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調査・報告 野菜情報 2021年10月号

なすの食品機能と機能性表示食品

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信州大学 学術研究院農学系 准教授 中村 浩蔵

1 はじめに

 「 なすは良いのを作れば食べんでもええ、栄養はないしスカスカじゃ」。これは4年前に耳にした高知県なす生産者のつぶやきであるが、今では「なすは高めの血圧を下げてくれるらしい、味はいいし食べてみるか」と言われるようになった。その理由は、なすが機能性表示食品として販売されるようになったためである。表示されている機能性は「血圧(拡張期)改善作用」。全国初の機能性表示生鮮なす「高知なす」が、今春から販売されている。機能性表示なすの人気は上々で、販売者のJA高知県では需要に対応できないのではないかと心配した時期もあったとのこと。高知県では、なす機能性のPR動画を作成してYouTubeにアップし、高知県出身の演歌歌手・三山ひろしさんを「高知なす」宣伝隊長に任命してPRするなど、機能性でなすの販売を促進する取組が進んでいる。

 本稿では、なすの食品機能性の発見と機能性表示食品としての実用化、将来展望について紹介させていただく。

2 新規な食品機能性成分「コリンエステル」

 なすの機能性関与成分は「ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)」である。コリンエステルとは、コリンという栄養成分と酢酸などの有機酸がエステル結合した化合物である。コリンエステルの代表的なものはアセチルコリンで、われわれの神経伝達物質としてよく知られている。
 2004年、著者らの研究グループは、ソバスプラウトを“すんき漬”の製法で乳酸発酵させた「ソバスプラウト乳酸発酵物」の降圧作用を発見した。ソバスプラウト乳酸発酵物は極少量で降圧作用を引き起こすことから(文献1)、革新的な降圧食品開発が期待され、2014年度から3年間、サポイン事業(注1)「ソバ発酵技術を利用した血圧降下作用を有する機能性食品素材の開発」で実用化研究に取り組み、主要降圧成分の候補物質として2種類のコリンエステル(アセチルコリン、ラクトイルコリン)を特定した(文献2)。コリンエステルの特定に実に10年以上も要したが、その理由はコリンエステルが新規な食品機能性成分であり、過去に研究事例が無く、参考となる文献を見つけることが出来なかったためである。ソバスプラウト乳酸発酵物の実用化は採算が合わず断念したが、コリンエステルを機能性関与成分とする、新規な機能性食品開発の可能性が浮上してきた。コリンエステルを含む食品に関する文献を調査したところ、細菌から高等動植物に至る幅広い生物種にアセチルコリンが存在していることを報告した文献を見つけ、そこになすが紹介されていた(文献3)
(注1)戦略的基盤技術高度化支援事業。中小企業・小規模事業者が大学、公設試験研究機関などの研究機関などと連携して行う、製品化につながる可能性の高い研究開発、試作品開発など及び販路開拓への取組を一貫して支援する。

3 なすの食品機能性

 なすにアセチルコリンが含まれていることはわかったが、食品機能性については不明であった。そこで、2017年度より3年間にわたり農研機構生研支援センター革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)「新規機能性成分によるナス高付加価値化のための機能性表示食品開発」(以下「ナス高機能化プロジェクト」という)で、なすの食品機能性と実用化の研究を行った。このプロジェクトでは、なす生産者・企業・大学・研究機関がナス高機能化コンソーシアムを組織、研究成果の普及となす製品開発販売のための企業などが協力機関として参加し、機能性表示食品としての社会実装を視野に入れたナス・イノベーションに取り組んだ(図1)。機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づき、特定の保健の目的が期待できるという機能性を表示した食品である。2015年4月1日に施行された改正食品表示法に基づく食品表示基準により新たに規定された制度で、発足から5年で市場規模が2843億円にも達したと推定されている(文献4)。なすを機能性表示食品として実用化するためには、新規の機能性関与成分であるナス由来コリンエステル(アセチルコリン)の作用機序を推定すると共に、有効用量と効果を臨床試験で実証して査読(研究者仲間や同分野の専門家による評価や検証)付き論文に掲載することが必須となる。


