1 地産地消ブランド野菜の産地
はくさいは、出荷時期によって春はくさい、夏はくさい、秋冬はくさいに区分される。涼しい気候を好むため、夏はくさいは長野県や群馬県の高冷地、秋冬はくさいは平坦な茨城県を中心に栽培され、年間を通じて出回っている野菜である。主に夏はくさい、秋冬はくさいを栽培している群馬県は、大産地の茨城県、長野県、そして北海道に次ぐ出荷量である(図1)。群馬県では、夏はくさいは高冷地の長野原町、嬬恋村、昭和村、秋冬はくさいは平坦地の伊勢崎市、館林市、高崎市を中心に栽培されている(表1)。
はぐくみ農業協同組合(以下「JAはぐくみ」という)は、5JAが合併して誕生した。管内の旧榛名町、旧群馬町、旧倉渕村、旧箕郷町の頭の1文字である「は・ぐ・く・み」と農畜産物、人、地域を「育てる」という希望を持って公募によって名付けられた。高崎市西部の標高100メートルから1600メートルに位置し、榛名山の噴火による火山灰の堆積でできた肥沃な土地で多様な農業が営まれている。標高100メートルから150メートルに位置する高崎市国府地区(現高崎市引間町付近)で生産されたはくさいは、他の土地で栽培されても同様な甘さや食味が得られないため、国府白菜と呼ばれ、ブランド野菜として根強い人気がある(写真1)。肉厚でやわらかく、糖度が高いのが特徴で、キムチや浅漬け、鍋などの食材として群馬県内前橋市、高崎市を中心に販売されている。JAはぐくみの直売所や近隣のスーパーの地場産野菜コーナーなどで購入できる(写真2)。「國府」と朱書きされた黄色の帯に巻かれ2個1束で店頭に並ぶ(写真3)。
2 豊かな土地が作り出した甘くてやわらかい「国府白菜」
榛名山の扇状地、その裾野に位置する国府地区は、古くから大洪水の度に肥沃な土が流れ込み積もり積もった黒土の層が1~2メートルも堆積している。これが野菜栽培に適した土地を作り出している。国府白菜は、この土地で栽培されたはくさいの総称で、主な作付品種は、黄ごころ、勝黄、黄望峰である。明治39年に前橋市の種苗店より中国の種子を購入して栽培したのが始まりといわれ、多くの生産者が栽培するようになったのは大正初めである。昭和初期には本格的に栽培されるようになり、戦後は、その品質と味が各市場で評価された。昭和期には、高い品質に支えられて作付面積および生産農家は伸びていったが、生産者の高齢化や都市化の流れとともに、昭和53年に作付面積約40ヘクタール、生産農家約200軒をピークに徐々に減ってきている。
生産者の依田敏彦さん(写真4)は、「同じ品種でも同じような食味や甘さを他の産地では得られないからこそ、この土地で栽培したはくさいが、国府白菜のブランドになる。国府地区の人は、嫁をもらうなら“こくふ”と言われるほど昔から働き者で、野菜作りも子育てと同じように野菜の気持ちになって行っている。この気持ちを大事にこれからも生産を続けられるよう努力していく」と話す。
3 消費者や市場のニーズに対応した生産、流通
国府白菜は、品種の組み合わせにより11月中旬~翌3月中旬まで長期にわたり出荷している(図2)。黒マルチ利用による直播が主流であるが、間引き作業が多いので労力削減のため、ポット育苗による移植栽培も取り入れている。
播種期は8月25日~9月10日まで、直播栽培および移植栽培で10~15日育苗する。間引きは、播種後1カ月までに2回行い、1回目は発芽密生部分、2回目は播種後1カ月で1本立てとする。消費者ニーズに対応するために、株間を狭くして小さいサイズも栽培する。追肥は10月中旬ころまでに行い、生育後の結束は、寒さで株が傷むので12月下旬以降、株はりの進んだものから外葉をまとめ上げしばる。
はくさいの品質を一定に保つため、完熟堆肥を利用した土づくりや農薬使用基準を守り、栽培日誌を付けている。また、出荷の約8割は、紙巻の2個1束であるが、輸送の効率、利便性を高め、県内に限らず首都圏を中心としたスーパーへの流通を増やすために、約2割は段ボールの箱詰めを行っている。
4 「国府白菜をつくろう」~食と農業の大切さ、地域農業への理解・感謝の気持ちを育てる~
毎年、JAはぐくみでは、地元の小学生を対象に農業体験や食農教育を通じて、自然環境の大切さやものを育てる「喜び」と「命」の尊さを啓蒙する活動を行っている。この取り組みは、小学校の総合学習「国府白菜をつくろう」として20年以上続いている。
JAはぐくみ職員や生産者が講師となり、小学校の農園を利用して種まきから収穫まで年6回にわたり指導している。9月上旬に種をまき、育った苗をマルチを張った畑に子供たちが植えていく。12月上旬に大きく育ったはくさいを収穫した際、子供たちからは「大きい、おいしそう、早く食べたいな」といった声があがる(写真5)。収穫したはくさいは、子供たちが学校で調理したり、自宅に持ち帰り食べる。
5 ビタミンと食物繊維が豊富なはくさいを食べて健康維持を!
