(1)事業展開のプロセス
ナガタフーズは、茨城県笠間市で加工・業務用のだいこんのつまとおろしを主力商品とし、小売・消費者向けの加工食品のドレッシングと菓子類を製造販売するとともに、それらの原料となるだいこんやさつまいもの生産を行う農業と食品加工業を一体的に運営する6次産業化企業である(表3)。近年、売上高は8億円に達しようとしていたが、本年度(令和3年度)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により達成困難と予想されている。
現会長の永田良夫氏(前社長)は、高校卒業後、近隣の地方卸売市場(青果部)に勤務していたが、養豚業を営んでいた父上が亡くなられたことから、自家農業に従事することになった(表4)。当初は、水稲と畑では主にさつまいもを栽培し、これを干しいもに加工して、スーパーへ卸す他、消費者に直売していた。このように以前から自家生産物を加工・販売した経験はあった。
干しいもの加工作業は初冬からの3カ月間に集中するため臨時雇用が必要だったが、1980年代になると周年雇用でないと人材確保は難しくなってきた。これを契機として新たな成長部門を探る中で、1989年にだいこんのつまの加工事業を始めた。翌1990年には販売額が約5000万円、9年後の1998年度には約4億円を超えるといったように、だいこんのつま製造が事業の主部門へと急成長していった。
これと並行して、1990年には本格的に原料だいこんの自社生産を開始することとなった。また加工事業についても1996年にはだいこんおろしの加工を始めた。さらに企業としての組織体制を整えるため、1992年には良夫氏と良夫氏の妻を出資者・役員とした有限会社として法人化した。
2006年にはさつまいも菓子の製造・販売を開始した。これは当時、ナガタフーズに入社した現社長で良夫氏の息子の修一氏の発案で、冬期間しか稼働していなかった干しいも加工場の活用を考え、以前勤務していた食品メーカーの協力を得ながら、青果としては商品価値の低い規格外のさつまいもを原料としてスイートポテトと
芋羊羹を開発した(写真2)。
2010年にはだいこんおろしドレッシング「大根百笑」を、やはり修一氏の前勤務先であった食品メーカーと共同開発した。当初は試行錯誤もあったが、だいこんおろし入りのボトル詰めドレッシングを開発し、同食品メーカーからOEM供給を受け、自社ブランド「大根百笑」で十数アイテムを販売することとなった(写真3)。
さらに2012年には、地元名産の栗を使った菓子「笠間の栗すいーとまろん」を開発した(写真4)。笠間市は全国一の栗主産県である茨城県の中でも園地面積の最も広い主産地であり観光地でもあるが、これまでは青果出荷ばかりで加工品はないに等しかった。地元、茨城県や関係機関は栗の生産振興には乗り出していたが、同社の栗菓子開発は外部の支援を受けずに独自に進められた。こうした背景の下で「笠間の栗すいーとまろん」は開発された。
(2)事業組織と原料生産、食品加工
現在、同社は修一氏を社長とし家族を役員としている。分担は、修一氏が全社の統括と販売、父の良夫氏(会長)が農作業、妻と母が経理などの事務を統括している。この他に、農作業については修一氏の叔父2人が作業面と技術面を支援している。
労働力は従業員48人および研修生12人の合計60人で構成されている。加工場の男性従業員は主に加工用機械のオペレーター作業、女性従業員は主に手作業主体の加工作業を担当している。農作業には、うち2人の従業員が配置され、会長などが作業を統括している。
主力商品であるだいこんのつまとだいこんおろしの原料は、直営生産と外部調達によって賄われている。
直営生産は、茨城県内の本社周辺地域で30~35ヘクタールを借地して、加工・業務用品種のだいこんを4月中旬~7月中旬と10月中旬~翌2月中旬の年2作生産している。栽培管理は、良夫氏が中心となり家族2人の支援も受けながら、従業員2人とで実施する体制をとっている。ここで生産されただいこんは、社内の加工部門で製造されるつまやおろしの原料にされており、基本的に青果販売は行っていない。
このような大規模生産を効率的に行うために、20年以上前から
播種機と全自動収穫機から成る機械化一貫体系を導入している。収穫機には鉄コンテナを積載して収穫しただいこんを積み込み、満杯になるとコンテナをトラックに乗せ換えて工場に輸送するといった効率的な収穫・搬出方法を確立している。こうした機械化一貫体系によって、かつての収穫体系(掘抜機+手作業での拾い上げ)では10a/日程度あった収穫能率を40~50a/日にまでに高めたという。
外部調達は季節によって異なる産地から調達している。夏秋期の7月下旬~10月上旬は、品種を加工用に指定した契約的な取引によって大半を青森県と岩手県の大規模生産者から調達している。他方、初春期の3~4月は、全量を宮崎県と鹿児島県の産地集荷業者から加工・業務用品種を指定して調達している。なお、直営生産の時期でも、不足分は茨城県内の生産者との契約栽培で補っている。
原料の鮮度と品質を重視してだいこんの直営生産に取り組もうとしても、工場周辺だけでの直営生産では収穫期が限られるため周年的に原料を賄うことはできない。周年調達には直営生産を遠隔地にまで広げるか、外部調達で補うかということになる。関東に工場がある場合、夏期は北東北か北海道、冬期は鹿児島、宮崎からの外部調達が現実的と見られる。
加工品の製造部門では、だいこんのつま、おろしという加工・業務用の生鮮加工食品とドレッシングおよび菓子類という小売向けの加工食品という商品性格の異なる食品を製造している。同社の売上収入は、全て加工部門によって上げられている。売上高ベースでは、だいこんのつまが5割、おろしが2割、菓子類が3割を占めている。近年、菓子類の比率が増加しており重要な部門となっている。
工場施設について見ると、加工場は第1工場と第2工場の2つの工場が本社敷地内にある。第1工場はだいこんのつまとおろしを製造しており、つま切り機、洗浄機、脱水機、おろし機、冷凍機などが装備されている。第2工場にはさつまいもと栗の菓子を製造しており、それぞれに必要な機器を備えている。その他に、皮むき用倉庫、冷蔵庫の施設がある(写真5)。
(3)販売チャネル
販売については、製品によって販売チャネルは異なる。だいこんのつまは、卸売市場の水産仲卸とスーパーへの直卸がほぼ半々を占めている。なお、末端の需要者はスーパーが主体で、居酒屋などの外食関係は少ない。つまは景気の影響も受けにくく、販売価格は長期的に大きな変動がなかったため売上げを順調に伸ばし、同社が急成長する原動力となってきた。今回のCOVID-19流行による居酒屋などの休業による影響は受けているが、仕向量が少ないこともあり比較的軽微で、スーパーへの直卸の伸びがカバーしている。
だいこんおろしは大手加工食品メーカーに冷凍原料として出荷することにより、安定的な売上につながってきた。近年では大手外食チェーンへも販路を広げていた。しかし、いずれも末端が外食関係ということから、COVID-19流行による休業により出荷量は減少している。
自社ブランドのドレッシング「大根百笑」は、県内の道の駅、直売所、デパート、空港などで販売するとともに、ウェブサイトによる通信販売も行っている。
菓子「すいーとぽてと」「笠間の栗すいーとまろん」は、県内のスーパーなどの小売関係、および道の駅、直売所、宿泊施設、都内アンテナショップなどの観光関係に販路を広げるとともに、ウェブサイトによる通信販売も行っている。また、県内の観光施設および大型ショッピングモールには直営小売店を出店している。これは新製品開発や製品改良のため消費者ニーズを把握するためのアンテナショップとしての役割を持っている。