 
 そこで、まず、ヒト本態性高血圧のモデル動物である高血圧自然発症ラットになす粉末を4週間経口投与して降圧作用の効果とメカニズムを調べた。その結果、極めて少ない摂取量(1日当たりアセチルコリン10-8 mol/kg相当のなす凍結乾燥物)で血圧を低下させることが明らかとなった。血圧低下に伴い、交感神経活動によって分泌される昇圧物質・カテコールアミンが低下していたことから、なすの主要なコリンエステルであるアセチルコリンが消化管上のM3型ムスカリン性アセチルコリン受容体に作用し副交感神経(迷走神経)活動を亢進、交感神経活動を抑制して昇圧性のカテコールアミン放出を抑制し、血圧が低下したものと推定した(図2)(文献5)
 

 
 次に、ヒトでの有効性を実証するために、ストレスを感じている正常高値血圧者(収縮期血圧 130~139mmHgかつ/または拡張期血圧 85~89mmHg)およびⅠ度高血圧者(収縮期血圧 140~159mmHgかつ/または拡張期血圧 90~99mmHg)それぞれ50名の被験者に、ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)を2.3mg含有するなす粉末カプセルを12週間継続摂取してもらうプラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を行った。ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)2.3mgという用量は、この試験に使用した原料なす22グラムに相当する。また、プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験とは、機能性表示食品の科学的根拠として求められるヒト臨床試験の中でも最も科学的根拠の質が高い方法で、効き目があると思い込むことで出る効果(プラセボ効果)を排除し、なすの真の効果を正確に評価できる試験である。試験期間中には、来所時血圧(収縮期血圧/拡張期血圧)、家庭血圧(起床時/就寝時の収縮期血圧/拡張期血圧)を測定して血圧を評価し、VAS(視覚アナログ尺度)とPOMS 2(気分プロフィール検査)アンケートで心理状態を評価した。その結果、被験者の血圧(収縮期、拡張期)および心理状態が有意に改善した。この結果は、ヒトにおけるなすの食品機能性を世界で初めて明らかにしたもので、査読付きのオープンアクセス国際誌に論文発表している(文献6)。12週間の摂取期間中、副作用や問題となる有害事象は認められず、なすの安全性も確認された。臨床試験結果のうち、機能性表示食品の科学的根拠となるのは「健常者」への効果のみである。これは、機能性表示食品が健常者を対象としているためである。そこで、血圧が高めの健常者である正常高値血圧者におけるなすの効果を解析し、摂取8週間の来所時血圧(拡張期)の改善が正常高値血圧者で顕著であること(図3)、摂取12週間に正常高値血圧者のTMD得点(Total Mood Disturbance、ネガティブな気分の総合指標)が有意に改善したことが明らかとなった(図4)。
 



 
 こうしてナス高機能化プロジェクトの研究で、なすを原料とする食品を機能性表示食品として届け出る要件を満たすことが出来た。ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)の有効用量2.3mgは、農産物としては非常に少なく、最も効果が高いものの一つと言える。

4 なすを原料とした機能性表示食品

 これまでになすサプリメント、なす漬物、生鮮なすが機能性表示食品として受理されている(図5)。以下、各食品の機能性表示食品届出について紹介させていただく。
 

 
 まず最初に、臨床試験結果を発表した論文を科学的根拠として血圧(拡張期)改善なすサプリメントの機能性表示食品届出を行った。論文を科学的根拠とする場合、論文が受理されれば直ちに届け出ることが出来るが、届出対象商品は臨床試験に用いた食品と同じか同等とみなせるものに限られる。商品には、科学的根拠に基づく届出表示(機能性表示)、機能性関与成分と含有、1日摂取目安量、注意事項などを記載する。実際の表示を以下に示す(図6)。なすサプリメントは、論文受理からわずか2か月後の2019年11月に機能性表示食品として届出を行い、2020年7月に機能性表示食品として受理された。
 

 
 次に、なすの血圧(拡張期)改善効果に関する既存文献を複数のデータベースから収集して解析・整理した、システマティックレビューに基づいて作成した研究レビューを科学的根拠として、生鮮なすとなす漬物を機能性表示食品として届け出た。この研究レビューは、ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)を機能性関与成分とする血圧(拡張期)改善効果であれば、あらゆるなす機能性表示食品の科学的根拠として利用できる。特に、臨床試験が極めて困難な生鮮農産物の機能性表示食品届出への研究レビューの利用価値は非常に高く、日本独自の生鮮食品を対象とした機能性表示食品を普及させるために研究レビューが果たす役割は大きいと言える。全国で初めての生鮮なす機能性表示食品「高知なす」は、2020年2月に届出、2020年9月に受理され、2021年3月中旬から全国で販売されている。現在、機能性表示食品「高知なす」は、土佐鷹、慎太郎、はやぶさ、竜馬の4種類を主要品種として構成されており(図7)、機能性表示食品制度では1つのブランドに複数の品種を含めることが可能となっている。
 