はくさいには、ビタミンCやカリウム、食物繊維が豊富に含まれている。ビタミンCは、肌荒れや風邪予防に効果が期待できる。食物繊維は便秘を解消し、腸内環境を整える。カリウムはナトリウムを排出することで血圧を下げる効果やむくみを防止する効果がある。また、はくさいに含まれるイソチオシアネートという辛み成分は、消化を助け、血栓形成を抑制する効果やがん抑制効果が期待されている。
冬場は寒さから身を守るために、葉に蓄えられたでん粉などをブドウ糖へ変化させ、やわらかく甘みが増してくる。生食ではシャキシャキ感をより楽しめるうえ、はくさい本来の甘味を存分に味わうことができ、ビタミンCを調理で損失させることなくしっかりと摂取することができる。また、甘みがあり、くせのない淡泊な味は、他の材料と調和がよく、万能に調理ができ、加熱すればかさも減り、たくさん食べられる。ビタミンと食物繊維が豊富なはくさいを食べて健康と免疫力を維持しましょう!
鮮度抜群で甘いJAふかやの“ブロッコリー”
~トップクラスの品質を誇る日本有数の産地~
1 全国有数のブロッコリー産地 JAふかや
生鮮野菜の消費が横ばいから減少傾向にある中で、ブロッコリーの消費は増加している。作付面積および出荷量も平成30年産から過去最多を更新しており、生産・消費ともに伸びている野菜である。
埼玉県は、ブロッコリーの出荷量が全国第4位(図1)、農業産出額が全国第3位である。大消費地の近郊という地の利を生かした農業が広く行われており、ブロッコリーのほかにも、ほうれんそうとさといもの出荷量が全国第1位、かぶ、こまつな、ねぎが2位、きゅうりが3位となっている(令和元年度実績)。野菜の農業産出額は全国第8位で、県の総農業産出額の47%を占める。
埼玉県でブロッコリーの生産が特に盛んなのが、県北西部の深谷市および寄居町を管内とするふかや農業協同組合(以下「JAふかや」という)管内である。JAふかやは、全国有数のブロッコリー産地である深谷市のうち旧榛沢村を管内としていたJA榛沢と平成31年4月に合併し、東日本最大の作付面積を誇るブロッコリー産地となった。
管内を東西に国道17号とJR高崎線、上越新幹線が貫き、東京から75キロメートル圏内と交通の便がよく、また、地域全体が平坦で恵まれた立地条件にある。
昭和40年代までは養蚕地帯だったが、生糸相場による製糸業衰退の影響により、養蚕業も転換を余儀なくされた。そこで、48年から53年の土地基盤整備を機に、土地改良を行い、養蚕からの転換と併せて水田転作のため、露地野菜栽培を推進した。導入作物の選定にあたっては、市場視察、市場調査を繰り返し、将来需要の伸びる品目を模索してブロッコリーを選択した。
60年代には、真空予冷施設を作って出荷の拡大を図り(写真1)、その間にも優良品種の発掘、農繁期の10月後半からは省力化のための横詰め8キログラム箱(写真2)、それまでの期間は小出しが可能な縦詰めの4キログラム箱というように、段ボールの使い分けによる出荷の効率化や、生産者に対する選果表の配布など、他産地に先駆けて先進的な活動を行ってきた。
ブロッコリーは、つぼみ(花蕾)を食べる野菜であるため、鮮度劣化が早い。花蕾の呼吸作用が激しいため、温度管理が難しく、適切に管理しないと花蕾がすぐに黄色くなるなど、劣化してしまう。このため、気温の高い時期には、段ボール内に鮮度保持袋を入れて花蕾の芯まで冷やす真空予冷を行い、売り場まで鮮度を落とさないように工夫している。
こうした努力により、現在では品質でも全国トップクラスのブロッコリー産地を確立している。
2 恵まれた条件と品質向上の努力を重ねてトップクラスの品質を維持
埼玉県北西部は、首都圏から近いことに加え、晴れの日が多く、肥沃な土壌で、ブロッコリー栽培に適した地域であるといえるが、さらに品質向上のための努力を重ねている。
JAふかや管内に全国農業協同組合連合会埼玉県本部(以下「全農さいたま」という)指定の品種比較ほ場が設置されており、さまざまな品種の試験栽培が行われている。ここで年3回、全農さいたま、種苗メーカー、関係機関、県内全域のJAおよび生産者などが参加して検討会を行っている。
JAふかやでは、それらの結果を踏まえ、生産者が中心になって話し合いを行い、毎年品種を見直し、より優れた品種を導入している。JAふかやで新しく選定された品種が、2~3年後に埼玉県全域で普及する。JAふかやは、いわば「種の流行の先端」を生む「品種の発信基地」となっている。
