にあたっている。
 赤土ばれいしょ部会において、生産者の高齢化が進んでいるものの、ばれいしょの作付面積、販売数量の推移をみると微減に留まっているのは、こうしたJA鹿児島いずみの就労支援の取り組みによるところと考えられる。
 
(4)今後の課題
 近年では、部会員の高齢化により求人数が増加する一方、求職者の減少が懸念されている。職業紹介所による直近5年間の委託作業紹介実績は表のとおりである。
 表をみると、近年では職業紹介所により年間で延べ約3000人の紹介が行われており、労働力不足に対する人手の確保に貢献していることが分かる。しかし、労働力を必要とする農家の依頼人数に対して、実際に求職者をマッチングできた紹介人数は常に下回っている。また、依頼を行ったものの紹介されなかった農家が翌年以降は依頼を行わないケースもあり、潜在的な依頼人数は実績よりも多いと考えられる。

表 鹿児島いずみ農協有料職業紹介所の委託作業紹介実績

 このため、JA鹿児島いずみでは職業紹介所に加えて、地元の農業高校への援農依頼や、福祉施設との連携など、さまざまな試みにチャレンジしている。近年では、外国人技能実習生を受け入れ、農作業請負を行っており、現在は10人の実習生がばれいしょの収穫作業に携わっている。実習生は、ばれいしょの収穫時期以外にはJA鹿児島いずみの選果場で作業を行うなど、年間を通じて仕事に従事できるように努めている。

3.おわりに

 赤土ばれいしょの産地である長島町においては、生産者の高齢化による収穫期の人手不足が課題となっている。産地を維持するためには人手の確保が必須となるが、短期間に集中した労働力確保の問題は個々の農家で取り組むことが難しいことから、JA鹿児島いずみによる就労支援の取り組みは産地維持の一翼を担っている。職業紹介所の取り組みは、依頼人数に紹介人数が届かないという課題はあるものの、組合員からの需要に支えられて平成23年から現在まで継続されている。新たな外国人技能実習生の受け入れなどの取り組みと共に、産地の課題にどのように取り組んでいくのか、引き続き注目していきたい。
 

 最後に、お忙しい中、聞き取り調査にご協力いただいた関係者の皆様に感謝申し上げます。