 
 機能性表示食品では、商品に表示されている機能性関与成分の表示値(有効用量)を摂取できる1日摂取目安量の設定が必要である。なす機能性表示食品では、ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)2.3mgを摂取できる量を設定する。原則として、全ての製造ロットの1日摂取目安量に含まれる機能性関与成分は表示値を下回ってはならない。特に、品種や栽培地域、収穫時期などによって機能性関与成分の含量が個体ごとに異なる生鮮農産物や農産物の原型を保つ加工食品では、十分な数の分析を行い慎重に1日摂取目安量を設定する必要がある。ナス高機能化プロジェクトでは、3年間にわたる約800本の分析結果に基づいて、最も含量が低い個体でも有効用量を摂取できるように1日摂取目安量を可食部100グラム(約2本)と決定した。

5 なすのコリンエステル(アセチルコリン)分布と加工特性(文献7、8)

 なすを原料とする食品であれば、コリンエステル(アセチルコリン)2.3mgを保証すれば機能性表示食品(血圧(拡張期)改善)として実用化できる。では、他の農産物はどうなのだろうか?なすと同等かそれ以上のコリンエステル(アセチルコリン)が含まれているタケノコ以外の農産物では難しいと思われる。その理由はコリンエステル(アセチルコリン)含量である。なすには、他の栽培作物(タケノコは含まない)の約3000倍ものコリンエステル(アセチルコリン)が含まれている(図8)。そのため、日常的に摂取可能な量で機能性関与成分の有効用量を満たすことができたのである。同じなす科のトマトやピーマンであっても、ほとんどコリンエステル(アセチルコリン)は含まれていない。われわれの調査では、国内で栽培された国産・外来26なす品種のコリンエステル(アセチルコリン)含量の平均は3.8mg/100g F.W.(生鮮重量)であった。なすのコリンエステル(アセチルコリン)含量は、等級による差異は見られなかったが、品種や栽培時期によって大きく異なり、含量差は100倍もあった。なすなら何でも食べればいいというわけではなく、有効用量が保証された機能性表示食品を利用するのが確実である。
 

 
 コリンエステル(アセチルコリン)はなすの葉や萼(がく)にも含まれているが、ほとんど果実に偏在しており、果実中のコリンエステル(アセチルコリン)は開花から45日で約400倍にも増加する。コリンエステル(アセチルコリン)はなす果実中にほぼ均一に含まれており(図9)、生のまま切断・粉砕したりすると酵素(コリンエステラーゼ)で徐々に分解されるが、熱には強く、加熱して酵素を失活させると長期間安定する。また、理由はまだ不明だが、電子レンジ加熱やフライ調理でコリンエステル(アセチルコリン)が増加することがわかっている。このようになすの機能性関与成分であるコリンエステル(アセチルコリン)は高い加工特性を有している。
 

6 なす機能性食品の将来展望

 現在、機能性表示が認められているのはなすの血圧(拡張期)改善作用だが、その他に気分(心理状態)改善作用も健常者での効果が臨床試験で実証されている(文献6)。臨床試験でなすの睡眠改善作用も実証し特許出願している(文献9)。ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)は、自律神経を調整して生体機能改善作用を発揮すると考えられ、血圧(拡張期)改善の他にもさまざまななす機能性食品の実用化が期待できる。
 なすに食品機能性が見い出されたことで、機能性なす粉末を活用したサプリメントなどの新しいなす製品が誕生した。これまでの加工業務なす需要は3.2億円、1,000トンで80%以上が漬物用と加工用途が限られ(文献10)、規格外品はほとんど利用できなかった。そのため利用されずに廃棄されている未利用なすは年間9万トンと推定された(栽培期末収穫可能果実含む)。これらの未利用なすを機能性なす粉末として利活用することで、フードロス問題解決や新たな農家収益として役立てることが可能だと考えられる。なすの食品機能性による健康への貢献と未利用なすの機能性食品としての有効活用は、SDGs目標「3 すべての人に健康と福祉を」「12 つくる責任つかう責任」に該当する。なすはSDGs目標達成にも貢献できる機能性野菜であると言える。
 野菜の中でなすの産出額は、世界第6位、国内第10位である(文献11、12)。諸外国では、なすは食物繊維が豊富な低カロリーヘルシーフードとして注目され生産量が年々増加しているが、日本では、少子高齢化、人口と農業就業者の減少に、なすの不人気が相まって生産量が減少している。2004-2008年5カ年平均値を100とした2016年の生産量は、トマト100、ピーマン96、なす81である(文献13)。海外産輸入なすの国内流通量シェアは0.1%以下で、国内で消費されるなすはほぼ国産品である。昨年8月、ナス高機能化コンソーシアムの後継として、機能性野菜ナスコンソーシアムを設立し、機能性野菜なすを活用した健康の維持・増進、疾病の予防を実現する機能性食品開発を進めている。機能性野菜なすが全国に普及し、国産なす需要が喚起され、なす生産の活性化とわれわれの健康増進に役立つようになることを願っている。
 