埼玉県のブロッコリー栽培は、主に春夏どりと秋冬どりの2つの作型がある(図2)。各作型とも作付け前には必ずほ場ごとに土壌分析を行い、施肥指導会を年2回開催し、年2回春ブロッコリーと秋冬ブロッコリーの生産農家と個別面談を行うなど、品種別・作型別に栽培暦に沿った指導を徹底して栽培の高位平準化を図っている。
JAふかやでは、「地力を高めることが作物の品質を高める」という認識のもとで、生産者に堆肥などの有機質肥料を使用するよう推奨している。多くの堆肥を利用してもらうため、JAふかやが地域の畜産農家と野菜農家の仲介役を務めている。このような取り組みにより、地域内堆肥流通も大幅に高まっている。
全農さいたまは、次の条件で生産された野菜を「菜色美人」ブランドで出荷・販売している。一部の生産者はこの指定を受け、ブランド野菜として出荷している。「菜色美人」ブランドの野菜は、市場や量販店などからの評価が非常に高い。
- 作型別に品種、播種時期、定植時期を統一する
- メイン資材を明確にする(化学肥料当地基準費5割削減)
- 土壌診断の実施と施肥指導会の開催
- 栽培協定に基づき肥料・農薬・種子などを統一する
- 栽培概要、施肥、防除の生産管理記帳を行う
- 出荷品は定められた規格選別基準とする
JAふかや西部野菜出荷協議会の村山和弥さん(写真3、4)は、就農10年目となった令和2年に部会長に選任された。「つらいのは、天候不良などの影響でブロッコリーに病害が発生して、収穫不可能となった時です。やりがいは、何といっても良いブロッコリーが収穫できた時です。秋冬ブロッコリー6品種、春ブロッコリー4品の特性を把握しながら、うまく組み合わせて、常に良い品物を出荷できるように工夫しています。」と語る。
村山さんが就農して以降、地域では若い農業者が増加している。村山さんは、若手リーダーとして周囲からの信頼も厚く、品種、防除方法、資材などについて、幅広く活発に意見交換を行い、技術研鑽に努めている。
3 ブロッコリーまつりや栽培体験を通じてふかやのブロッコリーを紹介
量販店での試食会を実施するほか、「深谷ブロッコリーまつり」を道の駅おかべで開催し、ブロッコリーかき揚げ、ブロッコリーむすびや新感覚のブロッコリージェラートなどを販売して、ブロッコリーの販売促進を行っている。
JAグループさいたまでは、平成20年度に埼玉県知事と「埼玉県みどりの学校ファーム」に関する連携協定を結んだ(※)。県内の小・中学校の校内や周辺の農地などを利用して、子どもたちが農業体験学習をすることで自然や命、食や農を学ぶこと、さらに応援してくださるPTAや地域の方々などとのさまざまな結びつきを通して、豊かな人間性や社会性を育むことを目的に、野菜の種・苗などを無償提供し、ブロッコリーなどの栽培指導を実施している(図3)。
県内のほぼすべての小中学校で実施されており、食育の推進、学校教育における体験活動の増進、農地の有効活用という複合的な効果が期待できる、埼玉県独自の取り組みである。
今年度は、緊急事態宣言に伴い中止となったため、講義内容・ほ場での作業実習を動画にして配信している。
※みどりの学校ファームの詳細はこちら(埼玉県ホームページ)
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0902/midorigakko/index.html
4 ビタミン・ミネラル・機能性成分が豊富なブロッコリーを食べて健康な生活を!
ブロッコリーは、野菜に含まれるほぼすべてのビタミンを豊富に含む。100グラム食べれば、厚生労働省が推奨する1日のビタミンCの摂取基準100ミリグラムを摂ることができる。がん予防効果が高いβ-カロテンやビタミンEも豊富に含む。
また、カルシウムやその吸収を高めるビタミンK、高血圧予防に有効なカリウム、貧血を予防する鉄も多く含んでいる ほか、胃潰瘍の予防に効くとされるキャベジン、ガン予防に役立つといわれているスルフォラファン、抗酸化作用があるルテインなど、さまざまな機能性成分が含まれている。
捨ててしまいがちな茎の部分には、ビタミンCやカロテンなどが花蕾より多く含まれている。硬めにゆでてよく水切りして冷凍すれば、さまざまな料理に手軽に使うことができる。
JAふか やの秋冬ブロッコリーは、10~11月に出荷の最盛期を迎える。旬のブロッコリーは柔らかく、口に含むと柔らかな甘みと香りが口いっぱいに広がる。茎まで甘い新鮮なブロッコリーをさまざまな食べ方で味わいたい。