文献
1)Nakamura, K., Naramoto, K., Koyama, M., Blood-pressure-lowering Effect of Fermented Buckwheat Sprouts in Spontaneously Hypertensive Rats. J. Funct. Foods, 5, 406-15 (2013).
2)Nakamura, K., Okitsu, S., Ishida, R., Tian, S., Igari, N., Amano, Y., Identification of natural lactoylcholine in lactic acid bacteria-fermented food. Food Chem., 201, 185-9 (2016).
3)Horiuchi, Y., Kimura, R., Kato, N., Fujii, T., Seki, M., Endo, T., Kato, T., Kawashima K., Evolutional study on acetylcholine expression. Life Sci., 72(15):1745-56 (2003).
4)健康食品市場に関する調査を実施(2021年), 矢野経済研究所, https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2643
5)Yamaguchi, S., Matsumoto, K., Koyama, M., Tian, S., Watanabe, M., Takahashi, A., Miyatake, K., Nakamura K., Antihypertensive effects of orally administered eggplant rich in acetylcholine on SHR. Food Chem., 276, 376-82 (2019)
6)Nishimura, M., Suzuki, M., Takahashi, R., Yamaguchi, S., Tsubaki, K., Fujita, T., Nishihira, J., Nakamura K., Daily Ingestion of Eggplant Powder Improves Blood Pressure and Psychological State in Stressed Individuals A Randomized Placebo-Controlled Study. Nutrients, 11(11), 2797 (2019)
7)Wang, W., Yamaguchi, S., Koyama, M., Tian, S., Ino, A., Miyatake, K., Nakamura, K., LC–MSMS Analysis of Choline Compounds in Japanese-Cultivated Vegetables and Fruits. Foods, 9(8), 1029 (2020)
8)Wang, W., Yamaguchi, S., Suzuki, A., Wagu, N., Koyama, M., Takahashi, A., Takada, R., Miyatake, K., Nakamura, K., Investigation of the Distribution and Content of Acetylcholine, a Novel Functional Compound in Eggplant. Foods, 10(1), 81 (2021)
9)発明者:中村浩蔵, 小山正浩, 出願人:(株)ウェルナス, 睡眠を改善するための経口摂取用組成物, 特開2020137462, WO2020175605.
10)平成24年加工・業務用野菜取引実態等調査, 農畜産業振興機構
11)Food and Agriculture Organization of the United Nations. FAOSTAT. Statistics Division. Forestry Production and Trade. Available online: http://www.fao.org/faostat/en/#data/QC
12)野菜をめぐる情勢, 平成31年4月, 農林水産省
13)野菜の生産・消費動向レポート, 平成31年2月, 農林水産省

 

中村 浩蔵(なかむら こうぞう)
【略歴】
信州大学学術研究院(農学系)准教授
1992年 広島大学工学部第3類(化学系)卒
1994年 同大大学院工学研究科博士課程前期修了、日本学術振興会特別研究員DC1
1996年 同大大学院工学研究科博士課程後期修了(工学博士)、日本学術振興会特別研究員PD
2000年 科学技術振興事業団・科学技術特別研究員
2002年 富士ゼロックス株式会社高度研究専門職期間契約社員、信州大学大学院農学研究科助手
2005年 信州大学農学部助教授を経て2014年から現職



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